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その日はてんで駄目な日だった。
まず、
何年振りかの朝寝坊をして授業に遅刻しそうになり、
机の角で足をぶつけた。
急ぎながら今日がゴミ出しの日だと
気がつき、
慌てて収集場所に持って行ったが間に合わず、
その上中身をぶちまけた。
それらをようやく片し、
さぁやっと出掛けるぞという段になって足元をみるとそれぞれ違う靴を履いていた。
そんなこんなで私は授業を受けそびれてしまった。
いつもなら、
なんて馬鹿なことをしたのだろうと全力で思うところだけど、
少しホッとしている自分がいる。
何故なら今日が
「水曜日」だからだ。
“好きです”
あの日は一日中、
何故そんなことを言ってしまったのかと暴れ出したくなる羞恥と後悔の弾丸を避け切るのに必死だった。
その後、
帰って来そうにない彼に再び“弾丸”が
私を襲った。
その次の日は、
なんだか疲れて抜け殻のようになっていた。
そうしてやっと、
彼の不在を心配したり、
それに慣れたりするまで落ち着いた。
落ち着いたといっても、
“弾丸”がコンスタントにやってくるのは否めない。
でも初日にしてはかなり進歩したはずだ。
と、そんなこんなで
あの日から5日。
たった5日で人の感情はグルグルと変わる。
そして今、
朝のごたごたで疲れ切った私は、
大学の食堂でカフェオレを飲んで
平静を装いまくっている。
暖かい飲み物口にすると
否が応でもホッと息が溢れる。
彼のこと。
どうしてあんな風に
言ってしまったのだろう。
彼はきっと困っている。
彼の今までの仕草、対応を振り返り、
やはり彼は“私の気持ち”にいち早く気づいていたのだと思い、穴があったら入りたい衝動に駆られた。
そして、何も言わなかった
(あの場合、言わせなかったのかもしれないが)彼は
きっと私の言葉に答えてはくれないだろう。
“宿題”を出せば教えてくれると言っていたけれど‥。
そこで私はハッとする。
もしかして
“会いたくても会えない奴”とは、
彼の想い人ではないのかしら。
だとしたらもっと気まずい。
恋人も友人もいないと言っていたけれど、
フィンクスさんは絶対にお友達だし、
彼にそういう人物がいたとしても何ら不思議はない。
会えない奴。
だから彼は泣いていたのだろうか。
だから彼は私と距離を図ろうとしたのだろうか。
だから彼はー。
頭がクラクラとし、
何故か胸の中に風が吹き付けるようなスーッとした感覚がした。
そうなってしまった後は、
周りのざわめきも、色も
もう元には戻らない。
彼は他に愛する人がいるかもしれない。
そんな単純なこと一つで、
私は動かなくなっている。
カフェオレの効能もそこそこに、
私はじっと座っていた。
呆然と学食の二階で過ごしていたが、
お昼時になり人が多くなってきたことに気がついて、そろそろ席を立つことした。
カフェオレのカップをカウンターに戻しに行こうとした時、
心臓がぶち抜かれたような感覚がした。
成人男性としては低めの身長
目にかかるらしい長めの髪を、
鬱陶しそうに手ではらいながら歩いてくる黒いスーツの男。
彼である。
ああ、しまった。
彼を見つけてしまった。
彼は私には気付かず、食堂のおばちゃんに食券を渡している。
彼の視線をかいくぐって通り過ぎるには難しい位置。
私は懸命に気配を消して再び座った。
どうか気付かれませんように。
その願いが通じたのか、
彼は私とは反対側の入り口付近の席に座った。
私は彼の背中を見つめる形になる。
鉢合わせになることは免れたが、
これだと、より一層立ち上がることが困難だ。
困難ついでに私は彼を何気なく観察する。
