長編関連(短編・番外編)
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忘却2
留三郎の記憶がない。
あれから寝ていた伊作を急いで起こし診てもらうが、伊作の事も分かっていない様子だった。もしかしたら他の六年生の事も。
翌朝、文次郎達に理由を話すが記憶を失った留三郎を目の前にするまで半信半疑だった。
突っかかる文次郎を前に喧嘩しない留三郎の姿を見てみな驚きを隠せない。
「ふむ、記憶がないとは……」
「いや分からんぞ。これで俺達の事をからかっているかもしれんぞ。」
「それは違うな!だって文次郎に歯向かわないからな!いつもの留三郎なら既に殴りかかっているだろう。」
「俺は理由もなく殴りはしない。」
留三郎が冷静に返答する。
不思議な事に今まで学んできた忍術関係は全て覚えているが人物だけ忘れている。
記憶を失った留三郎に皆、私も含め自己紹介していった。
「ほら、次は名前の番だよ。」
『分かった。貴方と恋仲のくのたまの苗字名前です。』
手を差し伸べながら述べると、留三郎は驚きながらも手を取り合う。
「恋仲……」
『……今は無理に思い出そうとしなくても大丈夫。』
そんな留三郎に微笑みながら手を離すとすぐに離れる。その様子に胸の奥が疼く。
あんなに手を取り合っていたのに今はこんなにも遠いだなんて。
「恋仲の事も思い出さないとは。これは重症だな。」
『いつも通りに過ごしてたら思い出すかしら。』
「新野先生が他の先生方達に説明してくれてるからそこら辺は大丈夫だと思うけど……」
「…………問題は………後輩達だな……モソッ」
今の留三郎に日常を過ごしてもらう事は大変だと思うがそれしか方法がない。
後は伊作達といつものように過ごして貰おう。
それから数日経つが留三郎の記憶がまだ戻らない。
伊作や長次達があれよこれよと話しているが彼の表情は疑問が生じている。しかし留三郎も生活に慣れてきたのか、以前のような明るい表情を見せてくれる機会が増えた。今では同級生に囲まれ、楽しく談笑している姿もある。さすが寝食共に過ごしている為か仲良くなるのが早い。その様子に安心する。
伊作が用具委員の後輩達にも説明したが戸惑いは隠せなかったらしい。しかし留三郎も記憶を取り戻そうと積極的に委員会活動に取り組み、同級生や後輩達にも関わっている姿を見かける。
校舎の裏庭で留三郎が佇んでいる姿を見かける。一人で何やら考え込んでいる表情だ。
『留三郎。』
「あっ、苗字さん。」
『こんな所で大丈夫?』
「あぁ、皆さん俺の事を一生懸命教えてくれますから。」
『色々あって大変よね。』
「あの、聞きたい事があります……」
『何?』
「……貴方と俺が恋仲だったとは本当の事ですか?」
この質問に少し戸惑ってしまう。
『ええ、そうよ……。』
「そうですか……」
留三郎が視線を下に向ける。それはそうだ。いきなり貴方と私が恋仲でしたと言われても、はいそうですかとすぐ納得できるわけがない。今、彼の頭ではそれぞれの関係性を思い出そうと必死なのだろう。
留三郎とは恋仲だが無闇に接触して今の彼を混乱させたくない。
でも話したい、側にいたい。以前のように私に笑顔を向けてほしい。でもこのまま永久に私の事を思い出さなかったら?彼の見えない所で恐れで手が震える。その行動を見えないように抑え込み、平静を装って話す。
『留三郎、急いで思い出さなくていいのよ。』
「………」
『ゆっくり、ゆっくりでいいの。』
「でもそれでは貴方が!」
私を真剣な様子で見つめる優しい留三郎。自身が一番戸惑っている筈なのに。
でもその優しさは今の私にとって残酷だ。
『留三郎。仮に貴方が私を思い出さなくても、私は貴方の事を想い続ける。』
「苗字さん…………。」
『だから………っ』
