茉莉花
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「木々と花のゾーン」
そのまんまな名前のついた場所で、
私達は立ち止まる。
本当に周りには木しかなくて、
一瞬、2人して遭難してしまったような
気分になった。
少し歩いた目の先に
「茉莉花」と小さな看板が立てかけてある。
花という字はついているものの、
そこには枯葉があるだけで花も何もついていない。
この漢字、なんて読むんだっけ。
私が疑問符を浮かべているのに気づいたのか、
彼が口を開く。
「ジャスミンね。それ。」
顎でくいっとさっきの看板を指した。
「そうなんですか。
じゃあ春咲きあたりですかね、咲くの。」
「知らん。」
きっぱりとそう言い切る。
彼はどうでも良さそうだ。
「漢字、詳しいんですね。」
「民謡にあたからな。」
「え?」
「鳳飛飛。」
「え?フェイフェイ?何?」
「自分で調べろ。」
そう笑って、私の頭をわしわしと掴む。
やめてください、と言いながら
私達はまたふざけ合う。
暫くどうでもいいようなじゃれ合いをした後で
彼がまた口を開いた。
「違たら忘れてくれていいけど…」
さっきとはまた違う真剣な彼の声色に、
私は気を張る。
「はい。」
彼を見る。
少しも視線を泳がせず、私を見据えていた。
「お前、
ワタシのことで辛気臭くなてないか?」
鼓動が身体中に鳴り響く。
図星だった。
「そか。」
何も言えない私に、彼は納得する。
「やぱりお前は分かりやすい。」
そう言って橋から降りようとしながら背中を向け、彼は口早に言った。
「お前が感じてること、自信持てていいね。
多分当たてる。でも、気にするな。」
そうして、先にまた歩こうとする。
まただ。
大人ぶって。
本当の心の中は寂しいくせに。
子供のくせに。
私にだって、それぐらいは分かるのに。
「気にしますよ。」
自分でも驚くぐらい、
きりりとした声が出たことに動揺する。
彼は振り向いて私を見る。
驚いた顔。
私は続ける。
「そんなの、気にしちゃいますよ。
だって私…」
その時浮かんだ言葉に、
頭の中が真っ白になった。
どうしよう、私…。
それを何とか堪え、
冷静になろうと努力したが、
理性を働かせると、その言葉はますます出づらいものだと気づいた。
ああ、なんてことだろう。
振り切ろうとしていた感情が、
大きなボールになってみぞおちに落ちてくる感覚だった。
でも、今までの行動は、
その言葉一つで全て説明できてしまった。
気づかないようにしていたのだ。
けれど、もう、
やっぱり私は気づいてしまった。
そこまでドワーッと頭の中で垂れ流した後で、
私は彼を恐る恐る見る。
まるでいきなり酸っぱいものを口に入れられたみたいに切なくて、少しおかしな表情をしていた。
“お前は分かりやすい”
突然彼の言葉が蘇り、慌てて背を向ける。
まずい、彼に悟られては絶対にまずい。
そうしたからといって、バレない可能性がゼロになるなんてことはないと思ったが、もう私はそれどころではなかった。
全くもって馬鹿野郎だ。
気づいてしまった。
「きゅっ急用を思い出したのでっ!」
どもりながら話したが、何て言ったのか自分でもよく分からない。
「は?」
彼が間の抜けた声を出す。
私はそれを無視して踵を返し、歩き出す。
こんなことは馬鹿だ、幼稚だ、おかしいことだ。
そう思っていても、
湧き上がる羞恥に私は殺されそうだった。
ああ、なんてことだろう。
私、私。
「おい!」
彼が口調を強めて追ってくる。
私も負けじと足を早める。
顔が熱い。
私は今、本当に猿になっていることだろう。
「待てて!」
焦る彼の声。
だけど、待てない。
これじゃ昨日見た夢と反対だ。
広い公園の中を走る2人。
まるで何かのコントみたい。
振り切ろうと試みたものの、
足の速い彼にそうそううまく逃げ切ることは出来ず、
私はついに腕を引っ張られる。
右の腕だけが後方にぐんと伸びる。
私はまだ彼に背を向けたままだ。
「待てていてるだろ。」
私は全速力で逃げたつもりで息が上がっているのに、
彼は少しも変わらず、そのままの質量の声で話した。
「とりあえず落ち着くね。」
ああもう。
どうせ分かっていたんだ、最初から。
「…気づいてたんですか。」
「…知らんね。」
「…気づいてたんでしょう。」
「…知らん方がいいね。」
「…気づいてたんだ。」
「…気づかない筈ないだろ。」
「最悪。」