短編
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
君には勝てない
「この村からの調査成果はなしか……」
近々、近隣の城同士で戦が始まるかもしれない。組頭の命を受けた私は、旅人に変装して周囲の村々を回り、聞き込み調査を行っていた。
しかし、この村で有用な情報は得られず仕舞い。ひとまず別の村へ拠点を移そうと移動していたところ、街道沿いに一軒の茶屋を見つけ、足を休めることにした。
――ここの団子は美味い。
ひと口含んで笑みがこぼれる。同僚である忍者隊にお土産として包んでもらおうか、そんなことを考えていたその時すぐ隣から聞き覚えのある声が聞こえてきた。
『あっ、諸泉尊奈門。』
「ん?……げっ! お前は忍術学園、くの一の苗字 名前!!!?」
『そういう個人情報を大声で言うんじゃない。』
「ぐはっ!」
頭を強く叩かれ、思わずうめき声が漏れる。この容赦ない手加減と独特の感触……嫌な覚えがありすぎる。
な、なんでこの距離で気付かなかったんだ……!?
頭を押さえながら隣を盗み見ると、奴は忍装束ではなく、しれっと私服の着物姿で団子を味わっていた。忍びの格好をしていないとこんな佇まいなのか。それにしても、叩かれた痛さと不覚をとった悔しさで思わず大きな声を上げてしまった。
「っ、な、何をする!?」
『別に何も。』
こいつは前に戦ったくの一で、憎き土井半助の教え子でもある。前回は散々なやられ方だったが、今度は負けるはずがない。しかも相手はたった一人で、見たところ丸腰だ。こんな女にこてんぱんにされたなんて、自分でも思い……いや、認めたくもない。
『貴方、また私と戦おうと思ってる訳じゃないでしょうね。』
「(ギクッ)な、何でそんな事思うんだ。」
『顔見たらそんなの分かるわよ。』
そう言うと、奴は団子を口の中にひょいと放り込む。私に勝ったからといって見せるその余裕な態度に、ふつふつと怒りが込み上げてくる。
『ここは村から外れているとはいえ茶屋なんだから、場所はわきまえなさいね。』
「うるさい! 何故貴様にそんな事言われなきゃならんのだ!!!……うっ!?」
叫んだ瞬間、私の顔のすぐ横をヒュッと風が切り裂き、一本の団子の串が長椅子に深く突き刺さった。あまりの速さと鋭さに、思わず肝が冷える。
『……あのね、他者を巻き込むなって言ってるの。そんなの常識でしょ?』
「うっ……。」
静かな声だが、その低さの中に明確な怒りを感じる。あまりにもぐうの音も出ない正論でぐっと言葉が詰まり言い返すこともできない。
そのままお互いに茶を啜り、重苦しい沈黙の時間が流れる。
なんなのだ、この気まずい時間は。
だが、ここで自分から動いたら折れたような気がして負けだ。どうしたものかと内心冷や汗をかいていると、静寂を破って奴が開口した。
『ねぇ、何でそんなに敵対するの?』
「はっ!……それは土井半助が私のライバルだからだ!」
『仕掛けたのは貴方でしょ? 先生はただ生徒を守っただけよ。』
「お前にはこの私の屈辱は分からんだろうな!」
『……確かに。』
「だから土井の味方の貴様は、私の敵にもなるのだ!」
『……うーん、それはおかしな話よね。』
「な、何だと。」
『きっかけはまぁあれだけど、私だって休みの日はゆっくりしたいし、貴方と喧嘩したい訳じゃないのよ?』
「…………。」
『だから、全員が全員敵だって思わなくてもいいんじゃない?』
「……それでも私は、プロ忍者だ。」
『それを言うなら私もくのたま。忍者は感情に左右されちゃ駄目よ。』
奴は「私を敵だと思うな」と言うが、そんな簡単な話ではない。いつ何時、我々が敵として刃を交えることになるかなど、互いに分からないのだから。
……だが、確かにこれまでの私は、憎き土井半助の姿を目にするとすぐに頭に血が昇り、周囲の状況や後先など考えずに攻撃を仕掛けていた。
そんな未熟さを自分より若い「くのたま」に諭されるとは……なんたる情けないことか。
『それに、雑渡さんも保健委員と仲良くしてるじゃない。』
「くっ、組頭は策があって動いてるのだ!」
『なら、それでもいいんじゃない? 利用する時は利用する。忍者は何でも利用するんでしょ?』
そう言いながら、彼女は何本目かの団子を口に頬張り、目を弧にして笑った。この女……ただのくのたまだというのになんとも食えない奴だ。
以前戦った時とはまるで違う雰囲気や口調のせいか、どうにも調子を狂わされ、終始振り回されている自分がいる。
「……もういい、ここは私が出す。」
『えっ、いいわよ。自分の分は自分で出すわよ。』
「……………前の礼だ。」
『えっ?』
「……………この間は済まなかった。」
『諸泉………。』
そう言って見やると、彼の表情は深めに被った笠の陰に隠れて窺えない。しかし、棘のあった空気はどこか柔らかく和らいでいた。
最初の出会いが最悪すぎてすっかり失念していたが、考えてみれば目の前の男は自分よりも少し年上の青年なのだ。しかもあの雑渡昆奈門率いる組の忍者なのだから、相応の実力を備えているはずである。それなのに学園では毎回散々な目に遭っているせいで、つい頼りなく見えてしまっていたのだろう。
『……尊奈門、また今度色々話しましょう。』
「っ、お前、名前で……!」
『私は敵じゃないわ。……いいでしょ?』
「そ、それは……。」
ふと下の名前で呼ばれ、まっすぐ微笑みかけられた。その柔らかい表情にどくりと胸の鼓動が高鳴る。
――奴はあの土井半助の教え子で、忍術学園のくのたまだぞ……!
