丹桂王国の妹姫
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セーラームーンこと、月野うさぎ──うさぎちゃんと、初めて顔を合わせた瞬間。
うさぎちゃんも、ファイターのことが好きなんじゃないかと思った。
誰かを納得させられるような、大した根拠なんかない。ほとんど第六感……同じ相手を想う直感、みたいなもので。
ほんの一瞬、揺らいだ瞳がまるで真実を押し込めたように見えて、他人事とは思えなかった。
ファイターとセーラームーンが未だ結ばれていないのは、私がファイターに想いを伝えない理由と近いものではないのかと、そう感じたから。
本当のところ二人が想い合っているのなら、今はまだ表面化していないというだけで、私の失恋は確定なんだ。
物心つく頃には、すでにファイターを慕っていた身には、ショックは想像より重たくのしかかった。
いつかはくることだと。
皇女の身分では、お姉さま達のように「出会ってから好きになる」恋は有り得ても、「好きだった人と結ばれる」恋は難しい。
それを悟った日から、自分で自分にずっと言い聞かせてはきたけれど、感情というのは本当に、綺麗に割り切れてはくれない。
……きっと、ファイターも。
私は片恋だけど、ファイターはそうじゃない。
それなら、彼女には幸せになってほしい。ファイターは、私の大切な人だから。
でも、うさぎちゃんもプリンセスということは、不自由のある身……なのかな。
うさぎちゃんは月のプリンセス。でも、ここは地球であり、彼女もおそらく地球人のはずだ。
見たところ、私達の故郷のように王国でもない様子だし、戦士としての側面を除けば、普通の女の子なのではと思うけれど──相手が地球のプリンスとなると、普通の恋人同士みたいに移り変わるわけにもいかないのだろうか。
「……ヒーラー、メイカー」
絶対辛いわよ、と案じてくれた顔が浮かぶ。
ヒーラーに会いたい。思いっきり情けなく泣き言を言って、「だから言ったじゃない」と呆れられて。やっぱりすぐには割り切れないかもしれないけど一旦それは置いておいて、メイカーと話をしたい。どうやったらファイターにとってより良い形に収めることができるのか。
「……お姉さま……」
私達姉妹にとっての彼らは、守護戦士である以上に友人で、家族のように大切な存在だ。
ファイターの幸せがこの星にあると確信したなら、お姉さまはきっと彼女を自由にするだろう。そうしたら。
そうしたら──。
「ひかり!?」
ぎょっとしたような声で、私は思考から覚めた。
日用品の類が入った袋を抱えた星野が、それらを半分投げ出すように置いてこちらへ駆けてくる。
地球に滞在する間の住まいは、以前ライツの三人が暮らしていたという場所だった。
「いずれまた必要になるような気がして、買い取っておいたの。スリーライツの活動で得た報酬金の、ちょうどいい使い道だったわ」なんて。
メイカーの、してやったりと言わんばかりの笑顔は記憶に新しい。
「どうしたんだよ、なんで泣いてるんだ」
伸びてきた指に涙を拭われて、初めてそのことに気付く。
「なんでもない」なんて曖昧な言葉で納得してくれる人ではないから、「なんだか突然お姉さまが恋しくなって……」と誤魔化した。
「……そっか。考えてみれば、キンモク星を離れるなんて初めてのことだもんな」
ソファの前に膝を突いて私の顔を覗き込んだ星野が、ほっとしたように表情を緩める。
苦しいかと思ったけど、どうやらうまくやり過ごせたらしい。私もつられてほっとする。
──本当は、お姉さまが守護戦士の任を解いたら、ファイターは地球に行っちゃうんだろうな、なんて考えて、無性に寂しくなった。
だけど、今のところ片想いのさなかにいる相手にそんなこと言うのもおかしな話だから。
「ごめんな。しばらくは、オレで我慢してくれよ」
「ううん、楽しいよ。ファイターと二人きりで旅行できる機会なんて、今後ないかもしれないし。ヒーラーの好きな子にだって会えたし」
あんず色の瞳に、額の三日月模様。しっかり者のかわいい女の子。
もしもう一度地球に行ったら彼女に会いたいと言っていたほどだから、ずいぶん仲良しだったんだろう。会わせてあげたかったな、ヒーラーにも。
「──それから、ウワサのファイターの好きな子にも」
きらきらまばゆい光の束みたいな、きれいな金色の髪。
うさぎちゃんとは他のメンバーの予定を確認の上、改めて会うことになっていた。
なんでもあとの四人は、ファンクラブに入会するほど熱心なスリーライツファンだったらしい。みんなすっごく喜ぶよ、と彼女も嬉しそうだった。地球のセーラー戦士の皆さまにできるだけ挨拶しておきたい私にとっては、まさに渡りに船。
「……あ、うさぎちゃんが電話くれた時は、私、ちゃんと外に出てるから!」
「気なんか遣わなくていいって。なんにもねえよ、おだんごには衛さんがいるんだから」
「分かんないよ。……私達のファイターは、銀河一素敵だもの」
わざと気楽な調子で口にするのは、自分自身を律する言葉だ。
理性的な偽りを含んだそれに、偽りのない言葉で返す。
ぱちりと目を瞠った星野が、照れくさそうに俯いた。
「買いかぶりだよ」
「そんなことないよ」
「私達」だなんて、ちょっとずるい言葉だったかな。
でも、ファイターはあくまでもお姉さまの守護戦士であって、「私の」ではないし。
……このくらい、いいよね。うん。
私の空想の中のお姉さまがニコニコ丸を作っていたので、良いということにしておいた。