Dendrobium phalaenopsis
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「あら、本当にいる。泉ちゃんの妄想じゃなかったのね……?」
「俺のこと何だと思ってるわけ~? と言いたいところだけど、気持ちはわかる。当初は俺も幻覚か何かだと思ってたし」
「えっと。久しぶり、鳴上くん」
「久しぶり、星見先輩。突然ごめんなさいね、ちょっとお邪魔するわ」
「なるくんを連れて帰るから、俺の部屋で待ってて」というメッセージが届いてから数時間後。指定どおりいっくんのお宅で、私は数年ぶりの再会を果たしていた。
「……なるくんごときに、そんな緊張しなくても」と、なぜか不服そうにいっくんがつぶやくと、鳴上くんが「『ごとき』って……。泉ちゃん、その口の悪さ、いいかげん何とかならないのォ?」と呆れ混じりに嘆く。
気安い遣り取りから、仲の良さが窺えて微笑ましい。
「うう、ごめんね。鳴上くん、むかしより背も伸びたし雰囲気も変わったし、何だかもう『初めまして』って感じで。初対面のひとより、緊張してるかも」
「そもそもアタシたち、すっごい中途半端な知りあいだものねェ。いっそ『初めまして』ってことにして、これから仲良くしてもらえると嬉しいわ」
「うん、こちらこそ。よろしくお願いします」
差し出された手はしっかり男性のものだけど、花が綻ぶような笑顔は、細かいことをぜんぶ忘れちゃうくらい綺麗だ。
これを「キモい方向にキャラ変した」の一言で終わらせてしまういっくんは、とっても『らしい』なぁと思う。
「あ、そうだ。さっきから連呼しちゃってるけど、呼びかたは変えたほうがいいかな?」
「そうねェ……泉ちゃんと同じ、『なるくん』でいいわ。むかしみたいに『自分の名前が嫌い』ってわけじゃないんだけど、そっちのほうが友達っぽいし♪」
「うん、なるくん。私も何でも大丈夫だから、好きに呼んでね」
「……気持ちは嬉しいけど──」
「いつまで触ってんの、クソオカマ」
声を落とした鳴上くん──なるくんの言葉は、途中でいっくんの迫力満点ボイスに遮られてしまった。
「嫌ァね、ひとぎきの悪い。ただの握手じゃないの」
「もう挨拶は済んだでしょ、とっとと離して。いちどは見逃してやるんだから感謝しなよねぇ」
「おぉ怖……。なぁに、ゆいかちゃんに触るときは、いちいち泉ちゃんの許可が必要なわけ?」
「当然でしょ?」
「これを『本気で当たり前と思っている顔』で言えるのがまさに泉ちゃんって感じ……。そんな調子で、よく何年も離れていられたわね」
「んん、これはむしろ、ずっと離れていた反動じゃない?」
「絶対にちがうわ。あんたはむかしから独占欲の強い男だったもの」
「知ったような口をきかないでくれる? チョ~うざぁい」
彼の手が離れるや、いっくんが私の姿を隠すように割りこんでくる。
どうも聞いていた話とちがってきてるけど、理由が理由なので抗う気も起きなくて、いっくんの服を「くいくい」と引いた。
「なに」と返す声には、思ったとおり、びみょうに不機嫌が滲んでいる。
「『Knights』のメンバーに紹介したいって、いっくんが言ったのに」
「そうだけど。よく考えたら、『Knights』は馴れ馴れしいやつばっかりなんだよねぇ。やっぱりやめようかなぁ……」
顔色ひとつ変えず手のひらを返そうとするのは、いっくんの「独占欲」の成せる技。
そう思うと、嬉しい気持ちが他のものをぜんぶ置き去りにしてしまう。
──ゆるんでいく頰を自覚して、がんばって表情を引き締める。何より、お客さまの前だし。
でも、なるくんが「聞きしに勝るバカップルぶりねぇ」と零したあたり、ちょっと遅かったのかもしれない。
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