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鍛錬
『くっ…………。』
目の前の景色が逆さになっている。雑念を払い精神を統一し、各動作を意識する。
腕を曲げ、自重を利用し勢いをつけ地面を押し上げ、身体を反転し立ち上がる。
汗が額から瞼に流れ、粒のようにぶら下がり地面に落ちる。
今日は裏々々山で鍛錬を行っている。
学園から遠ざかっているこの場所は非常に都合の良い鍛錬場所だ。獣道しか存在せず、人が介入した場所がない。自身の背丈を余裕に超える高さの樫の樹がこちらを見下ろすように立ち、山の中に入り込む日差しが茂った木の葉の間から差している。
風が葉を揺れ動かし、樹々の緑が黒ずんで見える。
鍛錬で自身の精神と肉体に軸をつくる。この軸がぶれてしまうと戦闘などで全力を出せない。
いついかなる時でも全力を出せるようにできるのが戦いでの基本だ。
この戦乱の世では大いなる才人が存在するのは心技体まさに運すらも味方につける戦歴の高い者達だ。
そんな猛者達が既に身近に存在している。
『ふぅ…………。』
「励んでいるね。」
『………雑渡さん?』
纏まりつく髪を振り払い、額に流れた汗を手甲で拭っていると束の間の拍子に雑渡さんが現れる。
いつからそこに。気配を超えて見える領分まで出てくるのに気付けなかった。
完全に気配を消していたのか、気配を察知する事が出来なかった。
これがプロ忍者。その中でもタソガレドキ忍軍百人集団の頂点に立つ組頭である雑渡さん。
「気配、探れなかったでしょ。」
『……はい。』
私の言葉に口布の下でにんまりと口角を上げる雑渡さん。
完全に手の内だと思うと嫌な気分だ。
「名前ちゃん。」
『………なんでしょうか。』
雑渡さんは私の事を知っている。昔、私が豪族出身だった事も。
何度か忍術学園に怪我の手当で伊作が雑渡さんを引き入れていた時から雑渡さんとは顔見知りだった。
聞いても忍者の情報を甘くみてはいけないと言われるのが想像つく。
どうせ学園関連から漏れ出たのだろう。過去の事だ。
もはや私の命が脅かされないのならどうでもいいと開き直っていた。
「稽古をつけよう。」
『えっ……?』
「遅い。」
『くっ!』
「甘い。左脇が空いている。」
『ぐっ!』
「次は右だ。」
木製の棒だが雑渡さんの突きや打ちは空気を裂き、打けた衝撃も全身に響く。
そこら辺で調達した棒でも雑渡さんにとっては立派な武器になる。
実際雑渡さんの容赦ない打ち込みに防御で精一杯になり、攻撃の隙が中々作れない。
乱れた自身の息がやたら全身に広がる。流血まではないが身体中が傷だらけだ。
「敵の武器には毒が塗られていると思え。」
『っ……』
「受ければ死だ。」
受けた突きを払いのけ、後ろへ回転し距離を取る。
乱れた息を整え、大きく息を吸う。額に汗が伝い汗で濡れた髪を拭う。
私を見据える雑渡さんの右目の眼光が鋭く光る。その姿は私に立ちはだかる最大の猛者だ。
雑渡さんの隙を探す為、深く目を閉じ意識を集中させる。
木刀や棒による訓練は手の内の錬成や背筋、下肢の鍛錬、呼吸法の錬成に向いている。名前に足りていないのはそこだ。だがくノ一は主に情報収集や情報操作、敵の内部に潜入し情報を収集する陽忍として用いられる為そもそも戦忍に向いてない。
しかしこの子は戦闘の筋がいい。主に潜入させ内部が油断した所で武力まで併せ持っていたならば敵は意表をつかれるだろう。
この子は鍛えれば鍛える程伸びる。我ら忍者隊の部下達など遥かに上回るだろう。
忍たまは可能性などと思っていたがまさかこんな子が存在していたとは侮っていた。
今後の期待に珍しく心中で笑う。
彼女を見据えていると気配が変わった。視線の先の彼女を目を細め見据えると、背中を撫でる空気の正体を見極める。すぅっと細目がちにこちらを見る彼女。
正体はこれか。
だが彼女を覆っていた先程の乱れた空気はかき消えている。経験の賜物だろう。
静止した状態から地面に踏み込み、前触れもなく体重をのせて間合いを詰めてきた。
振りかぶってくる棒を受け止め薙ぎ払うが彼女の攻撃の手が休まらない。激しい打ち込みだが体力がどこまで続くか。だがキレがあり先程より無駄な動きがなくなった。
