劇場版ドクタケ忍者隊最強の軍師
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後日談③
「皆んな、揃ったな。」
どっぷりと夜に染まった学園内の長屋では六年生皆が集まり其処には私もいる。
土井先生の件以降、学園に戻ってからこのように皆が集まり穏やかな日を送れるのは久しぶりだ。
蝋燭の火が照らされた室内。集まって最初の数刻は和気藹々と会話が弾むが、ある話題を境に空気が張り詰める。
「この間の土井先生の件、どう思った?」
仙蔵が切り出すと同時に皆がふむ…と考え込む。
「在学中に経験できた事はでかいな。」
「でも土井先生が無事に戻って良かったよ。」
「それはそうだが、改めて実力の違いを思い知らされたのも事実だ。」
「私はもっと強くならねばと思ったな!」
「激しく同意……もそっ」
仙蔵を筆頭に各々抱いていた思いを話し出す。
「名前はどうだ?」
『私?』
仙蔵からの問い掛けにうーんと、頭を傾げながら考える。
下手をすれば死人が出た。それだけ事は重大であり、最上級生にもなってあの実力の違いは圧倒的だった。
『確かに今まで様々な忍務をこなしてきたけど、今回みたいな件は初めてだったね。』
身じろぎせず胸の内を述べると、波打つように沈黙が室内を染める。
『何より味方が敵に、土井先生に命を狙われた事は衝撃だった。』
あの日皆、傷を負ったが致命傷になりかね無い傷を負ったのは事実だ。
特に肩を大きく斬られた小平太。
『喋りすぎね。』
「いや構わない。続けてくれ。」
仙蔵の言葉がやたら響き、他の六年生は黙っている。
静かな室内で続きを発するのも正直気が引けるが、自身の言葉に心を決め閉ざした口を開ける。
『私達は弱い。学園では最上級生だけど私達の実力は外の忍びより遥かに劣ると考えていい。』
黙って私の言葉に頷く仙蔵と伊作を視界の端に捉える。
今のこの場に歯に衣着せる言葉等は一切不要だろう。
だからあえて手厳しい言葉を選んで言わせてもらった。
『でも卒業したらもっと辛い経験や場面に対峙するわ。』
蝋燭の火が揺らぐ。その影が室内に大きく映りジジジっと蝋の雫が受け皿に流れ落ちる。
『私達は今以上に覚悟をもって強くならないといけない。』
発言を終えるとシン…っとなる室内。
仙蔵、文次郎、小平太、長次、伊作、留三郎と順に見渡すが誰も言葉を発しない様子に思わゆずゴクリと喉を鳴らしてしまう。
「はー、お前は厳しい事をいうな。」
「本当だ。だが確かにお前の言う通りだ。」
『仙蔵、文次郎。』
沈黙を破り、仙蔵と文次郎が体勢を崩し困ったように眉を顰めこちらを向くがようやく肩の荷を下ろせたような気分だ。
「名前が事実をはっきり言うものだから緊張しちゃったよ。」
「でもこの意見は俺らだけでは出なかったな。」
『伊作、留三郎…』
「確かに強くなるだけではだめだな!覚悟を持って戦う時のが必要だな!」
「小平太……覚悟はいいが戦うのは…………もそっ。」
『小平太、長次も。』
あえて厳しい言葉を選んだというのにこの人達は。
ふっと笑みを浮かべてしまう。
そうだ。あの時、土井先生と対峙した時の皆の顔付きは忍びだった。経験は足りないが皆の忍びとしての覚悟はあらわだった。しかし想定外の出来事に動揺してしまった。かくいう私も。
また命を狙われるという経験も私達の中では大きな糧になっただろう。
情報を伝えるとはいえ敵の追跡を撒き、逃げるのが忍者の第一だが時には戦いになる事も避けられない。
昔、私が奪われたように弱者は何も守る事ができない。強者しか生き残る事は許されない。誰もが心に秘めて生きるべきだ。でもこれは戦乱の世を生きる私達の使命だ。
『実際、私達が死んでも変わりはいる。』
「名前、怖い事を言わないで。」