理屈では分かっているのに、決して悪い気がしないばかりかこの女に対して胸を躍らせている自分がいる。そんな浮ついた事実をどうしても認めたくなくて、私は逃げるように足早に茶屋を後にしようとした。だが、去り際にどうしても耐えきれず、振り向きざまに声を張り上げる。
「っ、次会った時こそ、私が勝つ!」
『はいはい。その時は、お茶でも準備してお待ちしてます。』
「わ、私は本気だぞ!」
『望む所よ。』
「っ、くそっ……。」
ひらひらと手を振られ、先程と変わらぬ笑顔を向けられる。その姿に更に胸がぎゅっと締め付けられただなんて奴は知る由もないのだろう。
_______________________
(くそ、くそ、何なんのだ苗字 名前)
(尊奈門にも春がきたらしいな)
(ようやくか。)
(高坂さん、小頭まで!)
(ふぅん……なんか面白くないね)
(……諸泉尊奈門、いい奴じゃない)
「この村からの調査成果はなしか……」
近々、近隣の城同士で戦が始まるかもしれない。組頭の命を受けた私は、旅人に変装して周囲の村々を回り、聞き込み調査を行っていた。
しかし、この村で有用な情報は得られず仕舞い。ひとまず別の村へ拠点を移そうと移動していたところ、街道沿いに一軒の茶屋を見つけ、足を休めることにした。
――ここの団子は美味い。
ひと口含んで笑みがこぼれる。同僚である忍者隊にお土産として包んでもらおうか、そんなことを考えていたその時すぐ隣から聞き覚えのある声が聞こえてきた。
『あっ、諸泉尊奈門。』
「ん?……げっ! お前は忍術学園、くの一の苗字 名前!!!?」
『そういう個人情報を大声で言うんじゃない。』
「ぐはっ!」
頭を強く叩かれ、思わずうめき声が漏れる。この容赦ない手加減と独特の感触……嫌な覚えがありすぎる。
な、なんでこの距離で気付かなかったんだ……!?
