act.05 桜色の季節
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降谷side
毛利さんと蘭さんを乗せて椿さんから届いた地図を頼りに工場地帯までやってきた。
少し離れた所に車を止め、危ないからと蘭さんにはここにいてもらうように言って毛利さんと二人で倉庫を目指すが、遠くからでも銃の音が聞こえる。
男達に見つかり途中で毛利さんとはぐれてしまったがそっちの方が都合がいいので携帯の地図を見ながら足を進めて行った。
そして身を隠しながら近付くとその場は酷い有り様で、息絶えてるだろう人が沢山いて思わず眉が寄った。
この倉庫の中にいるのかと入口から中へ入ると丁度左手にコナン君を担ぎ右手で銃を持った彼女が走って来た。
すると視界の端でギラっと光った何かに危ないと叫んだものの、パァンと響いた銃声の後にカシャンと落ちた彼女の愛銃。
コナン君はいるが仕方ないと懐から銃を出そうとした時、目の前にコナン君が飛んで来て慌ててキャッチした。
「大丈夫かい?コナン君」
「ボクは大丈夫だけどっ、椿さんがっ」
右手はだらんとしていて左手で愛銃を拾い、物の見事に男の手をぶち抜いて制圧した。
利き腕と逆でも銃の腕前は百発百中か。
すると彼女が駆けて来て、横を通り過ぎようとしたので慌ててその腕を掴んだ。
よく見れば全身に血がついている。
「送って行きますので身を潜めていてください。すぐに戻って来ますので」
愛銃を仕舞った彼女は左手でコナン君の頭を撫でていた。
そして右腕を確認してから小さく息を吐き、端まで移動した彼女は物陰に腰を下ろし左手で煙草を出し火もつけ白煙を吐いている。
凄く絵になる姿にかっこいいとさえ思える。
「じっとしていてくださいね」
遠くから毛利さんの声が聞こえ、警察が到着したのか外は騒がしい。
風見が呼んだんだろう救急車も何台も止まっている。
コナン君を取り敢えず救急隊の所へ預け、毛利さんと合流した。
後日でいいから事情聴取に協力してほしいと目暮警部から言われ、ふぅと息を吐いて海を眺めていると、コナン君が頭に包帯を巻いて戻って来た。
「椿さん、ずっと致命傷は外して撃ってたのに最後の人だけ、殺したんだ…」
「それを僕に言ってなんの意味が?」
「分からないけど、一応…」
じゃあボク呼ばれてるから行くねと警察の所へと駆けて行った。
そして携帯で彼女のGPSを確認すると早速と言っていい程移動している。
じっとしてろと言ったのに、全く…。
急に画面が変わり風見からの着信が入る。
なんだと出ると、今回の件は組織を追っていた公安と人質事件になってしまった県警とが協力して報告をあげるらしい。
要件だけ聞き、電話を切った時、丁度蘭さんに声を掛けられた。
「すみません安室さん、これ勝手に…」
蘭さんの手の中にあったのはRX-7の鍵だ。
ああ、そう言えば蘭さんを残して毛利さんと出たんだった。
「いえ、ありがとうございます」
鍵を受け取り、蘭さんと毛利さんの所へ行くとコナン君含め三人はこの後事情聴取をしてしまうと言った。
なので僕はこの後用事があるのですみませんとその場を去った。
そして急いで彼女のGPSの位置へと走る。
先程からじっとしたまま動かなくなってしまっている。
内心焦っているとどうやら相棒の近くにいるようで、携帯片手に辺りを見回していると、海を見つめぼーっとしている彼女がいた。
そして、足元を見つめ今にも海に身を投げだしそうで慌ててその腕を掴んだ。
だがそれはすぐに振り払われ彼女は構えを取った。
すごい反射神経だと感心していると相手が俺だと分かり構えを解く。
「何してるんですか、身を潜めてて下さいと言ったはずですよ」
「え、あ、飛び込んだら血取れるかなって」
「そうですか、思い詰めたような顔をしていたのでてっきり…」
自殺なんて考えてないですよと笑って言ったので良かったと安心した。
和田幸雄を殺した事に病んでしまったのかと考えはやはりそこへ至ってしまう。
