Track 01 乱調でスタンダード
誰よりも早く紅の結界に入ったヨウスケは、ノイズレンダー【ヴィシャス】を起動させて戦闘型ナイトフライオノートと次々と交戦していた。
本物のナイトフライオノートと戦うのは初めてだった。シュミレーション訓練で何度も何度も斬ってきた敵が、実際に目の前にいる。だがその実感がまるでわかないのは、紅の結界の影響下では周りが全て真紅に染まり、ナイトフライオノートさえ個体の色がわからないほど赤色一色になってしまうからだからだろうか。
まるで血の海にいるみたいだ、とヨウスケは思った。
「ツァール・ツヴァイだ。紅の結界の影響下に入った。他のライダーはまだ到着していない。」
VOXにいるアキラに一言だけ報告を入れる。そうこうしている間にも、次々とナイトフライオノートがヨウスケの元に現れた。
「敵がウジャウジャいやがるぜ。よりどりみどりだ。」
ヨウスケはヴィシャスを軽く振り回して敵を切り裂く。
「他の連中を待ってる時間はねえ。俺1人で戦闘を開始する!それで文句はねぇよなぁ⁉︎」
ヨウスケの口調が少しずつ、だが明らかに変わっていくのをアキラは感じた。
「好きにしなさい、あなたの戦闘能力についてはすでに報告を受けている。単独でも充分戦えるわ。」
「……意外だったな。止められると思ったが……へへ、信頼されてんだな、俺って!」
そう言いながらヴィシャスを構えるヨウスケは、褒められた時の子供のように無邪気に喜んでいる。その姿はヨウスケというよりも、フェルナンデスそのもののように見えた。これがレゾナンスの影響なのだ。
「ライダー全員が紅の結界の影響下に入りました。紅の結界はツヴァイが戦闘開始した時点で拡大を停止しています。」
駿河からの報告にアキラは頷いてみせ、続けて指揮を執った。
「全員、敵と交戦しながら紅の結界の中心へ。おそらく侵略型がそこにいるわ。戦闘型の数が減ったら侵略型の動きを封じて一気にアンカーを撃ち込むわよ!……あれ…?」
ふと、モニターの隅に小さな光の点滅を見つけた。辺りの住人は全員避難しているにも関わらず、モニターに映る紅の結界内に生体反応がある。
「アイン、あなたの近くに生体反応がみられるわ!進行方向から東へ約50度、距離50メートル!逃げ遅れた人がいるのかもしれない!確認して!」
「了解」
タクトが指示された地点まで行くと、住宅と塀の間に仔犬がうずくまっている姿が見えた。紅の結界の影響で呼吸が上手く出来ず、身体も動かせないようだ。
「こちらツァール・アイン。生体反応の正体は仔犬だ。……どうする教官?」
ぐずぐずしている暇はなかった。戦闘型ナイトフライオノートを殲滅しながら侵略型を探し、リメイクされる前にアンカーを撃ち込まねばならない。作戦を成功させるには少しでも戦闘型の数を減らさなければならず、いくらアイン以外にライダーが4人いるからといっても、アインも当然戦闘員のひとりとしてナイトフライオノートたちと戦ってもらわなければならない……はずだった。
「アインは仔犬を連れて紅の結界から退避!仔犬を安全なところまで避難させて!その後再び紅の結界へ急行!」
おそらく、アキラが迷った時間なんて30秒程度……いや、それどころか10秒も考えていなかったように思われた。
「……それがあなたのやり方というわけか。」
アキラの判断を否定するわけでも肯定するわけでもないタクトの冷静な声が無線を通じてVOXに響く。
「甘いって言いたいんでしょ?わかってる。でも命には変わりない。」
「……いや、それが命令なら従おう。仔犬を避難させたらすぐに戻る。」
