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未来の行く末は
「おーい、留三郎!」
「何だ伊作。」
「医務室で使っていた桶が壊れてしまったんだ。どうにか直せない?」
「いいぞ。ちょうど他の修補も終わった所だしな。」
用具倉庫で修補をしていたら伊作がやってきた。
今し方修補し終えたばかりの物を置いて伊作から桶を受け取る。
今日は用具委員会の活動ではないが破損した物の修補が溜まっていた為、一人で作業をしていた。
「すまないね。留三郎。」
「これぐらい構わん。他にもあったらついでに直すが?」
「いいのかい!なら持ってくるね。」
伊作に告げるという歩いてきた道を戻り、取りに行く。
「よし。」
幸いにも桶は底の板が抜けかけていた。これぐらいなら簡単に終わる。金槌で底の板を整えて金具部分を工具で調整すればすぐに出来上がった。
「留三郎ー、ごめん少し多いけど…うわぁ!」
目の前には伊作が溜まっていたであろう壊れた物を持って歩いてきた。そのまま用具倉庫に入り込んでくる。
此処までは良かったが次の瞬間俺は目を見開いてしまった。
ガタガタッ!バキバキッ!ガシャーンッ!!!
「おい!伊作!大丈夫か!」
激しい音を立てながらいきなり用具倉庫の天井の一部が土煙をたてながら抜け落ちたのだ。
しかも伊作の上に。
大きな音が用具倉庫に響き渡り、埃を立てながら煙が舞っていく。咄嗟に袖で口元を覆うが伊作の姿が見えない。
「ゲホッ!ケホッ!留三郎〜なんとか…無事みたい…」
「伊作!ゴホッ!」
「いててっ…ゲホッ!」
急いで駆け寄ると本来一人の影の筈が二人、そこには伊作と身に覚えのない男がおり土煙が立ち込める中で咳き込んでいる。もしやこの男侵入者か。
「なっ!ゴホッ、お前は誰だ!」
男は黒い忍装束を身に付け、結っている髷は肩まであり俺を余裕で超える程の背丈に体格の良い男だ。咄嗟に持っていた鉄双接棍を構える。
作業をしていたとはいえ天井裏にまさか忍びがいたとは。
「お前!いつから忍び込んでいた!」
「ケホッ……んっ?」
男は咳き込んだのをやめたと思うと俺の顔をまじまじと見てくる。こいつ侵入者の癖に堂々としてやがる。
すると男はガバッといきなり立ち上がり俺の肩に掴みかかってきた。
この男やる気か。掴まれた肩を揺さぶられるが男は俺に満面な笑みを向けてきた。
「懐かしいな!俺はこんなに血気盛んだったのか!」
「なっ……お前、何者だ!」
「そう怒るな!しかしこの声は。」
「はっ!そうだ伊作!!!」
「うーん……一体、何が…起こったの……うっ。」
「うわっ!伊作!」
「これも相変わらずか。」
完全に気絶した伊作に駆け寄ると男はケラケラと笑っていた。
「んで、何だこの男は!」
「侵入者か!それとも曲者か!?」
「静かにしろ。伊作が起きてしまうだろう。」
あれから男が伊作を軽々と担ぎ上げ、医務室に運ぼうとしたがこんな所を下級生のいる医務室に運べる訳がない。もし見つかってしまったら大騒ぎだ。
咄嗟に男を止め、俺と伊作の部屋に誘導するが男は迷いもなく歩みを進めていた。
ただならぬ気配を感じ取ったのか文次郎や小平太達が俺達の部屋に集まる。
だが皆正体不明な男に警戒を持つと同時にまじまじと男に視線が集まる。
「……お前。」
声を発したのは仙蔵だ。仙蔵は自ら燃える戦国作法と言う程の作法委員会委員長だ。仙蔵の鋭い観察眼が男に違和感を覚えたのだろう。
「何も言わないでくれよ、仙蔵。」
「……何故私の名前を貴様が知っている?」
「そんなの気にする事ではないだろう。」
仙蔵の鋭い視線が男を射抜くが男は簡単にあしらっている。
この男の余裕な態度と仙蔵とのやり取りが不思議で堪らない。
「いいや、私達はお前を知る必要がある。例え貴様が何処から来た忍びであっても、現に馴々しく名を呼ぶ事自体が可笑しい事なのだ。」
仙蔵の言葉を聞きふと思い当たる節がある。こいつは医務室や俺らの長屋の場所なんか知らない筈だ。しかしあたかもその足取りは既に知っていると言わん計りの歩みの進め方だった。
気を失っている伊作を目の前に男はそんな俺達をものともせず壁に寄り掛かり笑っている。
「そんなに気になるか?」
