気づいた音
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トクントクン
彼の胸の音が聞こえる。
しっかりした胸板、ごつごつした手。
彼の匂いをかぐのは
今日で何度目になるだろう。
最初は驚いて何も考えられなかったけれど、
今は何故かすごく安心している。
人に触れるってこんなに安心することだったっけ。
こんな狭い部屋で2人で突っ立ったまま抱き合ってるなんてなんだかおかしな光景だろうな。
そんなような事を思う。
トクントクン
不意に彼の様子が気になる。
彼はまだ、
苦しそうな顔をしているのだろうか。
こうして抱き合っていると、お互いの表情は見えない。
そのせいか、言葉がするすると出てくるような気がする。
普段は踏み留めている言葉でさえも。
「‥苦しそうな顔、してたから。」
さっきの会話の続きのような、独り言のような台詞を私は呟く。
「‥いや。」
彼の声が私の耳の後ろで響く。
「‥‥ね。」
くぐもってよく聞こえないが
何か辛そうだった。
「何?」
彼から少し身体を離す。
そうして目が合う瞬間
「見るな。」
と言われた。
すぐに彼は顔を伏せたから、どんな表情をしているかは分からなかったけれど、声は一層悲痛に聞こえた。
悲痛。
彼の声は、
決して大きくも辛そうにも聞こえない。
淡々として、静かで
それが余計に切なくて悲しかった。痛かった。
「私、色んな事を知りました。」
彼は黙っている。
こんなに近くにいるのに、何故かどこにもいないみたいだ。
どこにもいない彼に私はどんどん声を出す。
「本当に、色んな事知ったんです。
人と食べるご飯が美味しいこととか、
嫌いだった漫画が実はとっても面白いこととか
‥人のいない部屋が‥さみしいこととか。」
どんどん、どんどん私は話す。
「私、もしかしたら人より感情がないのかなって思ってた。
傷つかないし、泣かないし、怒らないし、感動なんてしたことなかったから。」
「けど、そんなの嘘だったんですよね。
隠して、気づかないようにしてただけだった。」
いない彼を、会ったばかりの彼をたくさんたくさん頭に浮かべる。
その時の自分も思い返す。
怒ったり、泣いたり、忙しそうだ。
「自分にこんなにたくさん感情があったなんて知らなかった。」
「‥うまく言えないけど、でもずっとそんなこと考えてました。」
声が震えている。
それでも私は続ける。
「‥それから‥」
トクントクン
いない彼。
頭は酷く冷静で、でも身体だけが熱い。
「それから‥‥」
彼に腕を回しながら言う。
彼はいない、けれど彼はすぐ側にいる。
「あなたのこと、ずっと考えてました。」
涙の訳も、言葉の理由も、歌も、
全部分からないけど、ずっと。
「‥考えてました。」
彼の胸の音が聞こえる。
しっかりした胸板、ごつごつした手。
彼の匂いをかぐのは
今日で何度目になるだろう。
最初は驚いて何も考えられなかったけれど、
今は何故かすごく安心している。
人に触れるってこんなに安心することだったっけ。
こんな狭い部屋で2人で突っ立ったまま抱き合ってるなんてなんだかおかしな光景だろうな。
そんなような事を思う。
トクントクン
不意に彼の様子が気になる。
彼はまだ、
苦しそうな顔をしているのだろうか。
こうして抱き合っていると、お互いの表情は見えない。
そのせいか、言葉がするすると出てくるような気がする。
普段は踏み留めている言葉でさえも。
「‥苦しそうな顔、してたから。」
さっきの会話の続きのような、独り言のような台詞を私は呟く。
「‥いや。」
彼の声が私の耳の後ろで響く。
「‥‥ね。」
くぐもってよく聞こえないが
何か辛そうだった。
「何?」
彼から少し身体を離す。
そうして目が合う瞬間
「見るな。」
と言われた。
すぐに彼は顔を伏せたから、どんな表情をしているかは分からなかったけれど、声は一層悲痛に聞こえた。
悲痛。
彼の声は、
決して大きくも辛そうにも聞こえない。
淡々として、静かで
それが余計に切なくて悲しかった。痛かった。
「私、色んな事を知りました。」
彼は黙っている。
こんなに近くにいるのに、何故かどこにもいないみたいだ。
どこにもいない彼に私はどんどん声を出す。
「本当に、色んな事知ったんです。
人と食べるご飯が美味しいこととか、
嫌いだった漫画が実はとっても面白いこととか
‥人のいない部屋が‥さみしいこととか。」
どんどん、どんどん私は話す。
「私、もしかしたら人より感情がないのかなって思ってた。
傷つかないし、泣かないし、怒らないし、感動なんてしたことなかったから。」
「けど、そんなの嘘だったんですよね。
隠して、気づかないようにしてただけだった。」
いない彼を、会ったばかりの彼をたくさんたくさん頭に浮かべる。
その時の自分も思い返す。
怒ったり、泣いたり、忙しそうだ。
「自分にこんなにたくさん感情があったなんて知らなかった。」
「‥うまく言えないけど、でもずっとそんなこと考えてました。」
声が震えている。
それでも私は続ける。
「‥それから‥」
トクントクン
いない彼。
頭は酷く冷静で、でも身体だけが熱い。
「それから‥‥」
彼に腕を回しながら言う。
彼はいない、けれど彼はすぐ側にいる。
「あなたのこと、ずっと考えてました。」
涙の訳も、言葉の理由も、歌も、
全部分からないけど、ずっと。
「‥考えてました。」