『あら、でもこれは事実よ。一人、二人抜けても歯車が回るように忍務は続行される。』
「名前、お前死ぬ気なのか?」
『馬鹿、例えの話。』
「お前は時に何処かの忍びなのかと思う程大人びているな。」
「しかもあの土井先生とまともに戦ってたしな。」
『伊達に色々経験してるからね。』
仙蔵にVサインをしながら視線を向けるが留三郎がおもむろに立ち上がり私の隣に座り込む。
そうだ。あの件を知っているのは一緒に戦ってくれた留三郎だけだ。
彼がそっと私の背後から手を伸ばし腰を抱く。
「それはお前らがくっつくきっかけに関係しているのか。」
留三郎の行動に文次郎が眉をしかめながら疑問をぶつける。
「野暮だぞ、文次郎。」
『文次郎。』
「以前の野外実習の時、お前はいなくなった。何故だ。」
文次郎が言っているのは以前、城に忍び込んだ野外実習の件だ。
あの晩、忍び込んだ城に家族を討った敵が居た。あの晩の出来事は私の過去が関係している。
自身でケリをつけたが正直過去の事は余り話をしたくない。
過去をわざわざ掘り返すのも嫌だから。でもこの機会を逃すとこの先話せるかどうかなんて分からない。
『それは……』
「名前、無理はするな。」
留三郎が私の手を握りしめる。彼が手を握った事で気付いた。自身の手が震えていることに。過去を話す事で彼らに突き放されたらどうしよう。そんな不安が頭をよぎる。
『留三郎……』
「俺がいる。何があってもお前のそばを離れないから。」
彼の笑顔と温もりが私を包み込んでくれる。
そうだ。今は私一人じゃない。彼の存在が私を救ってくれる。
『……ならちょっと昔話をしましょうか。』
『以上が私の過去。』
自身が豪族の一族であり幼い頃、支配地域を広めるとはいえ力をつけていた盗賊に手当たり次第に金品を奪い取られたうえ父母が手にかけられた事、学園に入学するまでは自身で生き延び、学びを得た事。
全てを話し終えると沈黙が続く。
『貴方達がどう思っても構わない。』
正直この戦乱の世の中、戦で多くの命が奪われるのだから別に自身だけが特別とも思っていない。
戦によって引き起こされる飢饉に孤児、弱者が身を守るためには知識や力をつける事が必要だ。
そうしないと野垂れ死ぬ人間もいる。ただ私は運が良かった。
「…………お前はそんな事を一人で抱えていたのか。」
仙蔵が眉間に皺を寄せ唇を噛み締め、顔を歪める。事の発端の文次郎は目を開き口に手を充てている。
伊作に長次、小平太は表情を変えずにいるが拳を握りしめていた。
あぁ、皆んなのそんな顔を見たかったわけではないのに。
『えぇ、そうよ。』
「……先生方はこの事を分かっていたんだね。」
『伊作、それはどういう事?』
伊作が意味深な発言をする。どういう事だ。この話は先生方が外部の人に漏らす事はないはずだ。
でも伊作の発言は明らかに知っていたという口振りだ。
「名前。お前は知らないと思うが伊作は過去に先生方が医務室であの件を話していたのを偶然聞いてしまったんだ。」
"最近になり、過去にくのたまの一族を手にかけ各地方で盗賊紛いをしてきた者が勢力をつけ、城にまで付け入り地位を得た"と
伊作が知っていた事に驚きで目を見開く。
また先生達もどんな生徒が聞いているか分からない医務室でわざわざする話でもなかったろうに。
『伊作、嫌な事を聞いたでしょう。ごめんなさいね。』
「名前は悪くない!名前に非なんかある訳ない!!!」
伊作が珍しく身を乗り出し声を張り上げ、その目には涙を浮かべている。
伊作の反応に驚かされるが否定もせず私の身を案じてくれている様子に口元が緩んでしまう。
隣で私の手を握りしめてくれていた留三郎の力が緩まる。彼は私が話している時、強く握ってくれていた。
彼は眉を顰めていたが私が辛くないか心配しているような目を向けていた。
