日光の猿
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「スーパーマル得」では、
“冬の訪れ!大出血セール!”
が本日開催されるらしい。
パート長は出勤前のミーティングで、「冬の訪れ」の部分を物凄く力んで発音した。
持ち場に出ると、
冬の訪れというより寧ろ夏祭りのような騒々しさで、野菜類や調味料、ティッシュペーパーを奪い合っている。
「みなさん!どうか1つ!
ソフトに!ソフトにお願いします!」
店長のそんな叫びも
お客の耳には届いていない。
セールの最中は、逆にレジに並ぶ人が少ないので楽といえば楽である。
我が子に美味しいものを食べさせるため、
自分のため、
みんな何かのために必死である。
そんな喧騒を端で見ながら、
私も仕事を淡々とこなす。
「よぉ。昨日ぶり。」
と見知った声が頭に響いた。
「あ。」
顔を上げると、昨日銭湯で出会った男がいた。フィンクスさんだ。
そういえば、ここの近くに住んでいるって言っていたし、
今までもきっとどこかで会っていたかもしれない。
世間て狭い。
「バイトか。精出んな。」
とレジにカゴを置いた。
「いらっしゃいませ。」
目をやると、
缶ビール3本に出来合いのお弁当、あとスルメ。
どうやら料理はしないらしい。
「セール中って知らなかったから参ったぜ。」
と弱々しく笑いながら頭を掻いた。
「ふふ、確かに大騒ぎ。」
私も笑みをこぼす。
レジはまだまだ混みそうにない。
「あいつは、仕事か?」
スキャンしている私に向かって彼は聞く。
「そうみたいです。今日もなんか夕飯はいらないって置き手紙して行きました。」
「え!あいつと飯毎日食ってんの? 」
そっか、彼は知らないんだ。
余計なこと言わなきゃよかったかも。
しかし、言ってしまったものは仕方がない。
「まぁ‥紆余曲折あってですね。」
「ふーん。やっぱ惚れてのかもな。」
そう言われると思った。
「だから私は‥。」
「いや、じゃなくて。」
と言いながら私を遮る。
「へ?」
「あいつがだよ。
あいつがお前に惚れてんだよ。」
全ての商品を打ち込み、
「小計」のボタンを押す。
4点で1058円。
さすが、スーパーマル得だ。
「おい、聞いてんのか。」
「え、いや。
それはないかと。」
「いや、だってよ、あいつ今までんなことなかったぜ、
それに置き手紙とか、ぜってーありえねぇ!」
ありえねぇのところに巻き舌を加えて彼は力説する。
そうなのか、よく分かんないんだけどな。
「あ、お会計1058円です。」
「お前、照れてんな。」
と言いながら、野口英世を私に差し出す。
「照れてません。
あ、五千円お預かりいたします。
お返し3942円です。
ありがとうございましたー。」
「ちょ、待てってお前。」
カゴを突き出そうとした私を
必死でせき止める。
「何ですか。」
「いや、お前。日光の猿みてぇ。」
と笑う彼はなんだかとっても嬉しそうだ。
「やめて下さい。」
「んじゃ、まぁお熱くやってくれや。」
「な。」
そう言いながら、彼は帰って行ってしまった。
彼が私に?
ありえない、だって私を教えるために。
ちゃんとそう、説明してやればよかった。
いつの間にやらセールは終わり、
気づくと長蛇の列が出来ている。
とりあえず、これを全てサバかなければ。
「お次のお客様どうぞー!」
私は声を張り上げた。
“冬の訪れ!大出血セール!”
が本日開催されるらしい。
パート長は出勤前のミーティングで、「冬の訪れ」の部分を物凄く力んで発音した。
持ち場に出ると、
冬の訪れというより寧ろ夏祭りのような騒々しさで、野菜類や調味料、ティッシュペーパーを奪い合っている。
「みなさん!どうか1つ!
ソフトに!ソフトにお願いします!」
店長のそんな叫びも
お客の耳には届いていない。
セールの最中は、逆にレジに並ぶ人が少ないので楽といえば楽である。
我が子に美味しいものを食べさせるため、
自分のため、
みんな何かのために必死である。
そんな喧騒を端で見ながら、
私も仕事を淡々とこなす。
「よぉ。昨日ぶり。」
と見知った声が頭に響いた。
「あ。」
顔を上げると、昨日銭湯で出会った男がいた。フィンクスさんだ。
そういえば、ここの近くに住んでいるって言っていたし、
今までもきっとどこかで会っていたかもしれない。
世間て狭い。
「バイトか。精出んな。」
とレジにカゴを置いた。
「いらっしゃいませ。」
目をやると、
缶ビール3本に出来合いのお弁当、あとスルメ。
どうやら料理はしないらしい。
「セール中って知らなかったから参ったぜ。」
と弱々しく笑いながら頭を掻いた。
「ふふ、確かに大騒ぎ。」
私も笑みをこぼす。
レジはまだまだ混みそうにない。
「あいつは、仕事か?」
スキャンしている私に向かって彼は聞く。
「そうみたいです。今日もなんか夕飯はいらないって置き手紙して行きました。」
「え!あいつと飯毎日食ってんの? 」
そっか、彼は知らないんだ。
余計なこと言わなきゃよかったかも。
しかし、言ってしまったものは仕方がない。
「まぁ‥紆余曲折あってですね。」
「ふーん。やっぱ惚れてのかもな。」
そう言われると思った。
「だから私は‥。」
「いや、じゃなくて。」
と言いながら私を遮る。
「へ?」
「あいつがだよ。
あいつがお前に惚れてんだよ。」
全ての商品を打ち込み、
「小計」のボタンを押す。
4点で1058円。
さすが、スーパーマル得だ。
「おい、聞いてんのか。」
「え、いや。
それはないかと。」
「いや、だってよ、あいつ今までんなことなかったぜ、
それに置き手紙とか、ぜってーありえねぇ!」
ありえねぇのところに巻き舌を加えて彼は力説する。
そうなのか、よく分かんないんだけどな。
「あ、お会計1058円です。」
「お前、照れてんな。」
と言いながら、野口英世を私に差し出す。
「照れてません。
あ、五千円お預かりいたします。
お返し3942円です。
ありがとうございましたー。」
「ちょ、待てってお前。」
カゴを突き出そうとした私を
必死でせき止める。
「何ですか。」
「いや、お前。日光の猿みてぇ。」
と笑う彼はなんだかとっても嬉しそうだ。
「やめて下さい。」
「んじゃ、まぁお熱くやってくれや。」
「な。」
そう言いながら、彼は帰って行ってしまった。
彼が私に?
ありえない、だって私を教えるために。
ちゃんとそう、説明してやればよかった。
いつの間にやらセールは終わり、
気づくと長蛇の列が出来ている。
とりあえず、これを全てサバかなければ。
「お次のお客様どうぞー!」
私は声を張り上げた。