Track 01 乱調でスタンダード
「VOX、目的地 ツキガハマに到着しました。」
「よろしい。まずはここで様子を見ましょう。周辺の状況は?」
アキラは駿河が向かっているモニターに目を向ける。
「レッドノイズ、依然消失したままです。住民が避難してがらんとしている以外はいつも通りです。」
駿河は外部カメラからの映像が映るモニターを見ながら言った。
「もともと微弱な反応でしたからね。気配を殺して潜り込まれると、我々のレーダーでは探知できなくなる。」
甘粕も外部カメラ映像に目を向けて敵の姿を探すが、がらんとした街並みは未だ変化を見せない。
「油断は禁物よ。姿を隠して待ち伏せしている可能性もあるわ。ライダーたちの兵装、ノイズレンダーの準備は大丈夫?」
「ノイズレンダーは各フェイザーに実装済みです。」
近江はアキラに親指を立てて見せた。
「了解。各ライダーに通達!戦闘態勢のまま索敵を続行。異変があったらすぐに知らせるように。」
但馬が手早く各ライダーに索敵指令を出す中、アキラは各ライダーのメンタルヘルスコンディションを表すモニターを確認する。精神状態や健康状態に問題なければブルー、不安などがあればイエロー、危険ならばレッドと各ライダー別で色に変化が現れるように常に心拍数や血圧が細かくデータとして計測されている。
「ツァール・フィア、周辺状況はどう?」
アキラはヒロと通信を繋いで声をかけた。
「こちら、つ、ツァール・フィア。げ、現在異常ありません。」
スピーカーから、ヒロの緊張した声が聞こえた。メンタルヘルスモニターがイエローコールしている。
「固すぎると冷静さを失うから落ち着いて。重要なものを見落とすわよ。」
アキラの忠告にムッとしたのか、ヒロが「余計なお世話だよ」と小さく、だがしっかり聞こえる音量の声で言った。
「例えば背後に迫る敵とか、見落とさないでね。」
アキラにそう言われて、ヒロはギョッとした表情で慌てて後ろを振り返る。そこになにもいないと知ると、とても低い声でアキラに言い返した。
「……例えがベタすぎるよ!お化け屋敷に来てるんじゃないんだから、脅かすのとか無しだよ!」
「でも敵が背後に来ないとは限らないでしょ?」
アキラが悪戯っぽくヒロに言うと、ヒロは「むうっ」と口を尖らせる。
「……でもちょっと気持ちがほぐれたよ。ありがと。」
そう言って少し恥ずかしそうにうつむくヒロを見て、アキラはホッとした。
「……ツァール・フィアのイエローコールが消えましたね。」
甘粕が「さすがです」とアキラに言った。
確かに彼らは死線で戦うライダーだ。遊びでこの場に来ているわけではない。だが戦うという事をひとりで背負わないで欲しいと、アキラはライダーたちに対して願っている。ひとりで戦うのではない。5人で、そしてアキラ自身も入れて6人で戦っているのだと思って欲しかった。
「レッドノイズ、依然反応なし。紅の結界も確認できていません。」
「紅の結界…リメイクの前段階。リメイクだけは防がねば…。」
オペレーターの報告に、甘粕は少し顔をしかめる。
ナイトフライオノートにも種類があるのだが、【紅の結界】という紅の世界の住人しか存在できない空間を作り出せるタイプのナイトフライオノートがいる。紅の結界が張られてリメイクされてしまうと、その空間は紅の世界と完全に同一されてしまい、青の世界の住人は住むことが出来なくなってしまう。稀に例外もあるが、リメイクされた空間は空っぽになってしまうことがほとんどなのだ。
「こちらツァール・ドライ。こっちは特に異常は見られない。…まだレッドノイズ反応は現れないのか?」
通信機から少しイラついたユゥジの声が聞こえた。
「ええ、紅の結界も確認できてないわ。」
「…ったく、いるなら早く出てこいっつーの。この辺はLAGの奴らの家が多いんだ。早く倒さないとリメイクで被害が出ちまう。」
民家の通りを索敵しながらユゥジが呟く。相変わらずがらんとした通りに、敵の姿は確認出来なかった。
「安心して、住民の避難は完了しているわ。」
「そうだろうけどさ。命だけじゃなくてLAGの連中の家も守ってやりたいんだよ。やっぱ自分の家が被害にあったらキツいだろ?俺にしてみりゃLAGの連中はみんな家族みたいなもんだからさ。」