『文次郎。あの晩、私は自身の宿敵をようやく見つけたの。感情が制御出来なくて悪かったわ。』
そっと留三郎の手を離し文次郎の前に向かい合うように移動し、膝をつく。
あの晩奴の正体が分かった後、何も成し遂げる事ができなかったやるせない自身を抑える事ができず、負の感情に飲まれかけた。
城から戻った時、真っ先に掴み掛かってきた文次郎に感情を赴くままにぶつけた。今思えば感情に左右された自身が情けない。また時と場合が違ければ仲間の命を危険に晒していた。
不甲斐ない自身が許しを乞うためじゃない。自然に床に額をつける。
「…… 名前、頭を上げろ。」
正直、文次郎がどんな表情をしているか怖い。
文次郎の言葉を気に頭をゆっくり上げると文次郎は眉間に皺を寄せ罰が悪そうな表情をしている。
「俺はお前にそんな事を求めていない。だから謝罪などいらん。」
『文次郎……』
「俺も何も知らなかったとはいえ悪かった……」
あのいつも憎まれ口を叩く文次郎が私を思って声を掛けてくれている。
『いいのよ。私は気にしてないわ。』
「いやだいぶ気にするぞ、そこは。」
私と文次郎のやり取りに、頭の後ろで腕を組みながら口を尖らせる小平太の言動に思わずぶっ!と吹き出す。
『小平太、台無しだわ。』
「だって名前はようやく見つけた敵を逃したんだろう?そんな中、文次郎が突っかかってきたら私なら戦っているな。」
「小平太………余計な事をするな………もそっ。」
「さっきまでの空気はどこに行ったのやら。」
小平太と長次にやり取りに伊作が呆れ顔で目を細めているが胸の内を話せてつかえが取れている。
これで皆に隠し事は無くなったはず。
「だが名前、お前の敵はその後どうなった。」
仙蔵の鋭い質問が私を捉える。
奴は私が息の根を止めた。だがこの報告は余りにも酷だ。
「名前は一人でケリをつけた。あの晩、一緒にいた俺が証明する。」
留三郎が私を守るように立ち塞がり、仙蔵を見据える。
あの晩、留三郎も一緒に戦ってくれた。奴の所に行けと送り出してくれた。
彼も少なからず勘づいている筈だ、私がどう過去と決別したか。
『えぇ。もう終わらせた……』
「…………そうか。」
勘のいい仙蔵も分かったのだろう。私の言葉の真意を。
でも心残りがある事といえば関係ない留三郎を巻き込んだ事だ。私の過去と関係ない彼が隣にいるのは同情からなのではないかと思う時期もあった。だがそれは杞憂だった。彼は私の全てを受け入れてくれた。彼の包容力、器に魅了されたのも事実だ。
『でもあまり気のいい事ではないわね。』
留三郎に目を向け寄りかかる。黙って受け止めてくれる留三郎に心地良さを覚える。ようやく解放された。もう思い残す事はない。今ある温もりを大事にしたい。
「名前……話してくれてありがとう。」
仙蔵の真っ直ぐした温かい瞳が私を捉える。仙蔵の両手が私の手をとらえ包み込んだ。
「おい仙蔵。どさくさに紛れて何してる。」
留三郎が額と口を引きつけさせながら仙蔵を睨んでいる。
その目先は仙蔵に握られている私の手があった。咄嗟に手を離そうとするが仙蔵の手が緩まる事はなくむしろ留三郎に見せつけているようだ。
「なに、名前の過去に思わずな。」
「だったらもういいだろう。今すぐその手を離せ。」
「また話を聞くからな。」
『うん。でも今回で全部話せたからもう大丈夫かな。』
「本当か?もう抱え込むなよ。」
『……う、うん……あの仙蔵、留三郎がね……』
「仕方ないな。」
怒りの空気が漂う留三郎の雰囲気にタジタジになる私の手をようやく解放してくれた。
解放されたと思ったが次は留三郎が私の手を自身の手で拭いている。違う男に握られた手を必死に拭いている留三郎に思わず照れてしまう。
「あいつら、見せつけてくれるな。」
「仙蔵が悪いでしょ。」
