丹桂王国の妹姫
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地球に到着した私達を迎えたのは、凛々しい目元が印象的な白皙の美男子──あとから聞いた話によれば、女性なのだそうだ──と、澄んだ海面のような髪色に、どこか謎めいた雰囲気を備えた美しい女だった。
今回、私達が地球を訪れることはあらかじめ連絡を入れている。
だけどそれは「セーラームーンが知っている」ことと同義ではない、とお姉さまが言ったから、内心不安もあった。
けれど、結局──はっきり「会うな」とは、一言も言われなかった。
私も、星野も。
『あたしがいつまでもこんなだから、みんなに心配かけてるのよね。あなたのことまで巻き込んで……』
お姉さまから話があった日、そう言って目を伏せたファイターの姿が脳裏を過ぎった。
時を重ねて忘れられる気持ちなら、故郷にいた間にいくらかは楽になっているのではないかと思う。
だけど、軽率に「会いに行こう」なんて提案もできない。それがファイターに、星野にとって良い方向に働くことだと確信が持てない限りは。
「……私、街を歩きたいな。せっかく地球に来たことだし、いろんなお店も見て回りたい。案内してくれる? ……星野」
難しい顔で佇んだままの、上着の裾を引く。
星野ははっとこちらに視線を落として、それから表情を緩めた。
「任せとけ。この辺は生活圏だったからさ、ちょっとは詳しいんだ」
「えへへ、楽しみ。そうだ、お姉さま達へのお土産も探そうっと」
「……ありがとな、ひかり」
群青色の瞳が、やさしく細められる。私の好きな表情。
「何のこと?」
下手くそな気遣いなんか、星野にはお見通しみたい。
悔しいけど嬉しくて、私もつい唇を緩めた。
「言ったじゃない。私、地球観光してみたかったの!」
◇
メイカーは言った。
ファイターはアイドルの『星野光』として名前も顔も売れている、と。
私は思った。
きっと、地球の女の子たちもメロメロだったんだ、と。
星野の意見はこうだった。
芸能界は移り変わりの激しい世界だから、一年も前に引退したアイドルのことなんて、みんなもう忘れている──。
数多の視線。女の子達のささやき。そわそわと落ち着かないムード。たまらず星野を見上げると、自身の考えの甘さを悔やんでいるのが見て取れた。
「念のために」とメイカーが持たせてくれたサングラスをかけたところで後の祭り。近い位置にいた何人かには、すでに顔を見られている。
今すぐにでも声をかけられるかもしれない。そうしたら、きっと大騒ぎになる……よね。
「スリーライツ」は本当にすごい人気だったって、お姉さまも言ってたもの。
「……ひかり」
耳元に、わずかに身を屈めた星野の声が降ってきた。
覚えにあるより一回り大きな手のひらが、そっと私の手を包む。
「いいか、一、二の三で走るぞ。手、離すなよ」
「う、うん」
「よし……いち、にの──さんっ」
まるで物語の一場面みたい、と思わないでもないけれど、万が一にでもはぐれるわけにはいかない緊張感が全てを上回る。
右も左も分からない場所で、これといった連絡手段もない状態で。想像するだけで身が竦んで、繋いだ手をしっかと握り返した。
腕を引かれるままに夢中だったから、どれくらい走ったのか、正確なところは分からない。
軽く息が弾み始めた頃、ようやく前を行く星野の足が止まった。安堵も手伝って、私は一際大きく息をつく。
「もっ……せーやのバカ、楽観的すぎる……ふ、ふふっ……」
無事に切り抜けてしまえば、ハプニングもなんだか楽しい出来事に思えてきて妙におかしい。
「ごめんごめん。やっぱ、メイカーの意見は聞いとくべきだったな。案外覚えててくれてるもんだな、みんな……」
お姉さまを探すための手段だったとはいえ、真摯に取り組んだ活動を覚えていてもらえたのが嬉しかったんだろう。
表情や声に滲む喜色を感じて、傍で見ているだけの私まで嬉しくなってしまう。
「ふぅ。いっぱい笑ったら、なんかお腹空いてきちゃった」
「変わってなきゃ、少し行ったところにアイスクリームの店があるんだ。行こうぜ」
「! うん!」
はぐれないように、と再度差し出された手を取る。
──まるで、物語の一場面みたい。
その発想を今度は素直に楽しんで、浮き立つ心のままに歩き出した。