長編関連(短編・番外編)
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次は留三郎との試合だが困った事がある。
私物の苦無が先程の小平太との戦いで刃が欠けたのだ。この刃では留三郎との戦いに支障が出る。
しかし留三郎の得意武器は鉄双節棍。至近距離での攻撃だ。
用具倉庫に向かい代わりの苦無を探すがそこでとある物を見つけニヤリと顔を染める。
「さぁ武道大会もいよいよ大詰め!次は準決勝である食満留三郎選手対 苗字名前選手の戦いです!」
広場には留三郎が既に準備を終えて待機している。
そこに先程見つけた武具を持参し歩みを進める。
「な、なんと名前選手!今回は棒術で挑むみたいです!」
今回私が使用するのは棒だ。長さは六尺もある。自身の身長を超えるが慣れれば大した事ない長さだ。
「お前、その戦術まさか……」
留三郎が顔を歪める。感は冴えているみたいだ。
『そうよ。教わったのよ。』
雑渡昆奈門さんにね。でも答えは教えてあげない。
雑渡さんに陰でこっそり稽古をつけてもらっていた。
きっかけは自身の得意武器を増やそうと躍起になっていた時期だ。偶々居合わせた雑渡さんの興味本位で教えてもらったのがきっかけだった。
留三郎は以前雑渡さんに棒術で敗れているが、まさか私が棒術で挑んでくるとは思っていなかっただろう。
その証拠にいまだに苦虫を潰したような表情をしている。
「名前、お前……」
『武器武具一つなら何でもいい。そう言ってたでしょ。』
留三郎の武具を持つ手に力が入るのが見える。手は抜けない。
本気の戦いになるが私だって必死に鍛錬を行ってきた。ここで負ける訳にはいかない。
互いに歩みながら距離を取りそれぞれが武具を構え、木下先生の腕が振り下ろされる。
「始めっ!」
先に仕掛けてきたのは留三郎だ。開始の声と共に走り込み鉄双節棍で打撃攻撃。すかさず棒術で防御する。双方の鋭い眼光が突き刺さる。
鉄双節棍は棒の基底部を握り、振り回すことで遠心力を発生させこれを打撃に利用するもの。また打撃以外にも棒部による防御などの技法もある。まさに攻守共に優れている武具だ。
さすがは留三郎。只の打撃でも威力がある。
これは本気でやらないと負けてしまう。
名前が樫棒で俺の打撃を受け止める。その威力は俺の予想を超える。名前は口元に笑みを浮かべていた。
正直名前が棒術で挑んできたのは驚きが隠せなかった。
しかも俺の打撃をものともせず押し返し薙ぎ払うと、樫棒を振り上げ空中を切る。
頭を下げ避けるが、暴風と薙ぎ払う音が頭上をかすめていく。
先程の攻撃を避け、体制を整えると名前がすかさず距離を詰め棒で突き、薙ぎを打ち込んでくる。
向かってくる攻撃を体術で避けるがそれでも速い。
棒術は扱う棒が長ければ長い程扱いは難しい筈なのにそれでも名前は華麗に舞っている。
その黒瞳は俺を一直線に見つめ逸らしもしない。
「くっ!」
留三郎が打撃後、飛躍し私を飛び越え着地する。だがその前に再度打撃を繰り広げる。その体勢から打ち込んでくるなんて伊達に武闘派ではない。樫棒で回転を描きながら流す。
近距離から中距離との届く距離がある棒術。
しかし名前の棒術は突けば槍、薙げは薙刀、打てば棒と正に変幻自在と評する程の精度を誇っている。
この棒術。まさか…。だが、もし奴が教えたのであれば合点がいく。あの曲者め、とんでもない技術を名前に仕込みやがって。
でもこれがもし鉄製の棒であれば粉砕される。あの日の記憶が甦り鉄双節棍に力が入る。
長ければ長い程、樫棒は扱いにくい。
留三郎に何度も振り被るが手応えは無く棒が空気を切る。攻撃を読まれている。その隙に懐に潜り込まれ、鉄双節棍が打ち込まれる。
『っ!』
鉄製の棒が肩を直撃し痛みに顔を歪める。痛みが波のように波紋を広げていく。
「何と!名前選手今回初めての攻撃を直接受けました!」
すぐさま追撃の打撃がくる。棒で受け止め振り払い、留三郎と距離を開ける。左肩に鈍い痛みが生じる。打撃される瞬間、肩に力を入れて良かった。
左肩に視線を下ろすと赤くなっているぐらいだ。
『流石に痛いわね。鉄は。』
「お前のも充分な脅威だ。」
痛む左肩を回し動き具合を確認する。僅かに鈍い痛みが生じるが動ける。
「名前、降参するか?」
『いいえ、しませんよ。』
木下先生が確認する。冗談じゃない。この攻撃程度で降参なんてしたら実戦では殺される。たった一撃で追い込まれるなんて滑稽なものだ。
『続けます。』
「分かった。試合続行!」
木下先生の合図で試合が再開される。
「名前、続けるのか。」
『ええ、実戦ではこうもいかないでしょ。』
「そうだな。なら全力を持ってお前を倒す!」
『勿論。遠慮はいらない。』
双方構え、最後の打ち込みを始める。
互いが同じ方向に走り出し、攻防を繰り広げる。
留三郎も息が上がっている。これだけの戦いを繰り返してたらお互い体力も削られるだろう。
だが負けたくない。眼光に鋭さを増し、持てる力全てを尽くす。
あの目付き。鉄製の攻撃が入った筈だがそれでも戦えるのか。
だが今まで通りの動きは出来ないだろう。
鉄双節棍の攻撃は遠心力で増加する。もしその対象が木材なら木っ端微塵だ。また肉体といえども骨を折る事は容易だ。次また打撃を喰らえば後を引きずる。どうする名前。
傷を負った左肩になるべく力を入れず、主に利き手で攻撃を続ける。さっきみたいなへまは二度とやらない。
だが留三郎は一つ忘れている事がある。
鉄双節棍は物を打突すると作用反作用の法則に従って、ほぼ同じ強さで跳ね返ってくる。
その都度同じ力を外に逃がすような動きを掛けてやる必要が有る。
渾身の一撃を叩き込んだ場合、次の打突を打ち込むまで約一秒以上の間が空いてしまう。
萎えかけていた闘志が再び宿る。そこを狙うしかない。
再び身構えて衝突し武具が交わる。歯を噛み締めている留三郎に吹き飛ばされそうだが懸命にこらえる。
最後だ。熱く煮えたぎるような熱が棒に伝わり、渾身の一撃を薙ぎ払う。
払った棒が鉄双節棍ごと留三郎を打ち破る。弾かれたように倒れ込み、ドサっと音が遅れて聞こえる。
自身も立つ事を維持できず、息を盛大に吐き膝を着く。もう立たないで。これ以上は無理だ。
目を細めて心中願うがその視線の先には立ち上がろうとする留三郎。
ならもう一度樫棒で……棒を握るが全力を出し尽くした握力では掴む事が精一杯だ。
だが留三郎の足はおぼつかず、再び倒れた。
「勝者!苗字!」
周囲から歓声が上がる。