「あいつらいちゃつきやがって。でもな、もし今後我々が主の命令で命を狙う事があったらどうする?」
「なっ!俺はそんなの無理だ!」
「留三郎は甘いな。」
「何だと文次郎!」
「はぁー、また始まったよ。」
喧嘩をし始めた留三郎と文次郎に伊作が溜め息を洩らす。
『そうね……。』
「俺は級友なんか手にかける事が出来ない。仮に敵になったとしてもだ。」
喧嘩していた筈の留三郎が戻ってきて座り込む。これが彼の甘い所だ。仲間に優しく、情を捨てる事が出来ない。
でも出来れば級友達と戦う事なんかしたくない。回避したいのが本音だ。
「なぁ、忍者は情報を持って逃げる事が先なんだろ?なら私達の誰かが出会っても戦わないで逃げたらいいのではないか?」
小平太の発言に皆が一斉に彼に顔を向ける。
「馬鹿かお前は。そんな甘っちょろい事ができる訳ないだろ。」
「待て、文次郎。確かに小平太の言う通り、手にかける事は第一ではない。」
情報を伝えるのが忍者の務め。確かに小平太の考えに一理ある。そもそも必要以上に血を流す事自体がいらないのだ。
『小平太の考えに一理あるわ。』
「お前もか。」
『あら、文次郎。貴方はそんなに内々同士で戦いたいの?』
「そうなのか?文次郎は気性が荒いな!」
「小平太、お前には言われたくねぇ!」
また揉め事が始まった。呆れ顔で小平太と文次郎に視線を向けるがそれでも止まぬ騒動に仲裁すら起こる気もない。
「僕も小平太の考えに賛成かな。あともし、その場に居合わせた事を想像するとお前達に無駄な治療を施す僕の身にもなってよ。」
伊作が放つ黒い空気に圧倒され重苦しい雰囲気が二人の喧嘩をピタッと止める。
伊作の背後に黒い空気が淀み、ニコリと微笑んでいる。
「「すみません…」」
「はい、ならこれでこの話は終わり!」
伊作の止めで今晩の集まりは解散になった。
でも学園を卒業したら嫌でもその時、皆はどう動くのだろう。
だが今考えても埒が明かない。
失うのが嫌なら強くなれ。時には例外もあるけど。
「皆んな、揃ったな。」
どっぷりと夜に染まった学園内の長屋では六年生皆が集まり其処には私もいる。
土井先生の件以降、学園に戻ってからこのように皆が集まり穏やかな日を送れるのは久しぶりだ。
蝋燭の火が照らされた室内。集まって最初の数刻は和気藹々と会話が弾むが、ある話題を境に空気が張り詰める。
「この間の土井先生の件、どう思った?」
仙蔵が切り出すと同時に皆がふむ…と考え込む。
「在学中に経験できた事はでかいな。」
「でも土井先生が無事に戻って良かったよ。」
「それはそうだが、改めて実力の違いを思い知らされたのも事実だ。」
「私はもっと強くならねばと思ったな!」
「激しく同意……もそっ」
仙蔵を筆頭に各々抱いていた思いを話し出す。
「名前はどうだ?」
『私?』
仙蔵からの問い掛けにうーんと、頭を傾げながら考える。
下手をすれば死人が出た。それだけ事は重大であり、最上級生にもなってあの実力の違いは圧倒的だった。
『確かに今まで様々な忍務をこなしてきたけど、今回みたいな件は初めてだったね。』
身じろぎせず胸の内を述べると、波打つように沈黙が室内を染める。
『何より味方が敵に、土井先生に命を狙われた事は衝撃だった。』
あの日皆、傷を負ったが致命傷になりかね無い傷を負ったのは事実だ。
特に肩を大きく斬られた小平太。
『喋りすぎね。』
「いや構わない。続けてくれ。」
仙蔵の言葉がやたら響き、他の六年生は黙っている。
静かな室内で続きを発するのも正直気が引けるが、自身の言葉に心を決め閉ざした口を開ける。
『私達は弱い。学園では最上級生だけど私達の実力は外の忍びより遥かに劣ると考えていい。』
黙って私の言葉に頷く仙蔵と伊作を視界の端に捉える。
今のこの場に歯に衣着せる言葉等は一切不要だろう。
