あのまま、授業だけは何とかこなし、
決めた通り教務室には寄らずにアパートへ帰った。

部屋の中で1人枕を抱えうだる。

どうしたってモヤモヤが治らない。

こういう時に心理学を専攻しておいて良かったと思いたいのだが、

苛立った時は身体を動かすのが吉
だという言葉に家事をしようとしても、
気分転換の為にはテレビが良いからと見ようとしても
それは何の役にも立たなかった。

こんな些細なことで動揺するなんて、
本当にこの先やっていけるのだろうか。

「あなたにはできない‥か。
本当そうかも。」

ますます自信がなくなってくる。

色々な感情の波が押し寄せて潰されそうだ。

布団にうずくまる。
これしか耐える方法がもう思いつかない。

「頑張るといいね」

急にまたあの声が頭に響く。

「だからっ！」

また振り出しに戻ろうとする頭を振る。

平静に平静に。

自分をそう押し込めている時に
どうせまた彼がやって来たりするのだろう。

ガチャッと扉が開く。

こういう予感は嫌でも当たるのは何故だろう。

鍵かけとけば良かった。

「おい、お前なぜ来ないか。待てたのに。」

ま、いいね。
なんて言ってる呑気な彼の顔を見てたら、
おさめようとしていた感情が降って湧く。

私は無視を決め込む。


「おい、どした。具合悪いか。」
心配そうに私の顔を覗き込む。

何でそんな顔するのよ。

「‥してですか。」

「なにか？」
彼が眉根を寄せる。

「どうして私に構うんですか。
そりゃ教えて欲しいって言ったのは私だけど‥
でも、あんなの‥‥
いえ、私が気にするのが悪いんです‥
でも‥。」

感情がもつれて上手く話せない。

「おい。何言てるか分からないよ。」
彼が尚も私の顔を見てそう言う。

言っちゃ駄目だって分かってるのに。

「どうしてあの時話しかけたりしたんですか！
せっかく平和に過ごそうとしてたのに。
ただでさえ私友達いないんですよ！」

感情が高ぶって泣いてしまう。

いい歳こいて情けない‥。

1人でもやっていけるって思ってたのに。
自分が1人なこと、気にしてる。

馬鹿みたいだ。

頭の中は冷静なのに、
何故かどんどん涙が出る。

「‥。」
驚いたような彼の顔。

引いてるかな‥。
そりゃそうか
２０歳過ぎの女にいきなり泣かれれば、
私だってびっくりする。

そう思ってもどんどん言葉が溢れてしまう。

「授業だとあんなに普通に仕事できてるし！
ちゃんと話せるくせに私には偉そうだし！」

何言ってるんだ、私。

そんな私を見て、
合点がいったと言うように彼が口を開く。

「嵐。」

彼が私の名前を呼ぶ。
その時心臓が破裂しそうになるぐらいに
大きく跳ねた。

そんな私をよそに彼は続ける。

「気づかなくて、すまなかた。
一応他人を装って見たけど駄目だたね。」

女はすごいな
なんて言いながら笑っている。

だんだん鼓動が弱まり、言葉を返せるようになる。

「‥貴方と私は他人です。」
鼻が詰まって変な声だ。

「ま、そうね。
それとプライベートはこの話し方よ。
あれは仕事用。物凄く気、つかてるね。
授業の後もうヘトヘト。」

そういって惚けた顔をするもんだから、
つい笑ってしまった。

全く。
泣いた私も私だけどさ。

「お、笑た笑た。」
そう言って、私の頭をワシワシと撫でる。

胸が軋む。
これで何度目だ。

けれど、
いつの間にか心のしこりが消えている。

何でだろう。
また疑問が増えてしまった。

「髪が乱れるからやめてください。」

そう言っても、
彼は笑って私の頭を撫で続けた。