確かに命を最優先で守らなければならないことは明白だ。だから建物などは二の次にされることが多い。リメイクさえ起こさせなければ、紅の世界に空間を盗られることはない。建物が壊れたとしても建て直せばいい。政府はそれくらいの考えでいる。それはアキラも例外ではなかった。
「彼らの家のことまで私は考えてなかった。優しいんだね、ユゥジくん。…よし!じゃあ建物に被害が出る前に早く敵を見つけないとね!」
「…ぷっ、解ってくれる教官で良かったよ。元気もいいしな!」
ユゥジとアキラの穏やかなやり取りの途中で、突然事態は急変した。
「アクティブスキャンレーダーに反応!発見しました!……レッドノイズです!」
レーダーから異常を知らせる警報が鳴る。近江の緊迫した声に続いて駿河と但馬からも報告が入った。
「紅の結界、急速に拡大中!山間部が結界の影響下に入ります!」
「続いてアベレイト反応確認、ナイトフライオノート多数出現!戦闘情報センターにアクセス、識別開始!」
一気に緊迫し、アキラはぐっと姿勢を正して報告を聞いた。
「識別完了!クラシフィケーションF、戦闘型です!合計66体!」
「まんまと待ち伏せにはまったわけか。おまけに紅の結界も発動……教官、このままでは……!」
甘粕は眼鏡に手を添えてモニターに広がる紅の結界を注視する。山間部とはいえ、そこには多くの動植物が生息している。この瞬間にも、紅の結界の影響下にいる動植物の命が奪われているのだ。
「想定内の事態だわ。驚くに値しない。」
先ほどと同じく、アキラの声色と目付きが変わった事に甘粕は気付いた。
「オペレーター、敵の1番近くにいるのは誰?」
「ツァール・ツヴァイが最も現場に接近しています。距離300!」
「了解。メンテナンス室にも通信を。…ライダーもサブスタンスのみんなも聞こえてるわね⁉︎スカーレッドライダーにレゾナンス許可!」
アキラの命令を聞いて「よっしゃーー!!!」とフェルナンデスが叫んだ声が聞こえた。サブスタンスたちにとっても、これが初陣となる。
アキラも、メインスタンスとサブスタンスがレゾナンスするのを目の当たりにするのはこれが初めてだった。
「紅傷(せきしょう)!」と叫び、メインスタンスたちは首に掛けていたヘッドフォン型の機器から伸びるプラグを掌に当てたように見えた。すると、たちまち彼らは何とも言えない変貌を遂げた。それをなんと表現したら正しいのだろう。アキラの目には、ビリビリッと電気のような光が彼らの身体を取り巻いたかと思うと、まるでサブスタンスたちの身体がメインスタンスたちの身体を取り巻いて包むように融合したように見えた。レゾナンスしたライダーたちは、合皮のような安っぽい生地でない、この世には存在しないような素材の不思議なライダースーツに全身を包んでいる。
「……これがレゾナンス…!」
アキラは後で知ったことだが、ヘッドフォン型の機器はゼノバイザーといい、メインスタンスがサブスタンスとより安定した融合が出来るようにするためのものらしい。ゼノバイザーから繋がるプラグを掌にある「紅傷」と呼ばれるスカーレッドライダーの証ともいえる十字の傷に差し込むことでレゾナンスするそうだ。
スカーレッドライダーになるための条件は優秀な成績を修めて学期末のライダー選抜試験に残ることだけではない。もっとも重要なのはサブスタンスに選ばれることだ。どんなに実技や筆記試験の成績が優秀でも、サブスタンスと信頼関係を築けなければライダーにはなれない。逆に言えばどんなに成績が悪くても、サブスタンスに選ばれてしまえばライダーになる資格を得る。サブスタンスに選ばれし者のその掌に紅傷という絆が浮かび上がるのだ。
ただ、レスポール曰く「鈍臭いやつなんかとレゾナンスして敵にやられちゃったら馬鹿みたいだろー?だから必然的に成績優秀な【デキる奴】が選ばれるんだよー。」と言っていた。もちろん、過去には例外もいただろうが。
「教官、貴女にはまだ話していないことがあります。」
「何?」
甘粕は真っ直ぐにアキラの方を見て、ゆっくりと話す。甘粕のその瞳は真剣そのものだった。
「ナイトフライオノートと人とのレゾナンスによってもたらされる力は、人類にとってナイトフライオノートに唯一対抗できる手段となります。だが、そこには大きなリスクが伴うのです。」