静かになった部屋に男の低い声が響き渡る。
「あぁ。お前は俺達の事やこの学園を知っているような口振りだった。」
「ほぉ。」
「お前は何者だ?」
自身で問いかけた質問に黙り込む男にごくりと喉が鳴る。
「俺はお前だよ。食満留三郎。」
男が口元に笑みを浮かべながら答える。男の思わぬ答えに口が開いてしまう。
この男ふざけているのか。冗談にもほどがある。
いくら男が一人だからといって複数の俺らを相手にするのは至難な筈。こいつ苦し紛れの言い訳か。
「てめぇ、ふざけているのか。」
俺の返答に男が目を丸くする。この反応まさか本当だというのか。いやだがそんなの嘘に決まっている。それは紛れもない俺自身が此処にいるからだ。
男の返答に額に筋が立とうとすると肩に誰かの手が置かれた。
「待て、留三郎。」
「仙蔵、お前まさかこの男の言葉を信じるのか?」
「そういう訳ではない。だが……」
黙り込む仙蔵に正直イライラしてしまう。勿体ぶってないではっきり言ったらどうなんだ。
「お前達二人共その………そっくり…なんだ。」
「はぁ!?何だそれは!」
仙蔵の気まずそうな様子と衝撃的な言葉に振り向くと仙蔵の目が細い。
だが反応からにして冗談を言っている様子でも無さそうだ。
途中小平太と文次郎も口を挟む。
「確かにその目付きと顔、留三郎に似ている。」
「変装とかではないのか?」
「それなら今の留三郎と全く同じに変装するだろう。というよりこれは。」
「何か……留三郎が大人になった姿………に近いのでは…もそっ。」
「でもそんな非現実的な事はあり得ないよ。」
「伊作の言う通りだ。そもそもどうやって大人の俺がやってきたんだ。」
伊作も目を覚まし、皆が口々に述べると最大点の疑問が生じる。
男も想定していた事なのか、やれやれとした表情を見せる。
「それは俺も分からない。」
「はぁ?」
「忍務中だ。いきなり視界が暗くなったと思ったら急に浮遊感があって、着地したと思ったら用具倉庫の天井だったって事だ。」
「そんな話、簡単に信じられる訳ないだろう。」
「だがこれが事実だ。」
「お前が留三郎だという証拠はあるのか?」
「うーん…伊作、今日はいつだ?」
「えっ、」
文次郎の言葉に大人の俺が考え込むが伊作に問いかけ、男の質問に答える伊作。何を考えているのだろう。
「時系列は分かった。なら聞いてみてくれ。その質問に答えられたら俺が本物と認めてくれるか?」
「自信があるという事だな。」
「そう捉えてくれても構わない。」
「なら俺から聞く。お前の好きなのはなんだ。」
「戦う事だな。」
「兄弟は何人だ?」
「兄が二人、俺が三男坊だ。」
以降も様々な事を聞くが全て当たっている。これだけ答えられたら本当に奴は俺自身なのか。
だが次の問いは学園の者しか知らない筈。学園内の生徒が漏らさない限り分からない事だ。
答える事ができるか。
「……俺の女は誰だ。」
「………女だと?」
一つの質問を皮切りに男の纏う空気が一変する。まさにそれは聞いてはいけない事を聞いてしまったような変わりようだ。思わずその場にいた俺だけでなく他の六年生達も身構える程だ。一筋の汗が額を伝う。だがその雰囲気は一瞬で変貌した。
「それは名前に決まっているだろう!」
男の顔が破顔し今まで見た事ないくらい顔が緩んでいる。
あまりの変わりように仮にも未来の自身であっても引いてしまった。
伊作に仙蔵と文次郎なんか後退りしているではないか。長次と小平太は懐に手を入れる程だ。
奴はそんな俺達の事を気にせず、満面な笑みを向け食い気味に向かってくる。
「名前は元気か!あの頃の俺は名前の事が好きで好きで堪らなくてな!どれだけ自分の物にしたかったか。いやーこれがまたできたんだけどな!」
男は聞いてない事をペラペラと話し出す。発言を聞いて思わず自身の顔が赤くなる。こいつの言うあの頃というのは俺にとって現在であり、簡単に身の内を話しされたら敵わない。
「おい!もう喋るな!」
「あっ、すまんすまん。喋りすぎた。」
食い気味に未来の俺に怒鳴ってしまう。これ以上余計な事を喋らないでくれ。
「はぁ、未来の留三郎と言われて納得だな。」
「そうだね。ここまであってたら認めざるを得ないよね。」
「留三郎、認めていいな。」
