長編
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
安堵
あれから話す事なく学園に帰り着いた。
報告を終えると俺ら二人は帰され、名前だけ残された。
学園長の庵に私のみ残される。
この学園に入学する前に私の出生は既に先生方に把握されていた。だから今更隠すような事は何もない。
学園長が静かに口を開く。
「名前。今回は失態じゃったの。」
『はっ、今回は私の責任です。処罰は何なりと受けます。』
「表を上げよ。」
学園長の許可が降り、顔を上げると学園長が言葉を続ける。
「情報は掴めたらしいの。」
『……はい。』
「さて、お主は今後どうする。」
『…………』
その質問に答える事が出来ない。
私が今後行うことは学園にとって脅威になりかねないからだ。
「儂はお主に少し厳しい試練を与えようと思う。」
沈黙が流れるが言葉を続ける学園長。
「儂からの試練は………」
学園長から出された命令に首を振るしか出来なかった。再度顔を床に向け頭を下げる。
『分かりました。その試練務めさせて頂きます。』
あれから名前の姿を二週間程見かけない。
やはりあの実習の出来事が問題になったのだろうか。
姿を見せない名前に胸騒ぎがする。
「留三郎、彼女が心配かい……?」
同室の伊作にまで言われる。そんなに俺は分かるぐらい態度が出ていたのか。
「伊作……………あぁ……」
読んでいた書物を閉じる。このままでは集中できない。私物を片付け自身の忍具を取り、立ち上がる。
「どこに行くんだい?」
「少し夜風にあたってくる。」
そのまま自室を出て裏山に向かう。
裏山には誰も居ない。自身の雑念を振り払うように鉄双節棍で鍛錬を行う。
あの時何故名前を一人で向かわせた?
怒りに染まっている彼女を。危険を顧みず突き進んでいく彼女を。何より一人で行ってしまった名前。
俺らだと足手纏いになるからか?
考えれば考える程きりがない。またその自分に苛立ちを覚える。
「くそっ………」
鉄双節棍を持っていた腕を下ろす。
やるせない気持ちに溢れる。
「……はっ!」
人の気配がする。距離はあるがこの殺気……覚えがある。殺気に確信が持てないのにその場所まで駆ける。
目的の場所までつくとそこは湖だった。気配を悟られないように茂みに隠れ息を殺す。
確かここは小平太達が以前言っていた水場。
という事はここは裏裏山か。近くから物音が聞こえ気配を消して伺うと名前の姿があった。
着ていた忍装束を脱ぎ、何も纏わない状態で湖の中に入っていく。
表情は伏せ目がちで、月夜の光に白い身体は反射し漆黒の黒髪が流れ、バサっと髪の結いを解いた姿は美しさの余り目が奪われる。
我に返ると名前は水浴びを続けている。
しかし気配を悟られたのか一点を見つめ動きが止まる。
『………出てこい。』
闇夜に乗じて低い声が響き渡る。
何も纏わない姿に苦無を持ち迎え討とうとしている。
「名前、俺だ。」
『……留三郎。』
濡れた髪から雫が垂れ、身体を濡らし苦無を下ろす名前。その姿さえ美しいと思う。
「すまん………」
『大丈夫、気にしてない……』
普段からのあの明るい名前とは違い、冷たい重圧が感じられる声だ。
「……あれから元気にしていたか?」
『…………まぁ。』
少し声色が戻った。その様子に話し続ける。
「お前は無理してないか……?」
『………』
「俺なら何でも聞くぞ。」
『………』
「……………頼むから一人で抱えるな。」
『何でそんなに私に関わる?』
この間の実習で自身の本性が分かったような気がした。しかもそれを同級生に見られるという失態も含めて。
別に今まで父様や母様の復讐を望んでいた訳ではない。ただ長年追っていた奴の正体が分かった瞬間、自身の感情を抑えられなかった。
