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嫁く
今、風魔から与四郎と喜三太のおばあちゃんのリリーさんがきていると噂で聞いた。その後学園長との挨拶が済んだであろう与四郎達と顔を合わせる。
「名前じゃねぇべか!」
『与四郎、元気にしてた?』
「当たりめぇーよ!名前も健在か?」
『変わりないわ。』
与四郎の側には高齢の女性がいる。その人物は杖をつきながら側に寄ってくる私を凝視している。
『与四郎、この方は?』
「あぁ、風魔くのいちのリリーばぁちゃん。喜三太のばあちゃんだ。」
与四郎に紹介された人物は珍しい物を見るかのように私を凝視している。
『初めまして、リリーさん。くのたまの苗字です。』
「お前の名はなんじゃ?」
『名は名前と申しますが。』
「そうか、お主が……」
空気が変わった?
すると視界の隅で光が反射し、自身に向かってくる。
『んっ?……おっと…』
リリーさんがいきなり手裏剣を打ってきたのだ。すかさず苦無で弾くが手裏剣の雨は止まず、適度な距離を取る。苦無で手裏剣を受けると側の地面に突き刺さっていく。
与四郎はいきなりのリリーばあちゃんの攻撃に驚いた顔をしている。
「リリーばあちゃん!何を!」
「お前は黙っておれ!」
与四郎を咎めるがリリーさんの攻撃の手がやむ事はない。
しかし持っていた手裏剣が止むと持っていた杖を使い巧みに殴りかかってくる。
「よっ!はっ!そい!」
リリーさんの攻撃を避けながら退いていくがそれでも攻撃の手を止めないリリーさん。杖が空気を裂く。
高齢でありながらその俊敏さは衰えていない。
「ホッホッホ!お主やるな!」
二人同時に地面に着地する。その様子に自身の苦無を懐に戻し、リリーさんに歩みを進める。
『リリーさん。私を試しましたね。』
その言葉にリリーさんが高らかに笑い出す。
「ホッホッホ!お主、気付いておったか。」
『攻撃してくる際、殺気が込められていなかったので。』
「そこで見破るとはお主も大した物じゃ。」
「リリーばあちゃんびっくりしただーよ。」
「与四郎がお主に夢中みたいだからの。試したのじゃ。」
「リリーばあちゃん!」
『あら。そうなの与四郎?』
リリーさんの言葉に顔を赤面する与四郎。
私の情報をリリーさんに話す程あったかは知らないが高齢でなおあの俊敏な動き。風魔くのいちとして感心せざるを得ない。
「のぅ名前。お主、風魔に来ないか?」
『それは嬉しいお言葉ですが私はまだ未熟者。身に余るお言葉です。』
「お主なら風魔くのいちとして優秀な忍者になれるのじゃがな。」
リリーさんが考え込む。すると名案を閃いたのかリリーばあちゃんの目は弧を描き、とんでもない事を言いだした。
「そうじゃ!なら与四郎の嫁として風魔に嫁ぐのはどうか?」
『「えっ!」』
「名前、この状況どういう事だ?」
『いやー……今逃げてて。』
「お前、何かやらかしたのか?」
逃げた先は忍たま長屋。今私は忍たま長屋の廊下、天井に張り付いている。くのいち教室に逃げてしまったら後輩達を巻き込んでしまう為、忍たま長屋に逃げ込んできた。長屋の外では潮江文次郎が鍛錬をしており冷ややかな目で私を見ている。
「名前ーー!どこにおるのじゃー!」
「あの声は風魔の……」
文次郎の目が光る。段々とリリーさんの声が近づいてくる。
「お前、一体何をやらかしたんだ。」
『何もやってない。でも追われてるのよ。』
「だったらここに来るな!くのいち教室に行け!」
『くっ!後輩だけは巻き込めない…』
