太湖船
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ある日の夕暮れ、
少年はいつものように老人の元に訪れた。
いつもと変わらない汚い小屋、
そこに見慣れない影が数人あった。
近づいてみて、少年は頭を何かで殴られたような衝撃を感じた。
老人が、数人の若者に殴られていたのだ。
日頃の鬱憤を弱者に放ち、
自分の気持ちを抑えようとするその行為。
少年もよく目の当たりにしたものだ。
血を流し倒れている老人に、
若者は幾度となく暴行している。
それから、少年の記憶はあまりない。
気づけば老人よりも真っ赤に染まった若者達が気を失って倒れていた。
そこで我に帰り、老人の方へと近寄った。
「お前、馬鹿か。
そんなことしても何にもならん。」
蚊の鳴くような小さな声で、
絞り出すように老人は言った。
「待ってろ、すぐ病院に。」
「要らない。助ける価値なんかないね。」
信じたくないが、
老人は今にも息絶えそうだった。
「止めろ!兎に角喋るな!」
少年は必死で叫び、急いで止血を施した。
しかし、見よう見まねでやったそれは、何の気休めにもならなかった。
「あの本全部お前にやる。
だから沢山勉強しろ。」
「馬鹿はお前だ!」
「これもやる。全部やる。
きと高く売れるね。」
そう言ってライターを見せた。
それは赤く濡れて、少し欠けていた。
「やめろ!俺はまだっ!」
教えてほしいことがあったのに。
心の穴は完全には塞がれていないのに。
「うるさい。眠れんね。」
そう言いながら老人は、
眠る前に必ず口ずさんだあの歌を歌った。
柔らかく、温かかったあの歌。
そこで少年は自分の本当の気持ちに気づいた。
違う、そうじゃない。
俺はただ。
「‥寂寞。」
さみしいんだ。
それが老人に耳に届いたのか、
それは誰にも分からない。
“どんなことがあても、
それはいつか通りすぎる。
ゆるやかに、止まらないで。”
どんなことがあっても?
本当に?
極限まで押しつぶされ、
それでも死に切れずもがく蟻のような気分の時も?
本当に?
少年は頭の中で老人の言葉と歌を反芻した。
「‥糞。」
誰に向けられるでもない言葉を吐き、
少年は、涙も出さず濁った海を睨んでいた。
少年はいつものように老人の元に訪れた。
いつもと変わらない汚い小屋、
そこに見慣れない影が数人あった。
近づいてみて、少年は頭を何かで殴られたような衝撃を感じた。
老人が、数人の若者に殴られていたのだ。
日頃の鬱憤を弱者に放ち、
自分の気持ちを抑えようとするその行為。
少年もよく目の当たりにしたものだ。
血を流し倒れている老人に、
若者は幾度となく暴行している。
それから、少年の記憶はあまりない。
気づけば老人よりも真っ赤に染まった若者達が気を失って倒れていた。
そこで我に帰り、老人の方へと近寄った。
「お前、馬鹿か。
そんなことしても何にもならん。」
蚊の鳴くような小さな声で、
絞り出すように老人は言った。
「待ってろ、すぐ病院に。」
「要らない。助ける価値なんかないね。」
信じたくないが、
老人は今にも息絶えそうだった。
「止めろ!兎に角喋るな!」
少年は必死で叫び、急いで止血を施した。
しかし、見よう見まねでやったそれは、何の気休めにもならなかった。
「あの本全部お前にやる。
だから沢山勉強しろ。」
「馬鹿はお前だ!」
「これもやる。全部やる。
きと高く売れるね。」
そう言ってライターを見せた。
それは赤く濡れて、少し欠けていた。
「やめろ!俺はまだっ!」
教えてほしいことがあったのに。
心の穴は完全には塞がれていないのに。
「うるさい。眠れんね。」
そう言いながら老人は、
眠る前に必ず口ずさんだあの歌を歌った。
柔らかく、温かかったあの歌。
そこで少年は自分の本当の気持ちに気づいた。
違う、そうじゃない。
俺はただ。
「‥寂寞。」
さみしいんだ。
それが老人に耳に届いたのか、
それは誰にも分からない。
“どんなことがあても、
それはいつか通りすぎる。
ゆるやかに、止まらないで。”
どんなことがあっても?
本当に?
極限まで押しつぶされ、
それでも死に切れずもがく蟻のような気分の時も?
本当に?
少年は頭の中で老人の言葉と歌を反芻した。
「‥糞。」
誰に向けられるでもない言葉を吐き、
少年は、涙も出さず濁った海を睨んでいた。
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