長編関連(短編・番外編)
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危機
『学園長のおつかいは終わった?』
「あぁ、終わった。待たせたな。」
「ほんと何もなくて良かったよ。」
今日は、は組の二人が金楽寺の和尚様へ学園長からの密書を届けるおつかいを頼まれたが、偶然暇を持て余していた私に留三郎から誘いを受けた。
普段はこの内容なら低学年が受け持つ事が多いのだが上級生には大変珍しいと思い、興味本位で付き添いをした。
「付き合わせて悪かったな名前。」
『いいのよ、面白そうだったし。』
「まっ、俺としては名前と居れる事は大変嬉しいがな。」
『……留三郎。』
留三郎と視線が交わる。そんな事を恥ずかしげも無く想いを述べてくれる留三郎に照れてしまい足元の小石を蹴ってしまう。
そんな二人に取り残されていた隣の伊作は留三郎の言葉に苦笑いをしている。
「そんな君達を見てると胸焼けがしてくるのは僕だけかな。」
『ご、ごめんなさい伊作!』
茶化してくる伊作をよそに笑いながら歩みを進める私達。
この何気ない日常がずっと続けば良いのに。
道の中腹に差し掛かると空気が一変する。
伊作も留三郎も感じ取り、空気が冷え矢羽根でやり取りを行う。
「名前、伊作。……分かるか?」
「あぁ。留三郎。」
『えぇ、……何者かが此方を見ているわ。』
薄暗い山の中に気味の悪い視線を感じる。
「一、ニ、三、………いや、四人に囲まれているな…」
『狙われる理由が分からないわ。』
「留三郎どうする……」
すると茂みから忍装束を纏った忍者達が姿を現す。
「お前ら忍術学園の者だな。」
「だったら何だ?」
「あの和尚とは知り合いだろう?和尚との関係を話せ。」
『上の只の知り合いよ。住職をしている事以外私達、詳しい事は知らないわ。』
「そんな話信用ならん。」
「そんな!本当の事なのに!」
「話さないなら無理矢理にでも話してもらうぞ。」
その一言を合図に男達が苦無に刀など武器を取り出す。まさか本気で斬りかかってくるつもり?
『留三郎……これは……』
「あぁ、戦うしかないな……」
着物の裾に手を伸ばし苦無を取り出す。それぞれが武器を取り出し構えると男達が一斉に襲いかかってくる。
留三郎が鉄双節棍で一人の刀を受け止め、伊作も持っていた苦無で応戦している。
私の目の前にも男が飛び掛かってくる。頭上に高く振り上げられた刀身は勢いよく真下にいる私に振り下ろされ、地面に痕を付ける。
「ちっ!」
男が舌打ちする。
留三郎が鉄双節棍で男を押し退けている。
それを横目に懐から手裏剣を取り出し、男に放つが刀で軌道を変えられる。
これくらいの攻撃が通用すると思っていない。
苦無を振り被り、刀の刀身と交じった瞬間弱点である金的を蹴り上げる。
「ぐっ!!!」
男は膝から崩れ落ち、そのまま苦無の後方で後頭部に振り落とすとドサっと地面に男が伏せる。あと三人。
伊作と留三郎は戦っており加勢に向かおうとするが一人の男に止められる。
「行かせはせん!」
『貴様…』
男は苦無を構えながら勢いよく正面からぶつかる。
『くっ!』
「味方の心配をしている場合か?」
そのまま後方へ押しやられ、苦無を振り上げる事が出来ない。
いつの間にか留三郎達とは離れ離れになり、男に先を読まれたのか後ろには崖がある。足が後ろにずれる度に小石が音を立てて落ちていく。
「命が惜しいなら話せ。」
『さっき話したのが事実だ。』
「まだ言うか!」
男の腕により力が入る。ここを耐えるのが最早限界。
『くそっ…………ぐっ!』
躍起になっていると、胸元に鋭利な衝撃が走る。