意識したくはなかったが、
やはり気になってしまうというのが人間の道理である。
久しぶりの彼の姿。
その姿を包んでいるスーツはいつか私の失態で泥まみれになったものだ。
彼はそこに座り、コーヒーらしきものを飲んでいる。
綺麗な背中だな。
そんなスーツなんか着ていると、
普段はあまり意識していなかった8歳上の差を感じる。
そんなことを思っていると、
彼の前に一人、交換留学生らしき生徒がレポートを持ってやって来た。
待ち合わせかな。
非常勤なのに頼られるなんて。
よっぽど仕事に関しての人望があるんだなぁと感心する。
前にかけた男の子は真剣な面持ちで、
彼の言葉に頷いている。
騒めきから少しずつこちらに流れてくる彼の言葉は多分中国語だ。
それを話している時の彼の声は、
日本語で話すのと少しだけ違うような気がした。
当たり前かもしれないけれど、
より一層言葉のつむぎがスムーズな、くだけた印象があった。
スムーズなのに、
何故かカタコトの日本語で話している時の方が、大人っぽい。
不思議なのか当然なのか
まぁよく分からないんだけど。
暫くして、少しの談笑(たぶん)
を終えながら
お礼を言いながら生徒は去って行った。
そのもう少し後で、
彼も席を立つ。
帰るのかな。
そう思いながら見ていると、
彼がくるっと方向転換して私の方を見た。
「あ。」
「いつまで、こそこそみてるか。」
しまった、バレてたのか。
やっぱり千里眼だ。
いや、バレることはなんとなく分かっていた。
しかし、案ずるより産むが易し。
見つかるかもしれないと怯えるより、
見つかってしまうと何故か気が楽だった。
所在が無いので、手持ち無沙汰にしていると、
私の席に移動してきた。
「遅刻か。」
私の目の前に座りながらそう話す。
その声があまりにも柔らかいせいで、
私はすっかり参ってしまった。
「はい。その‥‥すいません。」
その様子を見て、フッと息の音が聞こえ、彼が笑っていることに気づく。
束の間、気まずい思いをしていたことを忘れそうになるが、
やはり完全に消えてはくれない。
さっきとは裏腹に、
ドキドキと何故か胸だけが煩い。
何か話さなければ怪しい。
と思ってはいるが、
彼を前にして私は完全にあがっていた。
どうしよう。
何か話さなきゃ。
何か話さなきゃ。
そんな私の様子に彼は気づいているらしいというのは、
彼が私を見つめている視線から分かる。
心配だけど、ほほえましい。
親が子供を見るようなそんな顔で彼は私を見ている。
「何か食うか。」
そんな私に、また柔らかい調子で
気遣ったように彼が言う。
「えっと、あ」
私が不明瞭ながらも返そうとした時、
携帯のバイブ音が鳴り響いた。
「すまん。」
そう言って、彼は椅子から少し体を逸らして電話に出た。
「ーはい。」
授業と同じく、平坦で無駄のない質量の声。
よそ行きの彼だ。
「いえ、大丈夫です。
はい、先程伺いました。ええ、それは仮契約の時に。」
仕事かな。
こういう格好でそういう電話をしていると、
やっぱりますます大人に見える。
「はい。じゃ、失礼します。」
ものの数分経たないうちに電話は切れた。
と同時にフーっと深いため息が聞こえる。
「敬語は疲れる。」
緊張の糸が解けたように彼が私に笑いかける。
「お仕事ですか。」
「いや、私用。」
「保証のない外人は信用ないね。」
「え?」
彼が口早にした台詞を聞き返したがそれは無駄だった。
「フケるか。」
「は?」
彼が全く違う話をするものだから、
私は反応に困ってしまう。
「今日お前仕事ないね。
ワタシもないし。」
「え?あ。いや、授業が。」
「ワタシの授業はサボたのに、
まだそんなこと言うか。」
「えっと。その。‥すみません。」
「ハハ。嵐はすぐ謝るな。」
