丹桂王国の妹姫
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キンモク星のプリンセスが、セーラースターファイターを伴って地球を訪れる。
通信を受けてから何日経っても、ルナはそれを──同じく事前に連絡のあった外部戦士達と、恋人を除いては──誰にも話せないでいた。
(とうとう当日になっちゃったわ。うさぎちゃんになんにも言えないまま……)
銀河の命運をかけた激戦から、一年と少しが経過した。
彼女をセーラームーンに覚醒させてからの二年が嘘のように、平和な日々が続いている。
『あたし達、いつまでも友達だよ』
愛する者達は皆、彼女の元へ戻ってきた。うさぎの様子に一見変わりはない。元気である。これまでずっとそうであったように。
躊躇う理由など何もなかった。星野光は、月野うさぎにとって大切な友人の一人である。あの夕暮れの日の言葉を、そのまま受け取るならば。
けれどもルナは知っている。
うさぎが時おり、胸が締め付けられるような表情で星を見上げていることを。
声をかければいつもの顔で振り向くけれど、それがかえって痛々しく映った。
──もし、彼もそうであるならば。
──もし、そんな中で二人が再会したら。
懸念は尽きない。けれど、うさぎを思うと黙ってやり過ごすこともできなかった。
「どしたの、ルナ。ここんとこ元気ないじゃない」
「そう言ううさぎちゃんは、ここんとこ、ちょっと食べすぎなんじゃない?」
「いーのっ、今日のは補習を頑張った自分へのご褒美なんだから!」
「いい加減、『補習を免れたご褒美』とかになってほしいもんだわね……」
目の前の「ご褒美」に夢中のうさぎに、ルナの嘆きは届かない。
限定フレーバーと鉄板のチョイスに頭を抱える様など見ていると、あまりの「いつも通り」ぶりに気が抜けてしまう。
黒髪の少年と共に寄り道していたかつての日々が、ずいぶん遠いもののように思えた。
──話そう。うさぎがこの買い物を終えて、人の目が気にならない場所に移り次第、すぐにでも。
「……なあ、まだ決まんないのか?」
「わ〜ん、もうちょっと待って、四つまで絞り込んだから!」
「どれ?」
「えっとね、これとこれ──もしくはこっちとこっち……」
決心したルナの耳に、近くの男女の会話が聞こえてくる。
聞くともなしに聞いていると、結局、少女が悩んだ一方の組み合わせを少年がオーダーする、という形で円満解決を見たようであった。
(スマートねえ。うさぎちゃんの場合は、悩んだ末に両方食べちゃうことも多くて、星野くんが圧倒されてたっけ……)
横目に見た少女は、カップに入ったアイスクリームにキラキラした目を向けていた。隣でそれを見守る少年は艷やかな長い黒髪の持ち主で、サングラスの奥の瞳は星野光によく似た切れ長の──
「────星野くん!」
つい声が漏れた。よく知った名に、うさぎがルナの視線の先を追うのは当然のことである。
「……えっ、セイヤ!?」
「お、おだんごっ?」
振り向いた星野は驚いた様子だったが、何も知らされていなかったうさぎの比ではない。
大きな瞳をこぼれるほど見開いて固まった彼女は、ややあって我に返ると微かに面を伏せた。
「あ、あんた、どーして地球にいるのよ。もしかして、また何か大変なことが起きたんじゃ……!」
言いながら、はっと持ち上げた顔にはいっぱいの不安が表れている。星野は否定の言葉を口にして、うさぎを安心させるように微笑みを浮かべた。
「故郷の方も少しは落ち着いたから、今回はその報告に来たんだ。──って言ってもここじゃな……場所変えようぜ」
周囲を見回す星野に、うさぎはここが他の人間の目もある往来であることを思い出す。
そこでようやく、彼の隣に立っている見覚えのない少女の存在にも気が付いた。
「セイヤ、その女の子は……」
「ああ、あとできちんと紹介──おい、どうしたんだよ。何隠れてんだ」
「だ、だって。こんな初対面、締まらなさすぎる……」
うろたえて星野の陰に隠れるその手には、うさぎが悩んでいたものと同じ組み合わせのアイスクリーム。
星野も己の手にあるものを思い出したように見下ろして、それから少女に目を戻す。
「これ、早く食わねーと溶けるぞ」
「え!? や、やだ!」
途端に変わった顔色に、形の良いくちびるから抑えた、けれど楽しげな声が漏れる。
ひとしきり笑ったあとうさぎと目を合わせ、「妹なんだ」と告げた。