涙ぐみそうになり唇を噛み締め、目を伏せる。泣いたら駄目だ。今の彼の前では強く居ないと。
『また今度話しましょう。』
噛み締めた唇から鉄の味がする。留三郎の前から立ち去る。
しばらくして留三郎の姿が見えなくなると建物の陰に隠れ、目が熱くなり涙が溢れ落ちる。
『っ……、う…………』
ここなら誰にも見られないから泣いてもいいだろう。感情が堰を切ったように溢れる。
『はぁっ……』
「お前は阿呆だな。」
『……っ、仙蔵。』
「あんな強気な姿で留三郎に接して。強情だな。」
『背後から気配もなく近づかないで。』
「そんなお前が珍しくてな。」
背後から仙蔵が現れる。という事は今までの様子を見られていたのだろう。
『今の私はこれが限界よ……』
「今の留三郎と会うのがそんなに辛いか?」
図星だった。確信を突かれて言葉が出ない。黙る私に仙蔵は黙って見据える。
『えぇ、少し堪えるわね。』
「少しではないだろう。」
泣き腫らした目で言われても説得力がないのか仙蔵に揚げ足を取られる。そのまま仙蔵が近づき頬を掴まれ、無理矢理仙蔵に向かされる。
泣き腫らした目を見つめられると更に瞳が濡れ反射的に目を逸らす。
『仙蔵、っ……見ないで。』
「名前、私を見ろ。」
逸らした目をゆっくり仙蔵に向ける。そこには真剣な表情をしている仙蔵がいた。
「留三郎は大丈夫だ。」
『っ………』
「辛いのは皆同じだ。」
『………うんっ。』
「お前は留三郎の恋仲なのだろう?」
『………そうよ。』
「なら自身の気持ちを隠すな。私達も協力している。」
『んっ………。』
「お前がそんな調子だとこちらも狂うからな。」
『………ふっ、どういう事それ。』
少し笑ってしまう。
「ようやく笑ったな。」
そうだ辛いのは私だけじゃない。仙蔵や伊作に小平太、長次も辛い筈だ。あの文次郎だっていつもの元気がなくやるせない様子だ。
涙を溢した目を擦り泣き止む。今は落ち着いた。
『ありがとう、仙蔵。』
「礼には及ばん。しかし………」
怪訝そうな顔をしながら私の顔を見る。
『何?』
「……涙は女の武器とも言うが、今それが分かった。」
『えっ……』
「これは確かに込み上げてくるな。」
『どう言う事……っ!』
仙蔵が唇を重ねる。驚いた拍子で涙が溢れると同時に色々なものが吹き飛ぶ。
すると物凄い勢いで仙蔵から引き剥がれ、その人物に乱暴に肩を引き寄せられる。この隆々とした温もり。覚えがある。
ハッっとし人物の顔を見ると眉間を極限までしかめた留三郎だった。
「仙蔵、てめぇ!」
『留三郎!記憶が!』
「今はそれどころじゃない!」
留三郎の記憶が戻った。でもその喜びも束の間、留三郎が仙蔵に掴み掛かろうとしている。
『ちょっ、留三郎!待って!!!』
「なんだ。ようやく戻ったか。」
「何の事だ!よくも俺の名前に口吸いしたな!」
『えっ!?まさか記憶の事覚えてないの!?』
「何?どう言う事だ?」
掴みかかる留三郎を必死に止め、仙蔵と私が留三郎に事の経緯を説明するとようやく納得してくれた。
「だからか。実習の記憶が途中から無いのは。」
「良かったではないか。」
「よくねぇ!仙蔵!もしやわざとか!」
「さぁな。」
『えっ、えっ?』
留三郎のあまりの気迫に話しかける事が出来ない。
というより仙蔵は留三郎の記憶を思い出せるようにわざとやったのではないのか。
その後留三郎の袖で口を拭われ、他の六年生達にも留三郎が記憶を取り戻したと伝えようやく事態が終息した。
それにしても仙蔵に口吸いされるとはある意味事故だが油断していた私も悪い。そんな考えも分かる事なく仙蔵はご機嫌で口元に弧を描いている。
「私に礼を述べるといい。」
『あんなのはこりごりよ。仙蔵の馬鹿。』
「褒め言葉だ。」
_______________________
(と、留!も、もう大丈夫)
(よくねぇ!仙蔵の野郎!)
(私も油断してたから)
(消毒だ!)
(んっ!)
