camera obscura
マザー・テレサの瞳/ 茨木のり子(「倚りかからず」ちくま文庫より)
2025/05/11 04:39時に
猛禽類のように鋭く怖いようだった
マザー・テレサの瞳は
時に
やさしさの極北を示してもいた
二つの異なるものが融けあって
妖しい光を湛えていた
静かなる狂とでも呼びたいもの
静かなる狂なくして
インドでの徒労に近い献身が果せただろうか
マザー・テレサの瞳は
クリスチャンでもない私のどこかに棲みついて
じっとこちらを凝視したり
またたいたりして
中途半端なやさしさを撃ってくる!
鷹の眼は見抜いた
日本は貧しい国であると
慈愛の眼は救いあげた
垢だらけの瀕死の病人を
――なぜこんなことをしてくれるのですか
――あなたを愛しているからですよ
愛しているという一語の錨のような重たさ
自分を無にすることができれば
かくも豊饒なものがなだれこむのか
さらに無限に豊饒なものを溢れさせることができるのか
こちらは逆立ちしてもできっこないので
呆然となる
たった二枚のサリーを洗いつつ
取っかえ引っかえ着て
顔には深い皺を刻み
背丈は縮んでしまったけれど
八十六歳の老女はまたなく美しかった
二十世紀の逆説を生き抜いた生涯
外科手術の必要な者に
ただ包帯を巻いて歩いただけと批判する人は
知らないのだ
瀕死の病人をひたすら撫でさするだけの
慰藉の意味を
死にゆくひとのかたわらにただ寄り添って
手を握りつづけることの意味を
- 言葉が多すぎます
といって一九九七年
その人は去った
コメント
ウミネコ2025/05/11 11:35夜雨さんこんにちは☺️
茨木のり子さんとても好きです。でもこの詩は知りませんでした。茨木のり子さんの書くマザー・テレサ。やはりずしんと重みがありますね。
国語の教科書で出会った「私を束ねないで」が衝撃的で、そこから何冊か読みました。撃ち抜かれますね。[ 返信する ]
雨宮夜雨2025/05/11 12:03ウミネコさん、こんにちは!
茨木のり子さんの詩は読むと背筋が伸びる感じがします。しゃんとしなさいと喝が入るような。彼女の作品と近い雰囲気の石垣りんさんの詩もまた読むとちゃんと生きないとなあと思わされます。
「私を束ねないで」は初めて知りました。検索してみたら新川和江さんという方の作品のようですね。
作品はそれこそフェミニズム的な内容で10代の頃に読んでたら価値観凄い変わりそうだな〜と思いました🍀[ 返信する ]
ウミネコ2025/05/11 20:17ハッっ!!スミマセン💦
私を束ねないでは新井和江さんだったんですね〜お恥ずかしい😖どこで思い違ったんだろう…
茨木のり子さんは「敵」も衝撃を受けました。石垣りんさんは知りませんでした!またチェックしてみますね!✨️[ 返信する ]
雨宮夜雨2025/05/11 20:42いえいえ、お気になさらず〜!
茨木のり子さんの「敵」も検索してみましたが、ドキリとする内容でこの鋭さがとても好きです😊
私が好きな石垣りんの詩「弔詞」を呟きに貼っておくので良かったら見てください☺️🍀[ 返信する ]
ウミネコ2025/05/11 22:53「敵」ではなく、「敵について」でしたね💦なんかもう記憶が適当過ぎて申し訳ない!!!
石垣りんさんの詩も拝見しました。本当にハッとするというか…想うことで、誰かが生きて、存在していたことをちゃんと留めておいてくれようとするような、愛とか厳しさを感じますね…素敵です。知れてよかったです。[ 返信する ]
雨宮夜雨2025/05/13 00:10いえいえ、お気になさらず〜!私もタイトル勘違いして覚えてることあるので……😂
石垣りんさんと茨木のり子さんは定期的に読み返して自分に喝を入れています。
こういう、強くて凛とした彼女達に憧れます🥰💕[ 返信する ]