短編
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貴方との時間
「名前、組み手に付き合ってくれるか?」
会計委員会の手伝いをしている名前に声を掛ける。
開きかけの帳簿より視線が此方を向く。
『うーん?いいけど珍しいね。文次郎が私に組み手頼むなんて。』
「前からお前には相手をしてもらいたかったからな。機会がなかっただけだ。」
『え、私だと武道派の文次郎には敵わないような気がするけど。』
「この間裏山で忍相手しているの知らないとでも思ってるのか?」
『なんでそれを…』
「情報を集めるのも忍びの心得だからな。」
『いや、一応私のプライベートでもあるけど。』
先日鍛練のため裏山に赴いたところ只ならぬ殺気を感じその場所へ向かうと、見た事のない名前の姿と対峙しているであろうプロ忍を見つける。
あの殺気を出していたのは名前だったのか。普段の人あたりの良いへらへらしているような姿からは想像できない。
普段誰かと組み手をする姿など見かけないため実力は計り知れないが実習の実力だと能力は非常に高い。
油断していた。こんな身近に強い奴がいるなんて。二人の闘いを側でしか見守る事ができない己の力量不足を感じた先日思い出す。
男である俺が仮にもくノ一である名前に負ける訳にはいかない。
作業をやめ二人して外の広場に足を進める。
『もう委員会の仕事はいいの?』
「もう終わらせたから大丈夫だ。」
『そっか。ルールはどうしようか。』
「相手がまいったと云うまでだ。」
『簡単だね。』
「お前に負けるつもりはないからな。」
『そりゃ文次郎が相手だもん。私のほうが負けそうだよ。』
「手を抜くなど下手なことはやめるんだな。本気で来い。」
『…分かった。』
そう云い終えると沈黙の相槌とともにお互い構える。
一呼吸後文次郎の足に力が入り、勢いよく地面を蹴り間合いに入り込んで来る。
それに反応し後ろに下がるとそのままの勢いで右側から足蹴りを喰らう。
右手で防御し攻撃を受ける。さすがは文次郎。日々の鍛練の成果か足蹴の力が物凄い。踏ん張っていなかったら蹴り飛ばされていた所だ。すかさず反対側から殴打が来るがもう反対の腕で防御し蹴り返す。防御をされうまく入らなかったがダメージは残せたようだ。
体勢を整え、ひたすら攻防のやり取りが繰り返される。しかし此方もやられてばかりだと話にならない。隙を伺う。そういえば最初から殺気が出てるけど文次郎本気だ。
これは私も本気でしないと負けそうだ。
名前は強い。組み手を始めてからそう確信せざるを得ない。
的確に急所を狙っているが全て流される。
しかしまだ名前は本気を出している素振りを見せない。
なぜだ。体格、力量では俺のほうが上回っている筈なのに。いや、忍者に焦りは禁物だ。
しかもこれだけ長時間組み手をしているんだ。体力は削られそろそろ隙が出来るはず。
体力には自信がある。生じた隙に決めるしかない。
__カンカンッ!!_キィィィンッ!!!__
更に数刻過ぎるとお互いの得意武器である袋槍と苦無を取り出し武器同士が交わる音が木々に反響し辺りに響き渡る。
一瞬袋槍が名前の腕を掠める。血が出るのと同時にこいつの表情に僅かな笑みが溢れ思わず身震いする。なぜこいつは笑う。組み手の最中なのに何故か嬉しそうだ。
文次郎は強い。これが成人してプロ忍者だったら負けていただろう。でも楽しい。楽し過ぎる。闘えば闘う程血が沸るのが自分でも理解できる。前々からこのような兆しはあったが自分は改めて闘いが好きなんだと思い知らされる。しかし今は組み手。闘いの場ではない。そう自分を落ち着かせる。
__カカッ!キィィン!!!____
激しい攻防に袋槍が苦無を弾き飛ばし宙に舞う。
(今ならやれる!)