「「おぉ。」」
「………そうだな、二人いたな。」
騒動に一息ついた時、長屋の外から気配がし声が聞こえる。
『盛り上がっている所ごめんなさい。』
「この声は名前だな。」
「どうしたんだ?」
『ちょっとくノ一教室の設備の事で留三郎に相談があって。入ってもいい?』
やばい。今この状況で入られてしまったら大変な事になる。肝心な未来の俺は目を輝かせて今にも飛びつきそうなぐらいウズウズしている。
仙蔵、文次郎、小平太、長次、伊作を見ると皆、首を横に振っている。珍しく意見が合うがそんなばやいではない。
「名前、ちょっと外で待っててくれないか?」
『タイミングが悪いのね。分かった。』
襖越しに留三郎の返事が聞こえたが珍しく歯切れの悪い返答だ。六年生全員で集まっている程だから重要な話なのだろう。漏れ出る雰囲気に只事ではない事を理解する。別に急ぎではないし仕方ない。
『また出直すね。』
「その必要はない!」
『えっ、キャッ!』
「あの馬鹿!」
スパァァッンと勢いよく襖が開いたと思うと未来の俺が名前に突進する勢いで抱きつき、抱えたまま着地する。しかし勢いはあるものの名前を跳ね飛ばさないように優しく抱擁する。抱きついたかと思うと名前を優しく撫で、愛おしく見つめている。
「名前!」
『誰……』
「そんな怖い目をするな。名前」
『今すぐこの手を離しなさ……』
名前の表情は冷たい。敵に向ける時の目だ。だが名前も気づいたのか言葉が止まる。
しまった。学園内というのもあり気を許していた為かやすやすと捕まってしまった。
しかしこの黒い忍装束の男、肩幅が広く胸板が厚い。まるで石壁を相手にしているようだ。懐に隠していた苦無にそっと手を伸ばすが男の顔付きに見覚えがある。しかもこの声。
「俺が誰だか分かるか?」
『……えっ?』
「あーあ…バレちゃったよ。」
『………これはどういう事?』
「仕方ない。説明するか。」
「だな。」
『つまりこの人は未来からきた留三郎って事……』
「そういう事だ。」
「名前はさすがものわかりがいいな。」
奴はそういいながら名前の隣を離れない。寧ろ名前の腰に手を回している。肝心の名前は気まずそうにこちらを見ているが目の前の光景に、自身の未来の姿であっても怒りが込み上げてくる。
『と、留三郎この腕は…』
「あぁ、すまん。だがなこの頃の名前も堪らないな。」
「あの野郎……」
「と、留三郎……仮にも未来の君自身だよ。」
未来の俺の腕が名前の腰から離れ、顎に手を添えるが俺達は何を見せつけられているのか。握っている拳が震えるが仮にも俺自身だ。そんな俺に気付いた伊作が俺を宥める。
「これ以上、名前に手を出すんじゃねぇ!」
「なら止めたらいいだろう。」
「上等だ!」
「二人ともやめなよ!」
「ふむ……未来の留三郎は大人だな。」
「あのなぁ、大人なんだから落ち着いてるのは当たり前だろう。」
「にしてもあの体格……もそっ……」
「私もあんな風になりたいぞ!」
自分達とは違う成長した背丈に体格の良さ、筋骨隆々の身体をまじまじと見つめる。俺も私もいつかはと仙蔵、文次郎、長次、小平太が思想を浮かべる時は二人は外に出ていた。
「おーい、留三郎!」
「何だ伊作。」
「医務室で使っていた桶が壊れてしまったんだ。どうにか直せない?」
「いいぞ。ちょうど他の修補も終わった所だしな。」
用具倉庫で修補をしていたら伊作がやってきた。
今し方修補し終えたばかりの物を置いて伊作から桶を受け取る。
今日は用具委員会の活動ではないが破損した物の修補が溜まっていた為、一人で作業をしていた。
「すまないね。留三郎。」
「これぐらい構わん。他にもあったらついでに直すが?」
「いいのかい!なら持ってくるね。」
伊作に告げるという歩いてきた道を戻り、取りに行く。
「よし。」
幸いにも桶は底の板が抜けかけていた。これぐらいなら簡単に終わる。金槌で底の板を整えて金具部分を工具で調整すればすぐに出来上がった。
「留三郎ー、ごめん少し多いけど…うわぁ!」
目の前には伊作が溜まっていたであろう壊れた物を持って歩いてきた。そのまま用具倉庫に入り込んでくる。
此処までは良かったが次の瞬間俺は目を見開いてしまった。
ガタガタッ!バキバキッ!ガシャーンッ!!!