「なんでここが?コナン君や毛利さんはどうしたんですか?」
「椿さんの位置は分かりますよ」
携帯を開いて見せると納得していた。
自分で送っておいて忘れていたのか。
本当に出来る人なのか抜けているのか…。
「コナン君と毛利さんと蘭さんは事情聴取の後警察の方が送ってくれるそうですよ」
僕は後日事情聴取ですと言ってから公安や県警の事も話し、取り敢えず車に乗ってほしいので側に止めてあった相棒の所へ歩いた。
そして着ていたジャケットを脱いで彼女の肩に掛ける。
「え、ダメですよ血が付きます」
「構いませんよ、車に血が付く方が嫌なので」
「すみません、借ります」
車を愛している者同士意図が分かったようで、返そうとしたジャケットにすぐ様腕を通した。
そして彼女を車に乗せてから自分も乗ると、凄い血の臭いだ。
あとで消臭しまくらないとな。
そう考えていると視界の端で彼女が扉に手を掛けていた。
「あの、やっぱり降ります」
「椿さんは気にしないで乗っててください」
肩を掴んで扉を開けるのを阻止し、覆い被さるようにして彼女のシートベルトを締めた。
すると彼女は両の手で顔を覆った。
隠れていない所は僅かに頬が赤く、思わず口角が上がってしまう。
そして車を発進させ、次に彼女が視界に入った時には何故か両手を合わせて拝んでいたのでふはっと吹き出して笑ってしまった。
全く、彼女は見ていて飽きないな。
暫く車を走らせ、チラッとGPSを確認するとジンは彼女の家にいた。
一体何をしているのか、待ち合わせか何かか?
いや、それなら彼女が何かしら言うだろうし…。
まぁ特に二人でいても何も言われる事はないだろうと考える事をやめた。
そして赤信号で止まったので、先程コナン君から聞いた事を話してみる。
「和田幸雄、殺したんですね。てっきり風見に話をしていたので公安に生きたまま引き渡してくれるものだと思っていましたよ」
じっと彼女を見ていたが、視線は合わせてはくれず、前を見たまま苦笑いをしていた。
そして信号が青になり車を出す。
ジンの目を盗んで公安に引き渡してくれるだろうと踏んでいたのだが、コナン君もいる手前致命傷を外すのは危険だと判断したのか、それとも本当に任務を遂行したのか。
「殺そうとしました。だけど、私の銃を掴んで引き金を引いたのは彼自身です。コナン君の位置からだとそう見えたんでしょうね……現に脳幹に照準を合わせましたよ。だけど、和田幸雄は抵抗する事なく自害した」
手を見つめたまま言われればそうですかとしか言えなかった。
「降谷さん、手を出して下さい」
彼女の笑みから大体は分かったので言われた通りにスっと掌を出すと、ちょんと置かれたmicroSD。
「いいんですか?これを僕に渡して」
「降谷さんだからです。ジンには持ってなかったとでも言っておきます」
それには流石に驚いた。
そんな様子に彼女は首を傾げたので嘘が吐けるのかと聞けば心苦しいけれど一応と言った。
話していると時間は早く過ぎ、無事に家に着いたので彼女が降りてそしてそんな彼女についていくように相棒から降りた。
首を傾げて何でついて来るのかと聞いてくる彼女に忘れているのかと溜め息が漏れる。
「この後、約束しましたよね?」
「え、もうすぐ18時になりますけどこの格好じゃあ……」
「はい、怪我の具合を見てから決めますので部屋に入れてください」
飛び切りの笑顔で言えば彼女は何も言わずに部屋に入れてくれた。
そして手を洗ってからリビングに入ると彼女は驚いた表情でパソコンを見ていた。
ああ、そう言えばあのパソコンでクラッキングしていたので今この場にあるのはおかしい。
だからジンは彼女の家に居たのか。
パソコンを開けて何かを確認した後、画面はそのままに部屋をゆっくりと見てまわっている。
いくらジンとは友達といえ、一応警戒はしているのか。
一通り見た後にパソコンの前に座って画面と睨めっこしていた。
「探知機ないんですか?」