「覚悟!!!!」
『甘い』
「なんだとっ!うっ!!」
上から降り注いだ声は冷たい声だった。
それに気づいたときは背中に既に足蹴を喰らい吹っ飛ばされた後だった。
「ごほっ!……かはっ!…」
『武器がないからって安心しちゃだめだよ文次郎。』
「どうやってそこから。お前さっき明らかに勝敗がつきそうだっただろうが。」
『うん、負けたくないから思わず本気になっちゃった。』
確かに最後の蹴りは今までで一番強かった。
許してと言わんばかりに謝罪をする名前に先程までの力が抜ける。
「まいった。認める。」
『そう……っはぁーー!やっと終わったー!』
「お前そんなんだったか?」
『咄嗟に出ちゃうよね。』
「疲れた。お前とはしばらく組み手はせん。」
『それは私も激しく同意。』
二人して地面に倒れ込む。
『くっはぁ〜〜。疲れた〜〜〜。』
「嘘をつけ。お前そんなに疲れてないだろう。」
『大の大人と変わらない男を相手していたらいくらなんでも疲れるよ。あいたた…っ。』
そう云い傷が付いたであろう腕をさする。
「‥‥嫁入り前の身体を傷付けてすまん。」
『大丈夫だよ。これでもくノ一の端くれだし。文次郎の事も沢山蹴ってごめんね。』
「いや、俺は男だから大丈夫だが。」
『まっ!これくらい慣れてるからすぐ治るよ。』
手早く治療をする名前をみて今更罪悪感が込み上げる。一時の感情とはいえ名前を振り回してしまった。忍びの三禁と普段より豪語しているが自分の鍛練不足に不甲斐なさを感じる。
『文次郎、何かに焦ってるように見えたよ。』
「俺がか?」
『うん。何かあった?』
最初から見透かされていたようだ。というより露骨に感情を出しすぎたか。頭を悩ます。
「いや、もう大丈夫だ。もう解決した。」
『そっか、なら大丈夫そうだね。』
そう言われ、穏やかな時間が流れる。さっきまでの殺伐とした雰囲気なんかとうに消えている。今回の組み手でも名前の実力は分からずじまいだった。俺の実力は名前より乏しい。こいつのあの力はどこで培われたのか不思議だ。だが悪くない時間ではあった。
口が裂けても奴には言えないが。
『今日のおばちゃんのご飯なんだろ?』
「次は食い物の話か。」
『あら、文次郎だっておばちゃんのご飯楽しみにしているくせに。』
「俺は別にそんなの思っていない。」
『この間、美味しそうに食べてるの見ましたけど。』
「なっ!、あれはたまたま好物だっただけだ!」
『そう?でも日頃から満更ではない表情で食べてる姿は確認済みだよ。』
「お前な!」
『ははっ!どっちが先に学園に着くか勝負しよ!食堂の食券を賭けてね!よーいどん!!』
「なっ、お前それはずるいぞ!」
普段よりおおらかな性格で人懐っこい表情を見せる名前。こういった所が人を寄せ付ける魅力でもあるのか。そんな名前の姿を見て、なんだか勝てないような気がする文次郎であった。
_______________________
(はい!二人ともお待たせ!どんどん食べてちょうだい!)
(私の嫌いなたくあん……)
(俺はいらんからな。)
(なんでーーー!文次郎様ーー!!)
(なんか先輩らぼろぼろじゃない?)
(しかも様付け……)
下級生にあらぬ噂が撒かれるとはつい知らず。
「名前、組み手に付き合ってくれるか?」
会計委員会の手伝いをしている名前に声を掛ける。
開きかけの帳簿より視線が此方を向く。
『うーん?いいけど珍しいね。文次郎が私に組み手頼むなんて。』
「前からお前には相手をしてもらいたかったからな。機会がなかっただけだ。」
『え、私だと武道派の文次郎には敵わないような気がするけど。』
「この間裏山で忍相手しているの知らないとでも思ってるのか?」
『なんでそれを…』
「情報を集めるのも忍びの心得だからな。」
『いや、一応私のプライベートでもあるけど。』
先日鍛練のため裏山に赴いたところ只ならぬ殺気を感じその場所へ向かうと、見た事のない名前の姿と対峙しているであろうプロ忍を見つける。
あの殺気を出していたのは名前だったのか。普段の人あたりの良いへらへらしているような姿からは想像できない。
普段誰かと組み手をする姿など見かけないため実力は計り知れないが実習の実力だと能力は非常に高い。
油断していた。こんな身近に強い奴がいるなんて。二人の闘いを側でしか見守る事ができない己の力量不足を感じた先日思い出す。
男である俺が仮にもくノ一である名前に負ける訳にはいかない。
作業をやめ二人して外の広場に足を進める。
『もう委員会の仕事はいいの?』
「もう終わらせたから大丈夫だ。」
『そっか。ルールはどうしようか。』
「相手がまいったと云うまでだ。」
『簡単だね。』
「お前に負けるつもりはないからな。」
『そりゃ文次郎が相手だもん。私のほうが負けそうだよ。』
「手を抜くなど下手なことはやめるんだな。本気で来い。」
『…分かった。』
そう云い終えると沈黙の相槌とともにお互い構える。
一呼吸後文次郎の足に力が入り、勢いよく地面を蹴り間合いに入り込んで来る。
それに反応し後ろに下がるとそのままの勢いで右側から足蹴りを喰らう。
右手で防御し攻撃を受ける。さすがは文次郎。日々の鍛練の成果か足蹴の力が物凄い。踏ん張っていなかったら蹴り飛ばされていた所だ。すかさず反対側から殴打が来るがもう反対の腕で防御し蹴り返す。防御をされうまく入らなかったがダメージは残せたようだ。
体勢を整え、ひたすら攻防のやり取りが繰り返される。しかし此方もやられてばかりだと話にならない。隙を伺う。そういえば最初から殺気が出てるけど文次郎本気だ。
これは私も本気でしないと負けそうだ。
名前は強い。組み手を始めてからそう確信せざるを得ない。
的確に急所を狙っているが全て流される。
しかしまだ名前は本気を出している素振りを見せない。
なぜだ。体格、力量では俺のほうが上回っている筈なのに。いや、忍者に焦りは禁物だ。
しかもこれだけ長時間組み手をしているんだ。体力は削られそろそろ隙が出来るはず。
体力には自信がある。生じた隙に決めるしかない。
__カンカンッ!!_キィィィンッ!!!__
更に数刻過ぎるとお互いの得意武器である袋槍と苦無を取り出し武器同士が交わる音が木々に反響し辺りに響き渡る。
一瞬袋槍が名前の腕を掠める。血が出るのと同時にこいつの表情に僅かな笑みが溢れ思わず身震いする。なぜこいつは笑う。組み手の最中なのに何故か嬉しそうだ。
文次郎は強い。これが成人してプロ忍者だったら負けていただろう。でも楽しい。楽し過ぎる。闘えば闘う程血が沸るのが自分でも理解できる。前々からこのような兆しはあったが自分は改めて闘いが好きなんだと思い知らされる。しかし今は組み手。闘いの場ではない。そう自分を落ち着かせる。
__カカッ!キィィン!!!____
激しい攻防に袋槍が苦無を弾き飛ばし宙に舞う。
(今ならやれる!)
