他意はありません!
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「た、助かった……ありがとう、まこちゃん」
「いえいえ、どういたしまして……って、ゆいかちゃん、ひとり? 泉さんは……!?」
「そ、そんな幼稚園児を保護したみたいな反応しなくても。いっくんはお仕事だよ、普通に。そもそも、こんな人の多いところについてきてもらうのは難しいかと思ったんだけど──セーフかなぁ。まこちゃんもいるし」
「あぁいや、どうだろ……? 僕とちがって、泉さんはどこにいても目を惹くタイプだから」
「今のまこちゃんは、いっくんのことあんまり言えないと思うよ……?」
「あはは。最近じゃ、眼鏡をかけているほうが身バレするんだよね、僕の場合」
そう言って、まこちゃん──遊木真くんは、照れくさそうに頰を掻いた。
ぐいぐい声をかけてくる見知らぬ男性をうまくあしらえず困っていたところに、待ち合わせのふりをして助けに入ってくれた英雄さんだ。
これまで声をかけられたことはなかったから大丈夫だと思ったのだけど、それは、まどかちゃんや天城さんがいてくれたおかげだったらしい。
「ゆいかちゃんも、ゲームセンターなんてくるんだ?」
「うん、たまに。今日は、むかし書いた曲を収録した
「あっ。それって、さっきナンパされてた場所の近くにあった……」
「そうなの。もうちょっとで辿り着けたんだけど」
すずちゃんからは「知らない男性に声をかけられたら、思い切って無視しなさい」と言われているのだけど、「すみません」と聞こえたら、反射的に返事をしてしまう。ときどき、本当に困っている場合もあるし──そのあたりを上手に、見極められるようになりたい所存だ。
(そうだ。果たしそこねた『目的』──まこちゃんがついててくれたら、どうにかならないかな?)
ふっとそんな考えが心を掠めて、慌てて打ち消した。
いくら気心が知れているといっても、このまま甘えちゃうのは良くない。
今以ていっくんがまこちゃんを溺愛しているというのもあるし、何より我が身に置き換えて──いっくんが他の女の子とゲーセンデートみたいなことをしていたら、私はとても穏やかな気持ちではいられないから。
「──やっぱり、日を改めようかな。今度はいっくんを誘ってみる」
「うん、それがいいよ。あのひと、自分に声がかからなかったら拗ねそうだし……。覚えてる? ちっちゃいころ、そういうことがあったよね♪」
「お休みの日にまこちゃんと遊んだときだ。あとで怒られたよね、『ふたりで勝手に仲良くならないでよ』って……懐かしい♪」
まこちゃんは、背が伸びて、声だって変わって、私を助けてくれるような頼もしい男の子になった。
そのことに、みょうに月日を感じてしまうのは「憧れのお姉ちゃん気分」を味わわせてくれたころの印象が、とくに強いからかもしれない。
「『男子、三日会わざれば刮目して見よ』っていうけど、私は三日じゃすまないもんね」
「えっ。どうしたの、突然」
「うん、なるくんもまこちゃんも、ぜんぜん別のひとみたいだなぁって。あ、良い意味だよ? いっくんもだけど……」
「泉さん──むかしと比べれば落ち着いたとは思うけど、そんなに変わったかなぁ」
「えっ、どういうこと? 荒れてたりしたの? あのいっくんが……!?」
「荒れてた、とはちょっとちがうかな。でも、一時は本当に酷くて……百年の恋も冷めるんじゃないかって感じで……」
「そ、そうなんだ」
正直、ぜんぜん想像がつかないけれど、まこちゃんの目を見たら「まさか」とは言えなかった。
『百年の恋も冷める』か──ちょっと、試してみたかったかもしれない。あのころにそれを知っていたら。
深めにかぶった帽子の下から、宝石みたいな双眸が、気を取り直すように私を見つめ返す。
「変わったといえば、ゆいかちゃんもだよ。綺麗になったもん、すごく」
「──そ、そうかな……。ありがとう」
「あ、べつに、以前がそうじゃなかったって意味じゃないから……! ただ、大人になって雰囲気が変わったっていうか、いや、喋るとけっこう昔のままなんだけどっ」
「うん、うん。わかってる。きっと、私が『まこちゃん、格好良くなったな』って思ってるのと同じだと思うし……!」
容姿を褒められることにはある程度慣れているので、普段なら──というか、他の人になら笑って「ありがとう」と返す自信がある。
でも、過去にはちょっと恥ずかしがりやなところがあったまこちゃんが、さらっとこんなことを。
何だか落ち着かなくて、ふたりであわあわと言い合っていると、アウターのポケットでスマホが振動する。
タイミングといい──それが、まるでいっくんの抗議の声みたいで。
ただでも不安定な心臓が、縮み上がる気分だった。
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