くのたまになったのも、いつか現れる敵を凌ぐ為に技術や勉学に励んできた。父様や母様みたいに討たれないように。家族の居ない自分一人が生きる為に。
でもこの間の姿で幻滅されただろう。それまではうまくやってこれたのに。全部が滅茶苦茶になった。
あれから学園長に任された過酷な任務にも耐えてきた。でももうこの人達に合わせる顔がない。
自嘲気味に笑う。
『……幻滅したでしょう?』
「そんな事は…………」
『でもこれが本当の私。憎悪にまみれば血が沸る。』
「………」
『……今までありがとう。』
そう言い湖から出ようとし淵に近づくとザブン!っと音が聞こえ後ろを振り向くと、留三郎が湖に飛び込みザブザブと水をかき分けこちらに向かってくる。
留三郎が動く度に湖が波立ち、湖に反射した月夜がキラキラと光る。
目の前まで留三郎が来るとじっと私を見つめる。
そのまま彼の目を見つめ返すと私を自身の胸の中に抱き寄せる。
『留三郎……』
「………お前の過去は知っている。」
その事実に目を見開く。あれは限られた先生達しか知らない筈。ましてや同級生達には知り得ない情報の筈だ。だが動揺は悟られたくない。これは弱気な姿を見せたくない意地でもある。
『……そう。』
「親の仇だ。………憎いのは分かる。俺も境遇が一緒だったら同じ事をしていただろう……」
『……………』
「だからお前一人が抱えこむ必要はない。」
名前は基本一人で誰にも負ける事なく強く、人付き合いが良く人を寄せ付けるがその心は誰にも許してないと思う伏があった。
しかしその背景には、一人で強く生きていかなければいけない環境で育ち、それを当たり前として享受していた。
「…………今まで良く頑張った。」
その一言で自身の目から静かに涙が伝う。
気付いて欲しかった訳でも慰めて欲しかった訳でもない。
しかしようやく自身の肩の荷が降りたような感じに安堵し涙が止まらない。
『うっ………はっ………』
むせび泣き、涙を流す私をより抱き締める留三郎。そんな彼の胸にしがみつき静かに泣いてしまう。
今だけは彼の腕の中で安堵していいだろうか。
あれから話す事なく学園に帰り着いた。
報告を終えると俺ら二人は帰され、名前だけ残された。
学園長の庵に私のみ残される。
この学園に入学する前に私の出生は既に先生方に把握されていた。だから今更隠すような事は何もない。
学園長が静かに口を開く。
「名前。今回は失態じゃったの。」
『はっ、今回は私の責任です。処罰は何なりと受けます。』
「表を上げよ。」
学園長の許可が降り、顔を上げると学園長が言葉を続ける。
「情報は掴めたらしいの。」
『……はい。』
「さて、お主は今後どうする。」
『…………』
その質問に答える事が出来ない。
私が今後行うことは学園にとって脅威になりかねないからだ。
「儂はお主に少し厳しい試練を与えようと思う。」
沈黙が流れるが言葉を続ける学園長。
「儂からの試練は………」
学園長から出された命令に首を振るしか出来なかった。再度顔を床に向け頭を下げる。
『分かりました。その試練務めさせて頂きます。』
あれから名前の姿を二週間程見かけない。
やはりあの実習の出来事が問題になったのだろうか。
姿を見せない名前に胸騒ぎがする。
「留三郎、彼女が心配かい……?」
同室の伊作にまで言われる。そんなに俺は分かるぐらい態度が出ていたのか。
「伊作……………あぁ……」
読んでいた書物を閉じる。このままでは集中できない。私物を片付け自身の忍具を取り、立ち上がる。
「どこに行くんだい?」
「少し夜風にあたってくる。」
そのまま自室を出て裏山に向かう。
裏山には誰も居ない。自身の雑念を振り払うように鉄双節棍で鍛錬を行う。
あの時何故名前を一人で向かわせた?
怒りに染まっている彼女を。危険を顧みず突き進んでいく彼女を。何より一人で行ってしまった名前。
俺らだと足手纏いになるからか?
