彼の不法侵入に気づいてから10分程経過した。

正直、彼がこの部屋にいることは本意ではない。

「あの‥。」

「茶だたら出がらしでもなんでもいいね。」

「入れませんからね。」

溜息をつきながら、目線を外す。

その時、枕元に置いていた例のアレを思い出した。

「そうだ、あのこれ。」

昨日彼が忘れたライターを差し出す。

彼はそれを見た瞬間、
固まったような顔をした。

「‥。」

忘れ物を手渡す。
ただそれだけのことなのに、
何か取り返しのつかないようなことをしてしまった気分になる。

彼は未だライターを受け取ろうとしないので、私は手を突き出したままだ。

沈黙に耐えかねて、口を開く。

「あの‥。」

「ん？ああ。悪いね。それワタシのね。」

彼は何事もなかったかのように、ライターを取りポケットに入れた。

一瞬それに安堵する。

でも、どうしたのだろう。

私があぐねていると、彼が口を開く。

まるで、この話題を振り切るみたいに。

「そういえば、今日の夕飯何か。」

「は？」
いきなり違うことを言われたので驚く。

が、気を取り直す。

「いや‥作りませんよ。貴方には。」

「チッ、
この流れならいける思たのに。」

胡座をかきながら、
顔だけ横に向けてそう言う。

さっきのは演技だったのか？

だとしたら危なかった。

「で、いつ出てってもらえるんですか。」

私も必死だ。
今日は課題だってあるのに‥。

「茶でも飲んだら出て行くね。」

そう言うので仕方なく、お茶を入れてやることにする。

だって、早く出ていって欲しいもの。

「じゃ、お湯沸かしますから。」

そう言って流しに立つ。

結局彼の言いなりになっている気がして、イライラするも我慢する。

ジャーっと荒々しくヤカンに水を入れ、火にかける。

どうしてこんなこと、思わなくちゃいけないのよ。

グラグラグツグツ湯気が立つ。

私はぼーっとそれを見る。