日光の猿
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仕事が終わり、制服を着替えにバックに戻る。
「関寺さん、
あなた今日何か男の人と話してたでしょう。」
しまった。パート長と出くわしてしまった。
今日は本当に散々だ。
「いえ、まぁ。」
「恋人か何か知らないけど、
赤い顔して、やめて頂戴よ。
公私混合されちゃ困るんだから。」
他人の目から見ても、
私の顔は赤かったらしい。
「はぁ。すみません。」
恋人ではないんだけれど。
余計なことは言わず、とりあえず謝る。
巧言令色は私にはまだ高いハードルだ。
小言はそれで終わったので、
失礼しますと告げ、出口へ急ぐ。
通路にある洗面台の鏡を見てみる。
なんの変哲も無い、いつもの自分の顔だった。
「日光の猿か。」
「関寺さん、終わったなら早く帰ってよね。」
言われなくとも早く帰るっつの。
「お疲れ様でした。」
それだけ言って表に出た。
たくさん動いて温まった体には、
冷たい夜の風が嬉しい。
そういえば、今日のご飯は何にしようか。
一人でもちゃんと食わないといけない。
彼の言葉を思い出す。
それと同時にフィンクスさんの言葉も。
「お前に惚れてんだよ。」
絶対嘘だ。そんなことない。
そう思いながら、
また猿になっているのではと不安になる。
アパートへ戻り、彼の部屋を見てみたが、
電気は消されている。
多分どこかに行ったんだろう。
自分も部屋に帰り
すっかり体が冷え切った体を温めるために
すぐさま暖房をつける。
食べる前に、とりあえず一息しよう。
そうしてヤカンに湯を沸かした。
彼のいない自分の部屋は、
いつになく広く感じてしまい、
そしてとっても静かで落ち着かない。
ずっと前からこうして一人でやってきたのに、
人間は慣れると同時に、
以前の感覚は忘れてしまうらしい。
「私、どうやって生活してたんだっけ。」
沈黙が耐えられなくなり、
普段あまりつけないテレビをつけた。
そのテレビも、何故だか音が嫌に響いた。
手持ち無沙汰になり、
携帯を触ってみたりする。
メールも電話も誰からも来るわけがないのは分かっているが、
何かそうしないといけない気がした。
そこでふと思い出す。
あの漫画のタイトルと、
それから彼の寝言の意味。
あれを調べてみようと思ったのだ。
まるでストーカーまがいの事をしているような
後ろめたい気持ちになったが、
何もすることがないのだからと自分に言い聞かせた。
私は携帯をタップし、
とりあえず、漫画のタイトルから打ち込む。
そうすると、あの漫画のイラストや考察、ネタバレ、
そんなものがいろいろ雑多に出て来るだけで、
なんの収穫にもならなかった。
残りは彼の寝言である。
「んー。なんて打てばいいんだろ。」
ジーモーで出て来るんだろうか。
そう思いながら一応
「ジーモー 中国語」などで検索してみる。
私の聞き取りが稚拙なのか、
全くヒットしなかった。
あの時彼は、なんと言っていたんだろう。
苦しい‥とも違う気がするし、
もっとこう、悲しくて、切なくて‥
そう思い、顔を上げて天井を仰ぐ。
どうしたって静かな部屋は、
だんだん孤独がこみ上げて来る。
「‥さみしい。」
小さな部屋に自分の声がポツリと響き
ハッとする。
ーもしかしたら、あるいは。
検索ワードを入れてみる。
すると、案の定。
「寂寞」jìmò
“チイモウ”と本来は発音するらしいそれは、
「さみしい、かなしい」
という意を成す言葉らしい。
「‥さみしい。」
彼は、さみしいと言っていたのだ。
何があるのか、何があったのか。
私は何故知りたいのか、
どうしてこんなことを思うのか。
全て何も分からないが、
この胸の痛みだけは事実としてそこにある。
「さみしい‥か。」
『本日はここ日光東照宮に来ています!