「俺達ならいいのか!」
『ほら、リリーさんを止めないと大変な事になるわよ。』
「無視かよ!それはお前の責任だ!」
『私、風魔に嫁に出されそうなの。』
「はぁっ!?」
『文次郎、来た!』
「名前ー!見つけたぞ!」
すると廊下にリリーさんが現れるがすぐ気付かれ天井めがけて手裏剣を打たれる。打たれた手裏剣を避けると後ろの天井に突き刺さる。それは見事に私の頭があったであろう位置を捉えていた。
『ふむ……命中率が冴えている。』
「感心しているばやいか!」
文次郎につっこまれ廊下に降り立つ。
「名前!追い詰めたぞ!」
『リリーさん。先程のお話は断った筈です。』
「ならん!お主は与四郎と夫婦になるのじゃ!」
文次郎にほらっと目配せすると驚いてこちらを見てくる。
『風魔にもくのたまがいる筈です。何も私でなくても…』
「ならん!わらわが言ったら嫁になるのじゃー!」
リリーさんが叫びながら転げ回る。余りの光景にどうやって説得しようか悩んでいると六年生達が自室から出てきた。
「えー……何かすごい事になってるね……」
部屋から伊作が顔を出し、転げ回るリリーさんを見て引いている。
『先生達に止めてもらいましょ。』
「名前、お前嫁に行くのか!?」
『小平太。それはリリーさんが勝手に言ってるだけ。』
「行ってみてもいいんじゃないか?風魔には強い奴がいるんだろう?」
文次郎の言葉に黙って苦無を取り出し視線を向けると冷や汗をかいて明後日の方向を向く文次郎。リリーさんの声は学園中に響き渡り、慌てて来た先生方にてようやく止めてもらった。
「んで、風魔くのいちリリーことリリーさん。名前を嫁にするとは思いきった話しですな。」
あれからリリーさんは学園長室に連れて行かれ私も同席する事になった。リリーさんの側には与四郎の姿も。学園長と向き合うリリーさんは風魔流忍術の名門である山村家の当主でもある。二人が対峙する空気は張り詰めており、居心地が悪い。
「そうじゃ。名前はこのわらわの攻撃を全て見切っておった。只のくのたまではない。実際わらわが攻撃しても平然とし、隙すら見せんかったわい。肝が据わっているおなごじゃ。」
『ははっ……』
リリーさんが私を見ながら褒めてくるが今は素直に喜べない。
「なるほど。しかし風魔に勧誘するのは分かるが何故錫高野与四郎に嫁がせるのじゃ?」
「与四郎は風魔忍術学校の優秀な忍たまじゃ。与四郎と夫婦となったら良きくの一、良き妻となり風魔の将来は安泰じゃ!ましてや二人の血が入った子はさぞ優秀に育つじゃろう!」
リリーさんの壮大な夢にズッコケてしまう。既にそこまでリリーさんは思い描いていたのね。
しかし気になるのは与四郎の反応だ。幾ら権力のあるリリーさんの願いでも易々と引き受ける事は出来ないだろう。リリーさんの側に居た与四郎に耳打ちする。
『与四郎、リリーさんあんな事言ってるけど止められないの?』
「リリーばあちゃんがああ言ったらてこでもきかねーよ。」
『貴方の将来に関わる事よ。全力で止めて。』
「いやだべ。」
『何で。』
「俺さこの話、いいと思ってるからべさ。」
『……んっ?』
今のは聞き間違いだろうか。与四郎の顔を見ると爽やかな笑顔をしている。いやいや、でも聞き間違いではなかったら与四郎はこの話をまともに受けようとしている。
『与四郎、正気?』
「俺は大真面目だべ。」
「我が与四郎もこのように言っておる!話は決定じゃな!」
『なっ!リリーさん!』
都合の良い所だけ聞いていたのかリリーさんが話を締めようとしている。それだけは全力で止めないと!