『な……何…………』
視線を下ろすと男の苦無が自身の胸元に刺さっている。痛みに耐え顔を上げると後ろから留三郎が走ってくる。
しかし男をこのままにしとく事は出来ない。
男の胸に掴みかかり体重を後方に預ける。男が私の狙いに気付くが既に遅い。
「や、止めろ!貴様っ!!!」
『お前も……道連れだ。』
相打ちを覚悟に男と共に崖を背に落ちていく。
「名前っ!!!」
宙に浮く感覚に背中に風を受けながら、私の名を叫ぶ留三郎の声が聞こえる。
咄嗟に目の前の崖に苦無を突き刺すが岩に阻まれ儚く落ちていく。こうなるならもっと留三郎に愛を囁けば良かった。留三郎だけではない、くの一教室の後輩達や忍たま達とももっと仲良くしとけば良かった。
今の私には留三郎の必死な顔しか見えない。最後の留三郎の顔がその表情だなんて。
崖下の冷たい川に身体が沈む。
敵の忍者を鉄双節棍で打撃し片付け、目の前を見るとそこには名前が敵の忍者に刺され、苦悶に顔を歪める姿が見えた。
その瞬間、一気に憤怒が湧き上がる。
「名前っ!!!」
木々を避け駆け寄るとそのまま崖から敵と一緒に崩れ落ちていった。
急いで崖に寄るが下は川で流れが早く何も浮かび上がらない。
「留三郎!名前は!」
「崖下に敵と落ちていった!!!くそっ!」
追いかけてきた伊作が、今にも崖から飛び降りそうな俺を止める。
その静止すら振り払い、一刻も早く名前を助けに向かわないと死んでしまう。
「待て留三郎!!!君まで落ちたらこの流れじゃ命が助かるか分からない!」
「だが早く名前を見つけるのが先だ!」
「それはそうだけど!」
「伊作!俺は今からこの崖下を降りて名前を探す!お前はこの事を先生達に知らせろ!」
「分かった!だけど!」
「もしかしたらまだ奴らが周りに居るかもしれない!気をつけて学園に戻れ!そして助けを呼んでくれ!」
「わ、分かった!」
伊作を急いで学園に向かわせ、名前の探索を始める。
茂みを掻き分け山を下り川下に駆け寄ると崖上から見るより流れが早い。頼む無事で居てくれ。
切に願い足を速める。
『うっ、………ガハッ!』
途中、岩に引っかかった衝撃で意識が戻ると飲んでいた水が吐き出る。重たい瞼が少しずつ上がると既に敵の忍者はいない。残った体力を振り絞り、必死に川辺に向かいようやく川から這い上がる事ができた。
濡れた着物が水を吸い、重しとなり体力を奪っていく。
しかし川に落ちた衝撃と濁流にのまれ体力を奪われた為か身体を動かす事が出来ない。
「名前ー!何処だー!」
『……とめ、さ、ぶろう………』
遠くで聞こえる留三郎の声。
でも今は返事をする体力も残っていない。
「名前!無事か!!!」
ガサっと茂みから姿を現した留三郎を視界の隅に捉える。探しに来てくれた。
留三郎の姿に安心を覚え瞼が閉じていく。
「おい!名前!目を開けろ!」
揺さぶっても目を開けない。
血で汚れた襟をどけ、刺されていた箇所を確認すると其処には割れた手鏡の破片が散乱していた。
そうか、手鏡のおかげで致命傷は避けたか。
手鏡の破片で刺さった所が出血しているが傷は深くない。
額に掛かった髪を退け顔を確認すると、身体は青白く水より冷たい。長時間川の水に晒されたのが理由だろう。
急いで名前を背負い、川辺から離れた場所に寝かせる。学園に通じる道を探すがこの獣道しか見つからない。また山中で日暮れに無理をしたら遭難の可能性がある。
しかし今、名前を無理に背負って学園に戻るとかなりの負担が名前にかかるだろう。
枯れ木を集め、充分な場所を確保すると辺りは既に暗くなり始めている。
焚き火を急いで起こし、名前を横抱きにし焚き火に近づく。