“見ざる言わざる聞かざる”でお馴染みの日光の猿ですが、
今注目のデートスポットとなっているんですね!』
テレビな中には空虚な猿が、
動かずこちらを覗いていた。
「関寺さん、
あなた今日何か男の人と話してたでしょう。」
しまった。パート長と出くわしてしまった。
今日は本当に散々だ。
「いえ、まぁ。」
「恋人か何か知らないけど、
赤い顔して、やめて頂戴よ。
公私混合されちゃ困るんだから。」
他人の目から見ても、
私の顔は赤かったらしい。
「はぁ。すみません。」
恋人ではないんだけれど。
余計なことは言わず、とりあえず謝る。
巧言令色は私にはまだ高いハードルだ。
小言はそれで終わったので、
失礼しますと告げ、出口へ急ぐ。
通路にある洗面台の鏡を見てみる。
なんの変哲も無い、いつもの自分の顔だった。
「日光の猿か。」
「関寺さん、終わったなら早く帰ってよね。」
言われなくとも早く帰るっつの。
「お疲れ様でした。」
それだけ言って表に出た。
たくさん動いて温まった体には、
冷たい夜の風が嬉しい。
そういえば、今日のご飯は何にしようか。
一人でもちゃんと食わないといけない。
彼の言葉を思い出す。
それと同時にフィンクスさんの言葉も。
「お前に惚れてんだよ。」
絶対嘘だ。そんなことない。
そう思いながら、
また猿になっているのではと不安になる。
アパートへ戻り、彼の部屋を見てみたが、
電気は消されている。
多分どこかに行ったんだろう。
自分も部屋に帰り
すっかり体が冷え切った体を温めるために
すぐさま暖房をつける。
食べる前に、とりあえず一息しよう。
そうしてヤカンに湯を沸かした。
彼のいない自分の部屋は、
いつになく広く感じてしまい、
そしてとっても静かで落ち着かない。
ずっと前からこうして一人でやってきたのに、
人間は慣れると同時に、
以前の感覚は忘れてしまうらしい。
「私、どうやって生活してたんだっけ。」
沈黙が耐えられなくなり、
普段あまりつけないテレビをつけた。
そのテレビも、何故だか音が嫌に響いた。
手持ち無沙汰になり、
携帯を触ってみたりする。
メールも電話も誰からも来るわけがないのは分かっているが、
何かそうしないといけない気がした。
そこでふと思い出す。
あの漫画のタイトルと、
それから彼の寝言の意味。
あれを調べてみようと思ったのだ。
まるでストーカーまがいの事をしているような
後ろめたい気持ちになったが、
何もすることがないのだからと自分に言い聞かせた。
私は携帯をタップし、
とりあえず、漫画のタイトルから打ち込む。
そうすると、あの漫画のイラストや考察、ネタバレ、
そんなものがいろいろ雑多に出て来るだけで、
なんの収穫にもならなかった。
残りは彼の寝言である。
「んー。なんて打てばいいんだろ。」
ジーモーで出て来るんだろうか。
そう思いながら一応
「ジーモー 中国語」などで検索してみる。
私の聞き取りが稚拙なのか、
全くヒットしなかった。
あの時彼は、なんと言っていたんだろう。
苦しい‥とも違う気がするし、
もっとこう、悲しくて、切なくて‥
そう思い、顔を上げて天井を仰ぐ。
どうしたって静かな部屋は、
だんだん孤独がこみ上げて来る。
「‥さみしい。」
小さな部屋に自分の声がポツリと響き
ハッとする。
ーもしかしたら、あるいは。
検索ワードを入れてみる。
すると、案の定。
「寂寞」jìmò
“チイモウ”と本来は発音するらしいそれは、
「さみしい、かなしい」
という意を成す言葉らしい。
「‥さみしい。」
彼は、さみしいと言っていたのだ。
何があるのか、何があったのか。
私は何故知りたいのか、
どうしてこんなことを思うのか。
全て何も分からないが、
この胸の痛みだけは事実としてそこにある。
「さみしい‥か。」
『本日はここ日光東照宮に来ています!
“見ざる言わざる聞かざる”でお馴染みの日光の猿ですが、
今注目のデートスポットとなっているんですね!』
テレビな中には空虚な猿が、
動かずこちらを覗いていた。