「おい!伊作!大丈夫か!」
激しい音を立てながらいきなり用具倉庫の天井の一部が土煙をたてながら抜け落ちたのだ。
しかも伊作の上に。
大きな音が用具倉庫に響き渡り、埃を立てながら煙が舞っていく。咄嗟に袖で口元を覆うが伊作の姿が見えない。
「ゲホッ!ケホッ!留三郎〜なんとか…無事みたい…」
「伊作!ゴホッ!」
「いててっ…ゲホッ!」
急いで駆け寄ると本来一人の影の筈が二人、そこには伊作と身に覚えのない男がおり土煙が立ち込める中で咳き込んでいる。もしやこの男侵入者か。
「なっ!ゴホッ、お前は誰だ!」
男は黒い忍装束を身に付け、結っている髷は肩まであり俺を余裕で超える程の背丈に体格の良い男だ。咄嗟に持っていた鉄双接棍を構える。
作業をしていたとはいえ天井裏にまさか忍びがいたとは。
「お前!いつから忍び込んでいた!」
「ケホッ……んっ?」
男は咳き込んだのをやめたと思うと俺の顔をまじまじと見てくる。こいつ侵入者の癖に堂々としてやがる。
すると男はガバッといきなり立ち上がり俺の肩に掴みかかってきた。
この男やる気か。掴まれた肩を揺さぶられるが男は俺に満面な笑みを向けてきた。
「懐かしいな!俺はこんなに血気盛んだったのか!」
「なっ……お前、何者だ!」
「そう怒るな!しかしこの声は。」
「はっ!そうだ伊作!!!」
「うーん……一体、何が…起こったの……うっ。」
「うわっ!伊作!」
「これも相変わらずか。」
完全に気絶した伊作に駆け寄ると男はケラケラと笑っていた。
「んで、何だこの男は!」
「侵入者か!それとも曲者か!?」
「静かにしろ。伊作が起きてしまうだろう。」
あれから男が伊作を軽々と担ぎ上げ、医務室に運ぼうとしたがこんな所を下級生のいる医務室に運べる訳がない。もし見つかってしまったら大騒ぎだ。
咄嗟に男を止め、俺と伊作の部屋に誘導するが男は迷いもなく歩みを進めていた。
ただならぬ気配を感じ取ったのか文次郎や小平太達が俺達の部屋に集まる。
だが皆正体不明な男に警戒を持つと同時にまじまじと男に視線が集まる。
「……お前。」
声を発したのは仙蔵だ。仙蔵は自ら燃える戦国作法と言う程の作法委員会委員長だ。仙蔵の鋭い観察眼が男に違和感を覚えたのだろう。
「何も言わないでくれよ、仙蔵。」
「……何故私の名前を貴様が知っている?」
「そんなの気にする事ではないだろう。」
仙蔵の鋭い視線が男を射抜くが男は簡単にあしらっている。
この男の余裕な態度と仙蔵とのやり取りが不思議で堪らない。
「いいや、私達はお前を知る必要がある。例え貴様が何処から来た忍びであっても、現に馴々しく名を呼ぶ事自体が可笑しい事なのだ。」
仙蔵の言葉を聞きふと思い当たる節がある。こいつは医務室や俺らの長屋の場所なんか知らない筈だ。しかしあたかもその足取りは既に知っていると言わん計りの歩みの進め方だった。
気を失っている伊作を目の前に男はそんな俺達をものともせず壁に寄り掛かり笑っている。
「そんなに気になるか?」
静かになった部屋に男の低い声が響き渡る。
「あぁ。お前は俺達の事やこの学園を知っているような口振りだった。」
「ほぉ。」
「お前は何者だ?」
自身で問いかけた質問に黙り込む男にごくりと喉が鳴る。
「俺はお前だよ。食満留三郎。」
男が口元に笑みを浮かべながら答える。男の思わぬ答えに口が開いてしまう。
この男ふざけているのか。冗談にもほどがある。