「ほら行くぞ」と私の腕を引きながら、
私は彼に誘拐される。
まず、
何年振りかの朝寝坊をして授業に遅刻しそうになり、
机の角で足をぶつけた。
急ぎながら今日がゴミ出しの日だと
気がつき、
慌てて収集場所に持って行ったが間に合わず、
その上中身をぶちまけた。
それらをようやく片し、
さぁやっと出掛けるぞという段になって足元をみるとそれぞれ違う靴を履いていた。
そんなこんなで私は授業を受けそびれてしまった。
いつもなら、
なんて馬鹿なことをしたのだろうと全力で思うところだけど、
少しホッとしている自分がいる。
何故なら今日が
「水曜日」だからだ。
“好きです”
あの日は一日中、
何故そんなことを言ってしまったのかと暴れ出したくなる羞恥と後悔の弾丸を避け切るのに必死だった。
その後、
帰って来そうにない彼に再び“弾丸”が
私を襲った。
その次の日は、
なんだか疲れて抜け殻のようになっていた。
そうしてやっと、
彼の不在を心配したり、
それに慣れたりするまで落ち着いた。
落ち着いたといっても、
“弾丸”がコンスタントにやってくるのは否めない。
でも初日にしてはかなり進歩したはずだ。
と、そんなこんなで
あの日から5日。
たった5日で人の感情はグルグルと変わる。
そして今、
朝のごたごたで疲れ切った私は、
大学の食堂でカフェオレを飲んで
平静を装いまくっている。
暖かい飲み物口にすると
否が応でもホッと息が溢れる。
彼のこと。
どうしてあんな風に
言ってしまったのだろう。
彼はきっと困っている。
彼の今までの仕草、対応を振り返り、
やはり彼は“私の気持ち”にいち早く気づいていたのだと思い、穴があったら入りたい衝動に駆られた。
そして、何も言わなかった
(あの場合、言わせなかったのかもしれないが)彼は
きっと私の言葉に答えてはくれないだろう。
“宿題”を出せば教えてくれると言っていたけれど‥。
そこで私はハッとする。
もしかして
“会いたくても会えない奴”とは、
彼の想い人ではないのかしら。
だとしたらもっと気まずい。
恋人も友人もいないと言っていたけれど、
フィンクスさんは絶対にお友達だし、
彼にそういう人物がいたとしても何ら不思議はない。
会えない奴。
だから彼は泣いていたのだろうか。
だから彼は私と距離を図ろうとしたのだろうか。
だから彼はー。
頭がクラクラとし、
何故か胸の中に風が吹き付けるようなスーッとした感覚がした。
そうなってしまった後は、
周りのざわめきも、色も
もう元には戻らない。
彼は他に愛する人がいるかもしれない。
そんな単純なこと一つで、
私は動かなくなっている。
カフェオレの効能もそこそこに、
私はじっと座っていた。
呆然と学食の二階で過ごしていたが、
お昼時になり人が多くなってきたことに気がついて、そろそろ席を立つことした。
カフェオレのカップをカウンターに戻しに行こうとした時、
心臓がぶち抜かれたような感覚がした。
成人男性としては低めの身長
目にかかるらしい長めの髪を、
鬱陶しそうに手ではらいながら歩いてくる黒いスーツの男。
彼である。
ああ、しまった。
彼を見つけてしまった。
彼は私には気付かず、食堂のおばちゃんに食券を渡している。
彼の視線をかいくぐって通り過ぎるには難しい位置。
私は懸命に気配を消して再び座った。
どうか気付かれませんように。
その願いが通じたのか、
彼は私とは反対側の入り口付近の席に座った。
私は彼の背中を見つめる形になる。
鉢合わせになることは免れたが、
これだと、より一層立ち上がることが困難だ。
困難ついでに私は彼を何気なく観察する。
意識したくはなかったが、
やはり気になってしまうというのが人間の道理である。
