「今日はここまで。」

チャイムが鳴り、
皆が忙しなく筆記具を片付ける。

「すげー面白かったよな。」

「ずっとあの先生でいいよ。
なんだっけフェイタン先生？」

「そうそ、怖いと思ったら全然だし。」

とばっちり好印象を受けてるみたいだ。

まぁね。素直に講義は面白かったし勉強になった。

でも、何か腑に落ちない。

私の前でのあの不毛かつ失礼な態度は何だ。

悶々としながら私も片付けをし、教室を出ることにする。

彼の方を見ると、教卓の前で人だかりができている。
その集団は主に女子で形成されていた。
彼は色々質問を受けてるみたいだ。

出席カードに早々と学籍番号と名前を記名し、席を立つ。

「センセー、ここのところなんですけど。」
ある女生徒が彼に声をかける。
その目がハートがいっぱいだ。

「ああ、何ですか。」
彼はそれに丁寧に答える。

敬語ちゃんと使えるじゃないか。

それを見て、更に胸の中にしこりができる。

なぜイライラしなくちゃならないのか。

また自分の理解できない感情に苛まれる。

さっさと出よう。
そう思い、人混みの隙間からカードをなんとか教卓に置き、その場を去る。

その時

「あ、関寺さん。」
と声をかけられる。

私はそのことに酷く驚いた。

だって、私の名を呼んだ相手は。

「‥‥先生。何でしょうか。」

彼だったからだ。

不自然にも程がある。

「あとで教務室来てください。
渡すものがありますから。」

柄にも無さすぎる営業スマイルに脱力する。

ていうか、こんな所で話したら

「え、センセー
関寺さんと知り合いなんですかぁ？」

「意外ー！」

どよめく女性陣。

ま、そうなりますわな。

ていうか意外ってなんだ。

「まぁ、少しね。」

彼がそんな風な含みをもたせて言うもんだから教室中が大騒ぎになってしまう。

最悪だ。

どこまでこいつは私に迷惑をかけるつもりか。

感心すれば、失望し、
失望すればまた見直す部分を見つけてしまう。

何か彼に振り回されてるような気持ちになる。

もうほんと‥勘弁してほしい。

「では、後ほど。」
それだけなんとか言い残し、
騒がしくなってしまった教室をため息まじりに後にした。