逡巡
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
新しい匂いに落ち着かないが、
身体が疲れていたためすぐに瞼が重くなり、
そのまま私は眠りついた。
慣れない部屋で眠ったからか、
それともいつもより早く眠りすぎたからか
私は朝とも夜ともつかない時間に
目を覚ました。
今この部屋には、私しかいない筈だった。
しかし、その右側には
もう一つ動かない山ができている。
畳の上で体を縮こめて眠る小さな山。
それは寝息を立てて静かに眠る彼だった。
「‥なんで。」
確かにここは彼の家なのだし、
眠っていても不思議はない。
しかし今は状況が違う。
彼は友人の家で泊まると言って
出て行ったのではなかったか。
ストーブの効力もすっかり消え失せた部屋で、
私は一人思案していた。
そんなことはつゆ知らず、
彼は横で寒さに耐えながら眠りこけている。
ここで布団に入らないところが、
彼の一応の紳士ぶりというのか何なのか。
とりあえず私は考えるのをやめ、
彼に布団をかけ、ストーブに火をつけた。
変な時間に起きてしまい
目はとても冴えており、
再度眠れる気配は全くない。
ストーブに手をかざしながら、暖をとる。
少しの物音でも気づくのか、
私が動作を進めると彼は小さく唸った。
けれどそれは彼を起こすまでには
至らなかったらしく、
彼はまた眠りの世界に入っていく。
ストーブの灯りに照らされて、
彼の周りがぼんやりと映る。
白く頼りげないその寝顔に
どうしようもなく胸が痛んだ。
まただ。
と思ったのは、その顔が歪んだ束の間だった。
初めは表情のみだった“それ”が
次第に形を変えて、直接的になっていく。
「‥寂寞」
ジーモー
その意味は、ついこの間理解したばかりだ。
低く微かな声は、
何故だか私に大きく響く。
彼の眉根がより強く寄せられた時、
私は耐えられなくなって
彼に触れた。
彼が私にいつもしていた様に、
私はそっと頭を撫でた。
どうしてだか分からないが、
そうしたくてたまらなかった。
彼の細い黒い髪。
見かけよりもサラサラで、
思ったより柔らかかった。
二、三度手を往復させた時、
彼は目を見開いて私の腕を強く掴んだ。
痛みに私は顔を歪める。
彼はそれに気づき、すぐに腕を離した。
「‥すまん。」
私も急なことで驚いたが、
彼も酷く驚嘆している。
「いえ、こちらこそ。」
特に謝る様なことはしていないと
言った後になって思ったが、
咄嗟に出てしまったのだ。
「‥あ。」
その時、
もっと驚かなければならないことが起きた。
一瞬、何のことだか分からなかった。
人は驚くと、一時その状況を把握できず、
後々になってそれが次第についてくる。
時が止まったようになり、
関係のないところから目が行くのだ。
最初に見たのは壁、
それからストーブの灯り、そうして布団、
その後に彼の姿がやたらに
近くて見えないことに気が付いた。
ようやく彼が私を抱き締めていると理解したのは
彼が私の背中にきつく腕を回した後だった。
身体が疲れていたためすぐに瞼が重くなり、
そのまま私は眠りついた。
慣れない部屋で眠ったからか、
それともいつもより早く眠りすぎたからか
私は朝とも夜ともつかない時間に
目を覚ました。
今この部屋には、私しかいない筈だった。
しかし、その右側には
もう一つ動かない山ができている。
畳の上で体を縮こめて眠る小さな山。
それは寝息を立てて静かに眠る彼だった。
「‥なんで。」
確かにここは彼の家なのだし、
眠っていても不思議はない。
しかし今は状況が違う。
彼は友人の家で泊まると言って
出て行ったのではなかったか。
ストーブの効力もすっかり消え失せた部屋で、
私は一人思案していた。
そんなことはつゆ知らず、
彼は横で寒さに耐えながら眠りこけている。
ここで布団に入らないところが、
彼の一応の紳士ぶりというのか何なのか。
とりあえず私は考えるのをやめ、
彼に布団をかけ、ストーブに火をつけた。
変な時間に起きてしまい
目はとても冴えており、
再度眠れる気配は全くない。
ストーブに手をかざしながら、暖をとる。
少しの物音でも気づくのか、
私が動作を進めると彼は小さく唸った。
けれどそれは彼を起こすまでには
至らなかったらしく、
彼はまた眠りの世界に入っていく。
ストーブの灯りに照らされて、
彼の周りがぼんやりと映る。
白く頼りげないその寝顔に
どうしようもなく胸が痛んだ。
まただ。
と思ったのは、その顔が歪んだ束の間だった。
初めは表情のみだった“それ”が
次第に形を変えて、直接的になっていく。
「‥寂寞」
ジーモー
その意味は、ついこの間理解したばかりだ。
低く微かな声は、
何故だか私に大きく響く。
彼の眉根がより強く寄せられた時、
私は耐えられなくなって
彼に触れた。
彼が私にいつもしていた様に、
私はそっと頭を撫でた。
どうしてだか分からないが、
そうしたくてたまらなかった。
彼の細い黒い髪。
見かけよりもサラサラで、
思ったより柔らかかった。
二、三度手を往復させた時、
彼は目を見開いて私の腕を強く掴んだ。
痛みに私は顔を歪める。
彼はそれに気づき、すぐに腕を離した。
「‥すまん。」
私も急なことで驚いたが、
彼も酷く驚嘆している。
「いえ、こちらこそ。」
特に謝る様なことはしていないと
言った後になって思ったが、
咄嗟に出てしまったのだ。
「‥あ。」
その時、
もっと驚かなければならないことが起きた。
一瞬、何のことだか分からなかった。
人は驚くと、一時その状況を把握できず、
後々になってそれが次第についてくる。
時が止まったようになり、
関係のないところから目が行くのだ。
最初に見たのは壁、
それからストーブの灯り、そうして布団、
その後に彼の姿がやたらに
近くて見えないことに気が付いた。
ようやく彼が私を抱き締めていると理解したのは
彼が私の背中にきつく腕を回した後だった。