「覚悟!!!!」
『甘い』
「なんだとっ!うっ!!」
上から降り注いだ声は冷たい声だった。
それに気づいたときは背中に既に足蹴を喰らい吹っ飛ばされた後だった。
「ごほっ!……かはっ!…」
『武器がないからって安心しちゃだめだよ文次郎。』
「どうやってそこから。お前さっき明らかに勝敗がつきそうだっただろうが。」
『うん、負けたくないから思わず本気になっちゃった。』
確かに最後の蹴りは今までで一番強かった。
許してと言わんばかりに謝罪をする名前に先程までの力が抜ける。
「まいった。認める。」
『そう……っはぁーー!やっと終わったー!』
「お前そんなんだったか?」
『咄嗟に出ちゃうよね。』
「疲れた。お前とはしばらく組み手はせん。」
『それは私も激しく同意。』
二人して地面に倒れ込む。
『くっはぁ〜〜。疲れた〜〜〜。』
「嘘をつけ。お前そんなに疲れてないだろう。」
『大の大人と変わらない男を相手していたらいくらなんでも疲れるよ。あいたた…っ。』
そう云い傷が付いたであろう腕をさする。
「‥‥嫁入り前の身体を傷付けてすまん。」
『大丈夫だよ。これでもくノ一の端くれだし。文次郎の事も沢山蹴ってごめんね。』
「いや、俺は男だから大丈夫だが。」
『まっ!これくらい慣れてるからすぐ治るよ。』
手早く治療をする名前をみて今更罪悪感が込み上げる。一時の感情とはいえ名前を振り回してしまった。忍びの三禁と普段より豪語しているが自分の鍛練不足に不甲斐なさを感じる。
『文次郎、何かに焦ってるように見えたよ。』
「俺がか?」
『うん。何かあった?』
最初から見透かされていたようだ。というより露骨に感情を出しすぎたか。頭を悩ます。
「いや、もう大丈夫だ。もう解決した。」
『そっか、なら大丈夫そうだね。』
そう言われ、穏やかな時間が流れる。さっきまでの殺伐とした雰囲気なんかとうに消えている。今回の組み手でも名前の実力は分からずじまいだった。俺の実力は名前より乏しい。こいつのあの力はどこで培われたのか不思議だ。だが悪くない時間ではあった。
口が裂けても奴には言えないが。
『今日のおばちゃんのご飯なんだろ?』
「次は食い物の話か。」
『あら、文次郎だっておばちゃんのご飯楽しみにしているくせに。』
「俺は別にそんなの思っていない。」
『この間、美味しそうに食べてるの見ましたけど。』
「なっ!、あれはたまたま好物だっただけだ!」
『そう?でも日頃から満更ではない表情で食べてる姿は確認済みだよ。』
「お前な!」
『ははっ!どっちが先に学園に着くか勝負しよ!食堂の食券を賭けてね!よーいどん!!』
「なっ、お前それはずるいぞ!」
普段よりおおらかな性格で人懐っこい表情を見せる名前。こういった所が人を寄せ付ける魅力でもあるのか。そんな名前の姿を見て、なんだか勝てないような気がする文次郎であった。
_______________________
(はい!二人ともお待たせ!どんどん食べてちょうだい!)
(私の嫌いなたくあん……)
(俺はいらんからな。)
(なんでーーー!文次郎様ーー!!)
(なんか先輩らぼろぼろじゃない?)
(しかも様付け……)
下級生にあらぬ噂が撒かれるとはつい知らず。