墓標
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何年振りだ。
時の流れを逐一覚えているタイプではないが、
こればかりは思い出さないわけがない。
ひしめき合う人、エアコンのない安食堂、観光客、その他色々。
方言の差は日本の比ではないにせよ、
使っている言葉は、
自分の母国とそう対して変わらない。
耳に入ってくるその言葉を
「懐かしい」と思ってしまう自分に、
辟易してタバコを咥える。
覚悟をつけて帰ってきたつもりだったが、
いざ自分のだと思いたくもない故郷に足を向けようとすると
自分の中の何かが暴れだしそうで、
情けないことに
冬休みで日本人大学生がたむろする
この地に逃げ込んでいる。
覚悟。
何故そんなことを思いついたのか。
何故それを実行しようとしているのか。
そして自分が何をしようとしているのか。
その全てを思い起こすと、
脳の底に押し込めた箱から
ゴチャゴチャの中身が溢れだしそうになる。
あれからもう、数ヶ月経つ。
あいつは元気だろうか。
自分が他人の心配を一瞬でもするなんて。
馬鹿馬鹿しいと鼻でせせら笑ってみても脳裏から離れない一人の女を思い返すと、
頭を掻かずにはいられない。
とその時、
「やめてください」
と女の声が聞こえた。
聞き慣れた言葉の中で、
一際際立って耳に入ってくるその声。
平坦だが、どこか怯えている。
その声の既視感に駆られ、思わず側に近づく。
まさか。
その場所に寄ると、
日本人観光客に一人の女が囲まれていた。
しかも、その女は自分と顔見知り。
国際科の女生徒だった。
大方、大学生の陳腐なナンパだろう。
くだらない。
しかし、自分の立てた推測がはずれ、
少しだけ安堵する。
まさかな。
あいつなわけないだろう。
そう思う自分に再び情けなさを感じながら、
今起きている状況を把握する。
女は自分と目を合わせ、
少し驚いた顔をした。
「せん…」
「探したぞ。何してる。」
“先生”と自分を呼ぼうする女の声を遮り、
声を掛ける。
「チッなんだ男持ちかよ。」
と小さく口走り、バツが悪そうに男たちは去って行った。
その背中を見送りながら、
あと3、4年若かった時分には、
多分バツが悪いだけでは済まさなかっただろうと思うと、
自分も随分優しくなったもんだと笑えてくる。
自分の母国ではないにせよ、
この土地にいると、
昔のことをよく思い出す。
「あのっ…!
ありがとうございました。」
そう言いながら、
女生徒は深々とお辞儀をする。
「一人か?」
「いえ、同じ科の子と。」
「そか。」
出来るだけ、他人との接触は避けたかったが、もうあとの祭りだ。
少しぐらい話してもバチは当たらないだろう。
「あいつ…」
元気かと聞こうとしてすぐさまやめる。
「え?」
「いや。まぁせいぜい楽しめ。」
何を感傷に浸っていたのか。
自分が何の為に帰ってきたか、
自分を律し、片手を上げ、
人混みの中に姿を隠す。