「…リスク?」
アキラは学生時代からサブスタンスやレゾナンスについての知識を全て学習し、どういうものであるかは知っているつもりでいた。ただそれは教科書や資料のうえでの話で、アキラ自身の目で見るのは今回が初めてではあったが、今までどの書物にも「レゾナンスによるリスク」などという文言は記されていなかったと記憶している。
「メインスタンスの身体にメインスタンスとサブスタンスのふたつの心が存在するレゾナンスは、メインスタンスの精神にとても大きな負担がかかるのです。あまりメインスタンスの気持ちをないがしろにした指揮を執ると、メインスタンスの精神はしだいにサブスタンスの精神に侵食されてしまうのです。」
甘粕は眼鏡に手を当ててクッと位置を上に直した。
「……ですが時には非情な判断をしなければならないこともあるでしょう。それが勝利のためならば、例えメインスタンスの精神を侵食してしまうようなことであっても。戦いの勝利も敗北も、ライダーたちの生死も、全ては貴女の指揮次第です。」
甘粕の瞳は、アキラに何かを語りかけているようだった。
「……そうね、甘粕くんやタクトくんの言う通り、全ては私の指揮次第だわ。」
アキラは外部映像カメラでレゾナンスしたライダーたちの姿を今一度確認する。彼らは今、ヒトであってヒトに非ず。レゾナンスしている彼らが一番、そのリスクを身を以て実感しているばずだ。そうまでして彼らがこの青の世界を守りたいと願っているのならば、アキラはその彼らの想いも、彼ら自身も守りたいと強く願う。
「……それでもその勝利のための判断が必ずしも悪い選択とは限らない。結果的に彼らを救う可能性だってある。……私は、彼らのことも自分自身のことも、信じてるよ。」
アキラは甘粕の瞳を真っ直ぐに見返した。
「教官!ライダーたちが指示を待っています!」
近江に急かされ、アキラは頷いてみせた。
「ライダー各員、紅の結界が観測された地点に急行せよ!以後の指示は個別に与えます!」
アキラの指示に全員が「了解」と答え、フェイザーを滑らせた。
「よろしい。まずはここで様子を見ましょう。周辺の状況は?」
アキラは駿河が向かっているモニターに目を向ける。
「レッドノイズ、依然消失したままです。住民が避難してがらんとしている以外はいつも通りです。」
駿河は外部カメラからの映像が映るモニターを見ながら言った。
「もともと微弱な反応でしたからね。気配を殺して潜り込まれると、我々のレーダーでは探知できなくなる。」
甘粕も外部カメラ映像に目を向けて敵の姿を探すが、がらんとした街並みは未だ変化を見せない。
「油断は禁物よ。姿を隠して待ち伏せしている可能性もあるわ。ライダーたちの兵装、ノイズレンダーの準備は大丈夫?」
「ノイズレンダーは各フェイザーに実装済みです。」
近江はアキラに親指を立てて見せた。
「了解。各ライダーに通達!戦闘態勢のまま索敵を続行。異変があったらすぐに知らせるように。」
但馬が手早く各ライダーに索敵指令を出す中、アキラは各ライダーのメンタルヘルスコンディションを表すモニターを確認する。精神状態や健康状態に問題なければブルー、不安などがあればイエロー、危険ならばレッドと各ライダー別で色に変化が現れるように常に心拍数や血圧が細かくデータとして計測されている。
「ツァール・フィア、周辺状況はどう?」
アキラはヒロと通信を繋いで声をかけた。
「こちら、つ、ツァール・フィア。げ、現在異常ありません。」
スピーカーから、ヒロの緊張した声が聞こえた。メンタルヘルスモニターがイエローコールしている。
「固すぎると冷静さを失うから落ち着いて。重要なものを見落とすわよ。」
アキラの忠告にムッとしたのか、ヒロが「余計なお世話だよ」と小さく、だがしっかり聞こえる音量の声で言った。
「例えば背後に迫る敵とか、見落とさないでね。」
アキラにそう言われて、ヒロはギョッとした表情で慌てて後ろを振り返る。そこになにもいないと知ると、とても低い声でアキラに言い返した。
「……例えがベタすぎるよ!お化け屋敷に来てるんじゃないんだから、脅かすのとか無しだよ!」