(留三郎から何回も繰り返される熱い口吸いで骨抜きにされたとは言うまでもない)
留三郎の記憶がない。
あれから寝ていた伊作を急いで起こし診てもらうが、伊作の事も分かっていない様子だった。もしかしたら他の六年生の事も。
翌朝、文次郎達に理由を話すが記憶を失った留三郎を目の前にするまで半信半疑だった。
突っかかる文次郎を前に喧嘩しない留三郎の姿を見てみな驚きを隠せない。
「ふむ、記憶がないとは……」
「いや分からんぞ。これで俺達の事をからかっているかもしれんぞ。」
「それは違うな!だって文次郎に歯向かわないからな!いつもの留三郎なら既に殴りかかっているだろう。」
「俺は理由もなく殴りはしない。」
留三郎が冷静に返答する。
不思議な事に今まで学んできた忍術関係は全て覚えているが人物だけ忘れている。
記憶を失った留三郎に皆、私も含め自己紹介していった。
「ほら、次は名前の番だよ。」
『分かった。貴方と恋仲のくのたまの苗字名前です。』
手を差し伸べながら述べると、留三郎は驚きながらも手を取り合う。
「恋仲……」
『……今は無理に思い出そうとしなくても大丈夫。』
そんな留三郎に微笑みながら手を離すとすぐに離れる。その様子に胸の奥が疼く。
あんなに手を取り合っていたのに今はこんなにも遠いだなんて。
「恋仲の事も思い出さないとは。これは重症だな。」
『いつも通りに過ごしてたら思い出すかしら。』
「新野先生が他の先生方達に説明してくれてるからそこら辺は大丈夫だと思うけど……」
「…………問題は………後輩達だな……モソッ」
今の留三郎に日常を過ごしてもらう事は大変だと思うがそれしか方法がない。
後は伊作達といつものように過ごして貰おう。
それから数日経つが留三郎の記憶がまだ戻らない。
伊作や長次達があれよこれよと話しているが彼の表情は疑問が生じている。しかし留三郎も生活に慣れてきたのか、以前のような明るい表情を見せてくれる機会が増えた。今では同級生に囲まれ、楽しく談笑している姿もある。さすが寝食共に過ごしている為か仲良くなるのが早い。その様子に安心する。
伊作が用具委員の後輩達にも説明したが戸惑いは隠せなかったらしい。しかし留三郎も記憶を取り戻そうと積極的に委員会活動に取り組み、同級生や後輩達にも関わっている姿を見かける。
校舎の裏庭で留三郎が佇んでいる姿を見かける。一人で何やら考え込んでいる表情だ。
『留三郎。』
「あっ、苗字さん。」
『こんな所で大丈夫?』
「あぁ、皆さん俺の事を一生懸命教えてくれますから。」
『色々あって大変よね。』
「あの、聞きたい事があります……」
『何?』
「……貴方と俺が恋仲だったとは本当の事ですか?」
この質問に少し戸惑ってしまう。
『ええ、そうよ……。』
「そうですか……」
留三郎が視線を下に向ける。それはそうだ。いきなり貴方と私が恋仲でしたと言われても、はいそうですかとすぐ納得できるわけがない。今、彼の頭ではそれぞれの関係性を思い出そうと必死なのだろう。
留三郎とは恋仲だが無闇に接触して今の彼を混乱させたくない。
でも話したい、側にいたい。以前のように私に笑顔を向けてほしい。でもこのまま永久に私の事を思い出さなかったら?彼の見えない所で恐れで手が震える。その行動を見えないように抑え込み、平静を装って話す。
『留三郎、急いで思い出さなくていいのよ。』
「………」
『ゆっくり、ゆっくりでいいの。』
「でもそれでは貴方が!」
私を真剣な様子で見つめる優しい留三郎。自身が一番戸惑っている筈なのに。
でもその優しさは今の私にとって残酷だ。
『留三郎。仮に貴方が私を思い出さなくても、私は貴方の事を想い続ける。』
「苗字さん…………。」
『だから………っ』
涙ぐみそうになり唇を噛み締め、目を伏せる。泣いたら駄目だ。今の彼の前では強く居ないと。
『また今度話しましょう。』
