三日月
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
あれから数日、自宅には帰っていない。
「フェイ、お前もう帰れよ。」
軽薄な電子音がテレビから流れ、
カートを爆走させながら奴が呟く。
自分の存在が邪魔だというよりも、
むしろ案じているような声色。
もう何十回目かの同じ台詞を無視しながら、画面のピンク色の女を操作する。
2トラック目。
「いい加減、辛気臭そうな顔すんのやめろよっと。」
そう言いつつ背後に奴の車が迫る。
そいつにすかさずバナナを投げつける。
車は円を描いて後退する。
「うっわ。性格悪りぃ。」
日本のゲームは面白い。
3トラック目。
何試合目かのレース。
総合得点からみて、勝敗は五分五分。
このレースの勝ち負けで、今日の夕飯と酒、銭湯代の全てを持たなければいけないということにいつしか決まった。
ゴール目前。
今は自分の方が有利である。
アクセルをかけた時、奴が一言呟いた。
「嵐となんかあっただろ。」
コーナリングに失敗し、
同時に赤ひげ男がゴールインした。
「やりー!今日お前全部奢り!」
フィニッシュの文字が画面に踊り、
タイムが更新されていく。
軽く舌打ちをかましてからコントローラーを投げる。
タバコを咥え、ポケットにライターを探るが見当たらない。
「嵐と何あったんだよ。」
そう言いながら、奴はそのつけそびれたタバコに自分のジッポで火をつける。
「関係ないね。」
「なんだよ。
まさか告られでもしたか?」
男をひと睨みし、それには答えず紫煙をくゆらす。
「マジかよ…。」
何も言わなくとも伝わってしまうのは、こいつと長く関わり過ぎた所以だろう。
「なんて答えたよ。」
「何も。」
「…お前なぁ。」
男は深くため息をつき、呆れたと言わんばかりにその場に寝転ぶ。
お互い空を見つめて一時くつろぐ。
タバコは良い。
何もかもが馬鹿らしく思える。
「なぁ、フェイよぉ。」
「何か。」
「マジな女がいるっていいもんだぜ。」
「ロリコン。」
「はぁ!?」
ガバッと顔だけ起こして、何やら抗議を繰り返す。
「未成年交際は犯罪ですよ。オニイサン。」
奴の女が仕事先の生徒で、
まだ未成年だという事を引き合いに出して暫く遊ぶ。
「あー。はいはい。
うっせーうっせー。」
男が寝返りを打ち、捨て台詞を吐く姿を盗み見ながら
こいつもこいつで、
“マジな女関連”に対して右往左往していた時代があったことを思い出す。
奴はあの時、
その女1人の為にさほどない筈の頭を懸命に抱えて唸っていた。
その女1人の為に悩み、胸を痛めー
そして今、全ての旅が終わったかのように、
奴は柔らかな顔で先の台詞を吐いている。
当時は、何てアホでくだらない事に
己を費やすのかと本気で思った。
全く理解し得ないことだった。
でも、それは
もう何年も前の話だ。
「なぁ、フェイ。この辺でもういいじゃねぇかよ。」
静かな部屋で原付が遠くで鳴る。
気怠げな夕方。
「そね。お前からかてもしょうもないしな。」
「嵐ならおもしれぇか。」
「死ね。」
近くの座布団を奴の顔に投げつける。
再び小さな乱闘がはじまる。
関節技、絞技、見よう見まねの十字固め。
ああ、くだらない。
「ギブギブギブ」という捻り潰されるような声が聞こえ、いい加減解放してやる。
「じゃなくてよ…
って分かってるだろ。」
男が降参だと両手を広げて仰向ける。
分かっている。
腐った過去も、こそばゆい思い出も、こいつには話したことなど一切ない。
けれど、こいつは知っているのだ。
はぐらかすのも面倒になり、
しかし、観念して本音を話すのも癪だと感じ、
頭に浮かんだ適当な文法を組み立てる。
「…自分の心配、してるといいね。」
「おぅおぅ、是非そうしてぇもんだな。
自殺未遂の身寄り無しのダチが目の前で悩んでなけりゃよ。」
いつぞやの事を蒸し返される。
鬱陶しい。
よぎる言葉と重なって、
“それは嘘だ”
と自分の中の誰かが呟く。
「嵐に預けろよ。全部吐いちまえって。惚れてんだろ?」
仰向けのまま、両腕を頭の後ろで組み直して男は呟く。
「……違う。」
「拒まれるとでも思ってんのかよ。」
「違うね。」
「じゃあ何だっつんだよ。」
拒まれる?