「でも敵が背後に来ないとは限らないでしょ?」
アキラが悪戯っぽくヒロに言うと、ヒロは「むうっ」と口を尖らせる。
「……でもちょっと気持ちがほぐれたよ。ありがと。」
そう言って少し恥ずかしそうにうつむくヒロを見て、アキラはホッとした。
「……ツァール・フィアのイエローコールが消えましたね。」
甘粕が「さすがです」とアキラに言った。
確かに彼らは死線で戦うライダーだ。遊びでこの場に来ているわけではない。だが戦うという事をひとりで背負わないで欲しいと、アキラはライダーたちに対して願っている。ひとりで戦うのではない。5人で、そしてアキラ自身も入れて6人で戦っているのだと思って欲しかった。
「レッドノイズ、依然反応なし。紅の結界も確認できていません。」
「紅の結界…リメイクの前段階。リメイクだけは防がねば…。」
オペレーターの報告に、甘粕は少し顔をしかめる。
ナイトフライオノートにも種類があるのだが、【紅の結界】という紅の世界の住人しか存在できない空間を作り出せるタイプのナイトフライオノートがいる。紅の結界が張られてリメイクされてしまうと、その空間は紅の世界と完全に同一されてしまい、青の世界の住人は住むことが出来なくなってしまう。稀に例外もあるが、リメイクされた空間は空っぽになってしまうことがほとんどなのだ。
「こちらツァール・ドライ。こっちは特に異常は見られない。…まだレッドノイズ反応は現れないのか?」
通信機から少しイラついたユゥジの声が聞こえた。
「ええ、紅の結界も確認できてないわ。」
「…ったく、いるなら早く出てこいっつーの。この辺はLAGの奴らの家が多いんだ。早く倒さないとリメイクで被害が出ちまう。」
民家の通りを索敵しながらユゥジが呟く。相変わらずがらんとした通りに、敵の姿は確認出来なかった。
「安心して、住民の避難は完了しているわ。」
「そうだろうけどさ。命だけじゃなくてLAGの連中の家も守ってやりたいんだよ。やっぱ自分の家が被害にあったらキツいだろ?俺にしてみりゃLAGの連中はみんな家族みたいなもんだからさ。」
確かに命を最優先で守らなければならないことは明白だ。だから建物などは二の次にされることが多い。リメイクさえ起こさせなければ、紅の世界に空間を盗られることはない。建物が壊れたとしても建て直せばいい。政府はそれくらいの考えでいる。それはアキラも例外ではなかった。
「彼らの家のことまで私は考えてなかった。優しいんだね、ユゥジくん。…よし!じゃあ建物に被害が出る前に早く敵を見つけないとね!」
「…ぷっ、解ってくれる教官で良かったよ。元気もいいしな!」
ユゥジとアキラの穏やかなやり取りの途中で、突然事態は急変した。
「アクティブスキャンレーダーに反応!発見しました!……レッドノイズです!」
レーダーから異常を知らせる警報が鳴る。近江の緊迫した声に続いて駿河と但馬からも報告が入った。
「紅の結界、急速に拡大中!山間部が結界の影響下に入ります!」
「続いてアベレイト反応確認、ナイトフライオノート多数出現!戦闘情報センターにアクセス、識別開始!」
一気に緊迫し、アキラはぐっと姿勢を正して報告を聞いた。
「識別完了!クラシフィケーションF、戦闘型です!合計66体!」
「まんまと待ち伏せにはまったわけか。おまけに紅の結界も発動……教官、このままでは……!」
甘粕は眼鏡に手を添えてモニターに広がる紅の結界を注視する。山間部とはいえ、そこには多くの動植物が生息している。この瞬間にも、紅の結界の影響下にいる動植物の命が奪われているのだ。
「想定内の事態だわ。驚くに値しない。」
先ほどと同じく、アキラの声色と目付きが変わった事に甘粕は気付いた。
「オペレーター、敵の1番近くにいるのは誰?」
「ツァール・ツヴァイが最も現場に接近しています。距離300!」
「了解。メンテナンス室にも通信を。…ライダーもサブスタンスのみんなも聞こえてるわね⁉︎スカーレッドライダーにレゾナンス許可!」
アキラの命令を聞いて「よっしゃーー!!!」とフェルナンデスが叫んだ声が聞こえた。サブスタンスたちにとっても、これが初陣となる。
アキラも、メインスタンスとサブスタンスがレゾナンスするのを目の当たりにするのはこれが初めてだった。
