太船湖その②
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少年は考えていた。
老人が死に、日本にいこうと思い立ち、
なけなしの金を引っ張り出すようにして
母国を離れた時も
そこで、また仕事を見つけ、
知り合いも幾人か作り、
暇つぶしの様に女と戯れていた時も
それにもいよいよ耐えきれなくなり
押し潰されそうな孤独に1人打ち悶え、
それを周囲の目から
悟られぬように努めていた時も
そうして、何年か経ち
自分なりに“安定した”毎日を
送るようになってからも、
少年はずっと同じことを考えていた。
「自分には心に穴がある。」
それでも少年は
その辺りの人間と同じ様に歳を重ね、
色んなことに折り合いがつけられるようになっていた。
自分には穴がある。
それが分かったのだから、
それなりに暮らしていけばいいではないか。
幸い、人との距離は上手く取りすぎるぐらいの技量が備わっていたし、
時として気を遣わず、
ぞんざいに扱える度胸と
それを見極める洞察力も持っていた。
するとどうだろう。
別段不自由のない暮らしができるではないか。
金を貯め、毎日をそこそこ暮らし、
それでいい。と。
しかし、夜になると
とてつもない風が心に吹き付け、毎度となく見る老人の夢に
少年は
本当にこれでいいわけがない
ということも思い知っていた。
それが分かるぐらいに
少年は随分大人になっていたし、
穴の原因が何か分からないまでも、
世の中にはそういう奴がたまにいて、
きっと自分は色々な環境の不備から
“歪みがある人間”になったのだろう
という事を、
読み漁った本のカケラや、
何より周囲に散りばめられた屈託のない笑顔から、
少年は十分理解していた。
環境の不備。
少年の過去を遡れば、
それはいくらでも挙げることが出来た。
そしてそれは、
多くはないが決して珍しくもないことも、
少年はよく知っていた。
「俺は心のネジが足りねぇんだ。」
日本に来てから数年後に、
ちょっとした仕事先で出会った男が
ある日少年に打ち明けた。
少年はその時、色んなものが腑に落ちた。
成る程、
俺にもそういう気持ちがわかる。
と。
けれど、それは何となく言わなかった。
ただ黙って同じ空間でタバコを吸っていた。
それだけで十分だ。
陳腐な言葉など何の意味も持たない。
大丈夫だ。
1人じゃない。
なんて言葉は、掛けたくないし掛けられたくなどない。
少年にとって、そういう人間は、
一番遠い、信用できない人間だった。
男にも、自分と同じ考えを持っていることは顔を見てすぐに分かった。
そういうような考えを頭で繰り回し、
少年は割り切っていながらも、
頭の隅では同じ想いがこびりついていた。
自分には穴がある。
そして強烈なこの穴は、
まだ通り過ぎれないと。