『お待ち下さい!』
「なんじゃ名前。わらわの決定に不服か?」
『お言葉ですが、私や学園長のお言葉を聞かない内に物事を決定するのはまだお早いと思います。』
「お前達は納得していないのか?」
『少なくとも私は納得しておりません。』
「リリーや。名前もこう言っておる。決定するのはまだ早いのでは?」
「そんなのわらわが言ったらそうなのじゃ!」
「しかしご自身の考えで、我が忍術学園との関係に亀裂が入ってしまわれた時をお考えかな?」
「ぐぬぬっ……」
その言葉にリリーさんが苦虫を噛み潰したような表情をする。学園長の言葉にほっと胸を撫で下ろすと学園長が口を開く。
「与四郎に名前。」
『「はい、学園長。」』
「お主達は少し話し合いなさい。」
その言葉に与四郎と顔を見合わせるとふぅと息を吐く。
『はぁっ………』
「そんな考え込む事ではねぇよ。」
『馬鹿。大事な事よ。』
校庭の木の下で足を抱え込みながら溜め息をつく。側に与四郎がいるがその様子はあっけらかんとしている。
『与四郎もちゃんと言わないと。私が嫁になるのよ。』
「だから言ったべさ。俺は構わないと。」
『風魔には他にくのいちが居るでしょ。何で私なの。』
「俺は名前がいいんだけどな。」
『今回ばかりはリリーさんの命令を受けては駄目よ。貴方の将来に関わるわ。』
「俺はそれでもいいと思ってるべ。」
真剣に考えない与四郎の様子に苛立ち、与四郎の頬を引っ張ると与四郎は痛い痛いとばかり私の腕を軽く叩く。そっと離すとおーいててと言いながら頬をさする。
「何も俺も誰でもいいって訳ではないべ。」
『なら風魔に帰って、早く嫁候補を探しなさい。』
「相手が名前だからこの話受けようと思っただけさ。」
『私以上なくのいち、くのたまは沢山いるわ。』
「その中でも俺は名前が一番魅力的だ。」
『喜車の術で煽てても無駄よ。』
「初めて会った時からビビッと来たべさ。」
『それは私が初めから敵意剥き出しで珍しかったからでしょ。』
「いーや。違う。」
『なら何?』
「俺の嫁にするならこの女しか居ないと思った。」
いきなり距離を詰められ訛らないで話す与四郎に一瞬ドキッとする。その表情は真剣な様子で私の目を逸らさずに見てくる。
「名前と忍者して夫婦になって、いずれ名前に似ているやや子に囲まれて生涯を過ごしたいと思った。」
『与四郎の子なら喜んで産んでくれる子は沢山居るでしょうに。』
「俺はお前が欲しい。名前が側に居てくれたら他はいらねぇ。」
先程までの気のいい与四郎は居ない。今は愛情を込めた目付きで私を見つめる。その目付きは今まで感じなかった色気も感じる。
『与四郎、まさか私に術をかけるつもり?』
「これは俺の本心だ。」
ドサっと地面と空が反転する。与四郎に押し倒されたのだ。腕は頭上で固定され腰に腕が回されている。
目の前には普段とは余りにも雰囲気が違う与四郎が居る。だが今の与四郎の姿はリリーさんの命令を忠実にこなそうとするとしか思えない。
「名前は俺が相手だと嫌か?」
耳元で与四郎が囁き、私を見つめる。私は別に与四郎が嫌だからではない。私も恩義ある学園長の命令なら受け入れるつもりだったがいきなりのリリーさんの提案についていけないのが本心だ。
『嫌ではないわ。』
「!……なら受け入れてくれるべか?」
『それは違う。』
「何故?」
