Happy Birthday Night
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ドレッサーの上に置かれた小箱と、いっくんの顔を交互に三度くらい見た。
メッセージを受信して点灯したスマホの時計が0時ちょうどからひとつぶん刻む。
続々と届くお祝いの言葉。言われてみれば今日は、私の生まれた日なんだけど──。
「……な、え、ぷ、プ、プロポーズ……!?」
「ちがうから。誕生日プレゼント」
小箱の中央で存在感を放つ、華奢なデザインの指輪。
慌てふためく私に、呆れ顔のいっくんがブレーキをかけてくれる。
「ビックリした……そうだよね。まだ、付きあい始めてから、ようやく一年とかだもんね」
しっかりと自分のなかで納得してから言葉にしたにもかかわらず、想定よりもずっとがっかりした声がでた。
「い、いまの、忘れて。早とちり」
内容が内容なので恥ずかしくて、いっくんのほうを見られない。じっとしているのも落ち着かなくて、とりあえずフリーズして中途のままになっていたブラシを毛先まで通す。
いっくんの指が、その一房を掬った。
「ふぅん、俺がプロポーズしたら、ゆいかは受けてくれるんだ」
「そ、そんなこと言ってない……」
「じゃ、断るの?」
「うう、断らないけど……からかわないでよ、いっくん」
「ごめんごめん、何か嬉しくてさ。そっかぁ、あの約束、まだ有効なんだね」
「……『いっくんのおよめさん』は、私の小さい頃からの夢だもん」
けっきょくどう転んでも恥ずかしい思いをするんだと割り切って、いっくんのほうに向き直る。私の髪を弄ぶのをやめた彼は、ご機嫌な微笑をたたえたまま、左手を取った。
そして、もう一方の手に持った
「……いいの?」
「当たり前でしょ? そのために買ったんだから」
「でも、きっといろいろ聞かれるよ。私がこんなものをしてたら、いっくんを連想するひとだっているだろうし……噂になっちゃうかも」
「五年以上離れてたのに、俺はまだ『噂の相手』になれるんだ? ゆいかの一途さがわかるってものだよねぇ……♪」
いっくんはそう言って、満足げに指輪に口づける。
次の瞬間に私を捉えた瞳は、まるで誘惑するようにあやしく煌めいて見えた。
「改めて、誕生日おめでと、ゆいか。他に欲しいものはある? 特別な日だからねぇ、今日は、何でも聞いてあげる」
(──えっと、そうだ。指輪のこと、もうすこし相談したほうがいいって、考えて……さっきまで、たしか。だけど今日は誕生日だし、でも、けっこう大事なことで……?)
自分でも戸惑うくらい、考えがまとまらない。甘い笑顔に、思考回路の一部がショートする。こうしてる間にも、残った正常な部分がどんどんとろけていってるみたいな錯覚。
むかしからいっくんの笑顔には弱かったけど、ブランクが明けてから拍車がかかった気がする。
「な……何でも?」
「うん、何でも。俺にできることなら」
「じゃ、じゃあ、朝まで一緒にいて」
「今日はもともとその予定でしょ?」
「それで、ひと晩中ぎゅってしてて」
「いいよ。あとは?」
「えっと、あとは……そうだ。駄目になるくらい、甘々に甘やかしてほしい……」
「いいよ──朝までめいっぱい、優しくしてあげる」
「……いっくん」
「なに」
「好き……」
もう、それしか言葉がでてこないくらい「好き」で頭がいっぱいになって、ぎゅっといっくんに抱き着く。
「ふふ、知ってる」
悪戯っぽい囁きと一緒に、耳元にくちびるが触れる。
そこにこめられた嬉しげな響きが愛しくてどうしようもなくて、私の口からはお礼に重ねて、また同じ言葉が飛び出した。
去年は、いっくんに「おめでとう」って言葉をもらえただけで満足だったのに。
何だかどんどん、欲張りになっていくみたい。
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