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Track 01 乱調でスタンダード

アキラ、ユゥジ、ヒロの3人はレッドアラートが鳴り響くLAGに駆けつけ、すぐさま格納庫のVOXへと駆け寄った。VOXの乗り口の自動開閉ドアは開いていて、すでに甘粕がドアの外でアキラの到着を待っていた。

「甘粕くん!この警報音は……!」

「ええ、これがレッドアラートです。さぁ!早くVOXへ!」

甘粕に駆け寄ったアキラに甘粕は冷静にそう言い、ユゥジとヒロにもVOXへ搭乗するように促した。
VOXの中には大小様々なモニターがいくつも搭載されている。そのモニターに向かって3人の青年が横一列に並び、何か作業をしていた。

「近江(おうみ)、現在の状況は?」

乗り込むとすぐに甘粕が1番右にいた青年に声をかけた。

「リュウキュウ新興住宅地付近にて微弱なレッドノイズを確認。ただし、現在は消失しています。」

近江と呼ばれた青年はモニターから目を離さずにハキハキとした口調で答える。

「現在、高々度衛星にて追跡中ですが発見出来る確率は半々といったところでしょうか。」

「駿河(するが)、避難状況を。」

甘粕は1番左の席で作業している青年に声をかける。

「地域住民の75%が避難。完了まで17分29秒。」

駿河と呼ばれた青年は、近江より少し低いトーンの声で簡潔に答える。

「但馬(たじま)、敵のタイプと規模は?」

真ん中の席にいる但馬と呼ばれた青年も他の2人と同様、一度も甘粕とアキラの方を振り向かず、作業する手を休めることなく返事をした。

「レッドノイズ、波形パターンを解析中です。」

アキラは甘粕の隣に立った。

「彼らは?」

「VOX内での索敵及び行動指示全般をサポートするオペレーターです。作戦中は貴女のバックアップを担当します。LAG内でも選りすぐりの人材を集めました。右から近江、但馬、駿河といいます。」

甘粕はアキラの方へ視線を向け、眼鏡を直しながらそう言った。ナイトフライオノート襲来を知らせるレッドアラートが鳴り響いた後だというのに、甘粕の口元には僅かに笑みがある。その笑みで甘粕がオペレーターの3人に信頼を寄せていることが感じられた。

「そう。みんな、よろしくね!」

「教官、残念ながら自己紹介している暇はなさそうですよ。」

近江がそうに言うやいなや 、突然駿河がカウントを始めた。

「3……2……1……!」

駿河のカウントに合わせてレッドアラートが再び鳴り響いた。

「…警報のタイミングまで把握してるの⁉︎」

アキラが驚くと、初めて但馬がアキラの方をチラリと振り返った。

「細かい事は僕らに任せて下さい。あなたは、僕らが信じられる教官でいてください。」

見た感じアキラより年上であろう但馬は、少し色素の薄い、中性的な雰囲気のある顔をしていた。その瞳は、レッドアラートを恐れない強さを持っている。オペレーターとはいえ、彼らも厳しい訓練やテストを受けてここにいるに違いない。

「頼もしいわね。お陰で戦闘に集中できるわ。」

「防衛特区リュウキュウ、総合作戦本部より入電、発信者は石寺長官です。」

駿河は相変わらず作業の手を休めることなく、また振り返りもせずにオペレートする。

「石寺長官から?繋いでちょうだい。」

駿河がモニターのボタンを押すと、石寺長官の映像と共に声が聞こえてきた。

「気分はどうだね、教官?」

「あ、はい……。初めての戦いで、少し緊張しています。」

こちらの映像が石寺に届いているのかは不明だったが、アキラは表情や声色に気をつけて努めて平常心を保ってみせた。

「無理もない。着任早々、指揮を執るのだからな。だがイリオモテ研究センターをはじめ防衛特区リュウキュウが陸・海・空の3方面から全力のバックアップを約束する。君は前線、敵のことだけ考えて指揮を執ればいい。」

「はい!」

石寺からの指示が出たタイミングで、残りのライダー3名、タクト・ヨウスケ・カズキがVOXに乗り込んできた。5人揃ったライダーたちの表情は、さすがに緊張の色が見て取れる。

「敵が……来たんだな。」

ヨウスケが呟いた声が、やけに低くアキラの耳に響いた。

「VOX、発進準備整いました!」

近江からの発進準備合図で、石寺からの出撃命令が下った。

「バトルフォーメーション・ゼクスを発令。第六戦闘ユニット出撃せよ。」

アキラと甘粕の視線が交差し、アキラは浅く頷いてみせる。

「VOX、エンジン始動。まずはイリオモテジマ北西部海岸付近、ツキガハマに布陣します。進路3-4-0、5分で到着するわよ。」

「了解。VOX、エンジン始動。出力80から100へ。」

但馬がエンジン出力を変えると、VOXがたちまち低い唸りを上げる。

「取り舵20度。ヨウソロ。針路クリア、オールグリーン。教官、発進準備完了です!」

近江がモニターを素早く細部まで確認した。

「よろしい。VOX、発進!」

アキラの指示でVOXが動き出し、第六戦闘ユニットの初陣が幕を開けた。


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「12:16、リュウキュウ西部の新興住宅地にてレッドノイズを確認。ただし12:44現在、ノイズ反応は消失しています。」