『私、誰かと一緒に女を口説く事が出来ない男はお断りなの。』
息がかかるかかからないかの距離までに居た与四郎に微笑み、与四郎に囁く。
『仮に私を物にしたいなら自ら動くべきだった。』
「……… 名前は俺の事嫌いけ?」
『嫌いじゃない。でも説得力が欠けている。』
「なんでさー。」
『でもリリーさんが居なくて、私だけにその言葉を言ってくれたら先は分からなかった。』
「えっ?……………はあーーーっ」
私の言葉に動きが止まり、考え込むと項垂れる与四郎。腕の拘束が解かれそっと起き上がるがそれでも項垂れ続ける与四郎。ちょっと言葉がきつかったかな。
すると与四郎が起き上がり私に甘えるように寄って来る。その目は救いを求めるような慕うような色が含まれている。
「まだ俺には機会あるべか?」
『……そんなに私が欲しいの?』
与四郎の頬に腕を伸ばし、顔の輪郭に合わせて指を這わせる。
「あぁ。欲しい。」
その腕を取り私の手に口付ける与四郎に思わずびっくりしてしまう。そんなに私がいいだなんて物好きだ。その返事を聞くとクスッと笑ってしまう。
『与四郎のその想いが続いて、私に一人でぶつけてくれるならね。』
「俺はお前しか見えねぇのに。」
その後リリーさんと学園長に話をつけこの問題は解決した。二人が学園の門をくぐる頃は辺りは日暮れに染まっていた。
『ではリリーさん、与四郎。道中お気をつけて。』
「名前!わらわは諦めておらぬぞ!」
「リリーばあちゃん、もう行くべ。」
「待て与四郎!わらわはお前の事を思って!」
『ははっ……なら与四郎、達者で。』
「ああ!そうだべ!」
『どうしたの?えっ…』
頬には柔らかくて温かい感触。側に駆け寄ってきた与四郎に頬に口付けられたのだ。
一瞬の出来事に固まってしまうが与四郎の高らかな笑い声に我に返る。
「あはははっ!油断しているおめーが悪い!」
『なっ、こら与四郎!』
「でもな、俺にはお前しか居ねえのは本当だ。」
与四郎が一瞬真剣な面持ちで私を見るがすぐいつもの表情に戻る。相変わらず食えない様子にふっと笑う。
『なら、いつかその日まで待ってるわ。』
「おうよ!それまでいい男にならねえとな。」
「与四郎!行くぞ!」
「リリーばあちゃん待ってけんろ!じゃあな名前!」
姿が見えなくなるまで私に手を振り続ける与四郎。
ようやく嵐が去ったと言わんばかりに温かい湯のように安堵の気持ちが沸き上がってきた。
_______________________
(名前!風魔の話はどうなった!?)
(教えてあげない)
(やっぱり嫁に行くのか!?)
(馬鹿!考え直せ!)
(この男共は……)
今、風魔から与四郎と喜三太のおばあちゃんのリリーさんがきていると噂で聞いた。その後学園長との挨拶が済んだであろう与四郎達と顔を合わせる。
「名前じゃねぇべか!」
『与四郎、元気にしてた?』
「当たりめぇーよ!名前も健在か?」
『変わりないわ。』
与四郎の側には高齢の女性がいる。その人物は杖をつきながら側に寄ってくる私を凝視している。
『与四郎、この方は?』
「あぁ、風魔くのいちのリリーばぁちゃん。喜三太のばあちゃんだ。」
与四郎に紹介された人物は珍しい物を見るかのように私を凝視している。
『初めまして、リリーさん。くのたまの苗字です。』
「お前の名はなんじゃ?」
『名は名前と申しますが。』
「そうか、お主が……」
空気が変わった?