言いたいことはあるかもしれなかったが、タクトは素直にアキラの指示に従って仔犬を抱いたまますぐに移動した。
「教官!ライダー4名が紅の結界の中心付近へ集まり始めています。ツヴァイが侵略型ナイトフライオノートと交戦開始!」
「了解。オペレーター、アンカー発撃準備!…ライダー全員聞こえてるわね?ツヴァイ、侵略型ナイトフライオノートの動きを一瞬でいいから封じて。タイミングを合わせてアンカーを撃ち込むわ。ドライ、フィア、フュンフは残りの戦闘型をアンカー落下域内に追い込むように!」
アキラの指揮で全員が一斉に動き出す。VOXもアンカー発撃準備で形態を素早く変形させた。
「レッツ・ショーターイム♪」
「ちょっと!バカカズキ!敵の前でなに歌い出してるんだよ!」
戦闘もいよいよ大詰めを迎えているにもかかわらずナイトフライオノートと交戦しながらカズキが突然歌い出し、ヒロがカズキに怒り出す。
「おい、お前ら集中しろ!……やれやれ、これじゃ締まらないじゃねぇか……」
ユゥジは溜息混じりに2人を注意した。
「……このほうが、俺たちらしい。」
ヨウスケが少し微笑んで呟く。
緊張感のある中にも、どこか軽快なリズムを感じさせるような雰囲気が第六戦闘ユニットにはあるとアキラは感じた。5人の様々な性格が絶妙なバランスとハーモニーを作り出しているようだった。
「教官!アンカー発撃準備完了しました!」
但馬の声がVOXに響くと、全員に緊張が走る。と、微かなノイズ混じりに無線が入った。
「そうだ。乱調こそが我らの美!教官、次のヨウスケの一撃で決めるぞ。」
アキラは仔犬を避難させて戻ってきたタクトが最後の戦闘型ナイトフライオノートをアンカー落下域内に追い込んだのを確認してトリガーに指をかけ、ヨウスケが侵略型ナイトフライオノートに一撃をしかけたタイミングを図った。
戦いに失敗は許されない。ここにいる全員の命はもちろん、世界の命運がこのアンカーにかかっている。アキラは一度だけ深く息を吸った。
「ライダー全員退避!アンカー発撃!」
アキラがトリガーを引くと、VOXから激しく瞬く光線が真っ直ぐに紅の結界へ落ちる。アンカーが撃ち込まれた地上は一瞬にして砂煙で何も見えなくなったが、ひと呼吸おいてすぐに真紅に染まっていた辺りの景色が元通りの鮮やかな色を取り戻していく。照りつける太陽の光が、木々の緑や空の青、大地の色をキラキラと美しく煌めかせた。
「紅の結界消失。侵略型および戦闘型ナイトフライオノートの消滅を確認しました。」
報告をする近江の声に安堵の色が滲んでいる。ライダーやアキラたちだけではなく、甘粕やオペレーターズの彼らにとっても初陣だったのだから当然の反応だろう。アキラもトリガーから離した両手が、少し汗ばんでいた。
「みんな、お疲れ様。私たちの勝ちよ!」
アキラがそう言うと、無線の向こうから勝利を喜ぶ賑やかな声が聞こえる。
(ここにいる全員で、この青の世界を守っていくんだ。)
「さぁ、LAGに帰ろう!」
アキラは満面の笑みで仲間たちをVOXに迎えた。
*・゜゚・*:.。..。.:*・・*:.。. .。.:*・゜゚・*・*:.。. .。.:*・゜゚・*・*:
「そんじゃあ、乾杯〜!」
ユゥジの音頭でグラスがぶつかる音が響く。初陣を勝利で納めた"IS"は、アキラの歓迎会を兼ねてみんなで食事をとろうというヨウスケの提案で調理室に集まっていた。
「あんたと約束してた昼ごはんだ。今朝あんたと山で会った時に採ってきたこごみとラフティーで甘辛チャーハンにしてみた。……味はどうだ?」
他のメンバーが食べているのには目もくれず、ヨウスケはアキラの方を真っ直ぐ向いて聞いてきた。