いくら男が一人だからといって複数の俺らを相手にするのは至難な筈。こいつ苦し紛れの言い訳か。
「てめぇ、ふざけているのか。」
俺の返答に男が目を丸くする。この反応まさか本当だというのか。いやだがそんなの嘘に決まっている。それは紛れもない俺自身が此処にいるからだ。
男の返答に額に筋が立とうとすると肩に誰かの手が置かれた。
「待て、留三郎。」
「仙蔵、お前まさかこの男の言葉を信じるのか?」
「そういう訳ではない。だが……」
黙り込む仙蔵に正直イライラしてしまう。勿体ぶってないではっきり言ったらどうなんだ。
「お前達二人共その………そっくり…なんだ。」
「はぁ!?何だそれは!」
仙蔵の気まずそうな様子と衝撃的な言葉に振り向くと仙蔵の目が細い。
だが反応からにして冗談を言っている様子でも無さそうだ。
途中小平太と文次郎も口を挟む。
「確かにその目付きと顔、留三郎に似ている。」
「変装とかではないのか?」
「それなら今の留三郎と全く同じに変装するだろう。というよりこれは。」
「何か……留三郎が大人になった姿………に近いのでは…もそっ。」
「でもそんな非現実的な事はあり得ないよ。」
「伊作の言う通りだ。そもそもどうやって大人の俺がやってきたんだ。」
伊作も目を覚まし、皆が口々に述べると最大点の疑問が生じる。
男も想定していた事なのか、やれやれとした表情を見せる。
「それは俺も分からない。」
「はぁ?」
「忍務中だ。いきなり視界が暗くなったと思ったら急に浮遊感があって、着地したと思ったら用具倉庫の天井だったって事だ。」
「そんな話、簡単に信じられる訳ないだろう。」
「だがこれが事実だ。」
「お前が留三郎だという証拠はあるのか?」
「うーん…伊作、今日はいつだ?」
「えっ、」
文次郎の言葉に大人の俺が考え込むが伊作に問いかけ、男の質問に答える伊作。何を考えているのだろう。
「時系列は分かった。なら聞いてみてくれ。その質問に答えられたら俺が本物と認めてくれるか?」
「自信があるという事だな。」
「そう捉えてくれても構わない。」
「なら俺から聞く。お前の好きなのはなんだ。」
「戦う事だな。」
「兄弟は何人だ?」
「兄が二人、俺が三男坊だ。」
以降も様々な事を聞くが全て当たっている。これだけ答えられたら本当に奴は俺自身なのか。
だが次の問いは学園の者しか知らない筈。学園内の生徒が漏らさない限り分からない事だ。
答える事ができるか。
「……俺の女は誰だ。」
「………女だと?」
一つの質問を皮切りに男の纏う空気が一変する。まさにそれは聞いてはいけない事を聞いてしまったような変わりようだ。思わずその場にいた俺だけでなく他の六年生達も身構える程だ。一筋の汗が額を伝う。だがその雰囲気は一瞬で変貌した。
「それは名前に決まっているだろう!」
男の顔が破顔し今まで見た事ないくらい顔が緩んでいる。
あまりの変わりように仮にも未来の自身であっても引いてしまった。
伊作に仙蔵と文次郎なんか後退りしているではないか。長次と小平太は懐に手を入れる程だ。
奴はそんな俺達の事を気にせず、満面な笑みを向け食い気味に向かってくる。
「名前は元気か!あの頃の俺は名前の事が好きで好きで堪らなくてな!どれだけ自分の物にしたかったか。いやーこれがまたできたんだけどな!」
男は聞いてない事をペラペラと話し出す。発言を聞いて思わず自身の顔が赤くなる。こいつの言うあの頃というのは俺にとって現在であり、簡単に身の内を話しされたら敵わない。