久しぶりの彼の姿。
その姿を包んでいるスーツはいつか私の失態で泥まみれになったものだ。
彼はそこに座り、コーヒーらしきものを飲んでいる。
綺麗な背中だな。
そんなスーツなんか着ていると、
普段はあまり意識していなかった8歳上の差を感じる。
そんなことを思っていると、
彼の前に一人、交換留学生らしき生徒がレポートを持ってやって来た。
待ち合わせかな。
非常勤なのに頼られるなんて。
よっぽど仕事に関しての人望があるんだなぁと感心する。
前にかけた男の子は真剣な面持ちで、
彼の言葉に頷いている。
騒めきから少しずつこちらに流れてくる彼の言葉は多分中国語だ。
それを話している時の彼の声は、
日本語で話すのと少しだけ違うような気がした。
当たり前かもしれないけれど、
より一層言葉のつむぎがスムーズな、くだけた印象があった。
スムーズなのに、
何故かカタコトの日本語で話している時の方が、大人っぽい。
不思議なのか当然なのか
まぁよく分からないんだけど。
暫くして、少しの談笑(たぶん)
を終えながら
お礼を言いながら生徒は去って行った。
そのもう少し後で、
彼も席を立つ。
帰るのかな。
そう思いながら見ていると、
彼がくるっと方向転換して私の方を見た。
「あ。」
「いつまで、こそこそみてるか。」
しまった、バレてたのか。
やっぱり千里眼だ。
いや、バレることはなんとなく分かっていた。
しかし、案ずるより産むが易し。
見つかるかもしれないと怯えるより、
見つかってしまうと何故か気が楽だった。
所在が無いので、手持ち無沙汰にしていると、
私の席に移動してきた。
「遅刻か。」
私の目の前に座りながらそう話す。
その声があまりにも柔らかいせいで、
私はすっかり参ってしまった。
「はい。その‥‥すいません。」
その様子を見て、フッと息の音が聞こえ、彼が笑っていることに気づく。
束の間、気まずい思いをしていたことを忘れそうになるが、
やはり完全に消えてはくれない。
さっきとは裏腹に、
ドキドキと何故か胸だけが煩い。
何か話さなければ怪しい。
と思ってはいるが、
彼を前にして私は完全にあがっていた。
どうしよう。
何か話さなきゃ。
何か話さなきゃ。
そんな私の様子に彼は気づいているらしいというのは、
彼が私を見つめている視線から分かる。
心配だけど、ほほえましい。
親が子供を見るようなそんな顔で彼は私を見ている。
「何か食うか。」
そんな私に、また柔らかい調子で
気遣ったように彼が言う。
「えっと、あ」
私が不明瞭ながらも返そうとした時、
携帯のバイブ音が鳴り響いた。
「すまん。」
そう言って、彼は椅子から少し体を逸らして電話に出た。
「ーはい。」
授業と同じく、平坦で無駄のない質量の声。
よそ行きの彼だ。
「いえ、大丈夫です。
はい、先程伺いました。ええ、それは仮契約の時に。」
仕事かな。
こういう格好でそういう電話をしていると、
やっぱりますます大人に見える。
「はい。じゃ、失礼します。」
ものの数分経たないうちに電話は切れた。
と同時にフーっと深いため息が聞こえる。
「敬語は疲れる。」
緊張の糸が解けたように彼が私に笑いかける。
「お仕事ですか。」
「いや、私用。」
「保証のない外人は信用ないね。」
「え?」
彼が口早にした台詞を聞き返したがそれは無駄だった。
「フケるか。」
「は?」
彼が全く違う話をするものだから、
私は反応に困ってしまう。
「今日お前仕事ないね。
ワタシもないし。」
「え?あ。いや、授業が。」
「ワタシの授業はサボたのに、
まだそんなこと言うか。」
「えっと。その。‥すみません。」
「ハハ。嵐はすぐ謝るな。」
「ほら行くぞ」と私の腕を引きながら、
私は彼に誘拐される。