君と出逢うその日まで

In spiritu et veritate…….
(魂と真実において……)


(序)

 斬撃が空気を斬り裂き、鋭利に目前に迫る。
 殺られる――咄嗟にそう思った瞬間、漆黒が視界に飛び込んで来た。
  鋼鐵がぶつかり合う音共に敵の刃が躰を貫き、鮮血が地面に滴り落ちる。
「光忠……!」
 長身がくずおれるのを大倶利伽羅は抱き留める。ショートグローブを濡らす濃い血汐に大倶利伽羅は悲愴に顔を歪めた。
「何で……っ、」
「……伽羅ちゃん、ごめん……、僕はまた……君を置いていってしまう……、」
 光忠は唇から血を零しながら痛苦に喘ぐ。それでもどうにか笑おうとして戦慄く口許を力ませた。――最期はせめて、笑顔のままで。
「もう良い、もう喋るな」
 胸からの出血が止まらない。光忠の顔色が急速に青褪めていく。早く、早く帰城して光忠を手入れ部屋に連れて行かなければ。このままでは光忠は――、
 黒手袋の指先が大倶利伽羅の唇に触れる。撓められた隻眼から雫が落ちた。
「君が無事で、良かっ……、」
 紡ぐ言葉が途切れ、光忠の手から太刀が滑り落ちる。刀が鈍い音を立てて折れた。腕に抱いた躰の輪郭が薄れてゆく。
 光忠――大倶利伽羅が叫んだのとほぼ同時だった。
「大倶利伽羅! 危ない!」
 名を呼ばれて弾かれたように顔を上げると目の前で敵の白刃が閃いた。
 
 ――こんな終わり方は、望んでいなかったのに。
1/3ページ
スキ