短編
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古傷
『うぅ………っはぁ!…………っ…夢か……。』
真夜中の長屋で虫の音に紛れて寝苦しい声があがる。暑苦しい夏の夜。汗をかいている額に髪が纏わり付き行き場のない四肢が布団の上で踠き苦しみ目が覚める。
もう何年前の事だ。嫌な夢を見た。昔の野外実習の事でこんなにうなされるとは。
『ふっ………情けない…』
あの件は忘れた筈、もう思い出す事がないと思っていたが自分の不甲斐なさを鼻で笑う。
鉛のように気だるい身体を起こし水を飲みに井戸に向かう。冷たい夜風が心地良い。井戸につくと冷たい水で喉を潤す。それでも一度起きた身体は完全に醒めてしまった。夜目が利く目で周囲を歩き続けると医務室の障子から光が漏れている。導かれるまま扉を開けると薬草を煎じている伊作が居た。
「あれ、名前?」
『……伊作。』
「体調が優れないの?」
『…あぁ、目が覚めた。』
伊作に言われそのまま保健室に入り扉にもたれ掛かるように肩を預ける。薬草を煎じている摺鉢の音が心地良く思わず目を瞑る。
『……昔の事だ………嫌になる…。』
名前が呟く。名前が四年生になった時くのたまの野外実習に死傷者が出た。その実習で心を壊す者も現れ大半のくのたまが退学し唯一残ったのが彼女だ。当時学園中の先生達が慌ただしく僕も保健委員として駆り出された。着用している忍び装束は血に染まり、乾いて壁土のように名前の白い皮膚にこびりつきむせる様な血の匂い。名前の表情から感情が抜け落ちていた。その情景は彼女の胸を抉り刻んだのだろう。
伊作はあの件を知っている数少ない者だが他の同級生も知っている。噂は回るものだが下級生には刺激が強い為情報は封じられた。時折忌まわしいあの日の記憶は底から這い上がってくるように甦ってくる。
『伊作……ここに居させて…。』
「いいよ。こっちにおいで。」
普段人に甘える事がない名前。それだけ今晩は堪える夜だったのだろう。医務室にあった布団を広げ名前にかけると絹糸のように艶のある黒髪が腕にかかる。
「………髪伸びたね…。」
『……あの時よりね…。』
級友が敵に捕まり目の前で冷たい躯に変わり果てる。もう少し早ければ死なずに済んだ。
後悔など遅い。掴まえられた髪を切り捨て、苦無で敵の胸を深々と刺し、血の飛沫を浴びながら肉の塊となった物を見下ろす。
視界に入る敵全て壊し、壁天井と言わず花を撒いた様に鮮血が飛び交う。その後の事は余り覚えていない。我に返った時は医務室に居た。
『………あたたかい…』
伊作が頬に手を伸ばし添える。冷たくなった頬に血の巡りが戻ってくる感覚が分かる。
大きくごつごつした少し柔らかく薬草の匂いが香る。温かい手の平に目の前の景色が膨れ上がり水の底のようにゆらゆら揺れる。
『……嫌だっ……嫌だ…』
感情が堰を切って漏れ出す。二度と失いたくない。あんな事はもう嫌だ。
『…お願いっ…今だけ側に居させて……。』
名前はプロ忍者と同等に闘いができ同じ同級生とは思えない所があるがそれは過去の経験の元強くならざるを得ない状態だった。その上彼女が背負っているものは計り知れないものだろう。普段は弱さをみせないか弱く嗚咽混じりに泣き震える彼女の姿。そんな名前を抱き寄せる。
「……側に居るよ。」
この先少しでも彼女が報われる事を夢みて。
『うぅ………っはぁ!…………っ…夢か……。』
真夜中の長屋で虫の音に紛れて寝苦しい声があがる。暑苦しい夏の夜。汗をかいている額に髪が纏わり付き行き場のない四肢が布団の上で踠き苦しみ目が覚める。
もう何年前の事だ。嫌な夢を見た。昔の野外実習の事でこんなにうなされるとは。
『ふっ………情けない…』
あの件は忘れた筈、もう思い出す事がないと思っていたが自分の不甲斐なさを鼻で笑う。
鉛のように気だるい身体を起こし水を飲みに井戸に向かう。冷たい夜風が心地良い。井戸につくと冷たい水で喉を潤す。それでも一度起きた身体は完全に醒めてしまった。夜目が利く目で周囲を歩き続けると医務室の障子から光が漏れている。導かれるまま扉を開けると薬草を煎じている伊作が居た。
「あれ、名前?」
『……伊作。』
「体調が優れないの?」
『…あぁ、目が覚めた。』
伊作に言われそのまま保健室に入り扉にもたれ掛かるように肩を預ける。薬草を煎じている摺鉢の音が心地良く思わず目を瞑る。
『……昔の事だ………嫌になる…。』
名前が呟く。名前が四年生になった時くのたまの野外実習に死傷者が出た。その実習で心を壊す者も現れ大半のくのたまが退学し唯一残ったのが彼女だ。当時学園中の先生達が慌ただしく僕も保健委員として駆り出された。着用している忍び装束は血に染まり、乾いて壁土のように名前の白い皮膚にこびりつきむせる様な血の匂い。名前の表情から感情が抜け落ちていた。その情景は彼女の胸を抉り刻んだのだろう。
伊作はあの件を知っている数少ない者だが他の同級生も知っている。噂は回るものだが下級生には刺激が強い為情報は封じられた。時折忌まわしいあの日の記憶は底から這い上がってくるように甦ってくる。
『伊作……ここに居させて…。』
「いいよ。こっちにおいで。」
普段人に甘える事がない名前。それだけ今晩は堪える夜だったのだろう。医務室にあった布団を広げ名前にかけると絹糸のように艶のある黒髪が腕にかかる。
「………髪伸びたね…。」
『……あの時よりね…。』
級友が敵に捕まり目の前で冷たい躯に変わり果てる。もう少し早ければ死なずに済んだ。
後悔など遅い。掴まえられた髪を切り捨て、苦無で敵の胸を深々と刺し、血の飛沫を浴びながら肉の塊となった物を見下ろす。
視界に入る敵全て壊し、壁天井と言わず花を撒いた様に鮮血が飛び交う。その後の事は余り覚えていない。我に返った時は医務室に居た。
『………あたたかい…』
伊作が頬に手を伸ばし添える。冷たくなった頬に血の巡りが戻ってくる感覚が分かる。
大きくごつごつした少し柔らかく薬草の匂いが香る。温かい手の平に目の前の景色が膨れ上がり水の底のようにゆらゆら揺れる。
『……嫌だっ……嫌だ…』
感情が堰を切って漏れ出す。二度と失いたくない。あんな事はもう嫌だ。
『…お願いっ…今だけ側に居させて……。』
名前はプロ忍者と同等に闘いができ同じ同級生とは思えない所があるがそれは過去の経験の元強くならざるを得ない状態だった。その上彼女が背負っているものは計り知れないものだろう。普段は弱さをみせないか弱く嗚咽混じりに泣き震える彼女の姿。そんな名前を抱き寄せる。
「……側に居るよ。」
この先少しでも彼女が報われる事を夢みて。