すると視界の隅で光が反射し、自身に向かってくる。
『んっ?……おっと…』
リリーさんがいきなり手裏剣を打ってきたのだ。すかさず苦無で弾くが手裏剣の雨は止まず、適度な距離を取る。苦無で手裏剣を受けると側の地面に突き刺さっていく。
与四郎はいきなりのリリーばあちゃんの攻撃に驚いた顔をしている。
「リリーばあちゃん!何を!」
「お前は黙っておれ!」
与四郎を咎めるがリリーさんの攻撃の手がやむ事はない。
しかし持っていた手裏剣が止むと持っていた杖を使い巧みに殴りかかってくる。
「よっ!はっ!そい!」
リリーさんの攻撃を避けながら退いていくがそれでも攻撃の手を止めないリリーさん。杖が空気を裂く。
高齢でありながらその俊敏さは衰えていない。
「ホッホッホ!お主やるな!」
二人同時に地面に着地する。その様子に自身の苦無を懐に戻し、リリーさんに歩みを進める。
『リリーさん。私を試しましたね。』
その言葉にリリーさんが高らかに笑い出す。
「ホッホッホ!お主、気付いておったか。」
『攻撃してくる際、殺気が込められていなかったので。』
「そこで見破るとはお主も大した物じゃ。」
「リリーばあちゃんびっくりしただーよ。」
「与四郎がお主に夢中みたいだからの。試したのじゃ。」
「リリーばあちゃん!」
『あら。そうなの与四郎?』
リリーさんの言葉に顔を赤面する与四郎。
私の情報をリリーさんに話す程あったかは知らないが高齢でなおあの俊敏な動き。風魔くのいちとして感心せざるを得ない。
「のぅ名前。お主、風魔に来ないか?」
『それは嬉しいお言葉ですが私はまだ未熟者。身に余るお言葉です。』
「お主なら風魔くのいちとして優秀な忍者になれるのじゃがな。」
リリーさんが考え込む。すると名案を閃いたのかリリーばあちゃんの目は弧を描き、とんでもない事を言いだした。
「そうじゃ!なら与四郎の嫁として風魔に嫁ぐのはどうか?」
『「えっ!」』
「名前、この状況どういう事だ?」
『いやー……今逃げてて。』
「お前、何かやらかしたのか?」
逃げた先は忍たま長屋。今私は忍たま長屋の廊下、天井に張り付いている。くのいち教室に逃げてしまったら後輩達を巻き込んでしまう為、忍たま長屋に逃げ込んできた。長屋の外では潮江文次郎が鍛錬をしており冷ややかな目で私を見ている。
「名前ーー!どこにおるのじゃー!」
「あの声は風魔の……」
文次郎の目が光る。段々とリリーさんの声が近づいてくる。
「お前、一体何をやらかしたんだ。」
『何もやってない。でも追われてるのよ。』
「だったらここに来るな!くのいち教室に行け!」
『くっ!後輩だけは巻き込めない…』
「俺達ならいいのか!」
『ほら、リリーさんを止めないと大変な事になるわよ。』
「無視かよ!それはお前の責任だ!」
『私、風魔に嫁に出されそうなの。』
「はぁっ!?」
『文次郎、来た!』
「名前ー!見つけたぞ!」
すると廊下にリリーさんが現れるがすぐ気付かれ天井めがけて手裏剣を打たれる。打たれた手裏剣を避けると後ろの天井に突き刺さる。それは見事に私の頭があったであろう位置を捉えていた。
『ふむ……命中率が冴えている。』
「感心しているばやいか!」
文次郎につっこまれ廊下に降り立つ。
「名前!追い詰めたぞ!」
『リリーさん。先程のお話は断った筈です。』
「ならん!お主は与四郎と夫婦になるのじゃ!」
文次郎にほらっと目配せすると驚いてこちらを見てくる。
『風魔にもくのたまがいる筈です。何も私でなくても…』
「ならん!わらわが言ったら嫁になるのじゃー!」
リリーさんが叫びながら転げ回る。余りの光景にどうやって説得しようか悩んでいると六年生達が自室から出てきた。
「えー……何かすごい事になってるね……」
部屋から伊作が顔を出し、転げ回るリリーさんを見て引いている。
『先生達に止めてもらいましょ。』
「名前、お前嫁に行くのか!?」
『小平太。それはリリーさんが勝手に言ってるだけ。』
「行ってみてもいいんじゃないか?風魔には強い奴がいるんだろう?」
