「では、この時間で簡単に講師の先生を紹介しようと思います。」

入ってください。
と教授が呼ぶと、
その人は部屋に入ってきた。


絶句。

なぜなら、その人物は

「ども。」

あいつだったからだ。


あのど失礼な名もなき中国人。
昨日部屋に転がり込んできた男。
人の家で飯を食いタバコまで吸っていった最低人物。

奴が今教壇の上に立っていたのだ。

「ちょ、ちっさくなーい？」

「え？女の人？」

「いや、男だろ。」

「わりと美形くない？」

色んな野次が飛び交うが、
そんなことはどうでもいい。

「えー、では、先生。簡単に自己紹介を。」
と騒がしい中を教授が促す。

奴は教室を一回り眺め、
そしてホワイトボードに向かう。

シンと教室が静まり返る。
それだけの動作なのに、周りを黙らせる何かがあった。

そしてボードに大きく、
漢字を二文字走り書く。


“飛弾”


そしてマイクを受け取り、口を開く。

「これは私の名前です。
フェイタンと読みます。」

何が名もなき中国人だ。
全然名前あるじゃないか。

固まっている私に気づいていないのか自分の方に視線は向けず、
奴は続ける。

「お察しかと思いますが、私の生まれは中国です。日本には5年程住んでいます。
来週から三ヶ月、教授の代わりに教鞭を取ります。それでは、よろしく。」

そこまで言うと、丁度いいタイミングでチャイムが鳴り、授業は終わりと相成った。

さっきの緊張がほぐれ、
皆が口々に話している。

「えー、フェイタン先生だってー。
なんか好みかもー！」

「ちょっと怖くない？」

その間、私は動けなかった。

ちょっと待ってよ。

なんで、あいつが授業にいるんだ。

来週から三ヶ月？

ていうかめちゃくちゃ流暢に日本語話せてるじゃないの！

そんなことをグルグル考えていると、
いつの間にか教授や、生徒、そしてあいつも教室にはいなくなっており、
残っているのは自分だけだった。