緩急の差がつき静から動への動作移行の振り幅が広く威力もある。そこら辺のプロ忍者なんか圧倒できる力だ。
「ほぉ…」
チリっと彼女の棒が私の装束に触れる。
自らここまでの高みまで来れるとは。育て甲斐のある子だ。
「いい腕だ。だが……」
『なっ…………ぐっ!!!』
雑渡さんが視界から消えると、背後から打ち払われ勢いよく地面に叩きつけられた。受け身をとった事で大事に至らずに済んだが衝撃が全身に響く。
もう少しだったのに。
『はぁ……………残念です。』
「もう少しだったね。」
『嘘ですね。』
「ふふっ。」
そんな私をみて小さく笑う雑渡さん。
意図も容易く自身が扱う木棒を風を切るように回している。
一刻も無駄がなく俊敏でしなやかな身のこなしだ。
私がここまで追いつけるにはどれくらいの年月が必要なのだろう。
私より一回り以上も離れている雑渡さん。まだまだ私の腕では通用しない。この現実にふぅと息を吐く。
この子がくノ一でなければ出会わなかっただろう。非常に欲しいと思わせる子だ。
「今日はここまでだ。」
足を横にして座り込んでいた雑渡さんが立ち上がる。
忍者隊の組頭だ。忙しい身の筈なのに稽古に付き合ってもらえただなんて非常にありがたい事であり、自身に課題が出来た。
『雑渡さん。』
私の呼びかけに後ろを振り向く雑渡さん。
地面に拳、膝をつき頭を下げる。
『ありがとうございました。』
私の様子に一瞬止まる雑渡さんだがすぐいつもの表情に戻り、背中を向け手を振る。
「今度は鉄製の棒を使用しなさい。」
そう言い残し姿を消す。
雑渡さんを見届けた後、力が抜け冷たく敷き詰めている葉の上に寝転がる。
木の葉と葉の間から見える空の青さが目に染みる。
そんな空に手を伸ばし額を覆う。
『ああ……。』
今日はなんだか非常に疲れた。
_________________________
(あ、組頭!どこに行っていたのですか!)
(野暮用でちょっと)
(また尊奈門が土井先生に挑みました)
(小頭!それは言わない約束で!)
(ふぅ、お前はまだまだな)
(名前!何なのこの傷は!)
(鍛錬鍛錬。)
(誰かと取っ組み合いしたでしよ!)
『くっ…………。』
目の前の景色が逆さになっている。雑念を払い精神を統一し、各動作を意識する。
腕を曲げ、自重を利用し勢いをつけ地面を押し上げ、身体を反転し立ち上がる。
汗が額から瞼に流れ、粒のようにぶら下がり地面に落ちる。
今日は裏々々山で鍛錬を行っている。
学園から遠ざかっているこの場所は非常に都合の良い鍛錬場所だ。獣道しか存在せず、人が介入した場所がない。自身の背丈を余裕に超える高さの樫の樹がこちらを見下ろすように立ち、山の中に入り込む日差しが茂った木の葉の間から差している。
風が葉を揺れ動かし、樹々の緑が黒ずんで見える。
鍛錬で自身の精神と肉体に軸をつくる。この軸がぶれてしまうと戦闘などで全力を出せない。
いついかなる時でも全力を出せるようにできるのが戦いでの基本だ。
この戦乱の世では大いなる才人が存在するのは心技体まさに運すらも味方につける戦歴の高い者達だ。
そんな猛者達が既に身近に存在している。
『ふぅ…………。』
「励んでいるね。」
『………雑渡さん?』
纏まりつく髪を振り払い、額に流れた汗を手甲で拭っていると束の間の拍子に雑渡さんが現れる。
いつからそこに。気配を超えて見える領分まで出てくるのに気付けなかった。
完全に気配を消していたのか、気配を察知する事が出来なかった。
これがプロ忍者。その中でもタソガレドキ忍軍百人集団の頂点に立つ組頭である雑渡さん。
「気配、探れなかったでしょ。」
『……はい。』
私の言葉に口布の下でにんまりと口角を上げる雑渡さん。
完全に手の内だと思うと嫌な気分だ。
「名前ちゃん。」
『………なんでしょうか。』
雑渡さんは私の事を知っている。昔、私が豪族出身だった事も。
何度か忍術学園に怪我の手当で伊作が雑渡さんを引き入れていた時から雑渡さんとは顔見知りだった。
聞いても忍者の情報を甘くみてはいけないと言われるのが想像つく。
どうせ学園関連から漏れ出たのだろう。過去の事だ。
もはや私の命が脅かされないのならどうでもいいと開き直っていた。