頭を押さえながら隣を盗み見ると、奴は忍装束ではなく、しれっと私服の着物姿で団子を味わっていた。忍びの格好をしていないとこんな佇まいなのか。それにしても、叩かれた痛さと不覚をとった悔しさで思わず大きな声を上げてしまった。
「っ、な、何をする!?」
『別に何も。』
こいつは前に戦ったくの一で、憎き土井半助の教え子でもある。前回は散々なやられ方だったが、今度は負けるはずがない。しかも相手はたった一人で、見たところ丸腰だ。こんな女にこてんぱんにされたなんて、自分でも思い……いや、認めたくもない。
『貴方、また私と戦おうと思ってる訳じゃないでしょうね。』
「(ギクッ)な、何でそんな事思うんだ。」
『顔見たらそんなの分かるわよ。』
そう言うと、奴は団子を口の中にひょいと放り込む。私に勝ったからといって見せるその余裕な態度に、ふつふつと怒りが込み上げてくる。
『ここは村から外れているとはいえ茶屋なんだから、場所はわきまえなさいね。』
「うるさい! 何故貴様にそんな事言われなきゃならんのだ!!!……うっ!?」
叫んだ瞬間、私の顔のすぐ横をヒュッと風が切り裂き、一本の団子の串が長椅子に深く突き刺さった。あまりの速さと鋭さに、思わず肝が冷える。
『……あのね、他者を巻き込むなって言ってるの。そんなの常識でしょ?』
「うっ……。」
静かな声だが、その低さの中に明確な怒りを感じる。あまりにもぐうの音も出ない正論でぐっと言葉が詰まり言い返すこともできない。
そのままお互いに茶を啜り、重苦しい沈黙の時間が流れる。
なんなのだ、この気まずい時間は。
だが、ここで自分から動いたら折れたような気がして負けだ。どうしたものかと内心冷や汗をかいていると、静寂を破って奴が開口した。
『ねぇ、何でそんなに敵対するの?』
「はっ!……それは土井半助が私のライバルだからだ!」
『仕掛けたのは貴方でしょ? 先生はただ生徒を守っただけよ。』
「お前にはこの私の屈辱は分からんだろうな!」
『……確かに。』
「だから土井の味方の貴様は、私の敵にもなるのだ!」
『……うーん、それはおかしな話よね。』
「な、何だと。」
『きっかけはまぁあれだけど、私だって休みの日はゆっくりしたいし、貴方と喧嘩したい訳じゃないのよ?』
「…………。」
『だから、全員が全員敵だって思わなくてもいいんじゃない?』
「……それでも私は、プロ忍者だ。」
『それを言うなら私もくのたま。忍者は感情に左右されちゃ駄目よ。』
奴は「私を敵だと思うな」と言うが、そんな簡単な話ではない。いつ何時、我々が敵として刃を交えることになるかなど、互いに分からないのだから。
……だが、確かにこれまでの私は、憎き土井半助の姿を目にするとすぐに頭に血が昇り、周囲の状況や後先など考えずに攻撃を仕掛けていた。
そんな未熟さを自分より若い「くのたま」に諭されるとは……なんたる情けないことか。
『それに、雑渡さんも保健委員と仲良くしてるじゃない。』
「くっ、組頭は策があって動いてるのだ!」
『なら、それでもいいんじゃない? 利用する時は利用する。忍者は何でも利用するんでしょ?』
そう言いながら、彼女は何本目かの団子を口に頬張り、目を弧にして笑った。この女……ただのくのたまだというのになんとも食えない奴だ。
以前戦った時とはまるで違う雰囲気や口調のせいか、どうにも調子を狂わされ、終始振り回されている自分がいる。
「……もういい、ここは私が出す。」
『えっ、いいわよ。自分の分は自分で出すわよ。』
「……………前の礼だ。」
『えっ?』
「……………この間は済まなかった。」
『諸泉………。』
そう言って見やると、彼の表情は深めに被った笠の陰に隠れて窺えない。しかし、棘のあった空気はどこか柔らかく和らいでいた。
最初の出会いが最悪すぎてすっかり失念していたが、考えてみれば目の前の男は自分よりも少し年上の青年なのだ。しかもあの雑渡昆奈門率いる組の忍者なのだから、相応の実力を備えているはずである。それなのに学園では毎回散々な目に遭っているせいで、つい頼りなく見えてしまっていたのだろう。
『……尊奈門、また今度色々話しましょう。』
「っ、お前、名前で……!」
『私は敵じゃないわ。……いいでしょ?』
「そ、それは……。」
ふと下の名前で呼ばれ、まっすぐ微笑みかけられた。その柔らかい表情にどくりと胸の鼓動が高鳴る。
――奴はあの土井半助の教え子で、忍術学園のくのたまだぞ……!
理屈では分かっているのに、決して悪い気がしないばかりかこの女に対して胸を躍らせている自分がいる。そんな浮ついた事実をどうしても認めたくなくて、私は逃げるように足早に茶屋を後にしようとした。だが、去り際にどうしても耐えきれず、振り向きざまに声を張り上げる。
「っ、次会った時こそ、私が勝つ!」
『はいはい。その時は、お茶でも準備してお待ちしてます。』
「わ、私は本気だぞ!」
『望む所よ。』
「っ、くそっ……。」
ひらひらと手を振られ、先程と変わらぬ笑顔を向けられる。その姿に更に胸がぎゅっと締め付けられただなんて奴は知る由もないのだろう。
_______________________
(くそ、くそ、何なんのだ苗字 名前)
(尊奈門にも春がきたらしいな)
(ようやくか。)
(高坂さん、小頭まで!)
(ふぅん……なんか面白くないね)
(……諸泉尊奈門、いい奴じゃない)