いや、そうじゃない。
違う。
寝転んだ自分の顔の上に、
重たい座布団が降ってくる。
「フェイ、お前もう帰れよ。」
軽薄な電子音がテレビから流れ、
カートを爆走させながら奴が呟く。
自分の存在が邪魔だというよりも、
むしろ案じているような声色。
もう何十回目かの同じ台詞を無視しながら、画面のピンク色の女を操作する。
2トラック目。
「いい加減、辛気臭そうな顔すんのやめろよっと。」
そう言いつつ背後に奴の車が迫る。
そいつにすかさずバナナを投げつける。
車は円を描いて後退する。
「うっわ。性格悪りぃ。」
日本のゲームは面白い。
3トラック目。
何試合目かのレース。
総合得点からみて、勝敗は五分五分。
このレースの勝ち負けで、今日の夕飯と酒、銭湯代の全てを持たなければいけないということにいつしか決まった。
ゴール目前。
今は自分の方が有利である。
アクセルをかけた時、奴が一言呟いた。
「嵐となんかあっただろ。」
コーナリングに失敗し、
同時に赤ひげ男がゴールインした。
「やりー!今日お前全部奢り!」
フィニッシュの文字が画面に踊り、
タイムが更新されていく。
軽く舌打ちをかましてからコントローラーを投げる。
タバコを咥え、ポケットにライターを探るが見当たらない。
「嵐と何あったんだよ。」
そう言いながら、奴はそのつけそびれたタバコに自分のジッポで火をつける。
「関係ないね。」
「なんだよ。
まさか告られでもしたか?」
男をひと睨みし、それには答えず紫煙をくゆらす。
「マジかよ…。」
何も言わなくとも伝わってしまうのは、こいつと長く関わり過ぎた所以だろう。
「なんて答えたよ。」
「何も。」
「…お前なぁ。」
男は深くため息をつき、呆れたと言わんばかりにその場に寝転ぶ。
お互い空を見つめて一時くつろぐ。
タバコは良い。
何もかもが馬鹿らしく思える。
「なぁ、フェイよぉ。」
「何か。」
「マジな女がいるっていいもんだぜ。」
「ロリコン。」
「はぁ!?」
ガバッと顔だけ起こして、何やら抗議を繰り返す。
「未成年交際は犯罪ですよ。オニイサン。」
奴の女が仕事先の生徒で、
まだ未成年だという事を引き合いに出して暫く遊ぶ。
「あー。はいはい。
うっせーうっせー。」
男が寝返りを打ち、捨て台詞を吐く姿を盗み見ながら
こいつもこいつで、
“マジな女関連”に対して右往左往していた時代があったことを思い出す。
奴はあの時、
その女1人の為にさほどない筈の頭を懸命に抱えて唸っていた。
その女1人の為に悩み、胸を痛めー
そして今、全ての旅が終わったかのように、
奴は柔らかな顔で先の台詞を吐いている。
当時は、何てアホでくだらない事に
己を費やすのかと本気で思った。
全く理解し得ないことだった。
でも、それは
もう何年も前の話だ。
「なぁ、フェイ。この辺でもういいじゃねぇかよ。」
静かな部屋で原付が遠くで鳴る。
気怠げな夕方。
「そね。お前からかてもしょうもないしな。」
「嵐ならおもしれぇか。」
「死ね。」
近くの座布団を奴の顔に投げつける。
再び小さな乱闘がはじまる。
関節技、絞技、見よう見まねの十字固め。
ああ、くだらない。
「ギブギブギブ」という捻り潰されるような声が聞こえ、いい加減解放してやる。
「じゃなくてよ…
って分かってるだろ。」
男が降参だと両手を広げて仰向ける。
分かっている。
腐った過去も、こそばゆい思い出も、こいつには話したことなど一切ない。
けれど、こいつは知っているのだ。
はぐらかすのも面倒になり、
しかし、観念して本音を話すのも癪だと感じ、
頭に浮かんだ適当な文法を組み立てる。
「…自分の心配、してるといいね。」
「おぅおぅ、是非そうしてぇもんだな。
自殺未遂の身寄り無しのダチが目の前で悩んでなけりゃよ。」
いつぞやの事を蒸し返される。
鬱陶しい。
よぎる言葉と重なって、
“それは嘘だ”
と自分の中の誰かが呟く。
「嵐に預けろよ。全部吐いちまえって。惚れてんだろ?」
仰向けのまま、両腕を頭の後ろで組み直して男は呟く。
「……違う。」
「拒まれるとでも思ってんのかよ。」
「違うね。」
「じゃあ何だっつんだよ。」
拒まれる?
いや、そうじゃない。
違う。
寝転んだ自分の顔の上に、
重たい座布団が降ってくる。