太湖船
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少年には空洞があった。
その空洞は主に胸の中心にあるもので、
自分を捨てていった親とも呼べない人物をたまに思い出す時や、
施設の室長やルームメイト達に殴りつけられている時、
その空洞は徐々に範囲を広げていくのだった。
そしてその穴から、感情が抜け落ちていくことに少年は気づいた。
楽しいこと、嬉しいこと、
怖いこと、悲しいこと、
その他諸々全ての感情が、
自分のズタボロになった洋服のポケットから小銭がポロポロ落ちていくように、
何処かに消えてしまうのだ。
しかし、これは便利なことだと少年は思った。
もう何度誰かに蹴られようとも、
何度罵られようとも何も感じる必要がないし、
それに楽しいことがなくなれば、
次に悲しみが来た時に絶望を感じずに済む。
なんて便利な穴なんだろうと。
しかし、便利は便利だが、
何故自分にそんな穴が出来たのか、
少年は不思議でたまらなかった。
見たところ、同じ様な穴を抱えている人はいない。
それは物理的なものではないし、
一瞥しただけでそれと分かるわけなどないのだが、
それでも「同じような人」は見つけられなかった。
何故、自分には穴があるのだろう。
少年は、いつかそれを解明したいと思いながら施設で毎日を過ごしていた。
施設では、少年のような“不遇”な子供が生活し、
そしてある年齢になると教育の一環として、物書き、算数の他に哲学を教えることになっていた。
そんな“不遇”な子供たちに、
少しでも多くの“選択肢”を与えるためだと
施設運営の為の募金活動で大人達が事あるごとに叫んでいたが、
少年にはよく分からなかった。
それでも、それらを学べるということは、
この薄暗く息苦しい空間の中で少年が唯一解放される行為だった。
哲学とはなんなのか少年はその時まで知らなかったが、どうやら人の心と強く関係している分野らしかった。
少年は、それに酷く興味を持った。
人の心、つまりは感情のあれこれ。
それを学べば、自分の穴が何なのか、分かるような気がしたからだ。
そこで少年は色んなことを知り、
自らでも本を読んで蓄えた。
しかしどれだけ勉強し、施設の講師より賢くなっても、
自分のこの空洞がなんなのか、
分かる時は来なかった。
穴は成長を止めることはなく、
ますます大きく育っていった。
成長したのは穴だけではない。
少年もいつしか、青年と呼ばれる歳になっていた。
しかし、身体が昔よりいくらか大きくなっても
心の中は、まだあの小さく薄暗い少年のままだった。
少年は、青年になる少し前に
あの施設からは出て働いていた。
施設から出た時、少年は何かに解放されたような気持ちになった。
もしかしたらこれが抜け落ちていた感情の一部で、
これは嬉しいという事なのかもしれない。
そう思ったが、そのもっと下の深いところに
冷えた暗い何かが居座っていて、
これは完全に嬉しいことでも無いのかもしれないと思い、
そうすると穴がまた広がった。
その空洞は主に胸の中心にあるもので、
自分を捨てていった親とも呼べない人物をたまに思い出す時や、
施設の室長やルームメイト達に殴りつけられている時、
その空洞は徐々に範囲を広げていくのだった。
そしてその穴から、感情が抜け落ちていくことに少年は気づいた。
楽しいこと、嬉しいこと、
怖いこと、悲しいこと、
その他諸々全ての感情が、
自分のズタボロになった洋服のポケットから小銭がポロポロ落ちていくように、
何処かに消えてしまうのだ。
しかし、これは便利なことだと少年は思った。
もう何度誰かに蹴られようとも、
何度罵られようとも何も感じる必要がないし、
それに楽しいことがなくなれば、
次に悲しみが来た時に絶望を感じずに済む。
なんて便利な穴なんだろうと。
しかし、便利は便利だが、
何故自分にそんな穴が出来たのか、
少年は不思議でたまらなかった。
見たところ、同じ様な穴を抱えている人はいない。
それは物理的なものではないし、
一瞥しただけでそれと分かるわけなどないのだが、
それでも「同じような人」は見つけられなかった。
何故、自分には穴があるのだろう。
少年は、いつかそれを解明したいと思いながら施設で毎日を過ごしていた。
施設では、少年のような“不遇”な子供が生活し、
そしてある年齢になると教育の一環として、物書き、算数の他に哲学を教えることになっていた。
そんな“不遇”な子供たちに、
少しでも多くの“選択肢”を与えるためだと
施設運営の為の募金活動で大人達が事あるごとに叫んでいたが、
少年にはよく分からなかった。
それでも、それらを学べるということは、
この薄暗く息苦しい空間の中で少年が唯一解放される行為だった。
哲学とはなんなのか少年はその時まで知らなかったが、どうやら人の心と強く関係している分野らしかった。
少年は、それに酷く興味を持った。
人の心、つまりは感情のあれこれ。
それを学べば、自分の穴が何なのか、分かるような気がしたからだ。
そこで少年は色んなことを知り、
自らでも本を読んで蓄えた。
しかしどれだけ勉強し、施設の講師より賢くなっても、
自分のこの空洞がなんなのか、
分かる時は来なかった。
穴は成長を止めることはなく、
ますます大きく育っていった。
成長したのは穴だけではない。
少年もいつしか、青年と呼ばれる歳になっていた。
しかし、身体が昔よりいくらか大きくなっても
心の中は、まだあの小さく薄暗い少年のままだった。
少年は、青年になる少し前に
あの施設からは出て働いていた。
施設から出た時、少年は何かに解放されたような気持ちになった。
もしかしたらこれが抜け落ちていた感情の一部で、
これは嬉しいという事なのかもしれない。
そう思ったが、そのもっと下の深いところに
冷えた暗い何かが居座っていて、
これは完全に嬉しいことでも無いのかもしれないと思い、
そうすると穴がまた広がった。