だからあえて手厳しい言葉を選んで言わせてもらった。
『でも卒業したらもっと辛い経験や場面に対峙するわ。』
蝋燭の火が揺らぐ。その影が室内に大きく映りジジジっと蝋の雫が受け皿に流れ落ちる。
『私達は今以上に覚悟をもって強くならないといけない。』
発言を終えるとシン…っとなる室内。
仙蔵、文次郎、小平太、長次、伊作、留三郎と順に見渡すが誰も言葉を発しない様子に思わゆずゴクリと喉を鳴らしてしまう。
「はー、お前は厳しい事をいうな。」
「本当だ。だが確かにお前の言う通りだ。」
『仙蔵、文次郎。』
沈黙を破り、仙蔵と文次郎が体勢を崩し困ったように眉を顰めこちらを向くがようやく肩の荷を下ろせたような気分だ。
「名前が事実をはっきり言うものだから緊張しちゃったよ。」
「でもこの意見は俺らだけでは出なかったな。」
『伊作、留三郎…』
「確かに強くなるだけではだめだな!覚悟を持って戦う時のが必要だな!」
「小平太……覚悟はいいが戦うのは…………もそっ。」
『小平太、長次も。』
あえて厳しい言葉を選んだというのにこの人達は。
ふっと笑みを浮かべてしまう。
そうだ。あの時、土井先生と対峙した時の皆の顔付きは忍びだった。経験は足りないが皆の忍びとしての覚悟はあらわだった。しかし想定外の出来事に動揺してしまった。かくいう私も。
また命を狙われるという経験も私達の中では大きな糧になっただろう。
情報を伝えるとはいえ敵の追跡を撒き、逃げるのが忍者の第一だが時には戦いになる事も避けられない。
昔、私が奪われたように弱者は何も守る事ができない。強者しか生き残る事は許されない。誰もが心に秘めて生きるべきだ。でもこれは戦乱の世を生きる私達の使命だ。
『実際、私達が死んでも変わりはいる。』
「名前、怖い事を言わないで。」
『あら、でもこれは事実よ。一人、二人抜けても歯車が回るように忍務は続行される。』
「名前、お前死ぬ気なのか?」
『馬鹿、例えの話。』
「お前は時に何処かの忍びなのかと思う程大人びているな。」
「しかもあの土井先生とまともに戦ってたしな。」
『伊達に色々経験してるからね。』
仙蔵にVサインをしながら視線を向けるが留三郎がおもむろに立ち上がり私の隣に座り込む。
そうだ。あの件を知っているのは一緒に戦ってくれた留三郎だけだ。
彼がそっと私の背後から手を伸ばし腰を抱く。
「それはお前らがくっつくきっかけに関係しているのか。」
留三郎の行動に文次郎が眉をしかめながら疑問をぶつける。
「野暮だぞ、文次郎。」
『文次郎。』
「以前の野外実習の時、お前はいなくなった。何故だ。」
文次郎が言っているのは以前、城に忍び込んだ野外実習の件だ。
あの晩、忍び込んだ城に家族を討った敵が居た。あの晩の出来事は私の過去が関係している。
自身でケリをつけたが正直過去の事は余り話をしたくない。
過去をわざわざ掘り返すのも嫌だから。でもこの機会を逃すとこの先話せるかどうかなんて分からない。
『それは……』
「名前、無理はするな。」
留三郎が私の手を握りしめる。彼が手を握った事で気付いた。自身の手が震えていることに。過去を話す事で彼らに突き放されたらどうしよう。そんな不安が頭をよぎる。
『留三郎……』
「俺がいる。何があってもお前のそばを離れないから。」
彼の笑顔と温もりが私を包み込んでくれる。
そうだ。今は私一人じゃない。彼の存在が私を救ってくれる。
『……ならちょっと昔話をしましょうか。』
『以上が私の過去。』
自身が豪族の一族であり幼い頃、支配地域を広めるとはいえ力をつけていた盗賊に手当たり次第に金品を奪い取られたうえ父母が手にかけられた事、学園に入学するまでは自身で生き延び、学びを得た事。
全てを話し終えると沈黙が続く。
『貴方達がどう思っても構わない。』
