銭湯から家に帰り、そろそろ寝ようと支度をする。

「雑魚寝で体、痛くなりませんか。」
一応気遣い、彼に問う。

「何か、添い寝の誘いか。」

心配して損した。
無視して布団だけよこし、ベットに潜る。

「お休みなさい。」

そう言って、電気を消す。

天井を見つめ、この状況はやはりおかしいと気づく。

早く出てって貰わないとな。

ふと床で寝そべる彼を見ると、
すでに寝息を立てて夢の中だ。

寝つきが尋常じゃないぐらい良い。

尋常じゃないのは
他のところにも現れているが。

この人は、本当にこの人は。

また考えてしまう頭を振って、私も寝ようと目を瞑る。

そうすると、またあの歌が聞こえてくる。

ハッとして、もう一度彼を見る。

長い睫毛、こうして見ると何か小さな男の子のようだ。

何も知らない無垢な少年。

口を開けば憎たらしいが。

そういえば少年って歳でもないんだっけ、
正確な年齢は知らないが。


耳をそばだててその歌を聴く。

やっぱりこれは中国語だ。

「なんだろ‥。これ、子守唄？」

そういえば、私がうたた寝をしている時も同じ歌が聞こえていたような気がする。

「なんなのよ‥一体。」

私の声がうるさいのか。
「ん。」と一瞬顔をしかめる。

起こしてはまずいと思い、静かに元の姿勢に戻ろうとした時、
彼の瞼から光るものが見えた。

「‥泣いてる？」

その瞬間、ぐっと心臓が痛む。
食堂で笑顔を見た時の種類とは別の痛みが私を襲う。

「なんだっていうのよ。」

私は目をそらし、布団にくるまった。

じっとしていると瞼が次第に重くなり、意識が遠のき、私は眠った。