「稽古をつけよう。」
『えっ……?』
「遅い。」
『くっ!』
「甘い。左脇が空いている。」
『ぐっ!』
「次は右だ。」
木製の棒だが雑渡さんの突きや打ちは空気を裂き、打けた衝撃も全身に響く。
そこら辺で調達した棒でも雑渡さんにとっては立派な武器になる。
実際雑渡さんの容赦ない打ち込みに防御で精一杯になり、攻撃の隙が中々作れない。
乱れた自身の息がやたら全身に広がる。流血まではないが身体中が傷だらけだ。
「敵の武器には毒が塗られていると思え。」
『っ……』
「受ければ死だ。」
受けた突きを払いのけ、後ろへ回転し距離を取る。
乱れた息を整え、大きく息を吸う。額に汗が伝い汗で濡れた髪を拭う。
私を見据える雑渡さんの右目の眼光が鋭く光る。その姿は私に立ちはだかる最大の猛者だ。
雑渡さんの隙を探す為、深く目を閉じ意識を集中させる。
木刀や棒による訓練は手の内の錬成や背筋、下肢の鍛錬、呼吸法の錬成に向いている。名前に足りていないのはそこだ。だがくノ一は主に情報収集や情報操作、敵の内部に潜入し情報を収集する陽忍として用いられる為そもそも戦忍に向いてない。
しかしこの子は戦闘の筋がいい。主に潜入させ内部が油断した所で武力まで併せ持っていたならば敵は意表をつかれるだろう。
この子は鍛えれば鍛える程伸びる。我ら忍者隊の部下達など遥かに上回るだろう。
忍たまは可能性などと思っていたがまさかこんな子が存在していたとは侮っていた。
今後の期待に珍しく心中で笑う。
彼女を見据えていると気配が変わった。視線の先の彼女を目を細め見据えると、背中を撫でる空気の正体を見極める。すぅっと細目がちにこちらを見る彼女。
正体はこれか。
だが彼女を覆っていた先程の乱れた空気はかき消えている。経験の賜物だろう。
静止した状態から地面に踏み込み、前触れもなく体重をのせて間合いを詰めてきた。
振りかぶってくる棒を受け止め薙ぎ払うが彼女の攻撃の手が休まらない。激しい打ち込みだが体力がどこまで続くか。だがキレがあり先程より無駄な動きがなくなった。
緩急の差がつき静から動への動作移行の振り幅が広く威力もある。そこら辺のプロ忍者なんか圧倒できる力だ。
「ほぉ…」
チリっと彼女の棒が私の装束に触れる。
自らここまでの高みまで来れるとは。育て甲斐のある子だ。
「いい腕だ。だが……」
『なっ…………ぐっ!!!』
雑渡さんが視界から消えると、背後から打ち払われ勢いよく地面に叩きつけられた。受け身をとった事で大事に至らずに済んだが衝撃が全身に響く。
もう少しだったのに。
『はぁ……………残念です。』
「もう少しだったね。」
『嘘ですね。』
「ふふっ。」
そんな私をみて小さく笑う雑渡さん。
意図も容易く自身が扱う木棒を風を切るように回している。
一刻も無駄がなく俊敏でしなやかな身のこなしだ。
私がここまで追いつけるにはどれくらいの年月が必要なのだろう。
私より一回り以上も離れている雑渡さん。まだまだ私の腕では通用しない。この現実にふぅと息を吐く。
この子がくノ一でなければ出会わなかっただろう。非常に欲しいと思わせる子だ。
「今日はここまでだ。」
足を横にして座り込んでいた雑渡さんが立ち上がる。
忍者隊の組頭だ。忙しい身の筈なのに稽古に付き合ってもらえただなんて非常にありがたい事であり、自身に課題が出来た。
『雑渡さん。』
私の呼びかけに後ろを振り向く雑渡さん。
地面に拳、膝をつき頭を下げる。
『ありがとうございました。』
私の様子に一瞬止まる雑渡さんだがすぐいつもの表情に戻り、背中を向け手を振る。
「今度は鉄製の棒を使用しなさい。」
そう言い残し姿を消す。
雑渡さんを見届けた後、力が抜け冷たく敷き詰めている葉の上に寝転がる。
木の葉と葉の間から見える空の青さが目に染みる。
そんな空に手を伸ばし額を覆う。
『ああ……。』
今日はなんだか非常に疲れた。
_________________________
(あ、組頭!どこに行っていたのですか!)
(野暮用でちょっと)
(また尊奈門が土井先生に挑みました)
(小頭!それは言わない約束で!)
(ふぅ、お前はまだまだな)
(名前!何なのこの傷は!)
(鍛錬鍛錬。)
(誰かと取っ組み合いしたでしよ!)