「紅傷(せきしょう)!」と叫び、メインスタンスたちは首に掛けていたヘッドフォン型の機器から伸びるプラグを掌に当てたように見えた。すると、たちまち彼らは何とも言えない変貌を遂げた。それをなんと表現したら正しいのだろう。アキラの目には、ビリビリッと電気のような光が彼らの身体を取り巻いたかと思うと、まるでサブスタンスたちの身体がメインスタンスたちの身体を取り巻いて包むように融合したように見えた。レゾナンスしたライダーたちは、合皮のような安っぽい生地でない、この世には存在しないような素材の不思議なライダースーツに全身を包んでいる。
「……これがレゾナンス…!」
アキラは後で知ったことだが、ヘッドフォン型の機器はゼノバイザーといい、メインスタンスがサブスタンスとより安定した融合が出来るようにするためのものらしい。ゼノバイザーから繋がるプラグを掌にある「紅傷」と呼ばれるスカーレッドライダーの証ともいえる十字の傷に差し込むことでレゾナンスするそうだ。
スカーレッドライダーになるための条件は優秀な成績を修めて学期末のライダー選抜試験に残ることだけではない。もっとも重要なのはサブスタンスに選ばれることだ。どんなに実技や筆記試験の成績が優秀でも、サブスタンスと信頼関係を築けなければライダーにはなれない。逆に言えばどんなに成績が悪くても、サブスタンスに選ばれてしまえばライダーになる資格を得る。サブスタンスに選ばれし者のその掌に紅傷という絆が浮かび上がるのだ。
ただ、レスポール曰く「鈍臭いやつなんかとレゾナンスして敵にやられちゃったら馬鹿みたいだろー?だから必然的に成績優秀な【デキる奴】が選ばれるんだよー。」と言っていた。もちろん、過去には例外もいただろうが。
「教官、貴女にはまだ話していないことがあります。」
「何?」
甘粕は真っ直ぐにアキラの方を見て、ゆっくりと話す。甘粕のその瞳は真剣そのものだった。
「ナイトフライオノートと人とのレゾナンスによってもたらされる力は、人類にとってナイトフライオノートに唯一対抗できる手段となります。だが、そこには大きなリスクが伴うのです。」
「…リスク?」
アキラは学生時代からサブスタンスやレゾナンスについての知識を全て学習し、どういうものであるかは知っているつもりでいた。ただそれは教科書や資料のうえでの話で、アキラ自身の目で見るのは今回が初めてではあったが、今までどの書物にも「レゾナンスによるリスク」などという文言は記されていなかったと記憶している。
「メインスタンスの身体にメインスタンスとサブスタンスのふたつの心が存在するレゾナンスは、メインスタンスの精神にとても大きな負担がかかるのです。あまりメインスタンスの気持ちをないがしろにした指揮を執ると、メインスタンスの精神はしだいにサブスタンスの精神に侵食されてしまうのです。」
甘粕は眼鏡に手を当ててクッと位置を上に直した。
「……ですが時には非情な判断をしなければならないこともあるでしょう。それが勝利のためならば、例えメインスタンスの精神を侵食してしまうようなことであっても。戦いの勝利も敗北も、ライダーたちの生死も、全ては貴女の指揮次第です。」
甘粕の瞳は、アキラに何かを語りかけているようだった。
「……そうね、甘粕くんやタクトくんの言う通り、全ては私の指揮次第だわ。」
アキラは外部映像カメラでレゾナンスしたライダーたちの姿を今一度確認する。彼らは今、ヒトであってヒトに非ず。レゾナンスしている彼らが一番、そのリスクを身を以て実感しているばずだ。そうまでして彼らがこの青の世界を守りたいと願っているのならば、アキラはその彼らの想いも、彼ら自身も守りたいと強く願う。
「……それでもその勝利のための判断が必ずしも悪い選択とは限らない。結果的に彼らを救う可能性だってある。……私は、彼らのことも自分自身のことも、信じてるよ。」
アキラは甘粕の瞳を真っ直ぐに見返した。
「教官!ライダーたちが指示を待っています!」
近江に急かされ、アキラは頷いてみせた。
「ライダー各員、紅の結界が観測された地点に急行せよ!以後の指示は個別に与えます!」
アキラの指示に全員が「了解」と答え、フェイザーを滑らせた。