文次郎の言葉に黙って苦無を取り出し視線を向けると冷や汗をかいて明後日の方向を向く文次郎。リリーさんの声は学園中に響き渡り、慌てて来た先生方にてようやく止めてもらった。
「んで、風魔くのいちリリーことリリーさん。名前を嫁にするとは思いきった話しですな。」
あれからリリーさんは学園長室に連れて行かれ私も同席する事になった。リリーさんの側には与四郎の姿も。学園長と向き合うリリーさんは風魔流忍術の名門である山村家の当主でもある。二人が対峙する空気は張り詰めており、居心地が悪い。
「そうじゃ。名前はこのわらわの攻撃を全て見切っておった。只のくのたまではない。実際わらわが攻撃しても平然とし、隙すら見せんかったわい。肝が据わっているおなごじゃ。」
『ははっ……』
リリーさんが私を見ながら褒めてくるが今は素直に喜べない。
「なるほど。しかし風魔に勧誘するのは分かるが何故錫高野与四郎に嫁がせるのじゃ?」
「与四郎は風魔忍術学校の優秀な忍たまじゃ。与四郎と夫婦となったら良きくの一、良き妻となり風魔の将来は安泰じゃ!ましてや二人の血が入った子はさぞ優秀に育つじゃろう!」
リリーさんの壮大な夢にズッコケてしまう。既にそこまでリリーさんは思い描いていたのね。
しかし気になるのは与四郎の反応だ。幾ら権力のあるリリーさんの願いでも易々と引き受ける事は出来ないだろう。リリーさんの側に居た与四郎に耳打ちする。
『与四郎、リリーさんあんな事言ってるけど止められないの?』
「リリーばあちゃんがああ言ったらてこでもきかねーよ。」
『貴方の将来に関わる事よ。全力で止めて。』
「いやだべ。」
『何で。』
「俺さこの話、いいと思ってるからべさ。」
『……んっ?』
今のは聞き間違いだろうか。与四郎の顔を見ると爽やかな笑顔をしている。いやいや、でも聞き間違いではなかったら与四郎はこの話をまともに受けようとしている。
『与四郎、正気?』
「俺は大真面目だべ。」
「我が与四郎もこのように言っておる!話は決定じゃな!」
『なっ!リリーさん!』
都合の良い所だけ聞いていたのかリリーさんが話を締めようとしている。それだけは全力で止めないと!
『お待ち下さい!』
「なんじゃ名前。わらわの決定に不服か?」
『お言葉ですが、私や学園長のお言葉を聞かない内に物事を決定するのはまだお早いと思います。』
「お前達は納得していないのか?」
『少なくとも私は納得しておりません。』
「リリーや。名前もこう言っておる。決定するのはまだ早いのでは?」
「そんなのわらわが言ったらそうなのじゃ!」
「しかしご自身の考えで、我が忍術学園との関係に亀裂が入ってしまわれた時をお考えかな?」
「ぐぬぬっ……」
その言葉にリリーさんが苦虫を噛み潰したような表情をする。学園長の言葉にほっと胸を撫で下ろすと学園長が口を開く。
「与四郎に名前。」
『「はい、学園長。」』
「お主達は少し話し合いなさい。」
その言葉に与四郎と顔を見合わせるとふぅと息を吐く。
『はぁっ………』
「そんな考え込む事ではねぇよ。」
『馬鹿。大事な事よ。』
校庭の木の下で足を抱え込みながら溜め息をつく。側に与四郎がいるがその様子はあっけらかんとしている。
『与四郎もちゃんと言わないと。私が嫁になるのよ。』
「だから言ったべさ。俺は構わないと。」
『風魔には他にくのいちが居るでしょ。何で私なの。』
「俺は名前がいいんだけどな。」
『今回ばかりはリリーさんの命令を受けては駄目よ。貴方の将来に関わるわ。』
「俺はそれでもいいと思ってるべ。」
真剣に考えない与四郎の様子に苛立ち、与四郎の頬を引っ張ると与四郎は痛い痛いとばかり私の腕を軽く叩く。そっと離すとおーいててと言いながら頬をさする。
「何も俺も誰でもいいって訳ではないべ。」
『なら風魔に帰って、早く嫁候補を探しなさい。』
「相手が名前だからこの話受けようと思っただけさ。」
『私以上なくのいち、くのたまは沢山いるわ。』
「その中でも俺は名前が一番魅力的だ。」
『喜車の術で煽てても無駄よ。』
「初めて会った時からビビッと来たべさ。」
