先の未来







「よく来てくれました。いつぞよは。」

「いえいえ、そんな。」







晴れ晴れしている中、学園長室より賑やかな声が聞こえる。側を通りかかった為それにそっと耳を澄ませると訛りのある懐かしい友人の声が聞こえる。気配に気づいたのか学園長室より出てきた留三郎そっくりの友人と顔を合わせる。








「久しかたぶりだな〜名前。」

『与四郎、久しぶりだね。山野先生は？』

「今、学園長先生と話をしてるだ。」

『与四郎は一緒に居なくていいの？』

「報告はもう終わったから大丈夫だ。どっちかと言ったら学園長先生がな。」

『あぁ、なるほどね。（付き合わされてるのね）』







そう目配せると理解できたようでお互い苦笑いをする。話しながら移動しお互いの学園の話に華を咲かせる。







『最近風魔はどんな感じ？』

「相変わらずだべぇ。リリーばぁちゃんがいつも五月蝿い。」

『リリーばぁちゃんは相変わらずだね。』

「んだんだ、喜三太の事も心配しているし。」

『そりゃ孫だったらね。簡単には会えないもん。』

「まぁそれも分かるけどな。名前は進路とか決めてるだか？そろそろ卒業試験も控えてるし。」

『う〜ん。試験のことは聞いているんだけど自分がこの先どうするかはまだ決まってない。』

「名前ならレベルの高い城付き忍者の募集は来てるんじゃねか？」

『それでもスカウトが来てるのは合戦が多い城ばかりだよ。』






そう与四郎に言うと脳裏に雑渡さんの事を思い出す。
スカウトはあったけどあの人も戦忍だったな。思わずクスッと笑うと与四郎は不思議そうな顔で首を傾ける。






『でもね私は人を殺したくないんだ。』








そう伝えると与四郎は少しびっくりしたように目を開くがすぐ視線が元に戻る。






『忍者として甘い事を言ってるのは自分でもよく分かる。けど人を守る為には時として人を殺める事が必要な事も理解できる。けど私は守る為に人を殺め、殺めた手を見て大切な人達に触れる時、自分が自分で無くなる事が怖い。』







ぽつぽつと話しだす姿に与四郎は黙って聞いてくれている。




『……気持ちが沈むような話しをしてごめん。まぁそれは前提なんだけど可愛い後輩、友人の命が脅かされるならまた話しは別だけどね。』





そう付け加え与四郎の方を向くとなんとも言えない表情をしている。






『そんな顔をしないでよ。与四郎。顔がすごい事になってるわよ。うわっっ！』







そう言うと与四郎に手を取られ次に目を開けると与四郎の胸の中にいる事に気付く。彼の体温、心の臓の鼓動が心地よい。







『与四郎。』

「んだな、確かに俺も仁之進や喜三太に危険が及んだら只ではすまさねぇべ。でも大切な人を守る時ってそんな感じじゃあるべえか。大切なものを守って、自分の手が汚れている。確かにそうなるが俺は大切な人や家族が守れればそれでええべ。」






そう彼に顔を向けるといつもの屈託のない笑顔が其処にある。






『それもそうだね。』

「まぁ物は考えようだがなぁ…其れか決まってないなら風魔に就職っていう手もあるべ。一緒に風魔はどうか？俺ならそんな思い名前にさせねえ。」







そう言う彼の顔を見上げると頬に赤みを帯びながら真剣な顔付きで視線が合う。私だってその言葉の意味を理解できない訳ではない。思わない発言だった為理解する迄に少し時間がかかったがこちらまで何か照れてしまう。






『じ、自分の身は自分で守れます。でもありがとう。与四郎に話ししたら気持ちが軽くなったよ。聞いてくれてありがとう。』







そう離れると名残り惜しそうに与四郎の手が空中を舞う。






「んだ、元気になったらよかっただ。けど今さっきの言葉は覚えててほしいだ。何かあった時は迎えに来る。」

『それって違う意味にも聞こえるけど。』

「そう云う意味で俺は言ってるべ。」

『えっ？』

「そろそろ山野先生も話しが終わったそうだからお暇するべな。また今度な！」




そうニカっと笑うと足速に走りさっていく。









私達はそんな程遠くない未来、忍者を続ける限り私達は必要あらば人に手をかけるだろう。家族の為、友人の為、仕事の為。そんな未来に彼のような人が居ない事を願う。