「おい!もう喋るな!」
「あっ、すまんすまん。喋りすぎた。」
食い気味に未来の俺に怒鳴ってしまう。これ以上余計な事を喋らないでくれ。
「はぁ、未来の留三郎と言われて納得だな。」
「そうだね。ここまであってたら認めざるを得ないよね。」
「留三郎、認めていいな。」
「「おぉ。」」
「………そうだな、二人いたな。」
騒動に一息ついた時、長屋の外から気配がし声が聞こえる。
『盛り上がっている所ごめんなさい。』
「この声は名前だな。」
「どうしたんだ?」
『ちょっとくノ一教室の設備の事で留三郎に相談があって。入ってもいい?』
やばい。今この状況で入られてしまったら大変な事になる。肝心な未来の俺は目を輝かせて今にも飛びつきそうなぐらいウズウズしている。
仙蔵、文次郎、小平太、長次、伊作を見ると皆、首を横に振っている。珍しく意見が合うがそんなばやいではない。
「名前、ちょっと外で待っててくれないか?」
『タイミングが悪いのね。分かった。』
襖越しに留三郎の返事が聞こえたが珍しく歯切れの悪い返答だ。六年生全員で集まっている程だから重要な話なのだろう。漏れ出る雰囲気に只事ではない事を理解する。別に急ぎではないし仕方ない。
『また出直すね。』
「その必要はない!」
『えっ、キャッ!』
「あの馬鹿!」
スパァァッンと勢いよく襖が開いたと思うと未来の俺が名前に突進する勢いで抱きつき、抱えたまま着地する。しかし勢いはあるものの名前を跳ね飛ばさないように優しく抱擁する。抱きついたかと思うと名前を優しく撫で、愛おしく見つめている。
「名前!」
『誰……』
「そんな怖い目をするな。名前」
『今すぐこの手を離しなさ……』
名前の表情は冷たい。敵に向ける時の目だ。だが名前も気づいたのか言葉が止まる。
しまった。学園内というのもあり気を許していた為かやすやすと捕まってしまった。
しかしこの黒い忍装束の男、肩幅が広く胸板が厚い。まるで石壁を相手にしているようだ。懐に隠していた苦無にそっと手を伸ばすが男の顔付きに見覚えがある。しかもこの声。
「俺が誰だか分かるか?」
『……えっ?』
「あーあ…バレちゃったよ。」
『………これはどういう事?』
「仕方ない。説明するか。」
「だな。」
『つまりこの人は未来からきた留三郎って事……』
「そういう事だ。」
「名前はさすがものわかりがいいな。」
奴はそういいながら名前の隣を離れない。寧ろ名前の腰に手を回している。肝心の名前は気まずそうにこちらを見ているが目の前の光景に、自身の未来の姿であっても怒りが込み上げてくる。
『と、留三郎この腕は…』
「あぁ、すまん。だがなこの頃の名前も堪らないな。」
「あの野郎……」
「と、留三郎……仮にも未来の君自身だよ。」
未来の俺の腕が名前の腰から離れ、顎に手を添えるが俺達は何を見せつけられているのか。握っている拳が震えるが仮にも俺自身だ。そんな俺に気付いた伊作が俺を宥める。
「これ以上、名前に手を出すんじゃねぇ!」
「なら止めたらいいだろう。」
「上等だ!」
「二人ともやめなよ!」
「ふむ……未来の留三郎は大人だな。」
「あのなぁ、大人なんだから落ち着いてるのは当たり前だろう。」
「にしてもあの体格……もそっ……」
「私もあんな風になりたいぞ!」
自分達とは違う成長した背丈に体格の良さ、筋骨隆々の身体をまじまじと見つめる。俺も私もいつかはと仙蔵、文次郎、長次、小平太が思想を浮かべる時は二人は外に出ていた。