「くっ………すまん……」
そう言いまだ意識を失っている名前の着物の襟に手をかけ脱がしていく。
パチパチとした音が聞こえる。
目を開けると目の前には火が揺ら揺らとうごめいており、視線を向けると自身はほぼ裸で衣服を着ていない。
ここは……
完全に目が覚めると留三郎の腕の中で、上からは留三郎の着物を羽織られている。
薬草の匂いがし、匂いのする場所を見ると左の胸元に薬草が充てられている。
これは全部留三郎が手当てを。私を温めてくれてたのか。
彼の顔を下から覗き込むとゴソゴソした加減で留三郎がパチっと開眼する。
「名前、起きたか。」
『留三郎、これは………』
「お前を見つけた時は既に氷の様に冷たかったからな…」
『………』
「お前が無事で良かった。」
留三郎が安堵したように微笑む。
辺りの状況を把握できた所で今自身が置かれている状態に恥ずかしさを自覚すると耳まで熱が生じる。
『ごめんなさい……』
名前の口から謝罪の言葉が出てくる。何故お前が謝る。謝らなければならないのは俺だ。お前をわざわざ危険に巻き込んでしまった。しかも守る事が出来なかった。
『私が下手に巻き込んだから……』
「それは俺の台詞だ。守ってやれなかった……」
あの時敵と一緒に落ちていく名前の姿を見た時、地獄に落とされるとはこういう事かと思った。
自分の身を顧みず敵と一緒に落ちていく寸前の名前の目と合った瞬間、彼女は口元に笑みを浮かべていた。
「お前を失ったら俺は……」
留三郎の頬に涙が伝う。この涙に嘘偽りはない。
自身の行動で其処まで留三郎を追い詰めさせてしまうとは思わなかった。
『留三郎……んっ、』
留三郎から口吸いされる。焚き火だけで温かくなった訳ではない、留三郎の熱い唇。一瞬命を投げ出す事を覚悟したこの身体。仮に死んでも私の代わりは幾らでもいる。
しかし自身の行動が他者を巻き込むなど思っても居なかった。
今、彼の唇を感じる事が出来るのも命があってこそ。
角度を変え口吸いを続けると留三郎の舌が入り込み口内を責める。
『んっ、とめ、』
「名前、……… 名前、………」
口吸いにより羽織っていた着物が滑り落ち、素肌が外気に晒される。そんな事気にする事なく口吸いし、留三郎の舌に絡ませられ酸欠になり頭が働かなくなる。
『私も、んっ……あな、たが……あっ!……いないと耐えられ、んっ!』
「んっ……… 名前、」
必死に言葉を綴る私に留三郎が口吸いを止め、その間に大きな息をゆっくり吐き出す。
留三郎の大きい手が私の頬に添える。自然に私の手も留三郎の頬に伸びる。
「……もう二度とあんな事は止めろ。」
『分かった。……もう、しない。』
名前の返事でほっと安堵の胸を撫で下ろす。
「名前、歩けるか?」
『大丈夫。動けるわ。』
あれから一晩山の中で過ごし、朝を迎える事ができた。着物は乾き、いそいそと着替える名前の姿はとても可愛らしく見えた。
朝を迎えると山中は日に照らされ、無事学園に戻る事ができ伊作達や先生達に出迎えられる。
「名前!、留三郎!良かったよ〜!!!」
「お前達!無事で良かった!」
「無事戻る事ができました。」
『ご心配おかけしました。』
山田先生や校医の新野先生に昨日の事を話し、そのまま先生方は学園長の元に行ってしまわれた。
「名前、胸元の傷伊作に見てもらえ。」
『えっ、もう大丈夫よ。』
名前の返答に伊作がぴくっと反応する。
「名前!傷の手当てするよ!」
『いや……どうにかなるからそこまで……』
「いいから!」
強引に腕を引かれ、医務室に連れて行かれる。
でも昨夜の出来事に留三郎の様子が蘇ってきて、湯気のようにしっとりと胸を温めるだなんて留三郎には恥ずかしくて絶対に言えない。
