欠片
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この車の助手席に体を預けるのはもう三度目だと思いながら窓を見やる。
「飯、テキトーなとこでいいか。」
「はい。」
フィンクスさんが私を気遣ってくれることを言葉の端々に感じ、
感謝しなきゃなぁと思っている自分がいる。
車はどんどん道を進める。
フィンクスさんはハンドルを切る。
ウィンカーの出し方、アクセルの踏み方、その全てが彼とは違う手慣れさだった。
全てが何かのヒントのように彼を思い出してしまい、どうしようもなく切ない。
「馬鹿だよホントに。」
彼の呟いた言葉に反応する。
「え?」
「あいつ。」
その三文字の単語を一つ一つはっきりと発音しながら、
「吸うぞ」と一言断りつつ、
フィンクスさんはタバコに火をつける。
やっぱり彼は礼儀正しい。
「なんか変だったし。最近。」
少しだけ窓を開けて、
冷たい風が車内に入る。
最近変だった。
「…私のせいかもしれません。」
あの日のことを思い出し、私は言葉を漏らす。
「あ?」
その声が、表情があまりにもなんというかチンピラ然としていて一瞬怯む。
そのことに気づいてか、
さっきの顔より柔和な顔を作って見せる。
「…わり。
よくあいつにも言われんだ。柄悪りぃって。」
何故だか分からないけど
その“あいつ”という言葉の発し方か、
照れ臭そうな笑顔からか、
それは彼のことではなく、
フィンクスさんの誰か別の大事な人のことだと分かる。
「…彼女だ。」
「うっせ。」
また柄の悪そうな顔に戻るフィンクスさん。
フィンクスさんの大事な人。
私はその時、
フィンクスさんが物凄くうらやましくなった。
“好きです。”
“私はあなたが好きです。”
駄目だ。
どうしたって、彼のことが拭えない。
「違ぇよ。」
さっきの会話の続きのつもりらしくフィンクスさんは話した。
「てめぇらの事はよく知らねぇ。
でも違ぇよ。」
前方から目を離さず彼は続ける。
「…俺の家、前に来てたんだ。
告られたって、どうしようって」
私は心臓がドキンとした。
彼が私をどう思っているのか。
知る術もなく、知るのが怖かったその事が分かる気がして。
「…彼がそう言ってたんですか?」
私は恐る恐る尋ねる。
「いんや。
あいつが俺に言うわけねぇだろ。」
ー確かに。
彼がそんなこと言うわけがない。
きつい筈のフィンクスさんの言葉が
少しも冷たく聞こえないのは、
きっと彼とフィンクスさんの信頼関係の賜物だと思う。
「仏頂面して夜中転がり込んできて、次の日昼まで寝て、
“ロクヨン”して、プロレスやって、
風呂入って酒飲んで飯食って。」
「それだけだった。
けど顔に書いてた。“どうしよう”ってな。」
「あの人らしいですね。」
そう言いながら、何故だか私は可笑しくなる。
ーでも。
「でも、彼には大切な人がいるでしょう?
だから、困らせちゃったのかな。」
「知ってんのか。それ。」
赤信号にかかり、ブレーキしながら
彼は私を見る。
「彼に恋人がいるかもしれないってことですよね。」
自分で自分の言葉に傷つきながら、私は返した。
彼の大事な人。
写真の彼。
日本に来る前の彼。
「何言ってんだお前。」
素っ頓狂なフィンクスさんの声に
私は拍子抜けする。
「え?」
「えって…。んなんじゃねぇよ。」
信号が青に変わる。
「なんでですか。」
「いや、なんだって…。
オトコってのは結構単純なんだって。」
「はぁ。」
意味がよく分からない。
フィンクスさんは車を走らせながら、
「むむ」とか「んー」とか言いなが何故か苛立った様子で言葉を探っている。
「あいつの昔とか知らねぇし、興味なんかクソ程もねぇけどよ。
あいつに恋人なんていねぇよ。多分。」
「…そうでしょうか。」
「そうだって。
女とか、そんなんじゃねぇよ。
だってあいつはー」
と言いかけてフィンクスさんは言葉をやめる。
何だろう。
「…いや、俺が言うことじゃねぇよ。
こんなのって。」
そう言いながら頭を掻く。
その顔は、何故だか物凄く赤い。
「何なんですか?」
と私が聞くと、
それからは「うっせぇ」の一点張りで
全然教えてくれなかった。
車を走らせ、ご飯を食べて、
私がお財布を出す手をひと睨みでフィンクスさんが制し、
また車でアパートまで送ってくれる間、
彼の話は一切しなかった。
最近ハマってるゲームの話とか、
仕事先での小さな失敗とか、
そういう明るくて他愛もない話題をワザと選んでくれているのだと私は気づいた。
その気遣いもあってか、
自然と私は笑っていた。
私はフィンクスさんと長い付き合いではないけれど、
でも、何となく彼がフィンクスさんを頼る気持ちが分かる気がした。