『それは私が初めから敵意剥き出しで珍しかったからでしょ。』
「いーや。違う。」
『なら何?』
「俺の嫁にするならこの女しか居ないと思った。」
いきなり距離を詰められ訛らないで話す与四郎に一瞬ドキッとする。その表情は真剣な様子で私の目を逸らさずに見てくる。
「名前と忍者して夫婦になって、いずれ名前に似ているやや子に囲まれて生涯を過ごしたいと思った。」
『与四郎の子なら喜んで産んでくれる子は沢山居るでしょうに。』
「俺はお前が欲しい。名前が側に居てくれたら他はいらねぇ。」
先程までの気のいい与四郎は居ない。今は愛情を込めた目付きで私を見つめる。その目付きは今まで感じなかった色気も感じる。
『与四郎、まさか私に術をかけるつもり?』
「これは俺の本心だ。」
ドサっと地面と空が反転する。与四郎に押し倒されたのだ。腕は頭上で固定され腰に腕が回されている。
目の前には普段とは余りにも雰囲気が違う与四郎が居る。だが今の与四郎の姿はリリーさんの命令を忠実にこなそうとするとしか思えない。
「名前は俺が相手だと嫌か?」
耳元で与四郎が囁き、私を見つめる。私は別に与四郎が嫌だからではない。私も恩義ある学園長の命令なら受け入れるつもりだったがいきなりのリリーさんの提案についていけないのが本心だ。
『嫌ではないわ。』
「!……なら受け入れてくれるべか?」
『それは違う。』
「何故?」
『私、誰かと一緒に女を口説く事が出来ない男はお断りなの。』
息がかかるかかからないかの距離までに居た与四郎に微笑み、与四郎に囁く。
『仮に私を物にしたいなら自ら動くべきだった。』
「……… 名前は俺の事嫌いけ?」
『嫌いじゃない。でも説得力が欠けている。』
「なんでさー。」
『でもリリーさんが居なくて、私だけにその言葉を言ってくれたら先は分からなかった。』
「えっ?……………はあーーーっ」
私の言葉に動きが止まり、考え込むと項垂れる与四郎。腕の拘束が解かれそっと起き上がるがそれでも項垂れ続ける与四郎。ちょっと言葉がきつかったかな。
すると与四郎が起き上がり私に甘えるように寄って来る。その目は救いを求めるような慕うような色が含まれている。
「まだ俺には機会あるべか?」
『……そんなに私が欲しいの?』
与四郎の頬に腕を伸ばし、顔の輪郭に合わせて指を這わせる。
「あぁ。欲しい。」
その腕を取り私の手に口付ける与四郎に思わずびっくりしてしまう。そんなに私がいいだなんて物好きだ。その返事を聞くとクスッと笑ってしまう。
『与四郎のその想いが続いて、私に一人でぶつけてくれるならね。』
「俺はお前しか見えねぇのに。」
その後リリーさんと学園長に話をつけこの問題は解決した。二人が学園の門をくぐる頃は辺りは日暮れに染まっていた。
『ではリリーさん、与四郎。道中お気をつけて。』
「名前!わらわは諦めておらぬぞ!」
「リリーばあちゃん、もう行くべ。」
「待て与四郎!わらわはお前の事を思って!」
『ははっ……なら与四郎、達者で。』
「ああ!そうだべ!」
『どうしたの?えっ…』
頬には柔らかくて温かい感触。側に駆け寄ってきた与四郎に頬に口付けられたのだ。
一瞬の出来事に固まってしまうが与四郎の高らかな笑い声に我に返る。
「あはははっ!油断しているおめーが悪い!」
『なっ、こら与四郎!』
「でもな、俺にはお前しか居ねえのは本当だ。」
与四郎が一瞬真剣な面持ちで私を見るがすぐいつもの表情に戻る。相変わらず食えない様子にふっと笑う。
『なら、いつかその日まで待ってるわ。』
「おうよ!それまでいい男にならねえとな。」
「与四郎!行くぞ!」
「リリーばあちゃん待ってけんろ!じゃあな名前!」
姿が見えなくなるまで私に手を振り続ける与四郎。
ようやく嵐が去ったと言わんばかりに温かい湯のように安堵の気持ちが沸き上がってきた。
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(名前!風魔の話はどうなった!?)
(教えてあげない)
(やっぱり嫁に行くのか!?)
(馬鹿!考え直せ!)
(この男共は……)