「美味しい!ヨウスケくん、本当に料理が上手なんだね!」
第六戦闘ユニットがLAGに帰還したのは午後2時をとうに回っていた。LAGの食堂は午後2時に閉まってしまうため全員が昼食を食べ損ねてしまったわけだが、ヨウスケがもともとアキラの歓迎会と言う名の昼食会を密かに計画していたため売店の菓子パンなどの軽食にならずに済んだのだ。
「こっちの山菜のおひたしも美味しい!甘粕くんたちも来れば良かったのに……」
第六の親睦を深めて欲しいからと、甘粕やオペレーターズはLAGに帰還後、すぐに日常業務や訓練に戻って行ってしまった。彼らはおそらく売店に売っているもので空腹を満たしたに違いない。なんだか少し申し訳ない気持ちでいっぱいだが、そこは彼らなりの気遣いだと思ってアキラはありがたく第六水入らずで食事をとることにした。
「まったく、タクトの奴はリーダーのくせに不参加だなんて…。アキラ、気にするなよ。あいつは馬鹿がつくほど真面目なだけだから。」
成人しているユゥジは、1人ビールを飲みながら「戦いの後の一杯はたまらん」と言っている。
「大丈夫。タクトくんの気持ちはわかってるつもりだから。すぐに分かり合えるとは思っていないし、私が結果を出せばきっと認めてくれると思うの。だから私頑張るよ。」
めげずに挑むアキラの姿勢にユゥジが「くぅーっ!健気だねぇ!」と言い、ヒロに「ユゥジは発言も年寄りだよねぇ」と突っ込まれていた。この2人は本当に兄弟のように仲がいい。それを見て他の仲間たちが笑う、そんな雰囲気をアキラは心地よく感じている。
「……なぁ、あんたは何で戦うんだ?」
料理をお腹いっぱい食べて満足した頃、アキラのそばで洗い物をしていたヨウスケに唐突に聞かれ、アキラは一瞬言葉に詰まる。
「……わからない。」
アキラがそう返答すると、ヨウスケの洗い物をする手が止まり、視線がそれまで手に持っていた皿からアキラへと向けられた。ユゥジやヒロ、カズキは少し離れたところでバンド練習や新曲の歌詞のことについて賑やかに話している。
少しの間、アキラとヨウスケの間に静かな時間が流れた。洗い物をしている水の音がやけに大きく聞こえる気がする。ヨウスケにしか聞こえていないとわかったうえで、アキラは素直な気持ちでヨウスケの質問に答えた。
「世界を……この青の世界を守りたいと思ってる。でも【誰のため】とか【なんのため】って、改めて考えてみると……よくわかんないかも。」
アキラにとってLAGに入って青の世界を守ることは幼い頃からの夢だった。いつから、どうしてその夢を抱き始めたのかはもう覚えていない。両親と離れ、親戚に引き取られた後に天才児として国に認められ、10歳で国立大に入学した頃にはもうその夢に向かって走り始めていたのだ。ただ漠然と、戦いの最前線であるこのリュウキュウを目指してきた。
「……そうか。……あんたも俺と同じで安心した。」
洗い物をするヨウスケの手が再び動き出す。
お腹がいっぱいで、ヨウスケの洗い物をする水音が心地よくて、仲間と呼べる人達がいて、なんだか楽しくて。
「……私、こういう何気ない日常が幸せだと思うの。それを守りたい……かな?」
洗い物をするヨウスケの手慣れた姿を、頬杖をつきながらアキラは見つめる。
相変わらず他の3人は和気あいあいと話しているが、よく聞いてみると【カズキは何を言っているのかよくわからない】というヒロのダメ出しが盛り上がっているようだった。
「……今日のあんたの指揮、戦いやすかった。」
ヨウスケが優しく微笑むと、アキラの頰も自然と緩んだ。