これは私だけの甘美な想い出だ。
『学園長のおつかいは終わった?』
「あぁ、終わった。待たせたな。」
「ほんと何もなくて良かったよ。」
今日は、は組の二人が金楽寺の和尚様へ学園長からの密書を届けるおつかいを頼まれたが、偶然暇を持て余していた私に留三郎から誘いを受けた。
普段はこの内容なら低学年が受け持つ事が多いのだが上級生には大変珍しいと思い、興味本位で付き添いをした。
「付き合わせて悪かったな名前。」
『いいのよ、面白そうだったし。』
「まっ、俺としては名前と居れる事は大変嬉しいがな。」
『……留三郎。』
留三郎と視線が交わる。そんな事を恥ずかしげも無く想いを述べてくれる留三郎に照れてしまい足元の小石を蹴ってしまう。
そんな二人に取り残されていた隣の伊作は留三郎の言葉に苦笑いをしている。
「そんな君達を見てると胸焼けがしてくるのは僕だけかな。」
『ご、ごめんなさい伊作!』
茶化してくる伊作をよそに笑いながら歩みを進める私達。
この何気ない日常がずっと続けば良いのに。
道の中腹に差し掛かると空気が一変する。
伊作も留三郎も感じ取り、空気が冷え矢羽根でやり取りを行う。
「名前、伊作。……分かるか?」
「あぁ。留三郎。」
『えぇ、……何者かが此方を見ているわ。』
薄暗い山の中に気味の悪い視線を感じる。
「一、ニ、三、………いや、四人に囲まれているな…」
『狙われる理由が分からないわ。』
「留三郎どうする……」
すると茂みから忍装束を纏った忍者達が姿を現す。
「お前ら忍術学園の者だな。」
「だったら何だ?」
「あの和尚とは知り合いだろう?和尚との関係を話せ。」
『上の只の知り合いよ。住職をしている事以外私達、詳しい事は知らないわ。』
「そんな話信用ならん。」
「そんな!本当の事なのに!」
「話さないなら無理矢理にでも話してもらうぞ。」
その一言を合図に男達が苦無に刀など武器を取り出す。まさか本気で斬りかかってくるつもり?
『留三郎……これは……』
「あぁ、戦うしかないな……」
着物の裾に手を伸ばし苦無を取り出す。それぞれが武器を取り出し構えると男達が一斉に襲いかかってくる。
留三郎が鉄双節棍で一人の刀を受け止め、伊作も持っていた苦無で応戦している。
私の目の前にも男が飛び掛かってくる。頭上に高く振り上げられた刀身は勢いよく真下にいる私に振り下ろされ、地面に痕を付ける。
「ちっ!」
男が舌打ちする。
留三郎が鉄双節棍で男を押し退けている。
それを横目に懐から手裏剣を取り出し、男に放つが刀で軌道を変えられる。
これくらいの攻撃が通用すると思っていない。
苦無を振り被り、刀の刀身と交じった瞬間弱点である金的を蹴り上げる。
「ぐっ!!!」
男は膝から崩れ落ち、そのまま苦無の後方で後頭部に振り落とすとドサっと地面に男が伏せる。あと三人。
伊作と留三郎は戦っており加勢に向かおうとするが一人の男に止められる。
「行かせはせん!」
『貴様…』
男は苦無を構えながら勢いよく正面からぶつかる。
『くっ!』
「味方の心配をしている場合か?」
そのまま後方へ押しやられ、苦無を振り上げる事が出来ない。
いつの間にか留三郎達とは離れ離れになり、男に先を読まれたのか後ろには崖がある。足が後ろにずれる度に小石が音を立てて落ちていく。
「命が惜しいなら話せ。」
『さっき話したのが事実だ。』
「まだ言うか!」
男の腕により力が入る。ここを耐えるのが最早限界。
『くそっ…………ぐっ!』
躍起になっていると、胸元に鋭利な衝撃が走る。
『な……何…………』