確か前に盗聴器を仕掛けた時赤井に借りていたようだったが…。
「はい、なので買います」
すると携帯からピピッと電子音が鳴ったので見てみると、地図の画面が点滅した後エラーと出た。
そして遠隔操作をしているようでメール画面に戻り消去の文字。
流石だ。
パタンとパソコンを閉じた彼女はシャワーをすると言って立ち上がった。
だが、そこで待ったを掛ける。
「怪我してるんですよね?」
「これくらいなら大丈夫ですよ、汗と血は流したいので」
仕方ない、彼女も女性だと折れる事にした。
出て来てから手当をしてあげようと救急箱の場所を聞き、それを机の上に必要な分だけ並べた。
何もする事がないと部屋を見渡していると、ドライヤーの音が聞こえて来る。
乾かすよりも先に手当をしたいが、彼女にも順番があるのだろうと待つ事にする。
彼女の表情と腕の出血具合から銃創はそこまで深くはない筈だ。
やがてドライヤーの音がやんだ。
なのに彼女は姿を見せなかった。
それから十分、二十分と時間は経ち、流石に遅過ぎるとソファから立ち上がった時、リビングの扉が開いた。
そして彼女を見て驚く。
「え……あの、怪我してるって分かってます?」
右腕は服の袖を捲りタオルで止血はしているものの、彼女の髪は両サイドを編みふわっと巻かれていて顔にはバッチリとメイクが施されている。
意外とマイペースな一面もあるのかと眩暈がしそうだ。
「私女ですよ?」
「知ってます。どっからどう見ても女性です」
座ってくださいとソファに誘導し、ストンと腰をおろした彼女の隣に自分も座って腕を縛っていたタオルに鋏を入れる。
想像していたよりも傷は深くはあったが、血はそこまで出ていない。
「痛くても我慢してくださいね」
努力しますと言った彼女に遠慮なく消毒液を垂らし、泡の消毒液を吹き掛けた所で掴んでいた腕に力が入った。
痛いのだろうと顔を見るとこれでもかと眉が寄っていて気付かれないようにクスッと笑う。
そして軽く布で拭き取りガーゼをテープで固定し、その上からしっかりと包帯を巻いた。
「2、3日はあまり右腕を使わないように」
「それは難しいですよ」
救急箱を片付けてから立ち上がり、そろそろ行きましょうかと声を掛ける。
「え、行くんですか?」
「その為にメイクも髪もセットしたんですよね?」
時刻は既に20時をまわっている。
何故か頬を少し染めている彼女にクスッと笑うと悪戯心が出て来た。
少し、攻めてみるか。
鞄を手にして立ち上がった彼女にゆっくりと近付く。
そして頬に手を添え、上を向かせると絡み合う視線。
「可愛いですよ、髪型も服も椿さんによく似合ってます」
頭の一個分の身長差だが、少し屈んでいるのでいつもよりも距離が近い。
ふわりと香る彼女のシャンプーの匂いに襲ってしまいたい衝動に駆られ、頭を抱えたくなった。
欲求不満か、俺は。
「ま、またハニートラップですか、もう勘弁して下さいっ、本当にダメなんですよ」
「ダメ、とは?」
「全力で引っ掛かるんですよ、弱いんです、あなたに」
彼女は顔を真っ赤にして手を振り払うように下ろされた。
熱くなっている顔をパタパタと手で扇いでから早く行きましょうと先に玄関へ行ってしまった。
すぐにその背中を追い、好みの靴を選んで一緒に家を出る。
そして車へ乗ると窓の隙間は開けていたものの、まだ血の臭いが酷かったので全開にしてホテルへと向かった。
地下駐車場に車を止めて最上階へと上がり、名前を言えば待っていましたとテーブルへ案内され、すぐに予約していた通りのメニューが運ばれてくる。
「ワイン飲めますか?」
この場で前みたいに酔われては流石に困るので聞いてみる。
度数もそこまで高くはないが一応。
すると彼女は今日はそんな日ではないと言った。
流石に疑問に思ったので聞いてみる。
「あるんですよ、酔う日と酔わない日が」
「それは自分で決められるんですか?」
「いいえ、でも今日は酔う日だ!て大体は分かります」
分かっていたのに前回酔ったのか…?
