人の目奴の目
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まだ、自分の皿を片付け終わっていない私に向かって彼は言う。
「んな名残惜しそうな顔するなね。」
「なっ、名残惜しくなんかありません。」
「ハハ、ま、そんな嵐に
孔子のありがたい言葉をくれてやる。」
どこまで偉そうなんだか
それから彼はキッチンから戻り、
床に転がっている私のペンケースから
油性ペンを取り出して
私の左腕をギュッと掴む。
急に触れられて驚く私をよそに、
手のひらに何か字を記した。
手元を見ると、彼の文字で大きく
“巧言令色、鮮なし仁”と書かれていた。
「ちょ!何やってるんですか。」
「こうげんれいしょく、すくなしじん
と読むね。」
「‥どういう意味ですか、これ。」
「心にもないお世辞を言たり、
自分を取り繕うものに誠実な人間はいない。
という意味ね。」
その言葉にどきりとする。
きっと彼は今日の大学でのことを
言いたいのだろう。
黙っている私に彼は続ける。
「人の目なんか気にするな。
嵐のやりたいようにやてみろ。」
「‥別に、これがやりたいことです。」
「じゃ、何故そんなにいつも不服そうか。
何故あんなにビクビクしてる。」
彼が私を一心に見る。
彼の瞳の中に移る私は、
言われた通り怯えていて不満気に見えた。
周囲と距離を取り始めたのだろうと考えを巡らせると、それは随分と遡らなくてはいけなかった。
“だからお前はダメなんだ”
“身の丈にあった将来を
選択するのが大切なのよ”
“楽に学校決めちゃったらいいじゃん”
忘れていたことまで蘇ってきそうで、
私は彼から目を逸らそうとした。
しかし、真剣そのものの彼の目が
どうしても私には背けられなかった。
「何がそうさせてるのか知らないけど。別に気負わなくてもいいね。
嵐はちゃんと自分で生きてるね。」
「‥頑張ってみます。」
そうは言ったものの自信は全くない。
自分で選択したくせに、
今でも思い出すなど、
私がその道で迷っている証拠だ。
「よし。」
と言って、彼が頭を撫でる。
何度か、同じことをされているのに
この瞬間にはいつも慣れない。
「ワタシには、泣きわめいたりできるのにな。
変な奴。」
そう言って立ち上がり窓に寄る。
タバコを吸うんだろう。
「泣き喚いてません!それにあなたが度がすぎるほど失礼だからです!」
「ハハ、言えるじゃないか。」
全然、こたえてないようだ。
私も立ち上がり、食器を片付ける。
蛇口を捻りながら、
彼の言葉を頭の中で復唱する。
“ちゃんと自分で生きてる”か。
うん。そうだな。と今は思っておこう。
彼の失礼な言葉も、
結局は自分を動かす力になっていることに
気がついて失笑する。
その時、今日の彼を思い出した。
私は側で黙って座ることしか出来なかった。
そこまで思って、自制をかける。
踏み込む必要はあるのだろうか。
だけど、
自分の心は十二分に
彼に踏み込まれている気がする。
でも、彼と私はただのお隣さん。
それ以上でもそれ以下でもない。
その後「でもしかし」を幾度となく繰り返し、
頭の中が混乱してくる。
「んな名残惜しそうな顔するなね。」
「なっ、名残惜しくなんかありません。」
「ハハ、ま、そんな嵐に
孔子のありがたい言葉をくれてやる。」
どこまで偉そうなんだか
それから彼はキッチンから戻り、
床に転がっている私のペンケースから
油性ペンを取り出して
私の左腕をギュッと掴む。
急に触れられて驚く私をよそに、
手のひらに何か字を記した。
手元を見ると、彼の文字で大きく
“巧言令色、鮮なし仁”と書かれていた。
「ちょ!何やってるんですか。」
「こうげんれいしょく、すくなしじん
と読むね。」
「‥どういう意味ですか、これ。」
「心にもないお世辞を言たり、
自分を取り繕うものに誠実な人間はいない。
という意味ね。」
その言葉にどきりとする。
きっと彼は今日の大学でのことを
言いたいのだろう。
黙っている私に彼は続ける。
「人の目なんか気にするな。
嵐のやりたいようにやてみろ。」
「‥別に、これがやりたいことです。」
「じゃ、何故そんなにいつも不服そうか。
何故あんなにビクビクしてる。」
彼が私を一心に見る。
彼の瞳の中に移る私は、
言われた通り怯えていて不満気に見えた。
周囲と距離を取り始めたのだろうと考えを巡らせると、それは随分と遡らなくてはいけなかった。
“だからお前はダメなんだ”
“身の丈にあった将来を
選択するのが大切なのよ”
“楽に学校決めちゃったらいいじゃん”
忘れていたことまで蘇ってきそうで、
私は彼から目を逸らそうとした。
しかし、真剣そのものの彼の目が
どうしても私には背けられなかった。
「何がそうさせてるのか知らないけど。別に気負わなくてもいいね。
嵐はちゃんと自分で生きてるね。」
「‥頑張ってみます。」
そうは言ったものの自信は全くない。
自分で選択したくせに、
今でも思い出すなど、
私がその道で迷っている証拠だ。
「よし。」
と言って、彼が頭を撫でる。
何度か、同じことをされているのに
この瞬間にはいつも慣れない。
「ワタシには、泣きわめいたりできるのにな。
変な奴。」
そう言って立ち上がり窓に寄る。
タバコを吸うんだろう。
「泣き喚いてません!それにあなたが度がすぎるほど失礼だからです!」
「ハハ、言えるじゃないか。」
全然、こたえてないようだ。
私も立ち上がり、食器を片付ける。
蛇口を捻りながら、
彼の言葉を頭の中で復唱する。
“ちゃんと自分で生きてる”か。
うん。そうだな。と今は思っておこう。
彼の失礼な言葉も、
結局は自分を動かす力になっていることに
気がついて失笑する。
その時、今日の彼を思い出した。
私は側で黙って座ることしか出来なかった。
そこまで思って、自制をかける。
踏み込む必要はあるのだろうか。
だけど、
自分の心は十二分に
彼に踏み込まれている気がする。
でも、彼と私はただのお隣さん。
それ以上でもそれ以下でもない。
その後「でもしかし」を幾度となく繰り返し、
頭の中が混乱してくる。