正直この戦乱の世の中、戦で多くの命が奪われるのだから別に自身だけが特別とも思っていない。
戦によって引き起こされる飢饉に孤児、弱者が身を守るためには知識や力をつける事が必要だ。
そうしないと野垂れ死ぬ人間もいる。ただ私は運が良かった。
「…………お前はそんな事を一人で抱えていたのか。」
仙蔵が眉間に皺を寄せ唇を噛み締め、顔を歪める。事の発端の文次郎は目を開き口に手を充てている。
伊作に長次、小平太は表情を変えずにいるが拳を握りしめていた。
あぁ、皆んなのそんな顔を見たかったわけではないのに。
『えぇ、そうよ。』
「……先生方はこの事を分かっていたんだね。」
『伊作、それはどういう事?』
伊作が意味深な発言をする。どういう事だ。この話は先生方が外部の人に漏らす事はないはずだ。
でも伊作の発言は明らかに知っていたという口振りだ。
「名前。お前は知らないと思うが伊作は過去に先生方が医務室であの件を話していたのを偶然聞いてしまったんだ。」
"最近になり、過去にくのたまの一族を手にかけ各地方で盗賊紛いをしてきた者が勢力をつけ、城にまで付け入り地位を得た"と
伊作が知っていた事に驚きで目を見開く。
また先生達もどんな生徒が聞いているか分からない医務室でわざわざする話でもなかったろうに。
『伊作、嫌な事を聞いたでしょう。ごめんなさいね。』
「名前は悪くない!名前に非なんかある訳ない!!!」
伊作が珍しく身を乗り出し声を張り上げ、その目には涙を浮かべている。
伊作の反応に驚かされるが否定もせず私の身を案じてくれている様子に口元が緩んでしまう。
隣で私の手を握りしめてくれていた留三郎の力が緩まる。彼は私が話している時、強く握ってくれていた。
彼は眉を顰めていたが私が辛くないか心配しているような目を向けていた。
『文次郎。あの晩、私は自身の宿敵をようやく見つけたの。感情が制御出来なくて悪かったわ。』
そっと留三郎の手を離し文次郎の前に向かい合うように移動し、膝をつく。
あの晩奴の正体が分かった後、何も成し遂げる事ができなかったやるせない自身を抑える事ができず、負の感情に飲まれかけた。
城から戻った時、真っ先に掴み掛かってきた文次郎に感情を赴くままにぶつけた。今思えば感情に左右された自身が情けない。また時と場合が違ければ仲間の命を危険に晒していた。
不甲斐ない自身が許しを乞うためじゃない。自然に床に額をつける。
「…… 名前、頭を上げろ。」
正直、文次郎がどんな表情をしているか怖い。
文次郎の言葉を気に頭をゆっくり上げると文次郎は眉間に皺を寄せ罰が悪そうな表情をしている。
「俺はお前にそんな事を求めていない。だから謝罪などいらん。」
『文次郎……』
「俺も何も知らなかったとはいえ悪かった……」
あのいつも憎まれ口を叩く文次郎が私を思って声を掛けてくれている。
『いいのよ。私は気にしてないわ。』
「いやだいぶ気にするぞ、そこは。」
私と文次郎のやり取りに、頭の後ろで腕を組みながら口を尖らせる小平太の言動に思わずぶっ!と吹き出す。
『小平太、台無しだわ。』
「だって名前はようやく見つけた敵を逃したんだろう?そんな中、文次郎が突っかかってきたら私なら戦っているな。」
「小平太………余計な事をするな………もそっ。」
「さっきまでの空気はどこに行ったのやら。」
小平太と長次にやり取りに伊作が呆れ顔で目を細めているが胸の内を話せてつかえが取れている。
これで皆に隠し事は無くなったはず。
「だが名前、お前の敵はその後どうなった。」
仙蔵の鋭い質問が私を捉える。
奴は私が息の根を止めた。だがこの報告は余りにも酷だ。
「名前は一人でケリをつけた。あの晩、一緒にいた俺が証明する。」
留三郎が私を守るように立ち塞がり、仙蔵を見据える。