・*:.。. .。.:*・゜゚・*Go To Next Track・*:.。. .。.:*・
本物のナイトフライオノートと戦うのは初めてだった。シュミレーション訓練で何度も何度も斬ってきた敵が、実際に目の前にいる。だがその実感がまるでわかないのは、紅の結界の影響下では周りが全て真紅に染まり、ナイトフライオノートさえ個体の色がわからないほど赤色一色になってしまうからだからだろうか。
まるで血の海にいるみたいだ、とヨウスケは思った。
「ツァール・ツヴァイだ。紅の結界の影響下に入った。他のライダーはまだ到着していない。」
VOXにいるアキラに一言だけ報告を入れる。そうこうしている間にも、次々とナイトフライオノートがヨウスケの元に現れた。
「敵がウジャウジャいやがるぜ。よりどりみどりだ。」
ヨウスケはヴィシャスを軽く振り回して敵を切り裂く。
「他の連中を待ってる時間はねえ。俺1人で戦闘を開始する!それで文句はねぇよなぁ⁉︎」
ヨウスケの口調が少しずつ、だが明らかに変わっていくのをアキラは感じた。
「好きにしなさい、あなたの戦闘能力についてはすでに報告を受けている。単独でも充分戦えるわ。」
「……意外だったな。止められると思ったが……へへ、信頼されてんだな、俺って!」
そう言いながらヴィシャスを構えるヨウスケは、褒められた時の子供のように無邪気に喜んでいる。その姿はヨウスケというよりも、フェルナンデスそのもののように見えた。これがレゾナンスの影響なのだ。
「ライダー全員が紅の結界の影響下に入りました。紅の結界はツヴァイが戦闘開始した時点で拡大を停止しています。」
駿河からの報告にアキラは頷いてみせ、続けて指揮を執った。
「全員、敵と交戦しながら紅の結界の中心へ。おそらく侵略型がそこにいるわ。戦闘型の数が減ったら侵略型の動きを封じて一気にアンカーを撃ち込むわよ!……あれ…?」
ふと、モニターの隅に小さな光の点滅を見つけた。辺りの住人は全員避難しているにも関わらず、モニターに映る紅の結界内に生体反応がある。
「アイン、あなたの近くに生体反応がみられるわ!進行方向から東へ約50度、距離50メートル!逃げ遅れた人がいるのかもしれない!確認して!」
「了解」
タクトが指示された地点まで行くと、住宅と塀の間に仔犬がうずくまっている姿が見えた。紅の結界の影響で呼吸が上手く出来ず、身体も動かせないようだ。
「こちらツァール・アイン。生体反応の正体は仔犬だ。……どうする教官?」
ぐずぐずしている暇はなかった。戦闘型ナイトフライオノートを殲滅しながら侵略型を探し、リメイクされる前にアンカーを撃ち込まねばならない。作戦を成功させるには少しでも戦闘型の数を減らさなければならず、いくらアイン以外にライダーが4人いるからといっても、アインも当然戦闘員のひとりとしてナイトフライオノートたちと戦ってもらわなければならない……はずだった。
「アインは仔犬を連れて紅の結界から退避!仔犬を安全なところまで避難させて!その後再び紅の結界へ急行!」
おそらく、アキラが迷った時間なんて30秒程度……いや、それどころか10秒も考えていなかったように思われた。
「……それがあなたのやり方というわけか。」
アキラの判断を否定するわけでも肯定するわけでもないタクトの冷静な声が無線を通じてVOXに響く。
「甘いって言いたいんでしょ?わかってる。でも命には変わりない。」
「……いや、それが命令なら従おう。仔犬を避難させたらすぐに戻る。」
言いたいことはあるかもしれなかったが、タクトは素直にアキラの指示に従って仔犬を抱いたまますぐに移動した。
