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「ねぇ、ちゃんと聞いてる? なるくん」
「はいはい、聞いてるってば。ったく、アタシ、あんたの専属カウンセラーでも何でもないんだからねェ?」
「最初はメッセージの遣り取りだけで浮き浮きだったのに、ほぼ結婚してるみたいな状態でも嫉妬するなんて、人間の欲は底が知れないよねぇ……」
「何言ってんの、まだしてないから」
「え~? だってセッちゃんちに遊びに行くとだいたいいるし、ふつうに台所に立ってるときとかあるし。同じようなものでしょ」
「……あんなの、れおくんに会いにきてるみたいなものじゃない?」
ぐちぐちと嫉妬をまき散らしていたセッちゃんは、鼻歌を交えながら「ああだ、いやこうだ」みたいな感じでペンを止めない黄昏色を軽くはたいた。月ぴ~はぜんぜん気に留めたそぶりもなく、曲作りをつづけている。
同年代の同業者でセッちゃんのことが大好きなのもお揃いで、月ぴ~とセッちゃんのカノジョが思いの外仲良くなって『自分で場をつくったけど複雑な気分』という話は前回に聞いた。
でも、けっきょくセッちゃんだって月ぴ~のことが大好きなので、複雑ではあっても、嫉妬の対象にはならなかったらしい。好きな子が筋金入りの一途だっていうのも、おおきいと思うけど。
「とうとう女の子にまで妬くようになっちゃって。いいかげん嫌がられるんじゃないのォ、泉ちゃん? 重くってさ」
「うるさいなぁ、だからここで発散してるんじゃん。だいたい、女は女でもあれは──何ていうか、俺たちの商売敵になり得るタイプの人間だから。実際、ちょっと前までは事務所の稼ぎ頭だったらしいし。顔もまぁ、そこそこ綺麗で、身長とかも俺とたいして変わんない感じ──れおくんやかさくんよりは確実に高いよ」
「その一言は本当に必要でしたか、瀬名先輩?」
「イメージしやすいでしょ?」
「『瀬名先輩と同じくらい』という情報だけでじゅうぶんかと思いますが」
セッちゃんの愚痴やら惚気にはそれほど興味がないと、ふだんはあんまり口を挟んでこないス~ちゃんが不満げな声を上げる。その隣で、さっきまではたしかに作曲に集中していたはずの月ぴ~も、今にも噛みつきそうな目でセッちゃんを見ていた。
『Knights』でいちばん高い子と低い子の間でさえ10cmも差がないのに、身長の話題はどうにもセンシティブだ。
「つうか、そんなことはどうでもいいの。そいつ、馬鹿がつくほど正直なタイプでさぁ。口を開けば口説き文句みたいな褒め言葉がぽんぽんでてくるわけ。ゆいかも、同性だからかずーっとニコニコして、お姫さま扱いされてるし」
「泉ちゃんがその子を見習えば、みんな笑顔でハッピーエンドじゃない?」
「ええ……? 俺としては、ずーっと他の男とイチャイチャされてるみたいで不快なんだけど」
「でも、それを本人にぶつけるつもりはないんだ?」
むくれた子供みたいなセッちゃんは、たっぷりの沈黙を置いて「だって、嫌われたくないしぃ?」とつぶやいた。
すれ違いとはいえ、いちど駄目にしているからか、カノジョのことに関してはいつもの暴君ぶりがたしょう鳴りをひそめている。
「……これは俺の想像だけど。セッちゃんのカノジョに変な虫がつかなかったのって、案外その子のおかげだったりするんじゃない?」
今までの愚痴から滲みでた惚気──ようするに、自分の好きな子がいかに魅力的であるか──を鵜呑みにするなら、そんな子にずっと恋人がいなかったというのは不自然極まりなかった。いかに一途といっても、失恋して弱っている時期があったのは事実で、セッちゃんによると「あいつに好意を持ってるやつはむかしから掃いて捨てるほどいた」らしいし。
長年の恋人と破局だなんてまたとない好機を、周囲が見逃すだろうか。
その点、初恋が空けた穴を「王子さまみたいな女の子」が上手に補っていたと考えれば──薄らぼんやり感じていた疑問にも、納得がいく。
「えっ、そういうこと? おかしいとは思ったんだよねぇ、あの押しに弱いゆいかに五年以上──いくら過保護な父兄がバックにいるとはいえ、何事もなかったなんて。俺、何かお礼とかしたほうがいいかなぁ……!?」
いつものように一蹴されるかと思ったけど、何か引っかかるところがあったらしい。神妙な顔でしばらく考えこんだと思ったセッちゃんが、目を丸くして慌てふためく。
「やめといたほうがいいんじゃなァい? それはそれでややこしいことになりそう。今度はゆいかちゃんが」
律儀に、だけど心底面倒くさそうに返すナッちゃんの助言に「おれもそう思う!」とやたらはきはきした賛同が加わる。
まぁ、このセッちゃんのカノジョだもんね。
良くも悪くも、似たもの同士。そういう子なんだろうっていうのは、想像に難くなかった。
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