昨日はうまく眠れなかった。

起きると大振りの雨が屋根や窓を打ち付けている。

まぁ、彼も大人だしそう気に留まることも無いのかもしれない。

しかし、そう自分に声をかけても、
消化しきれない思いが溜まっていく。

いつか、全てわかる時が来るんだろうか。

“ぜってー惚れてるって”

そうなのか。
彼が私に、なんてことはないに決まってるが。

私は、どうなんだろう。

人を好きになったことなど、
20数年の短い人生の中で、今まであっただろうか。

クラスメイト達は、
みんなこぞってそういう話に集中していたな。
友情、恋愛、青春、学校生活。

ベッドに寝転がったまま、
色んなことが蘇ってくる。

私は、好きとかそういう気待ちが、
分からないのかもしれないな。

そもそも友情すらも感じることは少ないのに、
ましてや恋やら愛だのに関して、
自分の手には負えるわけがない。

巧言令色（こうげんれいしょく）、

これも私が心を開かない
不誠実さのせいなのだろうか。

「好きって‥何。」

雨音は、さっきよりも増して強くなり、
ポツリポツリと、
私の部屋から水滴の音が聞こえた。

「げ。また雨漏りだ。」

ボロアパートは雨漏りがつきものだ。
私は跳ね起き、常備しているバケツやら桶やらを出して方々へ並べる。

「‥あの人の部屋、雨漏りとか大丈夫かな。」


そう案じてみたのだが、
そもそも彼の部屋を見る術もないため、
心配することを諦めた。


自室の雨漏り対策が終了し、
この間買っておいた週刊誌を手に取る。

彼に“親父”と悪態をつかれたあの本だ。

パラパラとめくっていると、
あるコラムに目を見張った。

“好意と心理からみる哲学” 飛弾

「あ。」
仕事って、これだったんだ。

締め切りが迫っていると言っていたから、
これは先月の仕事のものなのだろう。

「へー。」

やっぱり頭良いんだ。

淡々とかかれているそれは、
ウィットに富んだ表現でとても面白いものだった。

色んな仕事を難なくこなす表の彼と、その裏側であの涙とのギャップに、
何か彼の危うさを感じてしまう。

どう育ったら、
ああいう人になるんだろう。

雨はシャワーの様にボロアパートに容赦なく降り注ぐ。