ツキガハマに向かう最中でも、逐一オペレーターから状況報告が入る。

「第一・第二・第三の独立した広域レーダー全てで反応を確認していますから、レーダーのエラーではないことは確かです。これらが同時にダウンする確率はほぼ0%ですから。」

「では、ナイトフライオノートが出現した、ということは間違いなさそうだな。オペレーター、レッドノイズの波形データ照合と発信源の特定を急げ。」

甘粕がテキパキとオペレーターに指示を出す。
アキラは甘粕の隣に立ち、その光景を見守っていた。

「……大丈夫か?」

ふいに後ろに控えていたヨウスケがアキラに問いかけた。

「え?なにが?」

振り返ったアキラに、ヨウスケが少し微笑んだ。

「……チッ。そんなに固くなるな。……あんたはひとりじゃないんだ。」

「そうそう、もう少し気楽に構えてな!」

ユゥジもヨウスケに便乗してくる。ふたりとも、アキラの気持ちが少しでも軽くなればと思っているらしい。

「ありがとう。ヨウスケくん、ユゥジくん。」

「でもちょっとくらい緊張するのは仕方のナッシングなことさ!どんなミュージシャンでも、初めてオーディエンスの前に立つときは浮ついた気持ちになるものだからね!」

カズキの微妙なフォローに、ヒロが顔をしかめた。

「なにダメダメな例えしてるんだよ!これはライブじゃない……負けたら……死んじゃうんだよ。」

5人の中で1番緊張しているのはヒロだった。それはヒロの見た目からでもすぐに感じられる。少し震える右手で左肩を抱き、顔は俯きがちだった。

「大丈夫だ、ヒロ。俺がみんなを守ってやるから。だからそんな事には絶対にならない。誰一人、失ってたまるかよ。」

ユゥジがヒロの肩に手を乗せた。先ほどの釣りのやり取りからも、二人がまるで兄弟のような関係である事が伺える。アキラはそれを素直に微笑ましいと思った。

「そうだ、俺たちは勝つ。だから……死なない。」

ヨウスケもヒロの肩を叩く。

「イェス!だからティーチャーもビッグシップに乗ったつもりでいなよ!」

カズキの微妙な英語が、さらに場を和ませた。

「うん!ありがとう、カズキくん。」

笑顔で答えたアキラに、タクトだけが冷ややかな視線をむける。

「……呆れたものだな。自分が命令を下すべき相手に励まされて喜んでいるとは。全くもって理解できない神経だ。少しは自覚してほしいものだ、指揮官という立場に伴う責任を。……その重みを。」

ひと呼吸置いて、タクトが続けた。

「気休めを言う趣味はないので、はっきりと断言しよう。貴方の下す命令如何で、僕らのうちの誰か、ないし全員が命を落とす可能性があるんだ。そのことを……忘れるな。」

タクトの視線は鋭かった。

「……そうね、タクトくん。あなたの言う通りだわ。みんなの命は私の指揮にかかっている。」

タクトの視線に答えるように、アキラはそれだけ呟いた。

「索敵、まだか⁉︎」

甘粕がオペレーターを急かす。まだ敵の位置も波形パターンもわかっていない。

「レーダーに反応なし。レッドノイズが微弱すぎてここからでは探知できないという可能性もあります。」

近江は冷静にモニターチェックを続けているが、モニターに何も変化が現れていないことはその場にいる誰にでもわかっていることだった。

「どうしますか、教官?このままではらちがあかない。…………教官?」

甘粕の問いにアキラは答えることなく思案し続ける。
その目の色が今までのアキラとは少し違っていることに、甘粕は気付いた。

「……ライダーを出撃させるわ。微弱なノイズも、現地に直接行けば発見できるはず。オペレーター、観測されたノイズから、ナイトフライオノートが出現する可能性のある場所をピックアップして。」

「了解。検索、開始します。」

駿河が素早くタッチパネルを叩く。検索が終了するまでに、15秒もかからなかった。

「……検索終了。イリオモテジマ沖、北から北西方向に50キロ、およびイリオモテジマ北西部のほぼ全域です。」

「わかった。あなたたち、聞いていたわね?準備はいい?」

アキラはライダーたちを振り返る。「ああ」というヨウスケの低く、だがしっかりとした返事で、5人の瞳に覚悟という力がこもった。

「出撃後、アインは海側、ツヴァイは山側に分かれて索敵開始。ドライ、フィア、フュンフは2人の中間地点に待機。アインとツヴァイ、いずれかが敵を発見次第、即時に対応。いいわね?」

「戦力を分散させるのですか⁉︎今回は第六戦闘ユニットの初陣ですし、リスクの少ない配置にした方が……」

甘粕が即座に意見したが、アキラは作戦を変えなかった。

「全員固まっての索敵に意味はないわ。効率が落ちて時間がかかるだけ。その間にも敵の手によって民間の住宅やLAG施設に被害が及ぶ可能性がある。……かといって全員を散開させるのはリスクが高すぎる。だからさっき説明した通りの作戦でいくわよ。」

アキラの説明を聞いて、タクトが「ほう」と少し感心した声を出した。

「凄いな。まるで人が変わったみたいだぜ。」

ユゥジも目を丸くする。

「総員戦闘配置!各ライダーは専用バイク【フェイザー】に搭乗!第六戦闘ユニット"IS"…出撃!」

アキラが5人に指示すると、リーダーのタクトがすぐさま動いた。

「……いいだろう。お手並み拝見といこうか。」

タクトに続いて他の4人も素早く動き出す。
アキラはその背中を見送った。

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