File.07 大好きだと叫びたい
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「悪かったって、いつまで怒ってるんだ」
ムスッとして零を無視し続けている。
小遣い稼ぎにハッカーとして依頼を漁ってはきっちりと仕事をこなしていく。
それを零はずっと横から見ているけど、一件終わる事に話し掛けてくるのだ。
今日はもう仕事がないようなので家に来ないかとも言われたけど無視をしてカタカタとキーボードを叩く。
「梅……」
寂しそうな声色で名前を呼ばれると気にしないなんて事出来なくて、思わず零の方を向いてしまう。
そして少し上にある零の顔を見上げるとくしゃりと頭を撫でられた。
「取り敢えず場所を移すぞ」
泊まりの用意をしろと言ってきたので仕方なくそれに従う。
まだ泊まるなんて言ってないのにバイト以外は時間があるものだと思われてるんだろうな。
大きめの鞄に必要な物だけを詰めていけば五分と掛からず用意が出来た。
家そこなんだし忘れ物があれば取りにくればいいかとなんとも緩い気持ちでいると零はその鞄を持った。
パソコンの中身を綺麗にしてから床下に収納し、携帯を持って零と共に家を出る。
そして下に停めてあったRX-7に乗るとすぐに零の家に着いた。
「仕事の詳細は?」
着くなり言われた言葉はそれだ。
飲み物を入れてもらいソファに腰を下ろしたと思えばそんな言葉がとんだのでジンから来たメールの事を話す。
それはそれは簡潔に日にちと場所と標的の名前を言っただけ。
「それで?何を得るんだ?」
「他の組織の情報が入ってるUSBだって」
私に頼むくらいだからその情報は手に入ったら嬉しいけど別に手に入らなければそこまで欲しくもないモノなのだろう。
その為にわざわざこんな任務を任されてもなぁ。
「ぶっつけ本番でいけるかな?」
「相手ならしてやるからやってみろ」
「んー、シャワーの後ででいい?」
取り敢えず汗を流してゆったりしたパジャマに着替えたいから言った言葉なのに、零はハニトラと取ったようで小さく溜め息を吐いた。
「上出来だが、シャワーの時に男が入って来たらどうするつもりだ?まさか本当に夜に縺れ込むつもりじゃないだろうな?」
「え……違うの?」
「なんとか躱せ」
そんな無茶な。
男だったら上手く言えば躱せるかもしれないけど、女である以上力任せに迫られると後がない。
だから怖い。
「でもハニートラップってそういう事なんじゃ…」
考えながらファンタグレープを飲む。
さっきもハニートラップで検索した時、出て来たのはどれも官能的な小説が主で動画も年齢制限の掛かったものが多かった。
「俺はそこまでしないな、そこを上手く手前で止めればいいだろ」
「うそー!零最後までしてないの?」
イケメンで頭のいい零だからこそ出来る事なのか。
だけどその言葉を聞けばパッと表情は凄く明るいものになっただろう。
「その時によるな。簡単に情報が手に入ればそれまでだ」
「簡単に手に入らなかったら?」
「ヤる」
短くだけど確実に肯定した言葉は私を落とすのには十分で、分かってはいたけど零の口からは聞きたくなかった言葉。
もう二桁の女とは余裕で寝てるだろうけど、もしかすると三桁………有り得なくもない。
小さい子から高齢の方にまでモテるんだから組織もバーボンの事そういう面では気に入ってそうだ。
「ねぇ、それって誰にでも出来るの?」
「そうだな、必要とあらば」
「私にも?」
首を傾げて聞いてみる。
すると零はキョトンとして聞き返してきた。
「何の情報を持ってるんだ?」
「組織の大事な秘密を握ってたりして?」
「さっきの言葉聞いてたのか?」
何の言葉だろうと思考を戻してみるけどさっぱり分からないからどの言葉だと疑問に疑問を重ねる。
その言葉はどうやら必要とあらばらしく、はっきりとした口調で。
「それが必要ならヤる」
そう言われた。
「妹なのに?」
「関係ない、それに義妹だ」
あれ、なんか嬉しい。
この場合情報持ってないとやらねぇぞって聞こえるけど、ヤれる奴に入れた事が嬉しい。
てっきり義妹とはいえ妹だろ、そう言われると思ってたけどそうではないらしい。
「何がそんなに嬉しいんだ?」
にこにこと頬が緩んでいたようでそれを指摘された。
養子ともあれば義妹ではなく妹と言われた方が嬉しいんだろうけど、零が好きだと思った日からは義妹の方が嬉しい。
その方がまだ望みはあるのだと思えるから。
喧嘩もいっぱいしてなんて憎たらしい兄なんだと何度思った事か。
それでも、好きなものは好きだ。
妹と言う一線がとても苦しい。
なんで他人として出会わなかったんだろう。
この目の前にいる人が、赤の他人なら良かったのにと何度思った事か。
妹だなんて呼ばないでほしい…。
妹だなんて思わないでほしい…。
「妹だなんて言わないで、一人の女として見てほしい」
どんな顔をしていただろうか。
この時の私はきっと熱でもあったんだ。
でないとこんな事言うわけがない。
「私、零の事好きだよ…」
そこまで言ってからハッとした。
零の表情を窺えば驚いた顔の後すぐに眉を寄せた。
ああ、そうか多分ハニトラと五分五分だと思ってるんだろうな。
ここで、逃げ出さなければだ。
だけど今の私には嘘の仮面を零の前で被るなんて出来なくて、泣きそうになるのを必死に耐えるしかなくて、重い鞄を手に走った。
この顔で大通りなんて出られないからなるべく細い道を縫う様に走り、家からパソコン全てとUSBのケースを持ち出し駐車場に止めてある86に乗り込んでから米花駅にあるコインロッカーにパソコンとUSBを入れ、取り敢えず向かった工藤邸。
その付近の駐車場に車を止め、工藤邸のインターホンを押せば沖矢昴が玄関から顔を覗かせた。
それに安堵してしまい一気に流れ出た涙は止まることを知らない。
