長編
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安息
ようやくなだめるように落ち着かせることができた――……が、いかん。
冷静さを取り戻した途端、目の前にある惨状に思考が激しく停止してた。
何も身に纏っていない彼女の素肌が、いま自分の腕の中に直に触れている。
さっきまでは必死さゆえに気にも留めていなかったが、一度意識してしまうともう駄目だった。同じように抱きしめていることなど、到底耐えられそうにない。
「と、取り敢えず服を着ろっ!!」
半ば悲鳴のような声を上げ、弾かれたように彼女の身体から跳ね退いて淵へと距離を取る。
抱擁から解放された彼女も、ようやく現在の過激すぎる状況にハッと我に返ったようで、慌てて両腕で前を隠していた。
滑らかな腰のラインを伝い落ちる水滴、しっとりと白い肌に張り付く漆黒の濡れ髪。
そして何より、泣きじゃくったせいでうっすらと赤みを帯びたその表情――どこを切り取っても思春期の男にとっては刺激が強すぎた。
「お、俺は先に上がってるから! お前はゆっくり準備しろ!!」
これ以上ここに留まれば理性が持ちそうにない。逃げるように水飛沫を上げ、大慌てで湖から這い上がった。
『留三郎………ありがとう。』
忍装束に着替え、いつもの姿へと戻った彼女が静かに歩み寄ってくる。
その口元にはかすかな恥じらいを帯びた微笑みが浮かんでいた。
いつも作っていた完璧な仮面でも、冷徹な忍びの顔でもない。久しぶりに目にした、素の彼女の心からの笑顔だった。
月光に照らされるその顔を眩しそうに見つめ、俺は照れくささを隠すように鼻を鳴らした。
「……お前は、そうやって笑ってりゃいいんだよ。」
留三郎の不器用でけれどどこまでも温かい気遣いのおかげで、冷え切っていた心がじんわりと熱を取り戻していくのを感じていた。
長年胸を苛んできた過酷な宿命を、今すぐすべて吹き切ることなどできない。それでも――重くのしかかっていた肩の荷を下ろし、前を向いて歩き出すための気持ちの整理はしっかりとつけることができた。
『じゃあね、留三郎。』
「待て。名前」
夜の静寂が包む忍術学園へと帰り着き、それぞれの長屋へ戻ろうと背を向けたその時、強引に腕を掴まれ足止めされた。
『……?』
振り返ると、そこには何かを言いあぐねて顔を苦しげに歪める留三郎の姿があった。掴んだ手に思わず力が入っているのが伝わってくる。
『なに?』
「無茶は……絶対するな。何かあれば、俺を……。」
面と向かって真っ直ぐに、けれどどこか照れくさそうに言葉を紡ぐ彼がおかしくて私はフッと唇を綻ばせた。
掴まれた腕を解くどころか、あえて一歩、彼の方へと踏み込んで顔を近づける。
『……頼りにするわ。』
至近距離で耳元に囁くように呟くと、動揺に目を見開く留三郎の手をそっと解き私は翻るように足を早めた。
背後から伝わってくる彼の熱い視線と気配を感じながら、私は一度も振り返らずに夜の廊下を駆け抜けていった。
ようやくなだめるように落ち着かせることができた――……が、いかん。
冷静さを取り戻した途端、目の前にある惨状に思考が激しく停止してた。
何も身に纏っていない彼女の素肌が、いま自分の腕の中に直に触れている。
さっきまでは必死さゆえに気にも留めていなかったが、一度意識してしまうともう駄目だった。同じように抱きしめていることなど、到底耐えられそうにない。
「と、取り敢えず服を着ろっ!!」
半ば悲鳴のような声を上げ、弾かれたように彼女の身体から跳ね退いて淵へと距離を取る。
抱擁から解放された彼女も、ようやく現在の過激すぎる状況にハッと我に返ったようで、慌てて両腕で前を隠していた。
滑らかな腰のラインを伝い落ちる水滴、しっとりと白い肌に張り付く漆黒の濡れ髪。
そして何より、泣きじゃくったせいでうっすらと赤みを帯びたその表情――どこを切り取っても思春期の男にとっては刺激が強すぎた。
「お、俺は先に上がってるから! お前はゆっくり準備しろ!!」
これ以上ここに留まれば理性が持ちそうにない。逃げるように水飛沫を上げ、大慌てで湖から這い上がった。
『留三郎………ありがとう。』
忍装束に着替え、いつもの姿へと戻った彼女が静かに歩み寄ってくる。
その口元にはかすかな恥じらいを帯びた微笑みが浮かんでいた。
いつも作っていた完璧な仮面でも、冷徹な忍びの顔でもない。久しぶりに目にした、素の彼女の心からの笑顔だった。
月光に照らされるその顔を眩しそうに見つめ、俺は照れくささを隠すように鼻を鳴らした。
「……お前は、そうやって笑ってりゃいいんだよ。」
留三郎の不器用でけれどどこまでも温かい気遣いのおかげで、冷え切っていた心がじんわりと熱を取り戻していくのを感じていた。
長年胸を苛んできた過酷な宿命を、今すぐすべて吹き切ることなどできない。それでも――重くのしかかっていた肩の荷を下ろし、前を向いて歩き出すための気持ちの整理はしっかりとつけることができた。
『じゃあね、留三郎。』
「待て。名前」
夜の静寂が包む忍術学園へと帰り着き、それぞれの長屋へ戻ろうと背を向けたその時、強引に腕を掴まれ足止めされた。
『……?』
振り返ると、そこには何かを言いあぐねて顔を苦しげに歪める留三郎の姿があった。掴んだ手に思わず力が入っているのが伝わってくる。
『なに?』
「無茶は……絶対するな。何かあれば、俺を……。」
面と向かって真っ直ぐに、けれどどこか照れくさそうに言葉を紡ぐ彼がおかしくて私はフッと唇を綻ばせた。
掴まれた腕を解くどころか、あえて一歩、彼の方へと踏み込んで顔を近づける。
『……頼りにするわ。』
至近距離で耳元に囁くように呟くと、動揺に目を見開く留三郎の手をそっと解き私は翻るように足を早めた。
背後から伝わってくる彼の熱い視線と気配を感じながら、私は一度も振り返らずに夜の廊下を駆け抜けていった。