act.06 月夜の遊び
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降谷side
カンカンと屋上へと続く鉄板を駆けて行くと目に飛び込んだのはこの闇とは真逆の色、真っ白な怪盗キッドが女性の前で跪いていて、そして驚いた事にその女性は椿さんだった。
彼女の左手を取り指輪を嵌めた。
何故こんな場所で奴のプロポーズ現場を目撃しなければならないんだ。
そして最後に手の甲にキスまでしている。
更には彼女の口元に人差し指が当てられキッドが何かを呟いたが、それはここからでは聞こえない。
キッドがふわっと跳びフェンスの上に立つ。
「本当はもう少し話していたかったのですが、またいつか…月下の淡い光の下で…」
「かっこいー…」
その彼女の呟きは何故か聞こえた。
かっこいいとはなんだ。
ただ意味の分からないキザな台詞を言っただけだろう。
それともさっきのキッドの呟きに何かあるのか。
ニヤッと笑ったキッドはフェンスから飛び降り飛んで行った。
そして残された彼女はハッと我に返り辺りを見わたしてから眉を寄せる。
ガチャりと前列の数人は彼女に向け銃を構えている。
何故だ。
彼女には保護要請が出ていただろう。
「両手を挙げろ!」
「挙げないけどなんで銃向けてるわけ?」
あ、少しキレてるな。
撃たれはしないとは思うが、止めた方がいいのか。
風見に任せようかとも思ったが風見は警部補だ。
中森警部より一つ下の階級だから意味がない。
すると彼女は銃を向けてるのは誰の指示なのかと問う。
それなのに奴らは答えるわけがないの一点張りだ。
「怪盗キッドがいるってなんで分かったの?」
それに対しては黙れの一言。
中森警部直々の部下だろうか。
躾がなってないな。
「警視庁刑事部捜査二課知能犯捜査係の中森銀三出して」
おっとこれは…。
もしかして彼女は中森警部と知り合いなのか。
それとも調べただけなのか。
カンカンカンとまた複数人の足音が聞こえ、本人が人混みを掻き分けて現れた。
「言われんでも来たわ!」
「おっそい!クソジジイ!」
「誰がクソジジイだ!」
知り合いか。
それにしても中森警部と知り合いとは。
彼は捜査二課、いつ出会ったんだ。
どんな経緯で。
……ダメだな。
彼女の周りの事は全て気になり出している。
「この銃向けてる連中あんたの部下?教育なってないんだけど!」
ぐぬぬと言葉が出て来ないようで彼女はニヤリと口角をあげている。
スっと左手を顔の位置まで持っていくと指輪を中森警部に見せつけて、それに対して中森警部は驚いた顔をした。
薬指から指輪を抜き取ってそれを中森警部に渡した。
なるほど、あれはキッドが盗んだ宝石ってわけか。
だが指輪の入れ方といいキスといい何もかもがいただけない。
今度はパシッと中森警部に腕を掴まれ、その掴まれた手を指差して彼女はセクハラと言った。
相当ストレスが溜まっているようで中森警部に当たっているようだ。
指摘されたのですぐ様その手は離された。
「一応身体検査と持ち物検査を…」
それはヤバいだろうと思ったが、彼女はどうぞと両手を広げている。
「降谷さん…確か彼女は…」
「ああ、常に持ち歩いてる筈だったが…」
ボソッと呟かれた風見の言葉に何が言いたいのか分かったのでそれに対しての返答をした。
そうだ、彼女は常に愛銃を胸の内ポケットに入れている。
持っていないとは考えにくいが、本当に持っていないのか。
大切なモノの四つに入っていたくらいなのに。
「下の部屋でする」
「拒否。ここで十分でしょ」
溜め息を吐いて頭を抑えている中森警部は警官を見回し手を挙げて女性の刑事は出て来てほしいと言ったのに対し数名が名乗りをあげた。
上から下まで体を触られ物が当たるとそれを抜き取られている。
いつもの携帯と煙草とジッポと財布、それから車の鍵。
ベレッタはどこにもない。
キッドといたのにも関わらず持ってなかったのか。
「コナン君どうしたか知ってる?」
「ああ、椿ちゃんが連れ去られたって後追い掛けようとしてたから家に帰した」
財布の中を念入りに見ていて、携帯も着信履歴だけ見たようで、最後に電話をしていたのがコナン君だという事が分かると全ての押収品が彼女の元に返った。
「一応事情聴取もしたいんだが…」
「トイレから出た所をキッドに拉致されてここまで連れて来られて指輪嵌められて無能な警察共に銃を向けられた。以上」
何故あんなにも煽るような言い方をするのか。
以前縦社会は嫌いだと言っていたが、彼女は警察が嫌いだったか?
だとしたら俺の事も嫌いな筈だが、そうではないと普段の態度から分かる。
「帰りのお金頂戴」
「お前山程金あっただろ」
そこは彼女が正しい。
怪盗キッドに無理やりこんな所まで連れて来られたんだ。
あんたの懐の金ではなく警察の金でタクシー代でも払うのが道理。
「ちゃんと命令に従ったよね?そもそも私被害者だったのにいつの間にか加害者にされてた上、ここには連れて来られたって言ったのにも関わらず帰りのお金も出ないのか。白馬警視総監にチクってもいいけどどうする?」
「汚ぇぞ!」
確かに汚いな。
思わず笑いそうになって口元を手で隠したが風見にはバレていたようで降谷さんと焦ったような声で名前を呼ばれた。
「煩い。告げ口しないよ面倒臭い」
もういいとヒラヒラと手を振りながら帰る為歩みを進めた彼女と目が合った。
だがそれは直ぐに逸らされる。
話し掛けては不味いと空気を読んだのか単に話したくない気分だったのかは分からないが有難い。
風見でまた遊ぶかとも思ったがそんな気力はないらしい。
少ししてから彼女を追うようにその場を離れ、他の奴らの目を盗んで走った。
勿論風見はついてくるが。
「降谷さん、ひょっとして彼女を追い掛けてますか?」
「ああ、まだいればな」
屋上の扉を開けて階段を駆け下りると、彼女はエレベーターではなく階段で下りているようで走っている足音が響いている。
「何故です?」
「仕事が終わったから送って行こうと思ってな」
そして、下を向いて叫ぶ。
止まれと、大声で。
名出しにはしないのはもし相手が椿さんじゃない場合を装ってだ。
俺の声に反応したなら彼女は止まる筈。
知らない何者かなら自分じゃないだろうとまだ走ってるはずだ。
案の定足音はやんだ。
「お前も思っただろ、タクシー代くらい出せと」
「それはまぁ…」
「だからだ、深い意味は無い」
いや、もう下心ありまくりだが部下の前ではそんな事は言えない。
少しした所で彼女が上を向いているのを発見し、目が合ったので笑っておいた。
そこまで乱れていない息を整え、彼女の前へ行けばキョトンとした表情でなんか用ですかと聞かれた。
「送って行く」