視線を下ろすと男の苦無が自身の胸元に刺さっている。痛みに耐え顔を上げると後ろから留三郎が走ってくる。
しかし男をこのままにしとく事は出来ない。
男の胸に掴みかかり体重を後方に預ける。男が私の狙いに気付くが既に遅い。
「や、止めろ!貴様っ!!!」
『お前も……道連れだ。』
相打ちを覚悟に男と共に崖を背に落ちていく。
「名前っ!!!」
宙に浮く感覚に背中に風を受けながら、私の名を叫ぶ留三郎の声が聞こえる。
咄嗟に目の前の崖に苦無を突き刺すが岩に阻まれ儚く落ちていく。こうなるならもっと留三郎に愛を囁けば良かった。留三郎だけではない、くの一教室の後輩達や忍たま達とももっと仲良くしとけば良かった。
今の私には留三郎の必死な顔しか見えない。最後の留三郎の顔がその表情だなんて。
崖下の冷たい川に身体が沈む。
敵の忍者を鉄双節棍で打撃し片付け、目の前を見るとそこには名前が敵の忍者に刺され、苦悶に顔を歪める姿が見えた。
その瞬間、一気に憤怒が湧き上がる。
「名前っ!!!」
木々を避け駆け寄るとそのまま崖から敵と一緒に崩れ落ちていった。
急いで崖に寄るが下は川で流れが早く何も浮かび上がらない。
「留三郎!名前は!」
「崖下に敵と落ちていった!!!くそっ!」
追いかけてきた伊作が、今にも崖から飛び降りそうな俺を止める。
その静止すら振り払い、一刻も早く名前を助けに向かわないと死んでしまう。
「待て留三郎!!!君まで落ちたらこの流れじゃ命が助かるか分からない!」
「だが早く名前を見つけるのが先だ!」
「それはそうだけど!」
「伊作!俺は今からこの崖下を降りて名前を探す!お前はこの事を先生達に知らせろ!」
「分かった!だけど!」
「もしかしたらまだ奴らが周りに居るかもしれない!気をつけて学園に戻れ!そして助けを呼んでくれ!」
「わ、分かった!」
伊作を急いで学園に向かわせ、名前の探索を始める。
茂みを掻き分け山を下り川下に駆け寄ると崖上から見るより流れが早い。頼む無事で居てくれ。
切に願い足を速める。
『うっ、………ガハッ!』
途中、岩に引っかかった衝撃で意識が戻ると飲んでいた水が吐き出る。重たい瞼が少しずつ上がると既に敵の忍者はいない。残った体力を振り絞り、必死に川辺に向かいようやく川から這い上がる事ができた。
濡れた着物が水を吸い、重しとなり体力を奪っていく。
しかし川に落ちた衝撃と濁流にのまれ体力を奪われた為か身体を動かす事が出来ない。
「名前ー!何処だー!」
『……とめ、さ、ぶろう………』
遠くで聞こえる留三郎の声。
でも今は返事をする体力も残っていない。
「名前!無事か!!!」
ガサっと茂みから姿を現した留三郎を視界の隅に捉える。探しに来てくれた。
留三郎の姿に安心を覚え瞼が閉じていく。
「おい!名前!目を開けろ!」
揺さぶっても目を開けない。
血で汚れた襟をどけ、刺されていた箇所を確認すると其処には割れた手鏡の破片が散乱していた。
そうか、手鏡のおかげで致命傷は避けたか。
手鏡の破片で刺さった所が出血しているが傷は深くない。
額に掛かった髪を退け顔を確認すると、身体は青白く水より冷たい。長時間川の水に晒されたのが理由だろう。
急いで名前を背負い、川辺から離れた場所に寝かせる。学園に通じる道を探すがこの獣道しか見つからない。また山中で日暮れに無理をしたら遭難の可能性がある。
しかし今、名前を無理に背負って学園に戻るとかなりの負担が名前にかかるだろう。
枯れ木を集め、充分な場所を確保すると辺りは既に暗くなり始めている。
焚き火を急いで起こし、名前を横抱きにし焚き火に近づく。
「くっ………すまん……」
そう言いまだ意識を失っている名前の着物の襟に手をかけ脱がしていく。