辛い時、
日常を温かく繰り回してくれる人の存在がどれだけありがたいか
今の私には痛いほどわかった。
そして、それが出来るフィンクスさんも、
きっと乗り越えてきたものがあるのだろう。
私には推し量れない何かがきっと。
フィンクスさんが連れ出してくれた食堂でから揚げ定食を食べながら、
私は“もしー”と一つ決めた。
もし、彼が帰ってきたら、
もし、会うことができたら、
私もそういう存在になろうと。
このさみしさを嘆くのではなくて、
あたたかさで返してあげたいと。
ご飯を食べて、笑って、
悲しいことがあれば泣いて、怒って。
それがもし叶わなくても、
これから先会うことがなくても。
「ごちそうさまでした。」
「おう。よく寝ろよ。」
「今日、ありがとうございました。
その、少し元気出ました。」
アパートの前で停めてくれた車を降り、
フィンクスさんにお礼を言う。
部屋に戻ろう。
手を振り、踵を返す私の背中に
彼は言った。
「分かんねぇけどよ。」
エンジンの音に消えないよう、
彼は声を大きく出した。
「分かんねぇけど。
あいつは絶対帰ってくると思う。」
私は彼に返事をしないまま振り返らず、自分の部屋に向かった。
階段を上がる。
一歩一歩ゆっくりと。
何故だかよく分からないけど、
私は涙を流していた。
遠のく私にフィンクスさんは段々声を張り上げる。
「だからよ!待っててやれよ!嵐!」
その声量に合わせるみたいに、
私も涙が堪えられなくなる。
駄目だ。
こんな所で泣いたら。
足元だって暗いのに、
涙でボヤけたら転んじゃうじゃないか。
転んだって、
泥だらけになって助けてくれる人はもういないのに。
そう思うとどんどん泣けてきてしまう。
「そういうのはあの馬鹿にとっとけ!」
見えてはいないはずなのに、
フィンクスさんにはばっちりバレているらしい。
「元気出せよ!絶対帰ってくんだからよ!」
フィンクスさんのがなり声を聞きながら、
私はただただ目から流れる水に翻弄され、頷くことしかできなかった。
「飯、テキトーなとこでいいか。」
「はい。」
フィンクスさんが私を気遣ってくれることを言葉の端々に感じ、
感謝しなきゃなぁと思っている自分がいる。
車はどんどん道を進める。
フィンクスさんはハンドルを切る。
ウィンカーの出し方、アクセルの踏み方、その全てが彼とは違う手慣れさだった。
全てが何かのヒントのように彼を思い出してしまい、どうしようもなく切ない。
「馬鹿だよホントに。」
彼の呟いた言葉に反応する。
「え?」
「あいつ。」
その三文字の単語を一つ一つはっきりと発音しながら、
「吸うぞ」と一言断りつつ、
フィンクスさんはタバコに火をつける。
やっぱり彼は礼儀正しい。
「なんか変だったし。最近。」
少しだけ窓を開けて、
冷たい風が車内に入る。
最近変だった。
「…私のせいかもしれません。」
あの日のことを思い出し、私は言葉を漏らす。
「あ?」
その声が、表情があまりにもなんというかチンピラ然としていて一瞬怯む。
そのことに気づいてか、
さっきの顔より柔和な顔を作って見せる。
「…わり。
よくあいつにも言われんだ。柄悪りぃって。」
何故だか分からないけど
その“あいつ”という言葉の発し方か、
照れ臭そうな笑顔からか、
それは彼のことではなく、
フィンクスさんの誰か別の大事な人のことだと分かる。
「…彼女だ。」
「うっせ。」
また柄の悪そうな顔に戻るフィンクスさん。
フィンクスさんの大事な人。
私はその時、
フィンクスさんが物凄くうらやましくなった。
“好きです。”
“私はあなたが好きです。”
駄目だ。
どうしたって、彼のことが拭えない。
「違ぇよ。」
さっきの会話の続きのつもりらしくフィンクスさんは話した。
「てめぇらの事はよく知らねぇ。
でも違ぇよ。」
前方から目を離さず彼は続ける。
「…俺の家、前に来てたんだ。
告られたって、どうしようって」
私は心臓がドキンとした。
彼が私をどう思っているのか。
知る術もなく、知るのが怖かったその事が分かる気がして。
「…彼がそう言ってたんですか?」
私は恐る恐る尋ねる。
「いんや。
あいつが俺に言うわけねぇだろ。」
ー確かに。
彼がそんなこと言うわけがない。
きつい筈のフィンクスさんの言葉が
少しも冷たく聞こえないのは、
きっと彼とフィンクスさんの信頼関係の賜物だと思う。
「仏頂面して夜中転がり込んできて、次の日昼まで寝て、
“ロクヨン”して、プロレスやって、
風呂入って酒飲んで飯食って。」
「それだけだった。
けど顔に書いてた。“どうしよう”ってな。」
「あの人らしいですね。」
そう言いながら、何故だか私は可笑しくなる。
ーでも。
「でも、彼には大切な人がいるでしょう?