噛み締めた唇から鉄の味がする。留三郎の前から立ち去る。
しばらくして留三郎の姿が見えなくなると建物の陰に隠れ、目が熱くなり涙が溢れ落ちる。
『っ……、う…………』
ここなら誰にも見られないから泣いてもいいだろう。感情が堰を切ったように溢れる。
『はぁっ……』
「お前は阿呆だな。」
『……っ、仙蔵。』
「あんな強気な姿で留三郎に接して。強情だな。」
『背後から気配もなく近づかないで。』
「そんなお前が珍しくてな。」
背後から仙蔵が現れる。という事は今までの様子を見られていたのだろう。
『今の私はこれが限界よ……』
「今の留三郎と会うのがそんなに辛いか?」
図星だった。確信を突かれて言葉が出ない。黙る私に仙蔵は黙って見据える。
『えぇ、少し堪えるわね。』
「少しではないだろう。」
泣き腫らした目で言われても説得力がないのか仙蔵に揚げ足を取られる。そのまま仙蔵が近づき頬を掴まれ、無理矢理仙蔵に向かされる。
泣き腫らした目を見つめられると更に瞳が濡れ反射的に目を逸らす。
『仙蔵、っ……見ないで。』
「名前、私を見ろ。」
逸らした目をゆっくり仙蔵に向ける。そこには真剣な表情をしている仙蔵がいた。
「留三郎は大丈夫だ。」
『っ………』
「辛いのは皆同じだ。」
『………うんっ。』
「お前は留三郎の恋仲なのだろう?」
『………そうよ。』
「なら自身の気持ちを隠すな。私達も協力している。」
『んっ………。』
「お前がそんな調子だとこちらも狂うからな。」
『………ふっ、どういう事それ。』
少し笑ってしまう。
「ようやく笑ったな。」
そうだ辛いのは私だけじゃない。仙蔵や伊作に小平太、長次も辛い筈だ。あの文次郎だっていつもの元気がなくやるせない様子だ。
涙を溢した目を擦り泣き止む。今は落ち着いた。
『ありがとう、仙蔵。』
「礼には及ばん。しかし………」
怪訝そうな顔をしながら私の顔を見る。
『何?』
「……涙は女の武器とも言うが、今それが分かった。」
『えっ……』
「これは確かに込み上げてくるな。」
『どう言う事……っ!』
仙蔵が唇を重ねる。驚いた拍子で涙が溢れると同時に色々なものが吹き飛ぶ。
すると物凄い勢いで仙蔵から引き剥がれ、その人物に乱暴に肩を引き寄せられる。この隆々とした温もり。覚えがある。
ハッっとし人物の顔を見ると眉間を極限までしかめた留三郎だった。
「仙蔵、てめぇ!」
『留三郎!記憶が!』
「今はそれどころじゃない!」
留三郎の記憶が戻った。でもその喜びも束の間、留三郎が仙蔵に掴み掛かろうとしている。
『ちょっ、留三郎!待って!!!』
「なんだ。ようやく戻ったか。」
「何の事だ!よくも俺の名前に口吸いしたな!」
『えっ!?まさか記憶の事覚えてないの!?』
「何?どう言う事だ?」
掴みかかる留三郎を必死に止め、仙蔵と私が留三郎に事の経緯を説明するとようやく納得してくれた。
「だからか。実習の記憶が途中から無いのは。」
「良かったではないか。」
「よくねぇ!仙蔵!もしやわざとか!」
「さぁな。」
『えっ、えっ?』
留三郎のあまりの気迫に話しかける事が出来ない。
というより仙蔵は留三郎の記憶を思い出せるようにわざとやったのではないのか。
その後留三郎の袖で口を拭われ、他の六年生達にも留三郎が記憶を取り戻したと伝えようやく事態が終息した。
それにしても仙蔵に口吸いされるとはある意味事故だが油断していた私も悪い。そんな考えも分かる事なく仙蔵はご機嫌で口元に弧を描いている。
「私に礼を述べるといい。」
『あんなのはこりごりよ。仙蔵の馬鹿。』
「褒め言葉だ。」
_______________________
(と、留!も、もう大丈夫)
(よくねぇ!仙蔵の野郎!)
(私も油断してたから)
(消毒だ!)
(んっ!)
(留三郎から何回も繰り返される熱い口吸いで骨抜きにされたとは言うまでもない)