考えれば考える程きりがない。またその自分に苛立ちを覚える。
「くそっ………」
鉄双節棍を持っていた腕を下ろす。
やるせない気持ちに溢れる。
「……はっ!」
人の気配がする。距離はあるがこの殺気……覚えがある。殺気に確信が持てないのにその場所まで駆ける。
目的の場所までつくとそこは湖だった。気配を悟られないように茂みに隠れ息を殺す。
確かここは小平太達が以前言っていた水場。
という事はここは裏裏山か。近くから物音が聞こえ気配を消して伺うと名前の姿があった。
着ていた忍装束を脱ぎ、何も纏わない状態で湖の中に入っていく。
表情は伏せ目がちで、月夜の光に白い身体は反射し漆黒の黒髪が流れ、バサっと髪の結いを解いた姿は美しさの余り目が奪われる。
我に返ると名前は水浴びを続けている。
しかし気配を悟られたのか一点を見つめ動きが止まる。
『………出てこい。』
闇夜に乗じて低い声が響き渡る。
何も纏わない姿に苦無を持ち迎え討とうとしている。
「名前、俺だ。」
『……留三郎。』
濡れた髪から雫が垂れ、身体を濡らし苦無を下ろす名前。その姿さえ美しいと思う。
「すまん………」
『大丈夫、気にしてない……』
普段からのあの明るい名前とは違い、冷たい重圧が感じられる声だ。
「……あれから元気にしていたか?」
『…………まぁ。』
少し声色が戻った。その様子に話し続ける。
「お前は無理してないか……?」
『………』
「俺なら何でも聞くぞ。」
『………』
「……………頼むから一人で抱えるな。」
『何でそんなに私に関わる?』
この間の実習で自身の本性が分かったような気がした。しかもそれを同級生に見られるという失態も含めて。
別に今まで父様や母様の復讐を望んでいた訳ではない。ただ長年追っていた奴の正体が分かった瞬間、自身の感情を抑えられなかった。
くのたまになったのも、いつか現れる敵を凌ぐ為に技術や勉学に励んできた。父様や母様みたいに討たれないように。家族の居ない自分一人が生きる為に。
でもこの間の姿で幻滅されただろう。それまではうまくやってこれたのに。全部が滅茶苦茶になった。
あれから学園長に任された過酷な任務にも耐えてきた。でももうこの人達に合わせる顔がない。
自嘲気味に笑う。
『……幻滅したでしょう?』
「そんな事は…………」
『でもこれが本当の私。憎悪にまみれば血が沸る。』
「………」
『……今までありがとう。』
そう言い湖から出ようとし淵に近づくとザブン!っと音が聞こえ後ろを振り向くと、留三郎が湖に飛び込みザブザブと水をかき分けこちらに向かってくる。
留三郎が動く度に湖が波立ち、湖に反射した月夜がキラキラと光る。
目の前まで留三郎が来るとじっと私を見つめる。
そのまま彼の目を見つめ返すと私を自身の胸の中に抱き寄せる。
『留三郎……』
「………お前の過去は知っている。」
その事実に目を見開く。あれは限られた先生達しか知らない筈。ましてや同級生達には知り得ない情報の筈だ。だが動揺は悟られたくない。これは弱気な姿を見せたくない意地でもある。
『……そう。』
「親の仇だ。………憎いのは分かる。俺も境遇が一緒だったら同じ事をしていただろう……」
『……………』
「だからお前一人が抱えこむ必要はない。」
名前は基本一人で誰にも負ける事なく強く、人付き合いが良く人を寄せ付けるがその心は誰にも許してないと思う伏があった。
しかしその背景には、一人で強く生きていかなければいけない環境で育ち、それを当たり前として享受していた。
「…………今まで良く頑張った。」
その一言で自身の目から静かに涙が伝う。
気付いて欲しかった訳でも慰めて欲しかった訳でもない。
しかしようやく自身の肩の荷が降りたような感じに安堵し涙が止まらない。
『うっ………はっ………』
むせび泣き、涙を流す私をより抱き締める留三郎。そんな彼の胸にしがみつき静かに泣いてしまう。
今だけは彼の腕の中で安堵していいだろうか。