「フィン。」
と彼が呼んだその男はその呼びかけに気づき、同様に驚いた顔をして言った。

「おっ？フェイじゃんか。
久しぶりだな。元気か。」

「ぼちぼちね。」

銭湯の灯りに照らされて、男の風貌がよく分かる。
金髪にオールバックでジャージ姿。
鋭い目つきの上には、普通あるはずの部分が欠けている。
失礼かもしれないが、一言で言うと柄が悪い。
そう思いながら、黙って2人の会話を聞く。

「最近どーよ。聞いたぜ、
柄にもなく大学講師だってな。」

「どーもこーも。
それに別に柄になくない。」

彼の表情からは何を思っているか窺い知ることはできないが、
とりあえず男の方は久々である再会を喜んでいるようだった。

それから男は私の方を一瞥し、続けて言う。
「お前女連れて銭湯かよ。
今日日のデートってそんなもんなのか。」

デート。
私がその言葉に反論しようと顔を向けるも、
それより先に彼が口を開いた。

「羨ましいか。」
そう言って上目遣いに男に笑う。

またこの人は話をややこしくさせようとして‥。

「んなわけねーだろ。ま、いいや。
お前すぐ話ごまかすからな。」
と男が頭をかく。

やっぱりそうなのか。
彼にされてきた事を色々思い出して納得する。
それにしても、彼には誤魔化さないといけないことがあるのだろうか。

ずっと黙っている私に向かって男は言った。
「おっと忘れてた。
俺、フィンクスよろしくな。」
そう言って私の前に手を出した。

顔は怖いが、悪い人ではないようだ。

フィンクスって本名なのかな。
この人も外国人とか？
そう思ったが、別段興味がなかったので気に留めず、私も名乗ることにする。

「関寺嵐です。」

握手を、と思い手を出した時、
彼が言葉を発した。

「こんなとこで話してたら風邪引くね。
ささと風呂。」

「ま、そーだな。」

そこで交流が遮断される。

風邪って、あんな寒いところで寝てたくせに。

しかし、
確かにここは長話する場所にはそぐわない。

そうしてゾロゾロと3人で中へと入った。