だから、困らせちゃったのかな。」
「知ってんのか。それ。」
赤信号にかかり、ブレーキしながら
彼は私を見る。
「彼に恋人がいるかもしれないってことですよね。」
自分で自分の言葉に傷つきながら、私は返した。
彼の大事な人。
写真の彼。
日本に来る前の彼。
「何言ってんだお前。」
素っ頓狂なフィンクスさんの声に
私は拍子抜けする。
「え?」
「えって…。んなんじゃねぇよ。」
信号が青に変わる。
「なんでですか。」
「いや、なんだって…。
オトコってのは結構単純なんだって。」
「はぁ。」
意味がよく分からない。
フィンクスさんは車を走らせながら、
「むむ」とか「んー」とか言いなが何故か苛立った様子で言葉を探っている。
「あいつの昔とか知らねぇし、興味なんかクソ程もねぇけどよ。
あいつに恋人なんていねぇよ。多分。」
「…そうでしょうか。」
「そうだって。
女とか、そんなんじゃねぇよ。
だってあいつはー」
と言いかけてフィンクスさんは言葉をやめる。
何だろう。
「…いや、俺が言うことじゃねぇよ。
こんなのって。」
そう言いながら頭を掻く。
その顔は、何故だか物凄く赤い。
「何なんですか?」
と私が聞くと、
それからは「うっせぇ」の一点張りで
全然教えてくれなかった。
車を走らせ、ご飯を食べて、
私がお財布を出す手をひと睨みでフィンクスさんが制し、
また車でアパートまで送ってくれる間、
彼の話は一切しなかった。
最近ハマってるゲームの話とか、
仕事先での小さな失敗とか、
そういう明るくて他愛もない話題をワザと選んでくれているのだと私は気づいた。
その気遣いもあってか、
自然と私は笑っていた。
私はフィンクスさんと長い付き合いではないけれど、
でも、何となく彼がフィンクスさんを頼る気持ちが分かる気がした。
辛い時、
日常を温かく繰り回してくれる人の存在がどれだけありがたいか
今の私には痛いほどわかった。
そして、それが出来るフィンクスさんも、
きっと乗り越えてきたものがあるのだろう。
私には推し量れない何かがきっと。
フィンクスさんが連れ出してくれた食堂でから揚げ定食を食べながら、
私は“もしー”と一つ決めた。
もし、彼が帰ってきたら、
もし、会うことができたら、
私もそういう存在になろうと。
このさみしさを嘆くのではなくて、
あたたかさで返してあげたいと。
ご飯を食べて、笑って、
悲しいことがあれば泣いて、怒って。
それがもし叶わなくても、
これから先会うことがなくても。
「ごちそうさまでした。」
「おう。よく寝ろよ。」
「今日、ありがとうございました。
その、少し元気出ました。」
アパートの前で停めてくれた車を降り、
フィンクスさんにお礼を言う。
部屋に戻ろう。
手を振り、踵を返す私の背中に
彼は言った。
「分かんねぇけどよ。」
エンジンの音に消えないよう、
彼は声を大きく出した。
「分かんねぇけど。
あいつは絶対帰ってくると思う。」
私は彼に返事をしないまま振り返らず、自分の部屋に向かった。
階段を上がる。
一歩一歩ゆっくりと。
何故だかよく分からないけど、
私は涙を流していた。
遠のく私にフィンクスさんは段々声を張り上げる。
「だからよ!待っててやれよ!嵐!」
その声量に合わせるみたいに、
私も涙が堪えられなくなる。
駄目だ。
こんな所で泣いたら。
足元だって暗いのに、
涙でボヤけたら転んじゃうじゃないか。
転んだって、
泥だらけになって助けてくれる人はもういないのに。
そう思うとどんどん泣けてきてしまう。
「そういうのはあの馬鹿にとっとけ!」
見えてはいないはずなのに、
フィンクスさんにはばっちりバレているらしい。
「元気出せよ!絶対帰ってくんだからよ!」
フィンクスさんのがなり声を聞きながら、
私はただただ目から流れる水に翻弄され、頷くことしかできなかった。