あの晩、留三郎も一緒に戦ってくれた。奴の所に行けと送り出してくれた。
彼も少なからず勘づいている筈だ、私がどう過去と決別したか。
『えぇ。もう終わらせた……』
「…………そうか。」
勘のいい仙蔵も分かったのだろう。私の言葉の真意を。
でも心残りがある事といえば関係ない留三郎を巻き込んだ事だ。私の過去と関係ない彼が隣にいるのは同情からなのではないかと思う時期もあった。だがそれは杞憂だった。彼は私の全てを受け入れてくれた。彼の包容力、器に魅了されたのも事実だ。
『でもあまり気のいい事ではないわね。』
留三郎に目を向け寄りかかる。黙って受け止めてくれる留三郎に心地良さを覚える。ようやく解放された。もう思い残す事はない。今ある温もりを大事にしたい。
「名前……話してくれてありがとう。」
仙蔵の真っ直ぐした温かい瞳が私を捉える。仙蔵の両手が私の手をとらえ包み込んだ。
「おい仙蔵。どさくさに紛れて何してる。」
留三郎が額と口を引きつけさせながら仙蔵を睨んでいる。
その目先は仙蔵に握られている私の手があった。咄嗟に手を離そうとするが仙蔵の手が緩まる事はなくむしろ留三郎に見せつけているようだ。
「なに、名前の過去に思わずな。」
「だったらもういいだろう。今すぐその手を離せ。」
「また話を聞くからな。」
『うん。でも今回で全部話せたからもう大丈夫かな。』
「本当か?もう抱え込むなよ。」
『……う、うん……あの仙蔵、留三郎がね……』
「仕方ないな。」
怒りの空気が漂う留三郎の雰囲気にタジタジになる私の手をようやく解放してくれた。
解放されたと思ったが次は留三郎が私の手を自身の手で拭いている。違う男に握られた手を必死に拭いている留三郎に思わず照れてしまう。
「あいつら、見せつけてくれるな。」
「仙蔵が悪いでしょ。」
「あいつらいちゃつきやがって。でもな、もし今後我々が主の命令で命を狙う事があったらどうする?」
「なっ!俺はそんなの無理だ!」
「留三郎は甘いな。」
「何だと文次郎!」
「はぁー、また始まったよ。」
喧嘩をし始めた留三郎と文次郎に伊作が溜め息を洩らす。
『そうね……。』
「俺は級友なんか手にかける事が出来ない。仮に敵になったとしてもだ。」
喧嘩していた筈の留三郎が戻ってきて座り込む。これが彼の甘い所だ。仲間に優しく、情を捨てる事が出来ない。
でも出来れば級友達と戦う事なんかしたくない。回避したいのが本音だ。
「なぁ、忍者は情報を持って逃げる事が先なんだろ?なら私達の誰かが出会っても戦わないで逃げたらいいのではないか?」
小平太の発言に皆が一斉に彼に顔を向ける。
「馬鹿かお前は。そんな甘っちょろい事ができる訳ないだろ。」
「待て、文次郎。確かに小平太の言う通り、手にかける事は第一ではない。」
情報を伝えるのが忍者の務め。確かに小平太の考えに一理ある。そもそも必要以上に血を流す事自体がいらないのだ。
『小平太の考えに一理あるわ。』
「お前もか。」
『あら、文次郎。貴方はそんなに内々同士で戦いたいの?』
「そうなのか?文次郎は気性が荒いな!」
「小平太、お前には言われたくねぇ!」
また揉め事が始まった。呆れ顔で小平太と文次郎に視線を向けるがそれでも止まぬ騒動に仲裁すら起こる気もない。
「僕も小平太の考えに賛成かな。あともし、その場に居合わせた事を想像するとお前達に無駄な治療を施す僕の身にもなってよ。」
伊作が放つ黒い空気に圧倒され重苦しい雰囲気が二人の喧嘩をピタッと止める。
伊作の背後に黒い空気が淀み、ニコリと微笑んでいる。
「「すみません…」」
「はい、ならこれでこの話は終わり!」
伊作の止めで今晩の集まりは解散になった。
でも学園を卒業したら嫌でもその時、皆はどう動くのだろう。
だが今考えても埒が明かない。
失うのが嫌なら強くなれ。時には例外もあるけど。