「教官!ライダー4名が紅の結界の中心付近へ集まり始めています。ツヴァイが侵略型ナイトフライオノートと交戦開始!」
「了解。オペレーター、アンカー発撃準備!…ライダー全員聞こえてるわね?ツヴァイ、侵略型ナイトフライオノートの動きを一瞬でいいから封じて。タイミングを合わせてアンカーを撃ち込むわ。ドライ、フィア、フュンフは残りの戦闘型をアンカー落下域内に追い込むように!」
アキラの指揮で全員が一斉に動き出す。VOXもアンカー発撃準備で形態を素早く変形させた。
「レッツ・ショーターイム♪」
「ちょっと!バカカズキ!敵の前でなに歌い出してるんだよ!」
戦闘もいよいよ大詰めを迎えているにもかかわらずナイトフライオノートと交戦しながらカズキが突然歌い出し、ヒロがカズキに怒り出す。
「おい、お前ら集中しろ!……やれやれ、これじゃ締まらないじゃねぇか……」
ユゥジは溜息混じりに2人を注意した。
「……このほうが、俺たちらしい。」
ヨウスケが少し微笑んで呟く。
緊張感のある中にも、どこか軽快なリズムを感じさせるような雰囲気が第六戦闘ユニットにはあるとアキラは感じた。5人の様々な性格が絶妙なバランスとハーモニーを作り出しているようだった。
「教官!アンカー発撃準備完了しました!」
但馬の声がVOXに響くと、全員に緊張が走る。と、微かなノイズ混じりに無線が入った。
「そうだ。乱調こそが我らの美!教官、次のヨウスケの一撃で決めるぞ。」
アキラは仔犬を避難させて戻ってきたタクトが最後の戦闘型ナイトフライオノートをアンカー落下域内に追い込んだのを確認してトリガーに指をかけ、ヨウスケが侵略型ナイトフライオノートに一撃をしかけたタイミングを図った。
戦いに失敗は許されない。ここにいる全員の命はもちろん、世界の命運がこのアンカーにかかっている。アキラは一度だけ深く息を吸った。
「ライダー全員退避!アンカー発撃!」
アキラがトリガーを引くと、VOXから激しく瞬く光線が真っ直ぐに紅の結界へ落ちる。アンカーが撃ち込まれた地上は一瞬にして砂煙で何も見えなくなったが、ひと呼吸おいてすぐに真紅に染まっていた辺りの景色が元通りの鮮やかな色を取り戻していく。照りつける太陽の光が、木々の緑や空の青、大地の色をキラキラと美しく煌めかせた。
「紅の結界消失。侵略型および戦闘型ナイトフライオノートの消滅を確認しました。」
報告をする近江の声に安堵の色が滲んでいる。ライダーやアキラたちだけではなく、甘粕やオペレーターズの彼らにとっても初陣だったのだから当然の反応だろう。アキラもトリガーから離した両手が、少し汗ばんでいた。
「みんな、お疲れ様。私たちの勝ちよ!」
アキラがそう言うと、無線の向こうから勝利を喜ぶ賑やかな声が聞こえる。
(ここにいる全員で、この青の世界を守っていくんだ。)
「さぁ、LAGに帰ろう!」
アキラは満面の笑みで仲間たちをVOXに迎えた。
*・゜゚・*:.。..。.:*・・*:.。. .。.:*・゜゚・*・*:.。. .。.:*・゜゚・*・*:
「そんじゃあ、乾杯〜!」
ユゥジの音頭でグラスがぶつかる音が響く。初陣を勝利で納めた"IS"は、アキラの歓迎会を兼ねてみんなで食事をとろうというヨウスケの提案で調理室に集まっていた。
「あんたと約束してた昼ごはんだ。今朝あんたと山で会った時に採ってきたこごみとラフティーで甘辛チャーハンにしてみた。……味はどうだ?」
他のメンバーが食べているのには目もくれず、ヨウスケはアキラの方を真っ直ぐ向いて聞いてきた。
「美味しい!ヨウスケくん、本当に料理が上手なんだね!」
