湯船に浸かり、考える。

あの人‥フィンクスさんて言ったっけ、
彼とどういう関係なんだろう。

そういえば、友達も恋人もいないって言ってたのにな。

「いるじゃないのよ‥友達。」
湯の中で唸ると、そこから小さな泡が生まれ、すぐに弱々しく消えていった。

もう大分前の何気ない台詞をまだ覚えているなんて。
彼の一挙一動に、動揺し、それをまた反芻したり、そんな自分の行為を思い、複雑な気持ちになる。

ふと手元を見ると、さっき彼が手に書いた言葉が少しも薄れずそこにあった。

「こうげんれいしょく、すくなしじん。」

誠実か。
言葉を選ばないという点においては彼は誠実の鏡みたいなものだろう。
でもきっと、私に言わない色んなことが、彼の中にはあるのだろう。
そう思うと、また靄がかかる。

彼を知りたい。
何故そう思うのかわからないまま、ただ時だけが過ぎていく。
そうして自分の自制と好奇心に挟まれて、矛盾した違和感が取り巻くのだ。

今日は長風呂する気も起きなくて、
身体を洗ってすぐに風呂場を後にする。

彼も随分と長風呂するのを思い出し、
きっと誰も広間には来ていないだろうと想像した。