あんな公園でそれも風見の前で。
そして彼女の食べ方やナプキンの使い方を見ていたが、完璧だ。
きちんとマナーがなっている。
どこでそれを覚えたのか。
それは彼女も同じ所を見ていたのかじーっと穴が空くんじゃないかと思う程に見られている。
「そんなに見られると食べ辛いですね」
すみませんと謝られたが彼女の視線は未だ顔や髪、手元に向けられている。
仕方なく話題をふる事にした。
金持ちなのかと。
だが、答えはノーだった。
あの毛利さんに渡した通帳の額は確か億を超えた兆だった筈だ。
クラッキングで収入を得ていたならそれくらいいくかもしれないが、彼女はそれで食べていないと言っていた。
彼女の家柄も至って普通。
25という若さで普通に働いていたならこの額は有り得ないものだ。
「あれは私のお金であって私のではないです」
「言っている意味が分かりませんが…」
「私も詳しくは分からないんですよ、要は貰った金です」
「貰った…?あの額を…?」
凄く胡乱な目で見てしまっただろうが、嘘は吐いていないようだ。
食事も終わり、食後の飲物として紅茶が運ばれて来たのでそれに口をつけるとふわっと香るリンゴの匂い。
「お金の事は本当に知らないんです、ただ使ってもいいので使っているだけです」
またよく分からない事を言っているので理解不能とし、そうですかとこの話は諦める事にした。
そして、紅茶を一口飲み、本題に入る事にする。
聞いてもいいかと聞くと、なんでもどうぞと言ってくれたので遠慮なく聞くつもりだ。
赤井の事を…。
「赤井の事を空気みたいな人と言ってましたが、あれはどんな意味ですか?」
空気みたいな人で一緒にいると落ち着くと言った。
空気とは色んな捉え方があるがその中でも赤井はどれに値するのか。
以前英語で口説かれていた時、その返事として今日の昼に電話で気持ち悪いと英語で伝えていたが、あれは本当なのだろうか。
「自然体で楽でいられると言う意味ですかね?」
「自然体で楽だから落ち着く存在、と?」
「少し違うような気もしますけど、まぁ大体は」
自然体で楽か…。
「なら、僕は椿さんにとってどんな存在です?」
「えっと……空気みたいな人、です」
「自然体で楽、ですか?とてもそうは見えないですね」
どちらかというと彼女は警戒している。
敵としてではなく男としてだ。
何度も詰め寄っていたらそうなるかもしれないが、とても自然体という意味には捉えられないものがある。
すると彼女はふふっと笑った。
何がおかしいのか首を傾げる。
「安室さんに対しての空気の意味は、無くてはならない存在です」
これは……どう取ればいいんだ。
味方と言っていたから無くてはならない存在。
それとも恋だの愛だのの方なのか、はたまた逆プロポーズに聞こえなくもない。
ああ、ダメだな。
彼女へ感じる想いが強くなって来ている。
「そろそろ帰りましょうか」
にこりと笑って立ち上がり、ホテルを出てから相棒に乗り彼女を家まで送った。
ダメだと蓋をするものの、溢れてくる想いに苦笑いが漏れた。