第六戦闘ユニットがLAGに帰還したのは午後2時をとうに回っていた。LAGの食堂は午後2時に閉まってしまうため全員が昼食を食べ損ねてしまったわけだが、ヨウスケがもともとアキラの歓迎会と言う名の昼食会を密かに計画していたため売店の菓子パンなどの軽食にならずに済んだのだ。
「こっちの山菜のおひたしも美味しい!甘粕くんたちも来れば良かったのに……」
第六の親睦を深めて欲しいからと、甘粕やオペレーターズはLAGに帰還後、すぐに日常業務や訓練に戻って行ってしまった。彼らはおそらく売店に売っているもので空腹を満たしたに違いない。なんだか少し申し訳ない気持ちでいっぱいだが、そこは彼らなりの気遣いだと思ってアキラはありがたく第六水入らずで食事をとることにした。
「まったく、タクトの奴はリーダーのくせに不参加だなんて…。アキラ、気にするなよ。あいつは馬鹿がつくほど真面目なだけだから。」
成人しているユゥジは、1人ビールを飲みながら「戦いの後の一杯はたまらん」と言っている。
「大丈夫。タクトくんの気持ちはわかってるつもりだから。すぐに分かり合えるとは思っていないし、私が結果を出せばきっと認めてくれると思うの。だから私頑張るよ。」
めげずに挑むアキラの姿勢にユゥジが「くぅーっ!健気だねぇ!」と言い、ヒロに「ユゥジは発言も年寄りだよねぇ」と突っ込まれていた。この2人は本当に兄弟のように仲がいい。それを見て他の仲間たちが笑う、そんな雰囲気をアキラは心地よく感じている。
「……なぁ、あんたは何で戦うんだ?」
料理をお腹いっぱい食べて満足した頃、アキラのそばで洗い物をしていたヨウスケに唐突に聞かれ、アキラは一瞬言葉に詰まる。
「……わからない。」
アキラがそう返答すると、ヨウスケの洗い物をする手が止まり、視線がそれまで手に持っていた皿からアキラへと向けられた。ユゥジやヒロ、カズキは少し離れたところでバンド練習や新曲の歌詞のことについて賑やかに話している。
少しの間、アキラとヨウスケの間に静かな時間が流れた。洗い物をしている水の音がやけに大きく聞こえる気がする。ヨウスケにしか聞こえていないとわかったうえで、アキラは素直な気持ちでヨウスケの質問に答えた。
「世界を……この青の世界を守りたいと思ってる。でも【誰のため】とか【なんのため】って、改めて考えてみると……よくわかんないかも。」
アキラにとってLAGに入って青の世界を守ることは幼い頃からの夢だった。いつから、どうしてその夢を抱き始めたのかはもう覚えていない。両親と離れ、親戚に引き取られた後に天才児として国に認められ、10歳で国立大に入学した頃にはもうその夢に向かって走り始めていたのだ。ただ漠然と、戦いの最前線であるこのリュウキュウを目指してきた。
「……そうか。……あんたも俺と同じで安心した。」
洗い物をするヨウスケの手が再び動き出す。
お腹がいっぱいで、ヨウスケの洗い物をする水音が心地よくて、仲間と呼べる人達がいて、なんだか楽しくて。
「……私、こういう何気ない日常が幸せだと思うの。それを守りたい……かな?」
洗い物をするヨウスケの手慣れた姿を、頬杖をつきながらアキラは見つめる。
相変わらず他の3人は和気あいあいと話しているが、よく聞いてみると【カズキは何を言っているのかよくわからない】というヒロのダメ出しが盛り上がっているようだった。
「……今日のあんたの指揮、戦いやすかった。」
ヨウスケが優しく微笑むと、アキラの頰も自然と緩んだ。
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