パチパチとした音が聞こえる。
目を開けると目の前には火が揺ら揺らとうごめいており、視線を向けると自身はほぼ裸で衣服を着ていない。
ここは……
完全に目が覚めると留三郎の腕の中で、上からは留三郎の着物を羽織られている。
薬草の匂いがし、匂いのする場所を見ると左の胸元に薬草が充てられている。
これは全部留三郎が手当てを。私を温めてくれてたのか。
彼の顔を下から覗き込むとゴソゴソした加減で留三郎がパチっと開眼する。
「名前、起きたか。」
『留三郎、これは………』
「お前を見つけた時は既に氷の様に冷たかったからな…」
『………』
「お前が無事で良かった。」
留三郎が安堵したように微笑む。
辺りの状況を把握できた所で今自身が置かれている状態に恥ずかしさを自覚すると耳まで熱が生じる。
『ごめんなさい……』
名前の口から謝罪の言葉が出てくる。何故お前が謝る。謝らなければならないのは俺だ。お前をわざわざ危険に巻き込んでしまった。しかも守る事が出来なかった。
『私が下手に巻き込んだから……』
「それは俺の台詞だ。守ってやれなかった……」
あの時敵と一緒に落ちていく名前の姿を見た時、地獄に落とされるとはこういう事かと思った。
自分の身を顧みず敵と一緒に落ちていく寸前の名前の目と合った瞬間、彼女は口元に笑みを浮かべていた。
「お前を失ったら俺は……」
留三郎の頬に涙が伝う。この涙に嘘偽りはない。
自身の行動で其処まで留三郎を追い詰めさせてしまうとは思わなかった。
『留三郎……んっ、』
留三郎から口吸いされる。焚き火だけで温かくなった訳ではない、留三郎の熱い唇。一瞬命を投げ出す事を覚悟したこの身体。仮に死んでも私の代わりは幾らでもいる。
しかし自身の行動が他者を巻き込むなど思っても居なかった。
今、彼の唇を感じる事が出来るのも命があってこそ。
角度を変え口吸いを続けると留三郎の舌が入り込み口内を責める。
『んっ、とめ、』
「名前、……… 名前、………」
口吸いにより羽織っていた着物が滑り落ち、素肌が外気に晒される。そんな事気にする事なく口吸いし、留三郎の舌に絡ませられ酸欠になり頭が働かなくなる。
『私も、んっ……あな、たが……あっ!……いないと耐えられ、んっ!』
「んっ……… 名前、」
必死に言葉を綴る私に留三郎が口吸いを止め、その間に大きな息をゆっくり吐き出す。
留三郎の大きい手が私の頬に添える。自然に私の手も留三郎の頬に伸びる。
「……もう二度とあんな事は止めろ。」
『分かった。……もう、しない。』
名前の返事でほっと安堵の胸を撫で下ろす。
「名前、歩けるか?」
『大丈夫。動けるわ。』
あれから一晩山の中で過ごし、朝を迎える事ができた。着物は乾き、いそいそと着替える名前の姿はとても可愛らしく見えた。
朝を迎えると山中は日に照らされ、無事学園に戻る事ができ伊作達や先生達に出迎えられる。
「名前!、留三郎!良かったよ〜!!!」
「お前達!無事で良かった!」
「無事戻る事ができました。」
『ご心配おかけしました。』
山田先生や校医の新野先生に昨日の事を話し、そのまま先生方は学園長の元に行ってしまわれた。
「名前、胸元の傷伊作に見てもらえ。」
『えっ、もう大丈夫よ。』
名前の返答に伊作がぴくっと反応する。
「名前!傷の手当てするよ!」
『いや……どうにかなるからそこまで……』
「いいから!」
強引に腕を引かれ、医務室に連れて行かれる。
でも昨夜の出来事に留三郎の様子が蘇ってきて、湯気のようにしっとりと胸を温めるだなんて留三郎には恥ずかしくて絶対に言えない。
これは私だけの甘美な想い出だ。