「ハハ、また百面相。」
そう言いながら彼は煙をくゆらせる。

「もともとこういう顔なんです。」

「ハハ、面白いな。
嵐笑たら意外と美人なのに
もと笑えばいいね。」

「意外は余計です。」

「じゃ、嵐は美人ね。」

その時ズクッと心臓が痛む。

「‥美人ではありません。」

「お前はどちらになても否定するね。
そんなことしてたら人生つまらなくなるね。」
窓に向かって白い煙を口から出す。

人が悩んでいるというのにこいつは。

「ま、別にいいね。じゃ、帰る。」

あの彼の部屋を思い出す。
この季節に暖房もきかず
冷え切った布団も何もない彼の部屋。

「あの、寒くないんですか？
あそこでどうやって寝てるんですか。」

「どうて、適当に。」
と彼は不思議そうだ。
あんなに縮こまって寝てたくせに。

「適当って、本当に風邪引いちゃいますよ。」

「じゃ、泊めろ。」
と即答される。

寒さに凍える彼を想像して、
ぬくぬくと眠れる程、私も神経は太くない。
それぐらいには、彼との距離は近いはずだ。
それに、
悪夢にうなされる彼をもう見たくはない。

「‥今日だけなら。
ていうか、暖房器具揃えたらどうですか。」

「考えとくね。」
そう言いながらも
全然そのつもりはなさそうだ。

家事も終え、
あまり遅くならないうちにと
例の銭湯へと足を延ばす。

隣にいる、背丈の低い彼を見ながら、
もう昔からこうしてきたような感じがして、
私は慌てて瞬きする。

銭湯の扉をあけようと手にかけたとき、
彼が「あ。」声を出した。

彼の顔は、私の方を向いているが
目線はそれよりも後ろに向いている。
其方に顔を向けてみると、
そこには大柄の男がいた。

「フィン。」
彼はそう言い、少し驚いた顔をした。